第8話 賢者の焦燥

【side:リュクルゴス・アルムグレーン】


 バルディン帝国の城。

 ここには皇帝直属である賢者リュクルゴス・アルムグレーンの姿があった。


 リュクルゴスは宮廷魔術師と違い、外に出ることが無い。

 仮に帝国領内で問題が起きても、わざわざ賢者がすることではないのだ。


 ――と、決められてもいないのに、それが宮廷内での常識となっている。


 リュクルゴスは弟ルカスを追放後、帝国はもとより帝都からも去った報告を受けていた。

 しかし呪いの宝石を調べる為に、ルカスが宝石鑑定屋に立ち寄ったことを知る。


 その時点で、賢者は任務に就いていない宮廷魔術師に緊急召集をかけた。

 皇帝に知らせずに集め、賢者はルカス拘束の指示を出す。

 すると、すぐに居場所が分かりロッホに向かわせるが……。 


 ルカスがすでにいなくなっていたことを聞かされ、再度命令を下すことに。


「そこの――名は?」

「は。わたくしめは、魔術学院特務科卒業のナンバー3、カトルにございます」

「……隣の者は?」

「同じく特務科卒業ナンバー7、セットでございます」


 ありふれどもめ。

 特務科だろうが何だろうが、使えなければ全て同じではないか。


「特務科というのは、特別な任務をこなすのであろう?」

「さようでございます」


 ふん、口先だけは達者な奴らだ。

 だが特務科の者は今後も大量に卒業してくるわけか。

 そうすれば、ルカスを追い詰めることは簡単になる。

 

 別の大陸に行く前に奴を探し出し、呪いの宝石ごと奴の自信を粉々に砕けば……。

 ふっふっふっ、他愛もないことよ。


 エルセが帰還すればさらに楽になるが、エルセは期待出来んな。


「――ならば、特務科の宮廷魔術師よ。これよりお前たちは私から直接命令を下す者とする! 私からの命令は、皇帝からの命令と知れ!」

「ははー!」

「では、そこの五人は急ぎ帝都門に向かえ! 監視任務に就き、これより通行する者全てに声をかけるのだ! もしその者がルカスであったならば、直ちに拘束せよ!」

「ルカスというと罷免の……?」

「そうだ。早く行くがいい!!」


 バルディン皇帝か。

 賢者のオレと聖女のエルセしか謁見出来ぬが、会わずとも何も問題は無いな。


 帝国の意思は賢者であるオレの意思。

 いずれルカスともども宮廷魔術師どもを粛清してやる。そうすれば――くくくく。




 ふん、そろそろルカスを捕らえて来る頃だな。

 オレの命令どおりに運べばの話だが。


「リュクルゴス様。至急のご報告がございます!」


 ウワサをすれば帰って来たか。

 ルカスめ。お前を自由に生きさせるつもりは無いぞ。


「……何? もう一度、聞こえるように報告を頼む」

「は、はっ……。帝都門に展開していた宮廷魔術師は、先ほど浴室に突如として出現しました」

「浴室? 全員呑気に湯でも浸かっていたとでも言うのか?」

「いえ、着の身着のままに……」


 馬鹿め。

 あのルカスごときに追い散らされたとでもいうのか?

 これだから家名無しのありふれどもは好かんのだ。


「……もういい、下がれ」

「は」


 ルカスめ……。

 お前がどこへ逃げようとも、ラトアーニ大陸のどこに隠れても、お前の呪いは絶対に解けん。


 せいぜい自由を楽しんでおくことだな。

 このオレ……特別な賢者であるリュクルゴス・アルムグレーンが、お前に裁きを下してやるぞ。

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