第13話 アスピドケローネの背に乗って(前)

 ~語り手・エンベリル~


 4時、きっかりに目覚めてよい気分になる。

 何時に寝たのか、じゃと?確か1時じゃな。それで睡眠が足りるのか?足りるっ!

 妾に流れる氷精の血は、この身をやや人外に近づけるでな。足りるのじゃ。

 さて、身の回りのことをチャチャっと済ませて鍛錬所に行こうぞ。


 身の程知らずな挑戦者をサクッと倒して武具の手入れ。

 そういえば、この間の気分の良く無い依頼の報酬。

 ふっかけたので、少し待てと言われておったな。

 妾のはオリハルコンのフラムベルジュじゃったか。


 まさかOKされると思わんかったが、それだけあの件が「まずい」事の証明よ。

 表ざたになったら、いくつのお家が潰れるか。

 他の面々も、それぞれ希望の品を言うておったはずじゃ。

 後日、用意出来たら冒険者ギルド経由で話が来るはずじゃな。


 さて6時じゃな。最近の妾は、受付でテフィーアと話してから酒場に行っておる。

 テフィーアが「またゴルド商会から依頼がありますよ」と言うておる。

 確認してみた。「アスピドケローネの背から、転移の花の回収」じゃと?

 アスピドケローネがこの近海に現れたというのか?大層な任務じゃのう。


 その依頼書を掲示板から剥がして、酒場の方に行く。

 じきにフィーアが来るじゃろう。


 ~語り手・フィーアフィード~


 いつも通りになりつつある光景。僕は酒場にエンベリルの姿を見つける。

 何やら依頼書を手に、上機嫌で葡萄酒を飲んでいるが、何を見つけてきたのやら。

「おはよ。それ何さ?」

「おおフィーア、アスピドケローネがこの近海に来ているようでな」


「アスピドケローネ?何それ?」

「知らんのか、戯けめ。巨大な島の様な―――実際に背中が島になっている亀じゃ」

「へえ?その転移の花ってのが咲いてるわけ?」

「聞いた限りはそういう話じゃな。転移の花は、送り迎えをしてくれる花でな。魔法陣などなくても、花の中に名前を書いた紙を入れておくと目的の人物を転移させて来る。帰りは呼び出した場所に戻す。それが終わったら消滅する。そういう花じゃ」


「ふうーん、確かに便利だな。小さい花か?」

「いや、1つの花が一抱えはある。ラフレシアとは違ってごく薄い花弁の鈴蘭のような、優雅な姿じゃが。迎えの時は色はピンク、帰りは水色らしいの」

「採取の時、傷つけたら値が下がるんだろうな」


 確かに使える魔道具って感じの花だ。貴族のパーティとかに使われそうだよな。

 ゴルド商会は保管方法を持ってるんだろうけど、冒険者には向かないね。

 でも、デカいだけなら冒険者なんて呼ばねえだろうし?モンスターでも出たか?

 迷宮じゃないから、あんまり僕は嬉しくない。


 ~語り手・クリスロード~


 馴染みになりつつある酒場の1角。すでにいつもの二人は席についています。

 私もプリシラに揺られながら参加して、これも最近お馴染みの葡萄酒を注文。

 なになに………すでに受けるのが決まっていそうな依頼のお話ですね。

「………と、こういう事じゃ、クリス!リリジェンが来たらゴルド商会に行くぞ!」


 うん、ベリルは既に行くことを決定しているようです。

 まあ、リリジェンは異論を唱えなさそうですし、決定ですかね。

 あ、ベリルがプリシラにステーキ肉(レア)をあげています。

 幻獣翻訳機(赤)をしていますし、プリシラに希望を聞いたんですね。いつの間に。


 幻獣翻訳機が全員に行きわたってから、皆がプリシラに構ってくれますが、おねだり癖がつきそうです。毛並みもリリジェンが専用のブラシで梳いてくれてますし。

 ≪我はいい気分じゃぞ≫プリシラ、あなたはそうでしょうね、と苦笑。

 いっそ、今後は他の子も呼びましょうか、今日は………グリフォンのスーザンを。


 召喚陣が宙に輝き、そこからグリフォンのスーザンが姿を現す。彼女の第一声は

 ≪クリス、ワタシにも「すてぇき肉」を頂戴!レアでね≫

 でした。こっちをすでに覗き見ていた様です。仕方ないですねと注文。

 冒険者ギルドは一旦はざわついたものの、既に平常運転に戻りました。

 スーザンは巨体をフィーアの下に押し込んでいます。属性相性がいいようですね。


 ~語り手・リリジェン~


 朝の祈りと、仕事始めの祈りを捧げます。

 いつものお手伝いを終え、まかないを食べ終わり、冒険者ギルドへ。

 依頼掲示板に行こうとしたら、テフィーアが

「エンベリルが依頼書をはがして持ってったわよ」

 と、いうので酒場の方に行ってみたら、あら、まあ。かわいい子が増えています。


「おはよう、皆。クリス、この子はだあれ?」

「グリフォンのスーザンです。スーザン、彼女はリリジェン。パーティリーダーだ」

 ≪あら?あなたは結構年輪を積んでいそうね。おいくつなの?≫

「そろそろ1兆歳になります。おばあちゃんですよ。スーザンちゃんは?」


 ≪本当なの⁉≫

 皆が目を丸くしてこっちを向きます。そういえば言っていませんでしたっけ?

