第14話 アスピドケローネの背に乗って(後)

~語り手・リリジェン~


旅の道具は、容量の大きい(重量制限なし100種類99個まで)魔法のバックパックを持つ私が管理しているのですが、今回足りなさそうなものが。

人数が増えたのと、外気温が真冬なので、テントと薪が。

夜はキャンプを張るので、薪を大量に買おうとしたら店員さんに止められました。


炎上石という、赤いこぶし大~赤ん坊の頭大の石で、大きさに応じて魔力を与えると燃え盛るというものをおススメされました。

幻獣たちも入れると、最大の赤ん坊の頭大がいいだろうとのこと。

ケルピーのリエラちゃんは大丈夫?と聞くと、平気だそう。


「それなら、その石を貰います」

「金貨50枚になります」「はい、どうぞ」

やり取りが終わってからテントも新調しました。

防寒の5~6人用のテントで、色々考えて、カモフラージュ柄です。


この間のカモフラのテントは下取りしてもらいました。

幻獣たちも入れると手狭なので。それで金貨20枚でした。

馬車はゴルド商会が用立ててくれました。乗り心地のいい高級馬車です。

プリシラちゃん達の好みで、綺麗な青緑色の幌馬車になりました。


~語り手・エンベリル~


冒険の道具をゴルド商会で用立てるのが、もはや定番になりつつあるのぅ。

まあ妾も女。買い物は好きなので構わんが。必要なもののみ買っておるようじゃし。


幻獣の牽く馬車はさぞ珍しかろう。しかも青緑じゃ。

誰が乗っておるか、見る者はさぞ想像を逞しくする事じゃろうて。

引く者は主に巨大化したプリシラで、後の2人はにぎやかしらしい。

要は馬車の中に、皆交代で入って来るという事じゃ。大きな馬車で正解じゃな。


「しかし、クリスは何故そんなに幻獣にモテるのじゃ?」

「私にも不明でして………ごく自然に仲良くなります。昔からそれが自然でした」

「僕らエルフが風と水の精霊にモテるのと同じようなもんなんじゃない?」

「アスピドケローネともコンタクトはとれるのかの?」

「曖昧なものなら多分………かなり人間の感覚とは異なっているでしょうから」


そんな会話をしながら他に必要なものは………食事じゃな。

アスピドケローネの元に着くまで頑張っても6日。帰りも6日。食料は必要じゃ。

「どうする、「冒険者の弁当屋」に注文するか?ここで保存食を買ってもよいぞ」

「ここで保存食を買いましょう。お弁当屋さんにはさすがに無理でしょうから」


「リリジェンが言うのなら妾はそれでよい」

「そうだな、さすがに弁当屋に12日間1日3食4人分とか注文出したら怒られそうだ」

「ゴルド商会の保存食は種類豊富ですから、飽きないように色々買っておきますよ」

「良きに計らえ」


~語り手・フィーアフィード~


「ったく。必要なものとはいえ、女の買い物は長いよなクリス」

「私は見ていて楽しいですけどね。自分で何か買おうとはあまり思わないのですが」

慎重な足取り―――膝の関節が悪いんだそうだ―――で馬車に乗り込んで来ながらクリスが言う。危なっかしいので、手を出して引っ張り上げてやった。


「ありがとうございます。歩く事はできるんですが、いつもプリシラに頼りきりで」

「おぅ、ちょっとは歩けよ、いつも一体化してるもんなぁ。でもプリシラに乗ってなくて平気か?馬車は誰でもケツ痛くなるけど」

「大丈夫ですよ、他の子もいますし………おやスーザン?ああ………」


