第16話 三大欲求・色 2
~語り手・フィーアフィード~
僕達は、ギルドマスターの所から帰ると、13番の部屋に入った。
理由は酒場で出来る話じゃないから、だ。
「でさぁ、リリジェン。ブレイクって簡単に出来るもんなのか?」
「ブレイク自体は簡単なんですけど、ブレイクされた悪魔は当然いい気はしません」
「それはまぁ、そうであろうのぅ。急に仕事を降ろされた様なもんじゃろう」
「そうなんです。だから先にブレイクされる悪魔にコンタクトを取って、伝えて置かないと、ブレイクを頼んだ私たちがずっと恨まれる可能性があります」
「悪魔に恨まれるって………嫌すぎだろう、それは」
「ええ、ですからまず、呼んだ同僚………というか私の魔術の先生を呼ぼうと思ってます。彼女に対象の悪魔の場所を聞こうと思ってるのですが」
「それで?」
「多分、その場所に誰か行かないといけなくなると思います。聖職者でもある私とクリスさんはダメです」
「僕かベリルかっちゃー、僕だよな」
「隠密が必要ならそうですね。十中八九屋敷の中だと思いますが」
「やっぱ僕か………」
「ベリルにベルニウ公爵になびいたフリは無理でしょうからね………」
「ああ、張り倒す自信があるわ。ブーブーしか言わん分、本物の豚の方がマシじゃ」
「だろうな………これ以上の事を話しあっても無駄だよな?呼び出せるか?」
「ここは狭いですから………ギルドに部屋を貸してもらいましょう。会議室とか」
「そうするか」
僕たちは、受付と交渉して、豪華な応接室を借りる事にした。
破損させたら事だけど、そういうタイプじゃないと思うとリリジェンは言う。
駆け引きは好きだが、頼む立場なら誠実でないと気を害するタイプだそうだ。
かなり上から目線だと思うけど、実際強いから我慢して、とも。
~語り手・リリジェン~
ギルドの応接室で、キントリヒさんを呼び出すことになりました。
というか、異空間病院に入って呼んで来るだけなのですが。
応接室に異空間通路を開きます。
皆には待ってて貰って、異空間病院の中へ。悪魔棟に入ります。
キントリヒさんに教えて貰っていた頃は、よく来ていたので緊張はありません。
2Fのナースステーションに直行します。そこには顔見知りが何人か。
「キントリヒさんって、今空いてます?」
「昼食中だよ。控室だ。入っていいよ」
「失礼します。あ、キントリヒさん。すみません、ちょっとお願いが………」
お弁当を食べながらのキントリヒさんに簡単に事情説明。
「ほう!それで私の力が必要だと?ふふっ、いいだろう!愛弟子のお願いだ、きいてやろう!勿論対価は頂くが、用意できるのだろうな?」
「レフレント星のヤスミン王国に出来る範囲にしてあげてください」
「何だ、ある程度魔法文明ができているな。まあいい、簡単な物にしてやろう」
「ありがとうございます。この後休みを取れますか?」
「看護師長アッシュも、事情を話せばいいというだろう。天使課のとはいえ、巡り巡って患者のためだからな」
キントリヒさんの予想は当たり、嫌々という顔ではあったがアッシュさんも外出許可をくれた。「ルカに貸しだな」の一言はあったけど。すみませんルカさん。
異空間通路で、レフレント星のヤスミン王国、冒険者都市パラケルの冒険者ギルド応接室につなぐ。
私達が異空間通路から出ると、黒いローブ姿のキントリヒさんに視線が集まる。
キントリヒさんは、高位の悪魔なのでとても美しい。背中まである灰色の髪を三つ編みにしており、目は爛々と輝く赤。病的なまでに白い肌、まだ13~14歳の少女と言って良さそうな外見である。
~語り手・エンベリル~
「みなさん、キントリヒさんです。もう事情は話してあります」
「のうリリジェン。その方、瘴気がせんのじゃが?」
「面白いことを言う!わたしがここで瘴気を解放すれば、貴様ら倒れるぞ?」
「………抑えてくれておる、という事かの?」
「その通り!」
妾は冷や汗をかいていた。威圧感が凄いからじゃ。多分意図してのものじゃろう。
「キントリヒさん、それで、淫魔の気配はわかります?」
「あれだけはっきりと瘴気をまき散らしているのに分からないとは!人間は鈍感だね。キミも修行が足りない!あれは中級の淫魔だ。屋敷の中にいるよ」
フィーアの小僧が発言しおった、意外と胆力があるのう。
「もうちょっと絞り込めませんか?屋敷のどの辺とか」
冷や汗をかいたが、意外とまともな返事が返って来た
「む?そうか、この屋敷にはキミが忍び込むんだったね。ちょっと待ちたまえ」
「………うむ、わかったぞ。コの字型の屋敷で、淫魔がいるのは左翼の一番上の階………庭園の見える部屋だね。退屈してそうだよ、彼女」
「………やっぱり女の悪魔か。召喚者が手放したがらないってクリスが言ってたな」
「まあ、そこそこ美しい容貌だね。私には及ばないがね」
「キントリヒさんって見た目にこだわりあったんですか!?」
「ある意味あるよ!悪魔は上位者ほど美しい人型だという文化があるからね!」
「ああ、なるほど。上位者としてのこだわりですか」
悪魔とはそういうモノなのかえ、独特の価値観じゃのう?
