第33話 ジャックフロストのラプソディ
~語り手・エンベリル~
妾は6時に受付に来ておった。
もはやいつもの事じゃ。
そして受付のテフィーアにとっても、もう馴染みの事。
「テフィ~ア~ちょうどいい依頼はないかえ~?」
残暑でばて気味の今日この頃、口調までバテておる。
「エンベリル、あなた7~8月もそんな感じだったわよねえ?」
「いや、最近はまさに残暑でな、ダメージも蓄積されておるのよ、辛いのう」
「………と、いっても後はこれから涼しくなるばっかりじゃない」
そう言って依頼書を貼りに出ようとして、1枚紙が落ちる。
「あらら………ん?涼しいと言えば、この依頼かもね?」
「涼しいじゃと?見せてたもれ」
「はい」
妾は目を細めて依頼書を見た
「ジャックフロストが悪戯して困っておると?初心者向けの依頼じゃの」
さすがに妾のパーティには荷が軽すぎるの。提案できんわ。
「いいえ?それって既に中級者パーティが一度失敗してるのよ。フロストクイーンが出て来たって。詳細は書いてあるでしょう?」
もう一度書類に目を落とす。何か隅っこの方にそんなことが書いてあるのう。
フロストクイーンが出て来たが、錯乱していて話が通じない………か。
気になるところではあるの、同族のようなものじゃから………。
「よし、パーティに提案してみることにしよう」
「助かるわー。確かそれ、2回続けて失敗した挙句に、中級者が行って失敗してるの。ギルドとしても面子があるから、ポイントはオマケしておくわよ」
「先にそれを言わんか!迷わず引き受けたものを!」
~語り手・リリジェン~
「………ふむふむ、え?ベリルが説得してくれるんですか?」
「多分、やつらは他種族のいう事は耳に入らんじゃろうて」
「そういうものなんですか?」
「うむ、わらわの母様も父様と妾の言うこと以外は、ロクに聞いてもおらんかったな。それでトラブルになった事も何度かある。一応反省はしておったが………。それでも氷精の中では、話が成り立つ方じゃった」
私は絶句してしまいました。精霊ってみんなそんな感じなのでしょうか?
「みんなそうなんですか?」
「星によって違うと聞いた事があるの。うちの星は人の話を聞かんのじゃろう」
「………納得したら不敬ですかね?」
「さあのう、ま、そういう事じゃからこの依頼を受けていいな?」
私は答えの代わりに周囲を見回します。
「俺はいいってことにした。一応奴ら、エルフの言葉にも多少は耳を傾けるしな」
「私も構いません。私は精霊を召喚して話させることもできますし………」
「では私もOKなので、出立の準備ですね」
この村までは………ええっ遠っ!片道5日!?帰りは『テレポート』ですが………
「と、遠いですね」
「それもあって解決が遅れておるんじゃろうなぁ」
「なるほど………。わかりました。ではごはん屋さん、カムヒア!」
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」
ふりふりと丸いお尻と長い尻尾を振りながら、丸っこいトカ………リザードマンが降りてきます。肩には食〇マークのついた大きな袋をかついで。
「ふふふ………ごはん屋、参上!」
ごはん屋さんのご飯は美味しいので、みんな特に注文とかは付けません。
まぁその分、ごはん屋さんの方で密かにアンケートを取ってくれてて、それが反映されてますけど………。
たとえば野菜が多いのはエルフ二人の分で、キノコがついてるとフィーア向け。
果物がついてるとベリル向けなんですよね。
クリスさんのは素材を生かした系のもので、オールマイティなのが私です。
ごはん屋さんは5日分のごはんと、オマケの保存食を包んで袋に入れてくれます。
料金と引き換えに、いつまでも新鮮ホカホカ、食〇マークの魔法の袋をGET。
これでいつでも暖か新鮮なご飯が食べられます。
スープもついてるんですよ、ちゃんと違うものが毎日!すごいですよね。
お礼を言うと「お客様を大切に!がモットーですからなぁ。またご贔屓にお願いしますぞぉ!無事をお祈りしておりますぞぉ~!」と見送ってくれました。
目的地は、北の方にある村のようです。さぞ冬は寒いでしょう。
私は暑いのも寒いのも苦手です………馬車が温度調節機能付きで良かった………。
まだまだ残暑が厳しいですからね。
~語り手・クリスロード~
旅は順調に進んでいます。
ですが4日目、窓を開けて外を確認していたところ、異変が。
9月だというのに妙に寒いのです。
あちこちで氷の精霊―――氷精―――が踊っています。
完全な精霊力異常地帯ですね。
5日目、雪が降って来ました。
窓を開けて確認しますが、寒い、の一歩手前ですねこれは。
水属性の私とベリルには快適ですが、他の2人は………。
「寒いです!今9月ですよね!?」
とホワイティに抱きついていますね。
「あー涼しいな。オカシイけど、これぐらいなら………」
フィーア、それはフラグというものでは?
