「銀」級を目指して
第9話 生贄と騒乱の迷宮1
~語り手・リリジェン~
「おお、来たか!朝聞いたら、正午にギルドに呼ばれておるらしいぞ!心せよ」
朝起きて、手伝い、食事を済ませ8時に冒険者ギルドの酒場に顔を出しました。
それで突然ベリルに言われたのが冒頭のセリフです。
「えっと、ベリル。受付の人に聞いてくれたの?」
私は仲間たちの輪に加わるように座りながら問いを発した。
「そうじゃ、6時に聞いておいたぞ」
「え、6時に?」
「うむ!妾は4時半頃には起きておるゆえ、鍛錬場で汗を流した後、聞いておいた」
「ベリルすごい早起き………お酒も抜けてるみたいだし」
「ふふん、二日酔いなど経験がないのう」
そう言ってベリルは豊かな胸を張る。
「正午なら、まだ結構時間ありますよね」
私は猫獣人の女給さん、リンジーさんを呼ぶ。やってきたリンジーさんに私は
「リンジーのスペシャルメニューひとつ!」
と決然と告げる。
彼女はニヤリと笑い。承ったのニャ!と言って手のひらを私に差し出す。
私は遠慮なくそれを堪能する………ぷにぷに、ああぷにぷに。頬ずりしてしまう。
堪能すると私は、ぐっ!と親指を立てた。
リンジーさんが行ってしまうと、フィーアが
「どんなんだった?」
と興味津々で聞いてきたので
「天に召されてもいいと思うぐらい、至高の触り心地でした」
そう言うとフィーアはぶつぶつと、スペシャルメニューの内容によるな、美味しければ文句はないんだけど、とか呟いています。
出てきた「スペシャルメニュー」は、ホワイトシチューでした。
「うん、牛乳と玉ねぎの甘みがしっかり出ていて美味しいです」
「実はそれ、試行錯誤の末にできた練習作なのニャ。成功なのニャ~。正式なメニューにするニャ!またレパートリーを増やすから、また注文するのニャ~」
といってリンジーさんは去って行きました。
フィーアが一口くれ、というので「あーん」してあげます。
「美味しいな。腕はあるのか………。今度俺も頼むか?」
と言っています。フィーアも「にくきゅう」の魔力に取りつかれたようですね。
ベリルは興味なし。クリスは、私にはプリシラがいますから、と言っていた。
ちなみにプリシラちゃんは、骨付き肉を貰って尻尾をぶんぶん振っています。
お昼までは、賑やかに(主にベリルとフィーアの漫才)過ごしました。
ちなみに、ベリルのすすめを断り切れず、全員少しお酒が入っています。
こんなんで大丈夫かと思いつつ―――正午が来ました。
きっちりの時間に受付の前に立ちます。
「テフィーアさん、呼ばれているとのことで「チーム13」揃いました!」
「ごくろうさん。受付に入ってすぐの階段を3階に。左のドアに入ってね」
「はい!」
「リリジェンちゃんは、帰りにまた寄ってね」
「?はい」
言われた通り階段を上り、3階の左のドアに。ノックして名乗ります。
「入ってよし」「失礼します」「座りなさい」「はい」
そういうやり取りをして、人数分の椅子に腰かける。クリスも椅子に座り直した。
知らない顔の2人だ。ゴホンっと咳払いして、左に座る初老の男性が
「儂は私はギルドマスターのブレンだ、そして………」
手で隣の席をを指し示して
「この方はヤスミン王国の軍務大臣ダン=フィレンラント卿であられる」
と紹介してくれた。会釈されたので頭を下げる。
ギルドマスターはともかく、軍務大臣が何故私たちなんかに?
