第18話 北ガレオス中立都市
辺境特務隊の動きを封じ、俺たちは北転移門から外へ出る。
外に出るとそこには、北ガレオス兵士が数人と、
辺境特務隊を含め、帝国の人間の姿は見えない。
北ガレオスは中立都市。
ここはバルディン帝国とは争いもせず、従いもしない人間が数多い。
そして
「あなたは魔術師ルカスさん……で間違いありませんか?」
俺のことを以前から知っているのか、為政者が声をかけて来た。
"宮廷"と付けられず、魔術師とだけ言われたのは初めてのことだ……。
てっきり宮廷魔術師が待ち構えていると思っていた。
彼女たちも同じだったせいか、今の状況に唖然としている。
とにかく俺だけでも冷静に対応するしかない。
目の前の兵士から特に敵意を感じない以上、ここは素直に応じることにする。
「そうです。俺は魔術師のルカス。そちらはガレオスの?」
俺の返事を聞いた兵士たちは、一様に軽く頷きながらどこか期待した表情を見せた。
何か頼み事でもあるのだろうか。
「いかにも。このような姿勢で対峙することになり、申し訳ない」
為政者相手だから礼儀良くするべきかな?
話し合いをするにしても怒らせないようにしておこう。
「いえ、まぁ。一応聞きますが、ここにバルディン帝国の者は?」
「全て退去済みです。我がガレオスは、戦闘を作り出す者は入れませぬ」
「……やはりそうですよね」
戦いでもないし話すこともない……。
しかし帝国ではなく俺に味方をする態度――
つまり、すでに俺と帝国との争いを知ってのことか。
「ガレオス自体が、魔術師である俺に何かしてもらいたいことでも?」
転移門を出た正面には、兵士の姿しか見えていない。
しかし彼らの背後に広がる都市の中枢から感じ取れるのは、俺に対する何らかの希望だ。
冴眼から見えているのは、夜明けに似た光色な感じを受ける。
「我がガレオスは、中立都市。それはあなたもご存じの通りです」
「まあそうですね」
ここには帝国の転移門こそあるものの、ガレオスには深く関わらない規律があった。中立都市ではあるが、帝国に対していい思いは持っていないと聞いたことがある。
「……しかしここ数日にかけて、帝国の宮廷魔術師が大量に侵入して来るようになったのです」
皇帝の命令を超えた賢者の独断による弊害だな。
リュクルゴス自身は出て来ないくせに、迷惑はかけまくっている。
賢者崇高の宮廷魔術師が、周辺を荒らしているといったところか。
「……それで、俺にどういう?」
「そ、そうだぜ! ルカスに何をさせようってんだ?」
「わ、私もルカスさんの仲間として、よく分からない状況を見過ごすわけにはいきませんよ~!」
「……」
ずっと沈黙してるかと思ったら、ようやく声を出したな。
ナビナは相変わらずだけど。
「宮廷魔術師ルカス・アルムグレーン。あなたのことは前から知っていました。無論、"宮廷"を追放されたこともです」
「――!」
「そのあなたがここに転移して来たのも、我がガレオスにとっての希望に相違ありません」
「……希望?」
何だか怪しい話になって来たような……。
「北ガレオス中立都市の総意です。ルカスさん、バルディン帝国を陥らせている賢者なる者を、減退状態にして頂けませんか?」
なるほど、ここで賢者に迷惑をかけられてることが話に出てくるわけか。
あのバカ兄きめ。俺だけでなく、中立都市にまで嫌われるとは。
しかし確かにあの賢者さえどうにかすれば、帝国も少しは大人しくなる。
宮廷魔術師を自由に動かすことも出来なくなるはず。
「賢者リュクルゴスを弱らせる……それだけでいいんですか?」
ガレオスの人間に言われなくても懲らしめるつもりだったが……。
弱らせてくれと言われるとは驚きだ。
俺は俺で、冴眼でどういう目に遭わせるかくらいは考えている。
やるとすれば『賢者』として保てない無残な姿にするくらい……。
「それだけで構いません。無論、それ以上でも……」
それ以上にすると、呪いの力のことでナビナに言われてしまいかねない。
「分かりました。しかしこれは俺が決めたことです。ガレオスが気にすることではありませんよ」
「では、果たされた時、我がガレオスはルカスさんを歓迎いたすことを誓いましょう」
「……それくらいなら」
俺だけの問題だったけど、中立都市が希望してくるとは思わなかったな。
「あぁ、ルカスさん」
「はい?」
「帝国へはどのように行かれますか?」
どうやって向かうかなんて考えてなかった。
そもそもリュクルゴスを外に引っ張り出さないと……。
「……歩いて向かうつもりですが」
「それではこちらへ――」
まさかと思うけど、専用の転移門でもあるんじゃ……。
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