「金」級への道

第27話 キノコな精霊の頼み事 前

 ~語り手・エンベリル~


 いつものように朝4時に起きて、身繕いを済ませる。

 最近は朝食は(もともと食べる習慣がなかったし)取らずにすませておる。

 なので5時には、転移拠点して急いで鍛錬場に行く。

 

 なぜそんなに急ぐのかと言うと、シャービアンが待っておるからじゃ。

 シャービアンはこの間の依頼で召喚された悪魔じゃったが、妾とは相性が良くお互いに高め合おうと約束したのじゃ。

 そこで、ギルドの鍛錬場を紹介した所、気にいってくれた様で、今では指導員をやっておる。冒険者登録もすませたようじゃ。

 だが互角に戦えるのは妾だけゆえ、朝は妾の到着を待っておる。


 その他にも、リリジェンから教えて貰った『念話』で連絡を取り合い、時々うちの城のもと練兵場で、戦ったりもしておる。

 戦魔にとって戦うという事は、愛情表現でもあるそうで、どうやらシャービアンは妾を好いてくれておるようじゃ。

 妾か?実は………好きになってしもうた。なので朝稽古は両思いの確認なのじゃ。


 さて鍛錬場に着いた。休憩所で剣の手入れをしておるシャービアンに声をかける。

 「シャービアンよ、今日も朝の鍛錬をしようぞ」

 「おお、ベリル。来たのなら早速始めようぜ」

 周りからは、本気の試合に見えておるだろうが、実は鍛錬が目的なので全力は出しておらぬ。30分ほどで終了する。

 その後は、剣を磨きながらお互いの長所や短所を挙げていく。


 ん?オリハルコンは研磨できないんじゃなかったかって?

 シャービアンが、オリハルコンでも研げる砥石をプレゼントしてくれたのじゃ。

 妾好みの贈り物。やはり妾とシャービアンは、相性がいいのじゃな。


 その後は、シャービアンと別れる。

「また城に呼べよ」と言われた「勿論じゃ」と答えて受付へ。

 受付では、出勤したてのテフィーアが大あくびしておった。はしたないぞ。


「テフィーア、何か面白い案件はあるか?」

「それが今日はあんまり依頼自体がないのよねぇ。待て、次報よ」

「そうか、それなら仕方ないの。今日は買い物にでも行くか」

「あ、それで思い出したけど、先日の報酬を渡すから10時ごろ来いってギルマスが」

「おお、そうか。皆の集まっておる時間帯じゃの。行くと言っておいておくれ」

「はいはーい、承りましたー」


 妾はそのまま、酒場の指定席と化しているソファに座る。葡萄酒1つ!

