第26話 魔の森の呪符探し ①

「――違う、そっちじゃねえ!!」


 俺たちは魔の森へと急ぎ、辺りがまだそれほど暗くない中、たどり着く。

 だが着いて早々、森の手前で妙な動きをしていた賊を相手にすることになった。


「ちっ、うるせえ男だな! おい、ルカス。ここはあたしとうるせえ男だけで十分だ。あんたは派手なねえちゃんを下がらせておけ」

「ああ、そうするよ」


 ファルハンとミディヌ、どちらも口悪く似ている。ミディヌは双剣、ファルハンは拳。

 どちらも好戦的なせいで、どちらが多く倒せるかといったことを始めてしまう。


 一方、イーシャはこれといった武器が無い。

 それでいて色彩の派手な装備を身に着け、さらに色香らしきものを漂わせているせいでかなり目立つ。

 

「その、イーシャのその装備……それ以外に替えは?」


 黄金色をさせた装備。それだけで魔物はおろか、賊まで引き寄せそうだ。


「……あぁ、これでしたら【アグライアローブ優美な輝き】というものになりますわ。これはわたくしが戦ううえで、必要不可欠な装備。何か問題がおありかしら?」 


 戦いで必要……何らかの付加でもあるのか。


「いや、問題は特には……」

「ファルハンのように装備に無頓着な男はともかく、ローブはわたくしが二十二を迎えるまでに、仕上げに二年もかけておりますわ。目立つ色だからと文句を言うのは、マスターといえども……」


 こだわりがあるみたいだ。戦いに必要なものらしいし、これ以上言わない方が良さそう。

 お互いしばらく沈黙した後、


「あたしは十五だ」

「くっ、十二……。くそぅ、剣と拳では埋められねえのかよ」


 二人とも賊を倒した数で一喜一憂しながら戻って来た。

 ファルハンは自らの拳だけで戦う格闘士。鎧に似た胴衣のみで防御力無視の格好をしている。

 

「賊は全て撃退を?」


 ミディヌに聞くと、


「賊と言っても武器持ちのただの人間だ。あたしにしてみれば楽な戦いだったぜ! ルカスは元気そうじゃねえな?」

 

 といった感じで、ミディヌの気力はみなぎっているようだ。

 ファルハンは悔しそうにイーシャに愚痴っている。


「大丈夫。俺も問題無く戦えるよ」

「ならいいけど。あぁ、でも……魔の森に進んだら、冴眼ってのを使うんだよな?」

「そうだね。隠さずに進むよ。そのうちあの二人も気付くだろうからね」

「魔物への攻撃はどうするんだ?」


 冴眼と言ってもいつも呪いの力を発揮するわけじゃない。

 そう考えると今は、ねじ伏せる力よりも支援する力をメインに動くのがいい気がする。


「ミディヌとファルハンが動くなら、俺は治癒に回るよ」

「厄介な魔物の時は遠慮するなよ? あんたの強さを見極めるなんてふざけたことを抜かすのは、あたしが悔しいんだからな!」


 ミディヌの感情は真っすぐだ。おそらく俺に好意を持っている。

 ハーフリングなこともあって下に見られがちだけど、俺よりは全然……。


 四人パーティーと言いつつ、二人一組で森を進む。

 しばらくは、伸びきってもいない草地を進むだけの時間が流れるだけだった。


 だが辺りがほぼ暗闇に包まれるにつれて、ファルハンたちの歩みが鈍くなり始める。

 しかし俺は冴眼を常に光らせ、まるで昼間のような視界で進むことが出来た。


「お、おい、マスターと双剣のミディヌ! 何でそんな早く歩けるんだ?」

「本当にそうですわね。見たところ、魔法を出してる風でも無いですのに」


 先を歩いていたファルハンたちを追い越したところで、後ろから声がかかる。

 彼らが前を歩いていたのは道案内も兼ねてだった。

 ところが辺りに光は無く、来たことがある勘だけで歩いていた限界が訪れる。

 その結果、俺とミディヌが追い越すということになったわけだが……。


 彼らの言葉を聞き、俺は後ろを振り向く。

 直後、


「――なっ……!? んだそりゃあ? マスター……、あんたその目は?」


 やはり驚かれたか。

 もっとも、暗闇の中を苦も無く歩けるようになったのはこれが初めてのことだ。

 そしてその状態は、色濃い青紫色の宝石が常に光ることを意味する。


「まさか人間では無いとでもいうおつもりかしら?」


 目の輝きだけでこの驚かれよう。これから加わる冒険者パーティーにも同様なことが起きそうだ。


「俺は人間で、魔術師に過ぎない。違うのは、冴眼ごがんという力が備わっているってだけかな」

「ルカスはれっきとした人間だ! ルカスを恐れるんなら、あたしが相手になるぜ?」


 ミディヌの言葉にしばらく返事が無かったが、


「輝く力……なるほど。マスターの目なら探せるかもしれねえな」

「ええ。そうするしかないわね」


 ファルハンがそう呟くと、イーシャも一緒に俺の元に近づいて来た。

 二人は俺の前で頭を下げる。


「マスター! ここまで来てもらってすまねえ。まさかそんな力を備えてるとは思ってもみなかった。でも、そんな力があるならお願いしたいことがある!」

「わたくしからもお願いいたしますわ」

「……お願いというのは?」

「イーシャの武器をこの森で落としちまった。それを探して欲しい!」


 やはり彼女の武器だったか。


「イーシャの武器は呪符なんだ! あれには色んな効果が付与されている。あれが魔物に渡ると、大変なことが起きちまう。頼む! イーシャの呪符探しをマスターにお願いしたい!」


 呪符……なるほど。イーシャは呪符使いか。

 魔法効果だけじゃないものを呪符に封じることが出来る"危険"なものだ。


「――ルカス。急いで前を見ろ……奴らがすぐそこに――」  

「――!! アンデッド……?」

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