≪クリスはワタシに乗ってていいのよ≫

「良かったな、尻を痛めずに済むぞ」

「過保護なんですけどねぇ。彼女たちは姉のようなものですから逆らえません」

「お、そろそろ出発か」


御者席にベリルが座る。本当は御者なんか要らないんだろうけど。

その日毎に、幻獣達の気まぐれによって、牽く奴を変えるらしい。

ベリルは属性が水、クリスも水なので、幻獣達と相性がいいそうだ。

ちなみに俺は風、リリジェンが地だな。


リリジェンが入って来て、馬車が走り始めた。こうなると後は早い。

この馬車は、窓に全てガラスが嵌まっているという防寒仕様なので、風は入らない。

夏は蒸し焼きだな………じゃなくて、今は外の冷気で馬車自体が冷たい。

「フィーアもクリスも、温熱毛布使います?私はたたんで座席に敷きますけど」


それがあったか!もちろんもらう。

これで馬車で風邪はひかずに済みそうだ。

夜は、炎上石がちょっとビックリするほど盛大に燃え盛っていた。

魔力の調節で燃え具合は落ち着いた。

石を発熱させて暖を取るだけでもできそうだから、隠密行動の時も重宝しそうだ。


~語り手・クリスロード~


プリシラが巨大化したままでいるので、全員天幕の中でプリシラを枕に眠ります。

それに温熱毛布をかけて寝れば、真冬と言えども暖かいものです。

旅の間、ずっとプリシラは全員の体を暖めてくれました。感謝ですね。


旅の間、ベリル以外(ベリルは4時)の全員が6時に起きました。それぞれ支度します。

リリジェンが私の髪を梳かしてくれました。誰かにやってもらうのは久しぶりです。

気持ちいいものですね。彼女の人柄か、とても優しく丁寧です。そう言うと

「病院で患者さんのお世話をしていましたから、それでじゃないでしょうか」

と返って来ました。優しいと感じたのはそれででしょうか。


彼女は、幻獣たち(リエラには毛が無いので気分でしょうが)の毛も梳いてくれます。

彼女なら人を傷つけるような依頼は受けないと思えます。

信頼できるチームリーダーに久しぶりに出会いました。

そんな彼女に過日の悪魔崇拝者たちの所業はどう映ったのでしょうか?

聞いてみました。


「悪魔そのものには忌避感はないんです。私の魔法の師匠は悪魔でしたし。あ、神聖魔法は天使様から習いましたよ!私が嫌だと感じるのは、悪魔の存在にかこつけて、自分の欲望を満たそうとする姿勢です。それは悪魔ではなく、自分の欲望なんですよ!召喚された悪魔だって、召喚者の欲望を叶えているだけです!ただ、人間を堕とそうとする悪魔は、確かに嫌いです。会ったらどうなるかは分かりませんね」


「あの事件は人間の欲望の結晶で、悪魔は無関係でした。だから余計、人間の醜さを感じて嫌だと思ったんだと思います。悪魔は純粋な悪で、そういう存在です。でも人間は違うはずでしょう?どっちにもなれるのが人間なんですよ」


「成る程………」

返す言葉がなく、私は黙ってしまいました。

確かにあれは、悪魔崇拝というより、自分達の欲望を満たそうとした結果でしょう。

犠牲者には、どちらでも一緒だったのかもしれませんが………。


~語り手・リリジェン~


どうしたんでしょう、クリスさんからこの間の事について聞かれたので正直な気持ちを言ったんですが。何かおかしかったでしょうか?黙ってしまいました。

私は悪魔も職場の同僚でしたから、悪魔に友好的に見られたのでしょうか?

