第11話 生贄と騒乱の迷宮3
~語り手・リリジェン~
真夜中に、迷宮に到着しました。
急いで入口を確認後、そこから見えない高台に上ります。
草が高く生い茂りこちらを隠してくれる位置に野営地を築きます。
ランタンが大活躍。私とクリスだけですが。エルフは生得の暗視があるんですね。
おかげで、素早く陣地構築し、フィーアが遠見の鏡を仕掛ける事が出来ました。
問題は―――鏡から送られてくる映像は暗視モードではない事でしょうか。
どうせ日中夜、受映の魔石に張り付いてないとですし、同じ事かもですけど。
担当時間を6時間毎で区切り、1人(もしくは1人と1匹)が必ず受映の魔石の前にいることとしました。発見次第フィーアが追跡するので帰ってくるのを待ちます。
その報告後、臨機応変に迷宮攻略を進める事となる。
そして3日後の深夜、1時。私の担当の時、時は来ました。
即座に待機位置についているフィーアを呼びます(今度通信機を買おう)
真っ黒で立派な馬車に乗った4人組が、迷宮の前で馬車を降りました。
これから迷宮を踏破する服装ではありえません。
ベリルもですがそれは置いといて!
黒いタキシードと暗い赤色のドレスの男女です。派手な仮面をつけていますね。
でも彼らは迷宮の奥に進んでいきました。そう、盗賊を連れて。
~語り手・フィーアフィード~
ああ、こりゃ完璧な素人。きちんと隠密はするけど、する必要を感じねー。
しかも談笑しながら進んでる。なになに?今日の獲物はおいしいか?
肉付きはどうか、血はワインのようだといい?いいご身分で。
でも、肉の話に終始するのがなんかきな臭い………カンだけどな。
そのうち連中は隠し扉に入っていった。
扉の前で「開くのだ地獄の門よぉ!」とかやってたが、素面か?素面なんだな?
まさかそれが隠し扉のコマンドワードなわけはなく、普通にカギが使われてた。
扉の中には隠し扉、転送陣だったらしく、連中の姿が掻き消える。
OK、俺らはここからは行けない。多分どっかで会うだろうけど、普通に攻略だ。
パーティメンバーを呼びに行くか。
鏡の前で手招くだけで、皆俺の意図を汲んで出て来てくれた。
また馬車が来ないとも限らないので、急いで説明、隠し扉より先に進む。
隠し扉の前でパフォーマンスしてみせたら受けた。
正直、俺はこの迷宮、先頭出なくていいような気がする。
出てくる敵出てくる敵、ユーレイなんだもんよ!
クリスにタッチだ
~語り手・クリスロード~
前衛が私に回ってきましたが、これではまあ当然というべきです。
向かってくる敵はほとんど幽体でしたから。
ほとんどの子は軽くターンアンデットですぐ昇天してくれるのですが、たまに頑固な子がいます。何か理由あっての事のようですね。
後で招霊して欲しいといわれたので、了承の替わりに大人しくしてもらいました。
なんでしょう?リリジェンから熱い視線を感じますが………。
ともあれ、肉体のある者も昇天させて、大した困難なく進んでいきます。
おや?だいぶ深く潜ったところで異変が。
横穴から、生身で鎧兜に身を包んだ方々がおでましです。
これより先には行かせない、ですか?
お願いしても道は開けてくれませんね………。
仕方ない「『ウォーノーム』よ大地の戦士よ、わが求めに答え、敵を殲滅したまえ―――殺さないようにしてくださいね」
ぎやぁぁぁ!!と誰かの悲鳴。さあ誰でしょうか?おやあなた?お怪我をなさっておいでですね。治してほしいのですか?
ではいう事があるでしょう?はい、はい、はい。そうですか………。
みなさん、この人たちの雇い主は、夜な夜なここで食人の宴を開いてらっしゃるそうです。彼らは警護に雇われただけで、詳細は知らないとか。
でもヤメイルという方に雇われているそうですよ。
とりあえず、『ヒーリング』『スリープ』………でいいですね?
「やってからいいねもくそもあるまいが、ま、見事じゃったぞ。そやつなら前衛として十分じゃしな」
「見事に連帯責任とらせてやれそうだな!」
「予想よりえげつないですね………でも人間っておいしいんですか?」
「リリジェン、この世には「気分」で自分の舌まで誤魔化せる人種がいるのですよ」
「???はあ」
「行きましょう、みなさん。リリジェンが穢れないといいんですが」
「そうだな、取り合えず奥に進もう」
「まったくじゃ」
「お、置いていかないでくださーい!」
~語り手・エンベリル~
う~ん、ろくでもないじゃろうとは思っておったが、予想の斜め上じゃのう。
多分踏み込んだら、あーんなことやそーんなことが展開されておるのじゃろうし。
ああ、その前に、ここのボスを解放してやらんといかんのう。
しばらくクリスの先導で歩いていると―――幽霊が道順を教えてくれるでまっことやりやすかった―――大広間が出てきた。
黒く塗られた大広間の左端に、青い大きな魔法陣。
転移の魔法陣じゃの―――と黄金の両扉があるが、その前が問題じゃ。
「助けてぇ………ああ、もうみんな死んでしまえばいいのにぃ………助けてぇ………ああ、もうみんなみんな………」
クリスがその前に行き何やら話しかけておる。なんと、一応通じておるぞ。
ふむふむ………?安らかに昇天させる代わりにお前を陥れた者の悪事を、召喚するので語って欲しい?ここに囚われておるのではないのか?
