第41話 最強は誰だ? 前編

 ウルシュラに手を引かれ外に出た。まだ昼間なだけあって陽射しが眩しい。

 呪符でキーリジアに来たから気付かなかったが、なだらかな地形の丘が続く見晴らしのいい景色だ。


 魔物がしょっちゅう来てる割に大地は荒れてもいない。

 地面がえぐれているでもないということは、魔法を使う魔物はあまりいないのだろうか。


「ルカスさん、どうしましたか?」

「いや、こんないい景色のところに魔物が来るなんて、ちょっと信じられないというか……」


 魔物が襲って来るとされる港町、キーリジア。

 戦士ばかりのギルドにも驚いたが、海を背にしてわざわざ魔物を待ち構える……。

 何とも不思議な場所だ。


「ルカスさんは帝国の指示を受けて、宮廷魔術師として魔物を討伐してましたよね?」

「え、うん」

「こっちは冒険者パーティーこそ多いですけど、魔物が活発なので追い付かないんですよ~。だからどうしても小さな町までは手が回らなくてですね……」

「だから魔物を待ち構えて毎回討伐を?」

「ですです!!」


 魔物が活発……なるほど。

 数の多い宮廷魔術師が討伐していたとはいえ、ラトアーニ大陸の魔物は土地に留まる魔物ばかり。

 魔術師が多かったからというのもあるが、町を襲う魔物はほぼいなかった。


 一方で、ウルシュラはこういう環境で生きてきた人間。

 園芸師というジョブにも驚いたが、スキルは本物だった。

 そんな彼女を追い出すここのパーティーは、どれだけの実力があるのか。


「あっ、姉が来ました! もうそろそろ魔物が現れるはずです」


 町から出て来たのは、ギルマスであるアルシノエとそれに従う屈強な戦士がぞろぞろと。

 立て掛けていた大剣を手にしているということは、やはりあれで戦うようだ。


「あっはっはっは! 待たせたねえ! ウルシュラから話は聞いたかい? ルカス」

「まぁ、一応は」


 聞いたといってもこの町での心構えみたいなもんだけど。


「あんた、帝国から来たんだろ? だったら今さら魔物にビビることなんて無いんじゃないのかい?」

「いや、そういうのではありませんよ。こんな逃げ場の無い場所で戦うのが不思議だと感じただけで」

「あぁ、それもそうだねえ。海と町を背にする戦いはそうは無いからねえ!」


 見た目と態度で判断するに、強さにかなりの自信があるか、ただの命知らずかのどっちかだろう。

 屈強な戦士たちを控えさせているということは、ギルマスが前面に立つことに意味がある感じか。


「……それで、魔物の種類は何です?」

「慌てなくていいぞ、ルカス。ここを襲う魔物に種類なんざ無いんだ。向かって来る奴らをとにかくぶっ飛ばすことだけ考えりゃあいい!」


 せめて魔物の種類が分かれば、効率よく討伐出来るはずなんだが。

 そう思っていると、後ろにそびえる山の辺りから黒い影の集団と土煙が舞い始めた。

 ゴブリン、オーク、巨人族、バッファロー族といった魔物の大群が向かって来ているようだ。


 俺が見る限り、魔物自体に強さは感じられない。

 だが大群が一斉に襲って来るとなると、並の強さでは太刀打ち出来そうにないとみるが。


「――ふん、お待ちかねの魔物どもが来たようだね。ルカス、あんたはあたしらの戦いぶりを見てから実力を見せな!」

「え、でも……」

「魔術師が出来ることは予想出来る。だがあたしらのような戦士の戦いっぷりは見たことが無いだろう? ウルシュラとともに、後ろで見物でもしてるがいいさ!」


 大した自信だな。

 しかし魔術師を弱い者として見ているのは気に入らない。


「ギルドマスターの言うとおりだ。魔術師の兄ちゃんは、そこでオレらの戦いっぷりを眺めているといい! ガハハハッ!」

「……」


 アルシノエは大剣、屈強戦士たちは両手剣と片手剣か。

 効率が悪そうだが……。


「ルカスさん。気を悪くしないでくださいね」

「うん?」

「ここでの戦い方は、誰が最強なのかを決めるものでもありまして! 単純に魔物を追い返すのが目的じゃないので、総出で待ち構えるのが醍醐味といいますか~」

「うん。そのようだね」


 魔物討伐よりも強さを見せつけるのが目的か。

 どんなものか見せてもらうとしよう。

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