「何故このような運びになったのかは、儂から順を追って話そう」
と、ギルドマスターのブレンさんが言う。
「お前たち、「生贄と騒乱の迷宮」を知っておるか」
「妾が知っておる。その洞窟に挑んで失敗すれば、邪なる蘇生が行われて、パーティの中で最も魔法適性が高い者が死霊の王として蘇る。そして新たなダンジョンボスとなるのじゃが………質の悪い事に生まれた王は、理由は定かではないがアンデッド系モンスターを迷宮から大量に出し、近隣の村を襲う。ちなみに仲間は、ボスの護衛として、高位アンデットとして蘇生させられる。ボスは生前の記憶はあるものの、人格が激変しているとか。こうなると、もう死霊の王にされた者を討伐するしか事態を収拾する方法はない。討伐すれば正常なボスが出現する。ただ生半可なものでは死霊の王に太刀打ちできない………そんな理由から、挑んではならん迷宮として封印されておるとか。妾の知っておるのはそれぐらいよ」
「さすがだな、エンベリル」
「多少長く生きておるゆえな。で、此度はどうした?アンデッドの噂は聞かぬが?」
「うむ、事の始まりは、禁を破って迷宮にひそかに挑戦した者が出た事だ。だがそのパーティは生きて戻ってきた。一人だけ迷宮に閉じ込めてな」
「はぁ?いったいそれに何の意味があるのじゃ?」
ギルドマスターは説明を始めた。
実はその違反そのものが発覚したのは、1年も前だという。
そのパーティは、普通に挑戦したがボスに勝てずに逃げ帰ってきたと説明した。
確かにアンデッドが溢れてくる様子もないため、そのまま信じたそうだ。
もちろんペナルティー(降格)は与えたそうだけど。
しかし、最近そのダンジョンの近隣の村々で、人さらいが出る、と衛兵の詰所に訴えがあった。よくよく聞き取り調査をしてみたところ犯人はアンデッドらしい。
そして何故か、若い娘・若者がさらわれているのだ。頻度は1月に2人ぐらい。
それで、くだんのパーティに再度聞き取りし、その際『神聖魔法:嘘感知』をこっそり使ったところ、あちこちで嘘が露見した。
「逃げてきた」という供述だけは本当だったが、逃げた理由は嘘だったのだ。
衛兵隊の尋問官が尋問したところあっさりと吐いた。
全ては貴族―――アンダン侯爵の息子ヤメイルに大金を積まれてやったこと。
魔術素養のある奴隷を一人連れて行って、ボスに殺させろと言われたそうだ。
お前たちは奴隷がボスになる前にこの自分が主設定になっている「隷属の首輪」を嵌めたらすぐ逃げてきていいと言われたとか。
それだけで金貨12000枚。悪い話じゃないだろう、と。
この話が露見したのが1月前。
だが、この話だけで侯爵の息子を罰する事はできない。
貴族が誰かに命じて奴隷を殺しても罪にはならないのだ。
ちなみに直接手を下した部下は罪になる。
いい顔はされないにしても、アンデッドを使役すること自体も違法ではない。
問題はアンデッドにどういう命令を下しているか、だ。
その命令が誘拐事件と関わっていると発覚すれば、初めて違法となる。
ところが迷宮を見張っていると、頭の痛い事に他の若い貴族の男女が入っていくのが確認された。事はヤメイル一人の罪(誘拐された人々の処遇によってはお咎めなしかもしれない)では済まないかもしれない。
しかし官憲は動けない。この事は放っておくように、となぜかベルニウ公爵という、フィレンラント卿より立場が上の人物から圧力がかかっているのだそうだ。
だが軍務大臣は(アンダン侯爵とは、大臣の座を巡って争っているので)
息子の―――ひいてはアンダン侯爵のスキャンダルを暴きたい。
そこで冒険者を使う事にしたという。
ここで軍務大臣が口を開く。
「そこで君達には、貴族が中に入っていった日に、迷宮を攻略して欲しい。偶然を装って迷宮に潜り、彼らが何をしているのか調べるのだ。事と次第によっては、実力行使も許可するが、貴族の死人は許容できない。従者までなら死んでも構わん」
一息ついて
「だが穏健な集まりだった場合、誘拐した人を帰させるだけで済ませて欲しい。君たちのいう事は聞かないだろうから、その時は私を呼んでくれ」
(誘拐がすでに穏健じゃないの、分かってないのかしら)
彼は、持ち物の中から、半透明な宝珠と、魔法文字が刻印された宝石を取り出す
「話しかければ私に通じる通話の宝珠と、片割れがある場所に転移できるテレポートの石の片割れ、迷宮の地図を渡しておく。くれぐれもこの件は内密に動いてくれ………信用できると聞いて君達に頼んでいる。くれぐれも偶然を装って欲しい。期限は2か月与えるので、しっかり準備してくれたまえ」
こちらの是非も問わず、頭も下げないまま、彼はそう言った。