来たれ『召喚:幻獣・幽素の女王』
大きな藍色の壺のような幻獣じゃ。
ふむ?ここに入っていれば俗世とのかかわりが全部絶えるとな?
一時的に生気もこの中にとどまると。クリスはさっき手なずけたさっき手なずけた幽霊たちと一緒に魔道死霊をここへ匿うようじゃ。
「隷属の首輪は外しておきましょうね」
そう言ってクリスは錆びたゴツイ鎖の首輪を外して―――重かったらしくプリシラから落ちた。締まらんことをするでないわ!
~語り手・リリジェン~
ボスはクリスが簡単に説得しました。専用の魔法があるんだそうです。
後で教えて貰う約束をしましたが、その直後、「隷属の首輪」を持ったクリスさんがプリシラちゃんから崩れ落ちます。いったい何が!と思ったら。
「重くてバランスが………」クリス!重いもの持つの今後禁止です!
さて、黄金のドアの方ですよね。
エンベリルとクリスに隠れ、私には少ししか見えませんでしたが、あれは。ここの人たちは、人肉を食べている………のでしょうか
他のパーティメンバーは、平静でした。ですが怒気を孕んだ口調でフィーアが
「手めぇら最低の中の最低だな!いけ!リリジェン!」
そのときはっと思い浮かんだのは魔法の師匠キントリヒさん。彼女は悪魔でしたが、私に親切にしてくれました。
「魔法は使い時がある。どんなに動揺していても、その「期」を逃しちゃ2流だぜ」
「風属性魔法………ライトニング・バインド!」
雷の縄が、その場にいた仲間以外の全員とひとり以外にかかりました。
動こうとすると、雷が体に駆け巡る術です。指一本動かせません。
彼らは裁かれる身、身動きなんて必要ないでしょう。
全力で、部屋の中心の祭壇に駆け寄ります。
そこには舌を抜かれ(近くの皿の上に乗っています)、生きながら体をそぎ取って食われていた少女がいます。生きています!
はやくはやく楽にしてあげないと。ああ、でも―――。
『無属性魔法:映像・記録』『治癒魔法:再生!』
師匠の言葉が脳裏に蘇ったおかげで、私はライトニング・バインド全力をでなく普通に行使しました。そして惨状を記録し、彼女を治す魔力も残しておけたのです。
部屋の中では、ライトニング・バインドに縛られるのを免れたか、そもそも効かないかの面子との戦闘が始まっています。
わたしは軍務大臣との通話ができる宝珠を手に取り、通話を始めました。
「卿、事は大事です」
最終的にその場は、騎士団と現れたフィレンラント軍務大臣によって制圧された。
公爵とやらも、官憲レベルならともかく、騎士団だと影響力もないらしい。
全員王都ククレクレへ騎士団の魔導士によって移動、クリスの『幽素の女王』の中にいた人々は皆犠牲者だったらしく、『幽素の女王』の中から証言してくれました。
ちなみにクリスが幽霊たちと意思疎通できたのは『治癒魔法:抑制・狂気』というものを使っていたからでした。初めて聞く魔法です。教えて貰いました。
最終的に、それぞれの遺体の場所を聞き、故郷に埋葬、成仏させてあげる事に。
奴隷だった人だけは故郷がもうなくなっているので、冒険者ギルドの公共墓地に。
アンダン侯爵は謹慎、息子のヤメイルは主犯とバレたので修道院に送られ、一生を神に仕えて過ごすということです。手ぬるい様に思いますが………。
「貴族が犯人だった場合、もっとへっぽこな判決だったりもするぜ。今回はましな方。修道院送りは一応貴族の最高刑だからなー」
とはフィーアの言。修道院が最高刑って温すぎませんかね。
「安心しろ、そんなん貴族だけ。貴族だけ。きっと奴隷をあそこに設置してきた連中は、「すべての元凶」扱いされて死刑さ」
「まあ、それはいいんですけど………その他が」
「無理じゃな。そなたの来た所はよっぽど厳格とみえる」
「ベリルまで。………来た所は、そもそもそういうことがありませんでしたから」
「異世界の不平等と嘆いてください。ここはそういうところです。一つの悪をなんとか正した………冒険者にはそれで良いではありませんか」
「クリスさん………そう、ですね。努力します」
「お?えらく素直になったな」
「茶化さないでくださいフィーア!」
「なべて世は事もなし………よな」
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