 しばらくするとフィーアの小僧が来た。挨拶も酒もなしで、何か考え込んでおる。

 小僧を放置し、しばらくするとクリス、リリジェンとやって来た。


「前回の報酬を受け取りに、10時に来いとギルマスが言うておるぞ」

「今日は正午ではないんですね」

 と、リリジェン。確かに、いつも正午じゃな。


「それより、フィーア。何か悩み事でもあるのですか?」

 クリスは先ほどから黙って考えこんでおる様子のフィーアが気になるらしい。


 ~語り手・フィーアフィード~


「ああ………笑われるかもしれないが、ある」

「どうしました、私で良ければ聞きますよ。笑いませんから」

 クリスは親身になって聞こうとしてくれている、話すか。

「実は………キノコが食べたい!」

 ………誰も笑わなかったが、沈黙が痛い。


 沈黙の後、クリスが怪訝そうに言う。

「あの………フィーア。キノコ料理ならここにもありますよ?」

「いや、そんなんじゃなくてだな、もっとこう市販されてない『今取った』って感じの、フレッシュなキノコの鍋が食べたいんだ!」

「ああ………分かるぞフィーア。エルフが時々なる「森の幸」病じゃの。街には絶対売っておらんわ。そうか、お前もとうとうなったか」

「ええっと。じゃあ次の目的地はエルフの森ですか?」


「いや、「キノコ人の森」へいく」

「取っても、キノコの人は何も言わないんですか?」

「大丈夫だ、人化できない奴なら見逃してくれるのは確認済みだ」

「前にもなった事があるんですね………」

「リリジェン、憐れむような目を向けるのは止めろ。ベリルだってあるだろう?」

「妾の場合は、キノコでなく野草のサラダだったのう」

「ほらな。………で「キノコ人の森」には一緒に行ってくれるのか?」


「「「いいぞ(ですよ)」」」

「よし、じゃあ午後はゴルド商会で買い物だ!魔法のコンパスがないと絶対迷うし、キノコを入れる魔法の袋も要る」

「どんだけ食べるつもりなのじゃ、お主は」

「山盛りだ!」


 ~語り手・クリスロード~


 わいわいとキノコの話題で騒いでいるうちに、10時になりました。

 遅れそうになり、慌ててもう行き慣れたギルマスの部屋に向かいます。

 ノックすると「入れ」と言われたので「失礼します」と部屋に入る。

 ギルマスはデスクの横にある長机を指し示して

「来たか、早速だが報酬を渡す」と言います。


 リリジェンからです。

「下級魔法詠唱破棄」の指輪。

 これを嵌めていると下級属性呪文を詠唱しなくても済むというものです。

 リリジェンは属性魔法メインですから、役立つでしょう。


 次にフィーア。

「防御無効化の短剣」です。

 鎧も、生得の鱗なども易々と切る事ができる短剣です。


 次はベリルです。

 ギルマスが赤い、直径2cmていどの宝石?を出してきます。

 ベリルにオリハルコンソードを抜かせましたね。

 その柄に宝石?を当てると、それはずぶずぶと柄にめり込みます。

 オリハルコンソードが赤く染まります。ベリルは嬉しそうですね。

 ギルマスの説明によれば、魔法やゴースト、精霊など非実体のものが切れる様になる加工を施したのだそうです。

 魔法が使えないベリルの弱点を補ってくれるでしょう。


 最後に私ですね。

 幻獣の能力を、注いだ魔力の分高めてくれる指輪です。

 確かに、報酬としては十分ですね。


 ギルマスの差し出した報酬受領の紙にサイン。ギルマスの部屋から退室しました。


 それでは、ゴルド商会の本店に転移拠点します。

 私は本店に来るのは初めてなので、その大きさに驚きます。

 フィーアによると、70階建てで、全部がゴルド商会の店舗と倉庫なのだそうです。

 凄いですねえ………。


 入るとすぐに店員さんが出迎えてくれました。

 

 まずは、フィーアの買い物ですね。

 キノコを入れるための袋が欲しいと言ったら、草で編んだ籠を出してきました。

 なんでも、薬草の採取専用の籠だそうです。

 見た目よりはるかにたくさん(10㎏まで)入るとか。植物限定ですが。

 しかも中身が傷つかないような加工が施してあるそうです。

 フィーアはこれを気に入ったようで、この籠に決めました。

 次は魔法のコンパスですね。絶対狂わないと保証付きのものを買っていました。


 次にリリジェン。

 ステンド草という花が欲しいそうです。

 「聖草」と同じ硬質の植物で、花がステンドグラスの様になっている事からこの名前が付きました。寒冷地にしか咲かないという花だったと思うのですが………?

 おや、店員さんが冷風装置を勧めています。

 さすがゴルド商会、抜け目ないですね。


 次はベリルです。

 彼女は大変実用的なものを買いました。

 力の指輪(筋力が上がる)と生命の指輪(生命力が増える)の二つ。

 シャービアンとの戦闘時、必要だと思ったのだそうです。

 できるだけ質のいいものをと要求していました。


 最後に私ですが、大したものではありません。

 「聖草」と、聖草にやる聖水を、魔法の水筒に入れて100リットル。

 以上です。


 みんなそれぞれ支払いを済ませていました。私もです。


 ~語り手・リリジェン~


 さて、全員買い物は終わりましたね。

「一旦城に戻って、荷物を置きましょう。それから馬車で出発、でいいですか?」

「「「異議なし」」」

 では転移拠点します!

「片付け終わったら、馬車の前で会いましょう」


 ほどなくして、全員が集合しました。旅の装備はしっかり持って来ています。

「フィーア、「キノコ人の森」までは何日ですか?」

「あー。そうだな、3日ぐらい?」

「じゃあ、お弁当を買わないといけないですね」

「ごはん屋さん、カモン!」と私は呼び出し石に念じました。


「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」

 歌いながら空中からゆっくり降りてくる「ごはん屋さん」デジャヴですね。


「毎度ご贔屓感謝しておりますぞぉ!喜びの舞!」

 とごはん屋さんはお尻をフリフリします。尻尾がブオンと振られました。

「ごはん屋さん、往復6日、幻獣を入れて7人分です!」

「ほほう、幻獣の方々の種族は何でいらっしゃいますか?」

 そう聞いた途端、スーザンちゃんとリエラちゃんが現れました。


 クリスが顔をおおって「最近呼ばなくても来るのです………」と言っている。

 ≪我は分厚いすてぇき肉がいいぞ≫

 プリシラちゃんの言葉をごはん屋さんに告げます。

 ≪ワタシもプリシラと同じがいい!≫

 これはスーザンちゃんです。伝えます。

 ≪私は生魚がいいわ。どんな種類の魚でもOKよ!≫

 これはリエラちゃん。またまたごはん屋さんに伝えます。


「了解ですぞ!しばしお待ちを………」

 そう言って「食」マークがある巨大な袋をかき回して―――

「はい!こちらは人間とエルフ用。こちらは幻獣の皆さまの分です」

 2つ、「食」マークの袋を差し出してくるので、受け取りました。

「それでは、またよろしくお願いいたしますぞぉ!」

 そう言って代金を受け取ったごはん屋さんはルンルンと帰って行った。

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