私としては、悪いことしたやつが悪い!っていうつもりなのですが。


だいぶアスピドケローネに近づいて来ましたね。

もうこの丘からでも良く見えます。街道上に見物人も散見できます。

そろそろ、馬車を降りて幻獣たちに乗り換えないといけません。


馬車を降り、私とクリスさんはプリシラちゃんに。

スーザンちゃんにはフィーア、リエラちゃんにはベリルが乗ります。

舞い上がった時の気分は爽快。そのままアスピドケローネに向かって空を駆けます。

もうすぐ真上です。私は「無属性魔法:センス・エネミー」を発動。


「アスピドケローネによると、冥界の穴の近くを泳いだ時、乗り移ってきたものがいるそうです。そっちで好きなように対応してくれて構わない、だそうですよ」

クリスがアスピドケローネの言葉を伝えてくれます。

「それなら、『センス・エネミー』の反応が森の中央部に!」


私は『無属性魔法:シンボル』を使って矢印を出します「そっちに飛んで下さい!」

幻獣たちはすぐにそちらに向かって駆けていきます。

舞い降りたのは、深い森の中。少し開けた場所に下りました。

その場の奥まった場所にカトブレパスはいました。

いきなり毒の吐息を吐きかけてきました。血走った眼をこちらに向けてきますが、正視してはいけません!


「『風属性魔法:ウィンドシールド!』」

毒の吐息を吹き散らします。

目を見れないとあって、ベリルが近寄りあぐねています。

目を合わせてこようとしてくるからです。


魔法攻撃も行いましたが、効きが悪い。闇属性は4属性に強いからです。

かといって光属性には『ライトアロー』ぐらいしか攻撃魔法がなく、結果地味な削り合いになります。時々『ウィンドシールド』をかけなおしながらです

魔力石がひとつ、空になりました。


「『中位炎属性魔法:ファイアーボール!』」

嫌な特徴も判ってきました。傷が再生するのです。今の傷もあっという間でしょう。

クリスが属性に関係ない神聖魔法で攻撃していますが、それで再生にとんとんです。

決定打がない………!ディスインテグレイト(即死、原子分解)を使うか………?

でも成功率が低い。もっと削らないと………。


え?フィーアがいく?魔法をかけろ?

私は唱えました。『無属性魔法:ウィークポイント』


~語り手・フィーアフィード~


魔法使いたちの一進一退の攻防と、近づけないベリルを見て、俺は行動に出た。

『無属性魔法:ウィークポイント』の結果を聞いた。

グリフォンのスーザンに協力してもらう。

「あいつの真上まで音を消して滑空できるか?」


≪ワタシに乗って行きたいのね?大丈夫よ、出来るわ≫

「よし、頼む」

手には大ぶりな黒塗りのダガー。姿は上から下まで、目以外を黒衣に包んだ。

滑空してカトブレパスに接近するスーザンの上で立ち上がる。


そしてギリギリの場所で跳躍!

カトブレパスの背に跨るように落ちた僕は、ウィークポイント―――首の付け根に根元までダガーを埋めた。

「………」断末魔の声もなく。カトブレパスはこと切れた。


死体と目が合った気がしたが、その目からはもう魔力が失せている。


歓声をあげるリリジェン、拍手してくれるクリス。ベリルが

「ほぅ!やるではないか小僧。よくぞこんな曲芸ができたものよ!」

と褒めて来た。

「忘れるなよ。僕は暗殺者だぜ。暗殺者は獲物を1撃で仕留めてこそだろ」


「スーザンもありがとな」

≪アナタってできる男なのね!気にいったわ、私に滑空を頼んだのもね!≫

「ああ、それとリリジェンも。『ウィークポイント』がなければ成り立ってない」

「ううん、教えたからって実行できるのはフィーアだけよ」


少々照れ臭くなってきたので話を変える。

「リリジェン、通信機でゴルド商会に連絡してやれよ。片付いたって」


~語り手・リリジェン~


おっとと、忘れるところでした。通信機を起動させます。

「こちらチーム13、聞こえていますか?」

「こちらゴルド商会、転移の花回収隊。聞こえています」

「カトブレパスは倒しました!もう安全だと思いますよ」

通信機越しに歓声が聞こえた。仲間が殺されてるんですもんね。当然です。


「パラケル支部に伝えておきます。報酬を受け取ってください」

そこで通信は終了した。


よーし、オーダーメイドの魔法の財布、どうしようかな?

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