「本当ですよ。だから色々できるのです」

「桁が一つ二つ違うのではないかえ、とんだおばあちゃんじゃな」

 ベリルは信じてくれたみたい。


「まあ、リリジェンは嘘つかないもんな………とんでもなく年上だと思えばいいか」

「………そうですね、リリジェンは嘘はつきませんね」

 フィーアとクリスも信じてくれたみたい。先に言っておけば良かったですね。

 ≪本当なのね………ならば敬意を。ワタシはまだ56歳なのよ≫


 ≪ちなみに我は1000歳だ≫

「丁度1000歳ですか?なら何かお祝いをしましょう。考えておきます」

 ≪ほう、楽しみにしておこう≫

「はいっ、考えますっ」


「そろそろいいかの、今回の依頼なのじゃが、これを見ておくれ」

 私はベリルから依頼書を受け取り、説明を受けました。

「なるほど、じゃあ移動ですね」

 わたしたちは、ゴルド商会に移動しました。

 スーザンちゃんの同行でちょっと目立ちましたが、つつがなく移動は終わります。


サービスカウンターで依頼書を提示した後は、前回と同様でした。

前回と同じように、支配人のタイガーアイさんと相対します。

「また引き受けて下さって感謝します。今回は少々危険が予測されますので………」

タイガーアイさんは、スーザンをちらりと見たものの、動揺はなく


「当方の回収班が、猛毒と邪視により過半数が死亡。元凶は魔獣。正体は不明です」

「毒を吐く魔獣なんていっぱいいて、特定できないな」

「バッファローに似ており、うろこ状の背中を持ち、頭部は巨大な角で重くずっとうつむいており、血走った目が印象的だったとか」


「………それは多分、カトブレパスですね」

クリスに思い当たるものがあったようです。聞いてしまえば私も思い出せます。

「カトブレパスなら私も納得です。生半可な魔法は効かない上、前衛は邪視の回避が困難。毒の息で全体攻撃をしてきます」


「そんなものが何故、アスピドケローネの背に………」

「それは考えても仕方がないだろ。出たんなら、叩くだけだ」

フィーアはにべもないですね。まあ、言っていることは正しいんですけど。

「その通りじゃな、気合を入れて行こうではないか」


「それでは転移の花は扱いが難しいため、こちらで回収いたしますので、この通信機をお持ちください。排除が完了しましたらご連絡ください」

二つの小さな宝珠が渡される。魔力を通すと起動されるらしい。

「わかりました。アスピドケローネはどのあたりにいますか?」


地図が出てきた。港町から遠く離れた位置に駒が置かれ

「ここを大陸に沿って移動中です」

「大陸沿いなのは助かるな、何せこっちは飛行手段がないからりくからふねでいくしか………っと、何だよスーザン………あ」


「スーザンはグリフォン。飛べますね、けど………2人が限度なんじゃあ?」

≪安心せよ、スーザンが2人、我が2人運んで行ってやろう。我は巨大化できるし飛べるから、スーザンの助けは要らぬぐらいなのだぞ?≫

「プリシラちゃんにスーザンちゃん………ありがとう!」


「やれやれ、これはリエラを呼んでおかないと、後で怒られる流れですね」

クリスがそう言って宙に手を伸ばすと、呼応するように空間が波打ち、ちゃぷん、という音と共に空中から体がすべて、青碧色水で出来た美しい馬が出てきました。

≪わたくしを忘れないでくれてありがとうですの!わたくしは水の上を渡る事も、宙を駆けることもできますのよ!そうですわね………その方がいいわ!≫


そういってリエラちゃんはベリルにすり寄った。

「おう、ひんやりしておって気持ちがいいのうお主………リエラと申したか?しかも触り心地が滑らかすべすべじゃ。気に入った!」

≪わたくしも気にいったのよ!氷精の気配が涼しいの!≫


「飛行と歩行で確保できました………支配人さん?」

「あっ、少々驚いておりました。確保できたのですか?」

「ええ、全員、幻獣翻訳機つけてますから、今話し合いで」

「なるほど。では後は現地の職員と合流、詳しい位置をお知らせするという事で」


「冬の海なのが残念ですね、泳げません」

「もうそろそろ1月じゃからなぁ。妾はそれでも十分泳げるが」

「アホか。他の面子は裸にもなりたくないぞ。お前の恰好は異常なんだよ」

「妾にしかできぬ艶姿であろうが、馬鹿者め」


「はいはい、二人共そこまでー」

いつもの喧嘩に割って入る私。

ここが旅の途中なら好きなだけやっててもらっていいんですけど。

「それで、報酬はおいくらです?」


「1人頭金貨30枚と、オーダーメイドできる「収納の財布(5000枚まで)」を皆様に」

「ほうっ、オーダーメイドとな!」

「はい、金貨をお受け取りの際に、ご注文下さい」

「道中で考えるとしようか、楽しみが出来たのぅ」


「それで思い出しました。タイガーアイさん。この犬の腕時計なのですが」

「はい、何でしょう」

「文字盤の色を、白にできませんか?可愛らしいのでプリシラに似せたいのです」

「もちろん可能ですとも。それでは、お預かりします」


クリスは時計を素直に預ける

「代用の腕時計は、秘書からサーピスセンターで受け取ってください」

代用まで貸してくれるんですね。


相談の結果、私たちは馬車を借りる事にしました。

今回の行先が遠いからです。

でも引くのは馬でなく、プリシラちゃんたち3頭。

≪クリスを乗せるもお主らを乗せた箱を運ぶも変わらんよ≫


≪ワタシも牽きたい≫

≪わたくしも!≫

遊び感覚で申し出てくれました。


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