「退室していいぞ、チーム13」
「「「「失礼します」」」」
部屋を出たところで
「ねぇベリル。これ、受けなきゃダメなんですね?」
「その通り。貴族に目をつけられたくなかったらのう。降格は確実じゃな」
「………13番ボックスで会話しようよ。防音だ」
フィーアが冷静な口調で言います。確かに、それがいいでしょう。
13番ボックスに入りました。
「リリジェン、不満そうだね。まあサイテーな類の依頼だしね。でも、うまいことやればランクアップに近づく。今後の仕事の依頼も来るかもしれない」
「来る仕事がまたこんなのなら嫌ですよ」
「でも、『金』級まで行こうと思えば、貴族にかかわるのが通る道だよ。仕方ない」
「そうよな。お主は少し汚れ仕事に慣れておくべきじゃ。これはまだマシじゃぞ」
「代わりに色々報酬を要求してうさを晴らしましょう、リリジェン、ね?」
確かにうじうじしてるなんて不毛だ、クリスの言う通りふんだくってやろう。
わたしは顔を上げた。
「ありがとう、皆。上手くやってふんだくる方法を考えましょう」
「よっし、じゃあ作戦会議だ」
「とりあえず、件の迷宮がどこら辺にあるかだな。地図を見るだに………王都から二~三日。おいおい、ここからだと5日はかかるぞ」
「その上、貴族共が入っていく日に攻略を進めなければならんのう」
「悪けりゃ何週間も野営して見張る羽目になるな。勿論隠れて」
「それなら、マジックアイテム「遠見の鏡」で、位置設定を迷宮入り口にしたらどうでしょう。私たちは確実に見つからない所に潜んで、です」
「それいいな。それで貴族が来たら、僕がどこに行くか確かめる為に尾行する」
「『インビジビリティ(透明化)』の呪文をかけますよ」
「ありがと。その後の行動は、俺が戻って来てから決めるって事でいいか?」
僕は皆を見回す。異論は特に出なかった。
「3週間分の物資がいるな」
「買うのは保存食でもいいですけど、どうせ袋の中の時は止まってるんですし、お弁当をを3週間分作ってもらってもいいと思います。各自買って来てください」
「それ専門の弁当屋があるから、皆そこで買うか?味は保証するぞ」
「かさばるから、弁当用の魔法の袋が必要だが、幸い俺に予備がある」
「じゃあ、私もそこで買います」
「あそこか。まあ、悪くはないのぅ。妾もそうするか」
「私も存じ上げておりますが、確かに美味しいですね。そこにしましょう」
「あとは茶だな。魔法の保温瓶を買おう、温かいままの茶が10ℓ入る」
「それと野営道具と、「遠見の鏡」を買いませんと。手分けして買い物に行きましょう。予備の袋を持っていると言っていたので、お弁当はフィーアが、遠見の鏡はギルド内で売ってるでしょうから、クリスさんお願いします。野営道具は、ベリルと一緒にゴルド商会に行ってきます!終わったら、酒場に集合ということで」
「ゴルド商会に行きますよ、ベリル。良い天幕と毛布、鍋とカンテラ、魔法の水袋を買いましょう。鍋は洗面器としても使うので大き目のを」
「うむうむ、やはり買い物は楽しいのぅ」
「はい!」
ゴルド商会に着きました。寄って来た店員さんに欲しいものを告げます。
「天幕は防水防風のしっかりした4人用で、目立たないやつを」
「それでは、これなど如何でしょう」
店員さんが見せてくれたのは、緑のカモフラ柄の厚手のテントだった。
重そうだが、どうせ魔法の袋に入れるので、これでいいだろう。
「ではカンテラですね?こちらは如何でしょう」
凝った装飾の優美なカンテラだけど、ガラス部分が魔法強化されており、金属部分は鋼鉄。戦闘時に落としても割れないんだそうです。2つ買う事にします。
「次は鍋をご紹介します」
大きな、鋼鉄の鍋です。シールドとして使えるぐらい頑丈で、蓋をすれば保温も効くそうです。でもちょっと大きすぎだと言ったら、一回り小さな赤い鍋を出してきました。火精の炎で鍛えられた一品だそうです。これにしましょうか。
「毛布のご案内です。これからの季節、発熱毛布は如何でしょう」
すっごく柔らかくて暖かい、色違いの毛布を出されました。
赤はベリル、黒はフィーア、クリスは白、私はピンクで。これにします。
「魔法の水袋をご紹介します」
おススメされたのは、保温水袋より取り扱いが簡単な保温水筒。小さい水筒なのに100リットルも入るそうです。いいですね!2つ買いましょう。
これで買い物は終わりです。清算は金貨100枚で、お得意様割引だそうです。
ベリルと一緒に、ほくほくして帰りました。
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