第17話 三大欲求・色 3
~語り手・クリスロード~
フィーアの話から、その悪魔に「ブレイク」をかけても大丈夫―――どころか、感謝されそうだという事が分かりました。
「そうですか、生贄は奴隷………もう肉体は消滅させられているでしょうから、救出は無理ですね………価値の高い魂を手放そうともしないでしょうし」
キントリヒさんが私の疑問に答えてくれました
「ブレイクしても、報酬はそのままだから、ま、まず無理だろうね!でもいいじゃないか。現世で苦しむより貨幣となって安らかに眠る方がさ。どうせ転生の時には転生できるんだ。悪魔は手放す代わりに、同じ価値の代替え通貨を貰う」
「………貨幣の中は安らかなのですか?」
この悪魔は聖気を帯びている私に対しても、ふつうに話してくれるようです。
悪魔と言えど、さすが医療従事者ですね、不思議な気分です。
「貨幣には『無属性魔法:ピースフリィスリープ』が掛かっていて、解除するのは法律違反なのさ。悪魔は契約にうるさく、法律にも大抵の奴がうるさい。なにせ破ったら実害があるからね。魔界の法の番人は容赦ないんだよ」
なるほど、悪魔本人からでないと入ってこない情報ですね、これは。
「「ブレイク」はもちろん合法なのですね?」
「法律には何も記されてなくて、出来るからやる、というグレーゾーンさ!嫌がる奴も多いんだけどね、今回は待ちわびているようだし、さくっとやってしまおう!」
キントリヒさんはパチンと指を鳴らして「リル、ブレイク!」と言いました。
「ブレイクしてくれてありがとぉ~んv」
甘い声と共に、誰かがキントリヒさんに抱き着きました。
「しっしっ、私は魔法以外に興味はないよ!よそに行きな!」
「ええ~じゃあ、忍び込んできて私の願いを聞いてくれたキミがいい」
リルさん(でしょう、流れからして)は、フィーアにまとわりついています。
しばらく瘴気が落ちないでしょうね、頬にキスとかされてますし。
「やめろって、大人しく魔界に帰るって言ったろ?」
「あのデブがけちょんけちょんにフラれるところを見たら帰るわv」
~語り手・フィーアフィード~
「ベルニウ公爵のアホは今どうしてるんだ?もちろん見えてるんだろ?」
「見えているとも!悪魔の加護が消えて驚いているね。リルのいた部屋で探し回って呼んでいるよ!「ブレイク」の一言は聞こえただろうに察しの悪いブタだね!」
「呼ばれても、もう何にも感じないのか?リル?」
「もう平気よ。ブレイクって満足してる依頼の時怖いけど、こういう時便利ね!」
そういえば、もう一つキントリヒ………さん、に依頼している事があったはず。
「キントリヒさん、ベルニウ公爵の、リルから与えられた力を奪ってくれ!………でいいんだよな?リリジェン」
「はい!お願いします」
「おっとその前に報酬を提示したいね」
そういえば、ギルマスにも報酬は頼むと言ってあったな。
「日記を私が思い浮かべなくても勝手に書き込んどいてくれるペンがいい。万年筆が理想だね。魔界で出回ってる品だが、今回の助力は大した事ないからそれでいいよ」
………それ、作れるのか?う~ん、王に話が行けば何とかなりそうだな。
ベルニウ「公爵」絡みだと、王族も動かざるを得ないだろう。
「この星の文明レベルを考えるとできないことはないはずだよ!私は気が長い!作る、もしくはすでにあるものを探し出せばいい。もちろんこれは契約だ、破ったら相応の報いを受けて貰うからそのつもりで!」
~語り手・リリジェン~
「分かりました、キントリヒさんが可能だというのなら作れる、もしくは見つけられるんでしょう。必ず手に入れます。ただ時間だけ下さいね」
「私は時の流れが遅い空間に普段居るんだ!大した時間には感じないさ!そうだな、こちらの時間で1年以内だ」
「分かりました」
後でギルマスに聞いてみましょう………。
「じゃあ、お願いします」
「………魔の力は魔に帰れ!強制剝奪!」
黒い光が、リルにもやっとまとわりつき、吸収されます。
「さあ、これでベルニウ公爵とやらは力を使えない。魅了は継続されたままだけど、それは解呪はそっちでやるんだろう?私は帰るよ」
「ありがとうございました、キントリヒさん」
「構わないさ!何かあったらまたお呼び」
キントリヒさんは私の額にキスを落とし、異空間通路で帰って行った。
「さあ、私たちはエレインさんだけ解放すればいいですね。私がフィーアと一緒に『テレポート』で行ってくる間に、ギルマスに事の顛末を伝えて、他の人の解除のために人をやってもらって下さい」
「大方騎士団辺りが出て、部外秘になるであろうよ。報酬の件も伝えんとな」
では『上位無属性魔法:テレポート!(2倍)』
わたしとフィーアはリルさんのいた部屋に続くバルコニーに転移しました。
「正面玄関の方に回って、執事さんとかにエレインさんの居所を聞きましょう」
「追い返されないか?」
「聞いた瞬間思い出しはするでしょう?フィーアが聞いてください。私は「マインドリーディング(思念読み)」をかけますから」
「うっわ、やな奴だぞそれ」
「仕方ないでしょう?他にうろついてる貴族に話しかけて、うっかりノロケでも聞いたらどうするんですか?私は嫌ですよ?」
「俺もイヤだ!それでいこう!鳥肌が………」
私はまだまだ甘かったようです。フィーアが執事さんに話しかけたら
「愛しの旦那様に何の御用でしょうこの泥棒猫様(愛しの旦那様は渡さんぞ)」
