第28話 キノコな精霊の頼み事 後

 ~語り手・リリジェン~ 


 ごはん屋さんが帰って行き、お弁当も手に入りました。

「すみません、うちの子たちの為にパーティ資金を出して貰って」

「沢山あるから、心配しないで下さい。それよりも、ちょっとお願いしたいことが」

「はい、何でしょう?」

「あのう、みんな幻獣に騎乗しているじゃないですか。私にも相棒が欲しいんです」

「ああ………成る程。そうですね………最近召喚してないのですが、白虎のホワイティとかどうでしょう?落ち着いた性格の娘ですよ。地属性なので相性もいいかと」

 私はキラキラした目で「お願いします!」と言いました。


「では(呪文を詠唱し)………召喚!」

 空中に現れた魔法陣から出てきたのは、とても美しい白虎でした。

 ≪あら、久々の召喚ね≫

「実は貴女を呼んで欲しいと言われまして。彼女のバディになって貰えませんか?」

 ≪この子の事?ふーん、相性は悪くなさそうだけど………≫

 ≪こんにちは!ホワイティさん!私リリジェンです!凄くお綺麗ですね!≫

 ≪あら?分かっているじゃない。気に入ったわ!≫

 ≪背中に乗せて貰えますか?≫

 ≪よくってよ≫

「ではホワイティ、リリジェンをよろしくお願いいたします」

 ≪クリスの頼みなら断れないわね。アタシが面倒見てあげる≫

 ≪ありがとうございます!≫


「あっ、お弁当追加注文しないと」

 結局またごはん屋さんを呼んでの注文になりました。

 ホワイティちゃんも、希望はステーキ肉。草食はリエラちゃんだけなのですね。


 さあ、今度こそ出発です!

 馬車の内部は空間拡張してあるので、ホワイティちゃんも乗り込めました。

 まあ、これ以上は入らないでしょうが。


 私はホワイティちゃんにお願いして、モフモフさせて貰いました。

 ≪ホワイティちゃん、手触り最高です………≫

 ≪そうでしょう、そうでしょうもっと褒めていいのよ≫

 ≪夜、寄り添って寝ていいですか?≫

 ≪可愛いことを言うのね。構わないわよ≫

 やったあ。

 4月とはいえ、夜は冷えますが、ホワイティちゃんのおかげで暖かそうです。


 そして旅は順調に進み、「キノコ人の森」へ到着しました。

 馬車は森の外に置いていきます。

 コマンドワードがないと馬は動かず、扉も開かないので安心して置いていけます。

 私たちはそれぞれ幻獣の背に乗り、林道を進んで行きます。


 森に入った時点で、無数の視線を感じました。何だかザワザワもしています。

「フィーア、ここってこれがデフォルトなんですか?」

「いや………違うはずだ。キノコを採るためには林道から森の奥に行かないといけないんだが………なんかおかしいな」

「キノコ人を見つけて、話を聞くしかないのう」


 そのまま林道を進むと、何だか焦げ臭いです。

 見回してみると木々の幾つかに、松明で炙ったような焦げ跡があるのが分かった。

「う~ん、精霊が息をひそめてて、会話できないな。この先にある川にウンディーネがいるだろうから、そこで聞いてみるか。ただ川のウンディーネは常に流水だから、細かいことを覚えているかどうかわかんねーな」


 しばらく行くと大きな川があり、橋が―――丸太一本―――あるのが見えました。

 フィーアがウンディーネに呼びかけると、水で出来た人魚の様な姿が現れます。

「なあ、なんで今、森がざわついているのか知らないか?」

「えー?森の中の事はよく分からないよー。ドライアドに聞けば?」

「ドライアドは何処にいるか分かるか?」

「あっち」

 指さした先には、細い獣道あった。通ったのは人間ではなさそうです。


「仕方あるまい、ドライアドを探しに行こうではないか」

 私たちは獣道を進んでみる事にしました。

 しばらく行くと、一際大きな木があるのが目に止まりました。


「あれだな。ちょっと話しかけてみるか」

 フィーアがその木に近づいて、幹に手を付け何事か囁きます。

 すると、緑の長い髪に緑のワンピースの美女が幹から出てきます。


「やあ、ちょっと聞きたいんだがなんでこんなに森がザワザワしてるんだ?」

「私もここから離れられないから、詳しい事は知らないけど、仲間が怪我をしているわ。ここではドライアドより、キノコの精霊(キノコ人)方が多いから、長老を紹介してあげるから、行ってみたら?」


「分かった。で、長老は何処だ」

「林道を挟んだむこう側の、一番中心のあたり」

「指さしてくれ、どっち?」

 フィーアはドライアドの指さす方へコンパスを向けました。

「ここからずっと東みたいだな」


 ドライアドにお礼を言い、元来た道を引き返します。

 ちなみに、キノコ人の森だけあって、キノコはあちこちに生えている。

「採取して行かないんですか?」

「今取ったらまずい気がするから自重してるんだよ」

「この状態では、長老とやらの許可を取った方がよかろうよ」


 森の東へ、今度は獣道もないまま進んで行きます。

 歩いてるのは幻獣たちですが、みんなとても器用に進んで行きます。

 2~3時間は歩いたでしょうか、行く手に巨大なキノコが地面と木の幹に寄生しているのが見えて来た。誰かいるのが見えます。キノコ人でしょうか?