「了解した。その淫魔を説得しに行く。ところで貴方はどういう悪魔なんです?」
「私はね、賢い悪魔と書いて、賢魔だよ。淫魔とはあまり相性は良くないね!私には性衝動なんて下賤なものはないから。彼女の能力は私には一切効かないだろうね」
「丁度いいのか、説得しにくいのか………」
「淫魔は虚言の悪魔………虚魔とも称される事がある。騙されないようにね」
「ういっす………真面目な助言どうも」
「こじれて困るのが我が愛弟子だからだよ!他の者は私にはどうでもいい………が、キミにとっては大事な者なんだろうからね」
「ありがとうございます。キントリヒさん」
「で、この後どうするんだ?この応接室に居座るのは無理だろう?」
「キントリヒさんには私の宿に来てもらいます。いちばん大きい大部屋を押さえますから、会議室にしましょう」
「良い宿屋なのかい?」
「ご飯が美味しいです!」
「それは重畳」
悪魔はリリジェンに連れられて行った。
「ふいー。意外と話が通じて良かったな」
「妾は生きた心地がせんかったぞ?あれは1人で妾達全員と互角か、それ以上じゃ」
「威圧を受けていたのは私だけではなかったのですね。安心しました………」
~語り手・フィーアフィード~
さて、忍び込む算段をつけないとね。
僕は酒場に行くというベリルと、それに引きずられて行ったクリスを横目に考える。
まずはベルニウ公爵邸の見取り図を、盗賊ギルドで買う。金貨50もした。
目当ての部屋はすぐに見つかった。てゆーか庭園に向かって張り出したバルコニーのある部屋だ。めちゃくちゃ侵入しやすい。
さっさと侵入することにした。ベルニウ公爵邸の裏門付近で夜を待つ。
使用人たちの愚痴が聞こえた。どんどん仕事が増えている。
しかもワガママ放題の者がたくさん。やってられない、と。
ベルニウ公爵に「引っ掛かる」者が増えてる証拠だ。急がないと。
俺は夜陰に紛れて、漆黒の暗殺者スタイルで、張り出したバルコニーに鉤付き縄を引っ掛けて登っていた。微かに招待状と同じ香りが漂ってくる。
登り切り、バルコニーのガラスの扉を調べる。カギはかかっていない。
そっと扉を押し開けて内部に侵入した。
ここまで来ると瘴気を肌で感じる。あらゆる負の感情が混ざり合った気配。
「淫魔のお姉さん、いるんだろう?話があるんだ、出て来てくれ」
暗闇が蠢いて、1人の美少女を吐き出す。
確かにキントリヒほどじゃないけど、すこぶる付きの美少女だ。
腰まである艶のある髪、漆黒の瞳、肌はビスクドールの様でとても柔らかそうだ。
「こんにちは、侵入者さん。遊びに来たの?」
「いや、違う。実はな………」
俺はこれまでの経緯をかいつまんで少女の悪魔に語って聞かせた。
「やった♪この苦痛の任務が終わるのね♪」
意外にも美少女はブレイクに乗り気だった。
「何で苦痛なのか教えてくれる?それと名前は?」
「名前はリアよ。苦痛なのはね………依頼主がデブで豚で、身の程知らずにも私に言い寄って来るからよ。容姿を良くしようかって言ったのに、国にもろバレだからダメだって。それにこのままでもモテるように君がしてくれたから問題ないって。アイツが良くても私は美しくないまぐわいを見せられる羽目になって、目が腐りそう!」
「見なきゃいいんじゃ?」
「私の能力で、近くのそういう行為は自動で目に入るの!依頼を終了して魔界に帰りたいのに、奴が生贄を追加してきて、帰るに帰れないの!」
「え、生贄って?まさか人間か?」
「奴隷なんだって言ってたわよ。魂だけ貰ったわ。あのね、献上主の支配下にある魂って、価値が高いの。魂は魔界の通貨だけど、この条件下で得た魂は高額だから、無下に出来ない。私はベルニウ公爵の豚野郎に逆らえないの!」
つまり奴隷はもう死んで魔界にいるわけか。生贄の救出は無理そうだな。
「だからブレイクは歓迎よ!てゆうかまた奴隷を献上されて、まぐわいを強制されたら、泣くに泣けないわ。そうなる前に、早くブレイクしてよ」
「えーと一応確認な。ベルニウ公爵に魅了の力を与えた?」
「そうよ。解除方法はこの呪文を唱える事」
リアは呪文を教えてくれた。
「青い鳥よ、汝は自由」と術にかかっている人間に告げればいいそうだ
「ベルニウ公爵から魅了の力を抜き出すけど、気分を害さない?」
「害さないけど?私はとにかくアイツの容姿がダメなの!味方したくない!」
「ブレイクしたら、大人しく魔界に帰ってくれる」
「うん、いいよ?」
「分かった、じゃあ俺はこれで」
俺は8時になるまで時間をつぶして、それからリリジェンの宿に出向いた。
臨時会議室に行くと、いつもの面々が揃っている。もちろん悪魔も。
俺は報告を開始した。
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