第12話 困ったお馬さん
~語り手・リリジェン~
エメラルドのように硬質の、緑の輝きを有する半透明の草。
高位司祭が儀式の触媒に使ったり、聖堂に植えられたりするものです。
私はこの草の香りが好きで、部屋に一鉢置いています。
輝くエメラルドのようで、インテリアにもいいのですよ。
「ふふ~ん♪」
今日も私は6時に起き、宿の手伝いをした後、新たに加わった水やりをします。
ああ、綺麗だし良い匂い!シャラシャラという音も素敵。
気分よく朝食(まかない)をいただき、冒険者ギルドへ向かいます。
聖草を見ると何故かクリスさんを思い出します。雰囲気が似ているのでしょうか?
ああ、そういえば、ゴルド商会にお買い物の予定があるのですが。
今日行って大丈夫でしょうか?依頼がなければ行きましょう。
そう思って皆の所に行く前に、依頼掲示板を見てみると、変わった依頼が。
それを剥がして皆の集まる酒場に行くことにします。
「ゴルド商会からの依頼だぁ?」
ゴンっと、靴をテーブルに投げ出しているフィーアの第一声です。
「ふむふむ、商品の仕入れルート上でトラブル発生、解決に一助願う。詳細はゴルド商会パラケル支部まで………とな」
ベリルが呑気に読み上げ、言う
「やりたいのであれば妾はついてってやるぞぉ。面白そうじゃ」
クリスは紙―――依頼書をとりあげ
「詳細が全く不明です。別に構いませんが、不祥事でも起こしましたかね?」
「俺はあんまりだけど………ヒマしてるよりはマシかあ」
フィーアは大あくびしながら言います。たるみきってますね。
「私はただ単にゴルド商会さんには日ごろお世話になっているからと」
「買い物で贔屓にしてるだけじゃないか」
「フィーア!いいのか悪いのかはっきりしてください!」
「へいへい構いませんよ、別に」
「じゃあ今から移動しましょう」
「移動じゃ移動。ぐーたらエルフめ」
「何だよ、ったく。マジでサボりたいわけじゃないってーの!」
フィーアはくるっとトンボをきって立ち上がります。
なんだ、たるんでたんじゃないんですね。
素直じゃないんですから。
ゴルド商会に到着しました。相変わらず大きな建物です。
下手な貴族の家より大きい事は間違いありません。
サーピスセンターの店員さんに声をかけます。
「ああ、リリジェン様!今日は何をご入用で………?」
「いえそうではなく、この依頼書を見て来たのです」
「!おお、そうでしたか!パラケル支部、支配人の所にご案内いたします」
階段かと思いきや。
何とここには魔道エレベーターがあるのです。本当、お金がかかっていますね
豪華な支配人室の扉の前に着きました。やっぱり下手な貴族より豪華です。
「支配人、依頼書を見て、冒険者の方々がおいでになりました」
わたしたちは、やはり豪華な支配人室の中に案内されました。
「皆さま、どうぞお座りください」
物凄くふかふかしたソファーに私たちは座る………というより沈みます。
支配人さんは、一礼して対面のソファに座ります。
店員さんは退出し、代わりに秘書さんが背後に控えます。
「わたくし、支配人のタイガーアイと申します」
たしかに、獣人の血が混じっているのか、支配人の目は猫の目のようでした。
髪も金髪に黒のメッシュで、トラっぽいです。
「この依頼ですが、実は大変困っておりまして………聖草をご存じでしょうか?」
「あ、はい。こちらで購入させていただいた品が部屋に飾ってありますよ」
他の皆も、知らない人はいないみたいです。
実は………と支配人は依頼の詳細を語り始めました。
聖草の運搬中にトラブルがあった。モンスターに商品を奪取されたのです。
ですが聖草は小分けにしてある上、透明樹脂カプセルの中に土と一緒に入れてあるため、取り出せません。よくこの草の存在をモンスターが知れたものです。
頑丈な草でもあり、この期間ぐらいならすぐに取り返せれば問題ないのだが………。
それができない。なぜならモンスターとは、ペガサスだからである。
ペガサスは聖なる幻獣であり、傷つけてはいけないと国で定められています。
「代わりの、商品には向かない聖草を用意しましたので、彼らが囲んでいる物と交換してきて欲しいのです。現状、馬車から動いてくれない状態でして」
「それでしたら、お力になれると思います」
皆が頷く。正直、クリスだけで行ってもいい依頼だが、皆ヒマなのは嫌なのです。
「では聖草を乗せた荷車を用意しましたので、馬車でけん引して行って下さいませ」
成功報酬は金貨120枚だという。さすがゴルド商会、気前がいい。
「あ、私買い物してから行きたいです」
「もう大概のもんは揃ってるだろ?」
「違いますよ、幻獣翻訳機!前にも欲しいって話してたでしょ?」
「あ………それか。今回の仕事にも役に立ちそうだし、買うか」
いつも通り店員さんに聞いてみると
「双方向翻訳機ですね?耳にはめるだけのこちらがお勧めです」
耳に引っ掛ける所のついた、色とりどりの宝石だ。宝石部分を耳にはめるらしい。
ピンクを試着してみた。「プリシラちゃん、通じてますかー?」
≪聞こえておるぞ、娘。そのくらいの会話なら常でも理解しておるがな≫