ほら、だんだん雪が多くなってきましたよ。寒さもマシマシです。
「………真冬じゃねえかよ」
村に着くと、スケートボードで遊ぶジャックフロストと村の子供達が見えました。
「取り合えず依頼主―――村長さんのお宅を探しましょう」
私が言うと、皆が頷いて、道を行く人に道を聞きます。
その道ももう雪に埋まっているので、大雑把な方向だけになりますが。
「頼むから今度は上手くやってくれよ!」
懇願に見送られて村長さん宅へ。
村長さんの家は、雪でなく氷漬けになっていました。
出入口は確保してありますが………。
出てきた人に冒険者ギルドから来ましたと言うと、憐れみ半分苛立ち半分といった感じで対応されます。
「また来てくれたのはいいが、今回は氷漬けになって泣いて帰って来るなよ」
さすがに私達のレベルだと、それは無いと思いますが………
しかし、家の中まで氷が張っていますね。
村長さんの部屋………も同様の惨状です。
「家の中は気まぐれに凍らせていくし、捕まえようとしたら足元が氷になるし、風呂に入っていたら冷水になるし………その他にもいろいろありますじゃ」
なんでも、家の中で雪崩が起こったこともあるそうで。
話ができるというベリルにしがみついています。
今は村の食料供給減でもある湖を凍らせて、そり遊びに興じているとか。
このままでは生死にかかわると、村人一同戦々恐々としているそうです。
「ベリル、すぐに説得に向かいませんか?」
「仕方がないのう………」
着いて早々ですが、湖の方へ向かう事に。
ジャックフロストとは雪だるまの姿―――目鼻はつららと氷―――の精霊でした。
そりで、滑って来たジャックフロストをつかまえ、ベリルが話しかけています。
………しばらく時間が経過。両者ともオーバーな身振り手振り付で喋っています。
………………くたくたになったベリルが帰って来ました。
「フロストクイーンの所までの道を教わったぞ。なんでもこの異常気象は女王の望んだ事だとか言っておる。誰か人間に原因があるそうじゃ」
「あれだけ話して、まとめるとそうなるんですか?」
「無駄な情報が山ほど入っておるからの。女王はそこの山のてっぺんにおるぞ」
「行くしかなさそうですね。ベリル、お願いしますね」
「言われんでも、話が成立するのが妾しかおらんじゃろうが」
~語り手・フィーアフィード~
「そう言えばさっきの会話、精霊語か?」
「いや、フロスト語じゃ、あれは妾も本能で理解しておるだけじゃから、会話が大変だったわ。すぐ他の話に飛ぶし、情報はもったいぶるしのう」
「どうりで理解できないわけだ………」
「まあ、フロストクイーンの居場所は分かった。事情を聞きに行こう」
それから半刻後………僕たちは美しい雪の女王と対峙していた。
正確にはベリルが、だけどな。
やはりフロスト語を話す女王を相手に、ベリルの顔色は悪い。
しかし頑張ってもらわないと………せめて精霊語で話して貰えないと僕にはどうしようもない。頑張れ、ベリル。
1時間が経過して、ようやくベリルが帰って来た。
「原因が分かったぞ」
ため息をつきながらそう言うベリル。お疲れのようだ。
「人間の男が、彼女に出会って恋をした。だが男はすぐ帰って来るから待っててくれと言い置いてエスケープ。出会ったのはこの村で、冬だった。条件を揃えようとしてるんじゃ。その男が帰って来るようにの」
「マジかよ………リリジェン、魔法で人探しってできるか?」
「はい、できますよ。儀式魔法にあります」
「良かった………足で探せって言われたらどうしようかと思った」
「あはは………依頼の完了は無理そうですね、それ」
早速、儀式魔法を開始するために開けたところに移動。
リリジェンが地面に魔法陣を書いていく。
その男の名前と姿がはっきりしていれば使えるらしい。
その上でペンデュラムを揺らしながら、長い呪文を唱える。
最後にペンデュラムを大きく回し―――落ち着いたところの地面を見る。
「分かりました。該当する男性は、この先の港町で港湾労働者として船の建設を行っていますが………借金奴隷です!」
「はぁ?何だよそれ!」
「もしや帰って来たくないのではなく、帰れぬのかえ?てっきりこじれると思うておったのじゃがな。よし、借金を払って解放させるか」
そっから後の行動は早かった。村長に事情を話し、馬車で一路港町へ。
その男を見つけ出し―――しばいてから―――借金を肩代わりしてやる。
結構な額だなおい!こりゃ帰れないわけだ。
本人は「あ~フロスちゃんに会える~」と死ぬほど脳天気だ。殴る。
ちなみに何でそんな借金をしたのか聞くと、賭博で嵌められたらしい。
本人は嵌められたと自覚していないが、話を聞くとそうだった。
フロストクイーンの前にこいつを連れて行くと、吹雪がなりを潜め、美しい貴婦人がこちらに向かって駆けてくる。
「ああ~ミー君!やっと帰って来てくれたぁ!ずっと待ってたのよ!」
「ごめんよフロスちゃん。もう賭博なんかしないよ」
「賭博!そんなものは私が潰してあげる」
「大丈夫だよ、冒険者の皆さんがいるからね」
「冒険者………ミー君を連れて来てくれたのか!お礼をするわ!」
そう言ってフロストクイーンは「フロストの紋章」という雪の結晶型のペンダントを人数分寄越した。なんでも個人にしか分からない範囲から半径30mまで、温度を自在に下げる事の出来るアイテムだという話だ。ちょっと設けたな。
特にベリルが喜んで、早速身につけている。
「ミー君は、私が養ってあげるからね」
「ありがとうフロスちゃん」
おまえ男としてのプライドは無いのか?
まぁ、そんなこんなで恋のから騒ぎは幕を閉じたのであった。
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