第15話 三大欲求・色 1

 ~語り手・エンベリル~


 う~ん、冬景色であるなぁ。


 アスピドケローネの件が片付いた後帰ってきたら、町は真っ白じゃった。

 妾としては絶好調な環境よ。カトブレパスはどうにもならんかったが。

 いつもの日課をこなしておるうちに、狂った調子も元に戻ろうというもの。

 今日は報酬の受け取りと、魔法の財布のオーダーに行く日じゃ。


 日課をこなし、その一環で開いたばかりの受付に声をかける。

「今日も良い天気じゃな、テフィーア」

「それはあなただけでしょエンベリル。それよりね………」


「うん?何かあるのか?」

「………またお貴族様から招集があるって話よ。チーム13にね。今日じゃないけど」

「ううん、信用されるのも良し悪しじゃな」

「でも、その依頼をこなせばリリジェンちゃんの等級、多分『銀』に上がるわよ?」


「だからと言うて、碌でもなさそうな依頼だとのぅ。他の仕事でも上がるであろう」

「そりゃそうだけどね」

「だがどうせギルドマスター経由で、断れないのであろう?」

「ご明察。断ったら降格だと思うわ」


「はぁ、仕様がないの。リリジェンには妾から言うておいてやる」

「悪いわね、エンベリル」

「貸しじゃ。何かで返せよ?」

「はいはい。全員の等級上げの必要なポイント、大目につけておいてあげるから」


 仕方ないのぅと呟いて、妾は人もまばらな酒場へ向かう。

 今日の待ち合わせ場所はゴルド商会前8時なので、時間を潰すだけじゃ。

 朝から葡萄酒を飲みながら、先ほどの依頼の事を思う。

 願わくば、碌でもない依頼ではないといいのじゃが、と。


 ~語り手・リリジェン~


 おはようございます!町が真っ白でキレイですね!

 常春の異空間病院にいたので、雪とか初めて触れます!

 異空間病院に来る前の人生でも雪が降ったかは、うん、確か無いはず。

 どっちかというと、暖かい場所にいた気がします。


 ………とはしゃいでいたら寒くなってきました『ウォーム!』

 そんな事で魔法を使うなって?いいんです、これは生活魔法なんですから。

 それに今日は冒険の予定はありません。習慣なので、宿のお手伝いはしますが。

 まかないを頂いたら、ゴルド商会前の待ち合わせ場所にGO!です。


 私が行くと、もうベリルとフィーア、クリスは来ていました。皆早いですね。

 ベリルの服装がとても寒く見え………いえ、普通は確実にもう凍死しています。

「おはようございます。ベリル、本当に寒くないんですか?」

「妾は氷精の血が入っておるのじゃぞ?むしろ快適よ。それよりもな………」


 嫌な話を聞いてしまいました。ベリルも早く私に話してしまいたかったようです。

 仕方ないですね、次の冒険は強制ですか………等級が上がるのだけが救いです。

 金等級は遠いですね………急がなくていいのだけが救いです。

 さて………門前でたむろしてないで、早くゴルド商会に入りましょう。くしゅん。


「報酬の受け取りに来ました、チーム13です」

 サーピスカウンターで申請したら、金貨がすぐに出てきました。

 皆で分けていると、奥の扉に手招かれました。

 ここで、財布のデザインを紙に描くそうです。絵師の方が待機しています。


 まず、クリスの犬の時計が白になって帰ってきました。

 それと、先日私がこっそり頼んでいた品、プリシラちゃんへのプレゼントもです。

 ミスリルの台座に、深い青色の美しいサファイアを四角くカットしたもの。

 気に入ってもらえるでしょうか?


