第11話 治されなかった二本の腕 前編
「アーテルさん~、お店の中に入りたいので避けてください~!」
「その声はウルシュラね? 無事に戻って来たのね――って、ちょっと! な、何この大量の木の枝は!」
「とにかく通路を開けてくださ~い」
何事も無くアロンをコボルト族の親元に送り届けた。
そこからセルド村へ戻り、アーテルの雑貨屋に戻って来た。
一方、ナビナによって、俺は冴眼の一部の力を引き出すことに成功。
だが同時に、帝国にいる賢者の思惑を見てしまう。
見てしまったことで嫌な予感を感じ、寄り道しないで戻って来たのだが……。
「全く、何やってるんだか……」
「ルカス、まだ?」
「ちょっと待ってて。ウルシュラがつっかえてるから手伝って来るよ」
「分かった」
ナビナは俺の後ろをいつもついて来ている。
外にいる時は自由に歩き回ることが多いが、今回は前にも進めず呆れているようだ。
バタバタタッ。とした音の直後、
「あっああぁぁ~ルカスさん、散らばった木枝を拾ってください~」
大量の木枝の束が床一面に転がっていた。
「…………」
ウルシュラの能力は高い。しかしおっちょこちょいなことがよく分かった。
アーテルは仕方が無いといった顔で、黙々と片付けている。
ナビナは
「ルカスさん、ごめんなさいです。後は細かい枝ですので、お先に休んでてください~」
「そうさせてもらおうかな」
雑貨屋の売り物が置かれているなか、ふと店内を見回す。
すると、何かが俺の背後にいることに気づいた。
「そ、そうだわ! ルカスさん! あなたにお客さんが来てますわ! ウルシュラのせいで忘れるところでした」
俺の気づきに、アーテルが慌てて声を出す。
「お客さん? 俺にですか? もしかして後ろの……」
「ええ……店内で待たせるわけにもいかなかったから部屋で休ませていたんだけれど、後ろの彼女がそうです」
後ろを振り向いたわけじゃないとはいえ……。
殺気に似た気配を感じる。
恐る恐る後ろを振り向こうとすると――
突然、俺の足に体当たりをして来た。
「――うっ!?」
「……」
――とはいえ、体当たりをして来た側が弱っていたようで痛みは無い。
俺に何か恨みでもある者だろうか。
「アーテルさん、この子は?」
「足は大丈夫? ルカスさん」
「何とも無いですよ」
「彼女はルカス・アルムグレーンを探している。そうとしか言わなくて、とりあえず中に入れてあげてたんだけど……心当たりはある?」
アルムグレーンか。その家名を聞いただけで嫌な予感しかしない。
それにしても、目の前の女の子は何とも痛々しい姿だ。
「いえ、俺は何も」
両腕に痛々しい添え木と傷隠しの包帯が巻かれている。
見た感じは人間の女の子に見えるが、エルフに似て耳がやや長い。
金色と銀色が混ざり合った長い髪か。種族で考えられるのは……。
「ルカス、彼女は『ハーフリング』だからエルフより人間に近い」
「ハーフリング……あぁ、なるほど。ってことは、見た目は女の子だけど大人の女性かもしれないんだね」
「そう」
ナビナはすぐに分かったみたいだ。
しかし、自ら会話をするつもりは無いらしい。
話すことに関してはウルシュラは頼れそうにないし、俺が話すしかないか。
まずは彼女の目線に合わせることから始める。
もしかしたら俺より年上の可能性もあるので、言葉遣いに気をつけつつ――
「こんにちは。俺はルカスという人間で魔術師です。あなたは?」
「アルムグレーンを待ってた」
「え? ええと、あなたの名は何ていいますか?」
「……ログナドのミディヌ・トット」
ログナド……ログナド大陸という意味だろうか。
大陸を越えてここまで来るなんて、かなり大変だったはず。
「その両腕は?」
「……聖女に言われた。治せない、と」
「聖女……それは、エルセ・アルムグレーン?」
ミディヌは強く頷いている。
リュクルゴス同様に姉エルセの性格が悪いのは仕方ないとして。
助けを求めた者を治癒しようとしないなんて、それはあんまりだ。
しかし何故俺に会いに……。
「アルムグレーンが言った。呪いを持ったルカスなら、呪い持つ者をどうにか出来る……と」
やはりリュクルゴス――いや、帝国から俺のことは伝わっているのか。
南にいることも知られているし、あえてミディヌをここに来させたということになる。
「ルカスさん! さっきから聞こえるアルムグレーンって、
さすがに片づけを終えたウルシュラも、この話に耳を傾けていたか。
聖女が悪名高いことは知られてるから仕方ないけど。
「アルムグレーンは俺の家名なんだ」
「ええぇっ!? じゃ、じゃあ、ルカスさんって……あの賢者と聖女の――」
「弟……ってことになるね」
いずれ話そうとは思っていたけど仕方ない。
ナビナはすでに知ってそうだからいいとしても、問題はウルシュラか。
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