………いやあああああ(心の絶叫)
「いっ、いや俺達はマーシャル子爵家の娘エレイン様の居場所を聞きたくて………」
「何と、あの忌々しい雌猫を!実家に返却して下さるのですね!?3階の1番右のお部屋でございますお客様!」
私達はあわてて駆けだした。何かが穢れた気分だ。フィーアの顔も真っ青だ。
言われた部屋に辿り着く。ノックをして「エレイン様、居られますか?」と聞くと
「なぁーにぃ?わたしはぁダーリンの為にぃベッドの用意をしてるのぉ。つまらない用事なら帰って頂戴ぃ?」
口調に鳥肌は立ったが、本人らしい。無断でドアを開けると、そこには………
沢山のランタンで眩く照らされた部屋は、キラキラしたモールで装飾されており、ベッドの上には、バラの花びらでハートマークが描かれている。
なによりエレインはスケスケのベビードールに身を包み、あってもなくても変わらない下着をつけている。私は思わず絶句して、ついでフィーアの目を塞いだ。
「青い鳥よ、汝は自由!」
叫んだのも無理はあるまい。正気に戻ったエレインも叫んだ。
でも、わたしは彼女の口もふさぐ。
「誰かが来たら、どうするんですかっ!?」
「さあ服を着替えて!お父様がお待ちですよ!」
フィーアの目は塞ぎっぱなし。エレインは美人で、わがままボディでしたから。
「あ、あ、危なかった、危なかったわ。わたくし、どうしてこんなことしたの?」
「ベルニウ公爵が悪魔に命じてあなたを罠にかけたんです!今から一緒に冒険者ギルドに『テレポート』します。ギルドマスターに頼めば家に帰れますからね!」
エレインは不慣れな感じで―――実際普段は召使がやっているのだろう―――服を着こんでいる。見てられないので(フィーアを後ろに向けて)手伝った。
「マーシャル子爵の令嬢、エレイン様で間違ってないか?」
フィーアが念のためという口調で聞く。これで別人だったらえらい事だ。
「そうよ!エレインよ!あなたは後ろ向いててね。あああ、狂気の沙汰だわ」
エレインが服を着終わった。
私は魔力石から魔力を出し『上位無属性魔法:テレポート(3倍)』を行使する。
私達は、受付の真ん前に出た。驚くテフィーアさんに「来てますか!?」と問う。
彼女は無言で受付の内部に私達を迎え入れて「いつものとこよ」と言った。
ふらつき始めたエレインを支えつつ、入ってすぐの階段を3階。左のドアに入る。
「エレインさんをお連れしました」
「おおっ、エレイン!」
「お父様ぁ!」
ああ、マーシャル子爵が来ていましたか。ギルマス、ナイス!
親子は感動の再開を果たしています。それは良かったと思うのですが。
フィーアがベリルに小声で「あそこはヤバい………」と言っています。
訳の分かってないギルマスと皆に、見て来たことを説明します。嫌だけど。
「あの様子だと、多分館じゅう………召使まで。私とフィーアだけで混乱を収めるのは不可能なので返って来ました。解除の呪文は「青い鳥よ、汝は自由」です」
「騎士団で事に当たってもらうしかないか………わかった。エレイン嬢は救出してきたのだから依頼は達成だ………」
「手伝ってくれた悪魔への報酬は?」
「国の宝物庫にあるか探してもらう。宮廷魔術師にも聞かねばならんだろう」
「しばらく待てばいいのですね?」
「ああ、追って連絡しよう」
「私たちの今回の報酬は何なんでしょう?」
あ、忘れてた。クリスがちゃっかりギルマスに質問する。
「多分、王室から何か出るはずだ。これも追って連絡する。確定しているのはリリジェン、君は『銀』等級に昇進だ!おめでとう。会員受付・更新のメリルに伝えてある。カードを更新してもらいたまえ」
ああ!それがあった!
「みんな!先に行っていますね!」
「おお、今日は祝いじゃな!酒場で待っておるぞ!」
「リル、俺じゃなくてギルドマスターについてな、公爵の顛末を教えてくれるから」
「はーい!ダンディなオジサマ、ベルニウとは大違いね!私リルよ。公爵の情けないところ見て、満足したら帰るからぁ、よろしくっ」
リルはごく素直にギルマスに抱き着いた。
会員受付・更新のメリルさんの所に行きます。
「リリジェンちゃん!おめでとー!」
彼女は銀色に輝くカードを用意して待っててくれました。
今までのカードを渡すと、引き継がれる情報だけ尖筆で書き込んでくれます。
書き込まれる情報は、圧縮魔法文字なので、知っている人しか読めません。
「書き込み終わり!次に書き込むまで銀を硬化させるわよ。銀は柔らかいからねー」
「はい、お願いします」
銀に光り脆いのは『錫』級も一緒なので、あれも硬化していましたが、この『銀』カードは磨き抜かれていてとっても綺麗です。
ありがとうを告げて、酒場の仲間の元へ。
「上がりましたよー!」『銀』等級カードを掲げると、仲間だけでなく、酒場の人たちみんなから賞賛の言葉が上がりました。
「おう、あんたならすぐだと思ってたぜ!」
「調子のいい事お言いでないよ!でも良かったねえ!」
「おうっ嬢ちゃんおめでとな!」
「祝いに葡萄酒1杯奢ってやるよ!」
などなど。
ベルニウ公爵の執事さんとエレインの部屋の光景を忘れるために、今日は飲むぞー!
挑戦者募集です!
結果、私は酒飲み大会女王に輝いた。
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