 ≪ミスリルの魔力が心地いいな。受け取ってやろう。クリス、かけておくれ≫

「サファイアですか。似合いそうですね」

 プリシラちゃんにネックレスをかけると、ネックレスの鎖は毛に埋まり、サファイアだけが胸元で煌めきます。プリシラちゃんの白銀の毛に反射して、とても綺麗。


「似合っています。リリジェン、ありがとうございました」

 クリスが深々と頭を下げて来た。とんでもない。

「好きでやったことですよ。喜んで貰うのが好きなだけです」

「その思いこそが尊いと私は思いますよ?」


 照れていても仕方ないので、財布のデザインに向かいます。

 私は雪の結晶をモチーフに。丸い水色の革に白で刺繍。

 ベリルは思った通り赤です。赤い複雑な形の革に、バラの刺繍。

 フィーアは、黒猫です。時計とお揃いにするんだとか。

 クリスは丸い白い革に、太陽の紋章を青で入れるようです。


 デザインが済み、今日は解散………ですが呼ばれるという依頼が気になります。

 ベリルに聞いたら、それなら妾が続報を聞いておいてやる、と言います。

「じゃあお願いしますね………」

 胸騒ぎがしてなりません。


 ~語り手・エンベリル~


 次の日の朝。日課を済ませた妾は、受付の窓をノックしておった。

「あ、エンベリル!例の報酬、今日正午に。ギルドマスターが渡すから招集って言ってる。………貴族の依頼も、そこで話すみたいよ」

「わかった、正午にここにくればよいな?」

「ええ、お願いね」


 妾はその足で酒場へ行った。全員集合まであと2時間ほどか。

 葡萄酒とチーズを頼んで、いつもの席に座った。


 8時。全員集合する時間じゃ。クリスもリリジェンも最近時間厳守になっておる。

 フィーアの小僧も最近は8時じゃな。

「おはようございます、みなさん」

「来たか、リリジェン。本日正午はこの間の報酬の贈呈じゃと。おそらくその後で、貴族の依頼もあるであろうとのことじゃ」


「わかりました。前回の事があるから不安ですが………」

「緊張すんな。あれだけロクでもない依頼、そうそう来ねえよ」

「そうでしょうか………あれの関係者はずいぶんと生き残っていますよ?」

「やめてくださいよ、クリス」


「まあ、若い人たちばかりでしたから、そうそう騒動も起こせないと思うのですが」

「そう願います」

「まあ、ジジイ・ババアの方が厄介ではあるがのぅ」

「僕もそう思う」


 ~語り手・リリジェン~


 皆と雑談するうちに、気分もほぐれてきました。

 ここはひとつ………

「リンジーのスペシャルメニューお願いします!」

 猫の獣人、給仕のリンジーさんが、私に「ニヤリ」とほほ笑みます。

 差し出された「にくきゅう」は大変な触り心地でした………!


 今回のスペシャルメニューは腸詰め。ソーセージですね。

 こ………これは………まずいっ!

