第6話 セルド村のアーテル

「ルカスさん!!」


 ウルシュラが相当怒っている。

 不機嫌のようなそうでないような、考えに沈んでる感じだ。

 おそらく冴眼のことだな。


「ご、ごめ……」

「凄いじゃないですか!!」

「ん……?」


 説教でもされるかと思っていたのに褒められた?


「帝国の宮廷魔術師はみんな同じ強さって聞いてました。でもルカスさんは別物じゃないですか! ねえ、ナビナもそう思うよね?」

「ルカス、最強」


 ウルシュラも興奮しているが、ナビナも小さく腕を上げて喜んでいる。


 宮廷魔術師は同じ強さ。確かに賢者のような特別職を除けば強さに大差はない。

 比べるとすれば、態度がいいか悪いかの違いくらいだ。


 しかしさっきの力は、魔術師としての力というよりは……。


「ウルシュラ。俺は宮廷から追放されてるんだ。だからもう宮廷魔術師じゃない。それにあの強さはこの目のおかげで――」


 ウルシュラとナビナが俺の目を見つめてくる。


「宝石の瞳ですよね? 今は何ともなってないみたいですけど」

「さっき、輝いてた」


 またか。力を使う時は光り輝いて、そうじゃない時は戻るなんて。

 どういうことなんだろうか。


「俺が勝手に名付けたんだけど、冴眼ごがんは呪いの宝石から生まれた力だと思う」

「冴眼ですか? よく分からないですけど、感情のたかぶりがそうさせるのかもですね!」

「感情か……君らを助けたい一心だったし、そうなのかな」


 力を込めたつもりもなく睨んだだけだったけど。


「ルカス、さっきの人間……死んじゃった?」

「え? いや……どうかな」


 連中を消した時、魔法を使う時のように魔力を込めたわけでは無かった。


「そうですよね。気づいたら消えちゃってたので、そんな感じでは無さそうです」

「あいつらをどうにか追い払いたいって思っていただけだからね……」

「じゃあ無自覚の力ってことじゃないですか! でも、その力をルカスさんご自身が自覚して使えるようになったら、きっと最強の冒険者ですね!」

「ルカスは最強」


 ――などと二人は俺を全く怖がっていない。

 おそらく最初に癒しの力の効果を受けたおかげだろう。

 

 帝都門を抜けた俺たちは、ゴブリンの縄張りを避けながらサゾン高地を抜ける。

 セルド村に到着した時はすっかり夜になっていた。


「ようやく着きましたね!」

「ナビナは寝ちゃったけど、お疲れ」


 途中までは平地が多かったが、村に近付くにつれて高低差が激しくなった。

 そうなるとナビナには厳しすぎるということで、俺が途中でおんぶすることに。


「いえいえ。ナビナの面倒を見てくれてありがとうございます!」


 セルド村に着いたものの、辺りはすっかり暗く通行する村人の姿も無い。

 

「暗くなったけど、どうしようか? 目の前にあるのは宿かな?」


 村にも色々あるが、入口を塞ぐように家が建っているのは初めてだ。

 ここは冒険者の先輩でもあるウルシュラに任せるとして、


「宿じゃないですけど、そこに行きましょう!」

「ええ? 宿じゃない?」

「実は目的地は目の前の建物だったんですよ~!」


 信じていいのか不安になりそうだ。


「ああ、いらっしゃい。そろそろ来ると思ってたところだったわ! あら?」

「こんばんは、アーテル! お世話になりに来ました」

「ウルシュラ、この人とエルフの子は?」


 ウルシュラの古くから付き合いのある店といったところか。

 棚の上には所狭しと、瓶詰の草木や液体、獣の皮といった物が並べられている。


 足元には見えたのは伐採向けの鎌、それから木の棒など。


 作ることを得意としているウルシュラのことだ。

 この店はおそらく雑貨屋だろう。

 店主はウルシュラと同様に妙齢な女性だが、一人で切り盛りしてる感じか。


「この人はルカスさんです! 後ろの子はナビナ。私のえーと……冒険者仲間です!」


 冒険を始めてないから何とも言えない。

 しかし、そう言っておくのが分かりやすいか。


「初めまして。俺はルカスと言います」


 俺の自己紹介に対し、女性は俺の瞳の奥を覗き込むように見つめてくる。

 もしかして知らずに冴眼を光らせていたか?


「……あなたは普通の人間? 魔力を感じるということは魔術師だろうけど、それ以外にも強力なものが感じられるわね。それと、銀髪エルフの子ども……ふぅん?」

 

 そう言いながら、女性はナビナにも目を向けている。

 

「アーテルさん、その辺にしてください~」

「それもそうね。せっかくウルシュラが客を連れて来たし。久しぶりにベッドの部屋を開けるわ」


 宿では無さそうだが、何でも屋といった感じだろうか。

 ナビナが後ろでぐっすり眠っているし、お言葉に甘えて俺も休ませてもらおう。

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