「あぁー!プリシラちゃんの言ってることが分かる!プリシラちゃんの方は、私達の会話、普段から理解してるんですね」
≪我はクリスロードについて人間に混じる事が多い故、必然ある程度な≫
「ばっちりです。これ、このままつけていきますね」
どれどれと、他の面子も翻訳機をつけ、プリシラと会話してみています。
プリシラは付き合い良く、答えてくれています。どうも子供と話す感じですが。
「あと魔力石が欲しいです。中級魔法20発分位のエネルギー量の奴を10個ぐらい」
魔力石は呪文を使う際、自分の魔力を使わず、魔力石に内包された魔力を代わりに使える魔法使いには大変便利なアイテムです。
「そのクラスのものになると、1つ金貨20枚はしますが構いませんか?」
「構いませんよ」
「あ………それ、私も同じだけ買っておきます。手持ちもありますが、最近は魔力消費量の高い魔法も使えるようになってきて、心許ないので」
とクリス。私と同じく術師の彼は、前回の任務で必要性を認識していたようです。
無駄遣いをしなさそうな性格。きっと貯金があるのでしょう。
「は、はい!ただちに!」
ゴルド商会にはちゃんとそれだけの商品が揃っているのですね。
このクラスのものになると、普通の店では、在庫自体がない可能性も高いです。
「あと、遠隔通信機を一組下さい」
前回の任務で必要を感じた物。仲間を呼ぶ際に大声を出せない時もあります。
通信機は、淡いピンクのカード型で背面に黄色の小さな羽がついています。
ここの店員さんは、私の趣味を分かってきているようです。
「魔力石のお色はどうなさいますか?」
え、そんなのあるの?黒い武骨な奴だと思ってました。
サンプルを見せて貰ったが、綺麗な丸型に加工されており、ダイヤモンドカットが施されています。ゴルド商会クォリティということですか。素直に凄いと思います。
10色あったので、10色買います。充電中(充魔中?)のを分かり易くするためです。
クリスも同じ判断でした。
買い物を済ませて、ゴルド商会が準備した質のいい馬車で出発!
御者はクリスです。手綱は握っているだけ。本当は馬たちと通じ合っています。
他に御者が務まるのはベリルだけなので、よろしくお願いします。
「ふむ、この幻獣翻訳機は果たして馬に通じるのか………簡易的には通じるようじゃの。知能指数が幻獣とは異なっておるゆえ簡単な事のみ伝達可能じゃ。クリスのは、本能のレベルで通じ合っておるのじゃろう」
現場に着くまでには2日ほどかかります。歌でも歌いましょう。
私が院長先生に及第点を貰えたのは聖歌だけですので、それを歌います。
フィーアがポカンとして私を見て、そんな才能あったんだ、とか言っています。
ベリルとクリスは拍手をくれました。特にクリスは気に入ってくれたみたいです。
現場に到着しました。けど、ペガサスたちが何かに襲われています!
爬虫類のような黒くでこぼこした皮膚、ヒト型の、背の曲がった巨人です。
「あれは………「ホーリーイーター」です!聖属性の生物を襲って食べる、炎属性の魔獣なんです!ペガサスが危ない!」
「おお、それでこそ出番というものよっ!!」
ベリルが突っ込んでいきます。
ペガサスに刺さるはずだった長い爪は、ベリルの剣に弾かれます。
そのまま1撃、2撃とベリルは相手を追い詰めます。
相手に炎のブレスを吐く予兆があったものの、ベリルは
「ほう?ブレスか。お前も食らってみるか?」
と、氷のブレスを吐きました。何故ブレスなんか吐けるのでしょう。
そういえば、氷精の加護を受けているとか言っていましたっけ。
出鼻をくじかれてうろたえるホーリーイーター。
そこに『風属性魔法:サンダーバス―カ!』奴は炎属性。弱点は風属性魔法です。
太い雷が砲撃となってホーリーイーターを貫きます。
クリスはペガサスたちを避難させています。
ペガサスたちとの間に結界を張ります『風属性魔法:ウィンドシールド!』
その間にもベリルは踊るように、でも苛烈な攻めで相手を追い詰めています。
もう一息!『風属性魔法:エアスラッシュ!』たたらを踏ませることに成功!
「斬殺女王エンベリル、ホーリーイーター打ち取ったり!!」
ぽおん、とホーリーイーターの首が飛ぶ。
ころころと転がったそれを、私は足で止めた。
ペガサスたちが、こちらをこわごわ見ている。
あとは早かった。全員でペガサスたちを説得したのだ。
ペガサスたちにも、綺麗でいい匂いはしても、食べられない聖草カプセルより、私達が運んで来た商品価値の低い聖草の方がいいと思って貰えた。
私達では、会話はできても幻獣の感性はわからない。クリスが適任だった。
新しい荷車をペガサスたちに差し出すと、実に美味しそうに彼らは聖草を食べた。
残された荷車をけん引する際中を見たが、透明樹脂のカプセルで覆われた聖草は、特に傷ついた様子もなく、美しく輝いていた。
後はこれをゴルド商会に持ち帰れば依頼終了、だ。
間一髪だったが、今回はさっぱりした終わりで、気持ちがいいというものだった。
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