 香草が入っているのですが、それが肉と合わさり、大変なえぐみを出しています。

 リンジーさんにそう告げると。

「フムフム、その香草はダメなのかニャ。また実験するニャ~」

 とお皿を持って行きました。スペシャルメニューの怖い所です。


「おぉい、そろそろ正午だぞ」

 フィーアが黒猫の時計を見て言う。いよいよです。その前に報酬を貰いますけど。

 皆で受付の窓を叩きます。

「はいはい、正確ね。前と同じ。入ってすぐの階段を3階に。左のドアに入ってね」


 言われた通りのドアを叩くと「入れ」と返事が返って来ました。

「チーム13です」

 言いながら入ると、机の上にずらりと報酬が並べてありました。

「先日の報酬だ、それぞれ自分の物を取ったら、この受領書にサインしてくれ」


「わかりました」

 そう言って、それぞれ目的のものを手にしていきます。

 私は「ミスリルのハルバード」杖として使いますが、前衛・中衛として戦えます。

 ベリルは「オリハルコンのフラムベルジュ」一番高価かも。黄金に輝いています。

 フィーアは「消音のブーツ」足音は一切しなくなる。早速履き替えてますね。

 クリスは「魔力強化の杖」。使う魔法全てに、杖の魔力が乗ります。


 受け取ってサインが終わり、ギルドマスター(以下ギルマス)に座る様に促された。

 ギルマスの対面、大きな机越しに皆が座る。

「聞いていると思うが、また秘密任務がある」

「聞いていますが、今日はどなたからの依頼でしょう?」

 落ち着き払ってクリスが言う。頼もしい。


「依頼人はマーシャル子爵だ。この場には来ていない。私が代理依頼を行う。依頼内容は、彼の娘に関してだ。ベルニウ公爵を覚えているか?」

「確か、前回の事件で官憲に圧力をかけていた貴族ですね」

 クリスが覚えていた。騎士団が動いた事で、目論見は外れたはずだけど………。


「彼が、最近妙にそのう………「モテて」いるのだよ。貴族の令嬢から平民の娘、他人の奥方から、果ては貴族本人(男)まで!彼にぞっこんで屋敷から帰って来るそぶりもない。マーシャル子爵は娘のエレインが家出して公爵の屋敷に行ってしまった。最初は侯爵を嫌っていたらしいが、この招待状を見て、態度が180度変わったとか」

 クリスが招待状を受け取り、見ると私に渡してきます。


(愛しの君へ、どうかこの招待状を見たらわが館に来ておくれ―――ベルニウ公爵)

「………ん?これは………この招待状から瘴気の名残の香りがします」

 それを聞いた皆は一斉に招待状の匂いを嗅ぎます。

「………香水の名残のように感じるが………違うのかの?」

「俺も香水だと思う」「私もです」


「うん、魔界の瘴気には感覚で感じる「負の感情」の感覚と、香りで感じるものがあってね。これは香りで感じるものと同一の匂い………それも淫魔のものなの。多分、悪魔召喚をして「モテ」たいっていう願いを叶えてもらっているんでしょう。普通、依頼が終わると悪魔は魔界に帰るものなんだけど………」


「その香りが淫魔なら、何かの理由………ベルニウ公爵の性格を考えると、おそらく悪魔が美しかったので、現世に止めているのでは?だから直接悪魔が手を出せる」

クリスが推測を口にします。同感です。

「私もそう思います。招待状には悪魔の力が宿っていたとみて間違いありません」

「して、依頼はその悪魔を排除するということかの?表沙汰にはできんじゃろう?」

「そういう事になるが、それでベルニウ公爵の力が無くなる訳ではないのだろう?」


「多分、悪魔は一回一回能力を貸してるわけではなく「魅了」の能力を与えたのでしょう。何とかするには………「ブレイク」が手っ取り早いです」

「「ブレイク?」聞きなれん方法だな。どうするのかね」

「その悪魔より高位の悪魔なら、契約を強引にご破算にできます。ついでに与えられた能力の奪取を頼めばベルニウ公爵も元に戻るかと」


「悪魔召喚をするということか!?」

「いえ、まさか。知り合いの悪魔に頼むんです。お礼は必要かもしれませんが、それが物だった場合は請求してもいいですか?」

「あ、悪魔が知り合いかね?」

「そうです。顔が広いもので。」

 私はパーティメンバーに見聞かせした、ここに来た理由と、異空間病院には天使棟、人間棟、特殊棟、寮、そして悪魔棟、があり、そこでそれぞれの種族が勤めていることを話します。


 ギルマスは目を白黒させていましたが、何とか飲み込んだようです。

「要は………同僚に手伝ってもらえると?」

「はい。ただ、悪魔は手伝う時、必ず対価を要求します、今回も例外ではないかと」

「………我々に出来るものなら用意しよう」

「ありがとうございます」


「とにかくベルニウ公爵を無力化して、屋敷の中の貴婦人や貴族を解放するのが目的―――特にエレイン―――だという事を覚えておいて欲しい」

「「「「了解」」」」

 その言葉をきっかけに、わたしたちは席を立ちました。

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