 近づいていくと、人影はそこにあるキノコを擬人化した姿だと分かった。

 かなり年配のご婦人ですね。

「おーい、そこのご婦人!キノコ人の長老で間違いないか?」

「そうだよ………ヒッヒッヒ」


 私たちは間近まで近寄る。

「なあ、ご婦人。この森はなんでこんなにザワザワしてるんだ?」

「爆走して木を折ったり、キノコを踏みつぶしたりするデュラハンと、森のあちこちに放火しようとするウィル・オ・ウィスプ(鬼火)が出たからさ」

「げ………いや、でもデュラハンもピンキリだ。どういう奴なんだ?」

「いかつい戦車チャリオットと2頭の軍馬のある、鉄の塊みたいな奴さ」

「あー。難敵だな。なあ、今キノコ採取とかしたら怒るか?」

「ここを迷いの森に切り替えて、ここで果てて貰おうかねぇ」

「やっぱりか………」


「ウィル・オ・ウィスプの方はどうなんだ?数は多いのか?何で出て来た?」

「質問が多いね、まあいいけど。ウィスプは10匹いる。デュラハンが呼んだのさ」

「そうか………そいつらは、どこにいるんだ?」

「昼間なら、森を抜けた先にある墓に居るようだけど、出てこないよ」

「ん?じゃあ、森を出たところの林道の終点で待ってたら出るか?」

「出るだろうねえ。退治してくれるのかい?」


「う~ん、何か報酬は無いのか?」

「ちょっと、フィーア………図々しいですよ」

「いや、報酬はあるよ。エリクサー10本分の素材をあげるよ………」

「エリクサー?確かに携帯しておきたい1品ではあるな」

「それと、あたしの使い魔を1匹あげるよ。栗鼠か猫どっちがいい?」


「この中で使い魔が持てるのはリリジェンだけだろ?どうする?」

「いいですね!猫がいいです」

「ヒッヒッヒ、猫だね。あいつらを倒してくれたら進呈するよ」

「はい。あ、あとキノコを採らせてくださいね」

「倒せたら構わないよ………」


「よし、じゃあ森の出口で待ち伏せしよう。デュラハンと直接戦うのは俺とベリル。クリスとリリジェンはホーリーライトで全体攻撃を頼む。全部アンデッドだしな」

「「「OK」」」

「珍しくフィーアが主導権を取ってますね。やればできるんじゃありませんか」

「今回はキノコがかかってるからな。他の依頼なら主導権を取るなんて嫌なこった」

「そういう人ですよね、フィーアって」


さて、夕方には林道の終点に着きました。ここからでもお墓があるのが分かります。

クリスは、ウィル・オ・ウィスプは火属性なので、とシルフを召喚しています。

属性の相克では、火は水に強く風に弱いですからね。

私はホーリーライトをMAXでかけるべく魔力石の準備をしておきます。


戦闘は、正面からの激突になりました。

墓から現れたデュラハンとウィスプは、真っ直ぐこちらを目指してきたからです。

「やっと来たか、人間!冒険者は私の敵だ!」

「はあ!?だったら人里に出ろよ!何森の中でいちびってるんだよ!」

「墓をこんな所にした生者が悪い!」

フィーアとデュラハンの言い合いの間に、クリスと私は魔法を準備します。

「『ホーリーライト』10倍がけ!」」

全力のホーリーライトの前に、ウィスプがみんな消滅します。

デュラハンもかなりのダメージを受けたようです。

フィーアとベリルは、弱った首なし馬を撃破しました。

ベリルはともかく、フィーアは短剣で馬の鎧を紙のように切っていました。凄い。


残るはデュラハンただ一体。

「嫌だ!滅びたくない!」

そう言って逃げようとするデュラハン。往生際が悪いですよ。

「「『神聖魔法:ホーリーカノン!』」」

神聖な気を束ねたビームがデュラハンに突き刺さり、ベリルとフィーアが鎧を粉々に破壊する。私は、もう蘇ってこないように祈りを捧げます。


主よ、われらみまかりし者の霊魂のために祈り奉る。

願わくは、そのすべての罪を赦し、終りなき命の港にいたらしめ給え。

主よ、永遠の安息をかれらに与え、絶えざる光をかれらの上に照らし給え。

祈願 すべての人の救霊を望み、罪人に赦しを与え給う主よ

主のあわれみを切に願い奉る。


クリスが途中で唱和し、二人で祈りを終えました。


その後は、夜の森に入るのは危険なので、その場でテントをはりました。

みんなで巨大化したプリシラちゃんを布団に眠りにつきます。


次の日、朝6時にはみんな起きてきていたので(ベリルは4時に起きたようですが)身の回りのことを片付けて、キノコ人の長老の所に行きます。

「ヒッヒッヒ………何とかなったようだねえ。近くのキノコから聞いたよ」

そういって、麻のずだ袋を放ってよこします。

「エリクサーの材料だよ………後は猫だね、おいで!」

「ニャア!」

「ひやっ!?」

急に肩に飛び乗られてびっくりする私。

肩を見てみると、小さな黒猫が乗っていました。

「帰ったら、正式な使い魔の儀式をしてやるんだねえ。今はとりあえず、あんたについて行くだけだからね。大事にしておやり」

「はい!帰るまでに名前を考えておかないと」


「それはいいから、キノコだキノコ!もう採取してもいいんだよな?」

「キノコ人のいないキノコなら好きにおし………ヒッヒッヒ」

「よし、みんなキノコ狩りだ!」


基本的に、フィーアとベリルが採取していました。

私とクリスでは、どれが食べられるキノコなのかさっぱりだったからです。

結果出来上がったのは、極彩色のキノコ鍋!

「本当に食べられるんですか、これ………」

そう言いながら食べたお鍋は、ビックリするぐらい美味しかったです。


今回は依頼での冒険ではないので、等級ポイントはつかないけれど。

たまにはこういうのもあって良いんじゃないかと思う私なのでした。

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