第18話 ミノタウロスのしゃぶしゃぶ 1
~語り手・クリスロード~
例によって、皆が酒場に集まりました。スーザンとリエラも出て来ています。
先日の騒動からまだ2日。ギルマスからの連絡はありません。
私達はのんびり待てばいいという事で………酒場でまったりしています。
とは言っても、依頼を受けたらいけないとは言ってないんですよね。
今日は「リンジーのスペシャルメニュー」にフィーアが挑戦、撃沈しています。
「アルラウネはあく抜きしなきゃダメ」と、女給のリンジーに苦言を呈しています。
私にはアルラウネのサラダに手を出したフィーアが勇者に見えたのですが?
プリシラの「にくきう」をぷにぷにしながら思います。確かに気持ちいい。
まあフィーアもリンジーさんの「にくきう」で癒されていたので、被害とどっこいどっこいでしょう。そんな感じで私たちはまったりしています。
リリジェンは、火酒を次々開けています。寒いから、だそうです。
確かに今は2月半ば。外は吹雪ですからね。
私も少しだけ、リリジェンから火酒を分けて貰います。う~ん、効く!
すぐに体が温まりました。フィーアも真似して少し貰っています。
なにせリリジェンが2ℓ確保していますからね。
ベリルは、依頼掲示板に行っています。彼女だけは寒くても絶好調なんですよね。
「面白い依頼があったぞ!またゴルド商会の依頼での。食材についての依頼じゃ!」
元気に帰って来ました。またゴルド商会ですか?
いえ、報酬も内容も、フォローもしっかりしている、申し分のない依頼主ですが。
「ベリルさん~。外に出るのは寒すぎますよ」
リリジェンが涙目で訴えますが
「何を言うておる、全員の等級を金に上げねばならぬのだ。休んで居る場合かえ?」
「ううっ………正論です」
「なら、ゴルド商会で寒さ避けの魔道具でも探しますか?」
と、私が効くと
「いいですねそれ………!そういえば、財布も出来上がっているんでしたよね」
「欲しいものもあるし………うん、行きましょう!依頼の詳細はどうせゴルド商会で聞かされるんでしょう?ベリル」
「そう書いてあるの。ここのは、いつも依頼書に詳細を書かぬゆえ、持って行くものが少ない。それで妾達に回って来るのじゃ」
なるほど、そういうことですか。これからも受ける事になりそうですね。
私は、プリシラたちに合図します。
それぞれ、「お気に入り」を背中に乗せます。
皆、防寒着を着込んで(ベリルだけはいつもの恰好ですが)幻獣達に乗り込みます。
スーザンが(アスピドケローネの仕事以来)お気に入りのフィーアを背に乗せます。
ベリルはこれも意気投合しているリエラの背に。
プリシラは、巨大化して私とリリジェンを背に乗せます。幻獣双方向翻訳機(略して翻訳機)を採用したことも評価していましたし、1000歳の祝いのミスリルとサファイアのネックレス(鎖は巨大化しても伸び縮みします)をいたく気にいっているので。
まあ、他の子達も、ブラッシングしてくれる彼女を気に入っているのですが。
大変目立つ一行が、冒険者ギルドを出て、ゴルド商会に向かいます。
途中でゴルド商会の制服を着た男性が
「もしや皆さまゴルド商会にお越しですか?」
と聞いてきたので「そうですよ」と答えると
「先触れに行ってきます………!」
と、凄いスピードで駆けだした。
~語り手・リリジェン~
今日は冒険ではないので、モコモコのほうの防寒着を着ています。
フィーアに紹介してもらった薄手のコートは、流石に2月も半ばだとキツイものがあります。防寒の魔道具があれば、是非手に入れなくては………!
途中で話しかけてきたゴルド商会の職員さんが、先触れに立ってくださいました。
私達って、ゴルド商会でどういう扱いなんでしょう。
ゴルド商会の周囲は、結界が張ってあり、暖かく保たれています。
だからでしょうか、門前に4名ほど人が出迎えに立ってくれています。
女性職員さんが、2人、さっきの先触れの男性が1人、そしてもう一人は、あら、まあ、エイルさんじゃないですか!?ゴルド商会の副会長です。お父様が会長。
「お久しぶりです、リリジェンさん。ご活躍は耳にしていますよ。裏の事情もある程度は把握しております。ああ『銀』等級への昇級おめでとうございます!」
エイルさんは一部の隙もなくお辞儀する。彼の外見は、艶やかな品のいいショートの黒髪に、黒曜石のような瞳。人間としてはかなりの美形です。
「ありがとうございます!今日は依頼の件と、お買い物の相談に来ました!」
「いつもご利用くださっていると、報告を受けています。あの時確かにご贔屓にと言いましたが………律儀なお方だ。さらには、依頼も受け負って下さっているとか?」
「ここの品物の質がいいからですよ。依頼もきっちりしていたので受けたんです」
「ありがとうございます。ではまず依頼の方を………支配人室へどうぞ」
ぞろぞろと皆で支配人室に入る。エイルさんは私達に椅子(半端なく沈み込むソファ)をすすめ、自分は対面のソファに腰かける。
後ろには支配人のタイガーアイさんと秘書さんが控える。
「では改めまして………わたくしゴルド商会の副会長エイルと申します。リリジェン様とはひょんなことで縁がありまして。ご贔屓にして頂いております」
皆がざわめく。
「副会長が出てくるということは、此度の依頼困難なのかの?」
「いえ、わたしはたまたま立ち寄っただけでして。ですがあなた方の裏方の仕事は知っていますよ。私の父、会長は王の弟―――ゴルド公爵ですから」
「えっ………ゴルド公爵は知ってるけど、関係者だったのか!?」
「はい、わたしはこの商会の、弟は公爵の後継ですね。公爵というのは要は王族なので役職はないのです。国から莫大な「生活費」が出るので金持ちですが。わたしも父も、安穏とした生活をしたくなかった、なのでゴルド商会を継いで仕事します。公爵位は、詩歌を愛する弟に譲ります」
「なので、貴族の裏の事情にも精通しております。前回、前々回とも大変でしたね」
「本当に大変でした………しばらく両方違う意味で悪夢を見ましたよ………」
前々回のは、普通に悪夢なのですが、前回のは執事さんが夢に出てきます………。
~語り手・フィーアフィード~
「まあ、そういうことです。で、この依頼なのですが………」
エイルとかいう副会長はベリルから依頼書を受け取って机に置く。
「実は我がゴルド商会は、モンスターの素材を売りにした、冒険者向けの酒場を出す事になりまして、現在は各国の冒険者に頼み、その素材を集めているのです」
「ああ!?俺達は食材用のモンスターでも狩りに行くのかよ?」
「はい、
はい、と秘書がワゴンに置いていた肩掛け鞄をテーブルに置く。
口が大きく開く、アコーディオンタイプの口をしている。
「持つのはクリスだな、他の面子は動くから、肩掛け鞄はちょっと」
「わかりました」
そう言ってクリスが鞄を斜めがけする。ちょっと似合ってない。
「で、牛頭鬼と馬頭鬼なら、「ミノタウロスの迷宮」だよな。ミノタウロス―――要は牛頭鬼―――が必ず各所に配置されたお宝を守ってるし、中には馬頭鬼もいるって話だ。馬頭鬼の方は、そこ以外に出るって話を聞いた事がない」
「はい、馬頭鬼の方が少なくなるのは仕方ないと、当方も認識しております。ですが、冒険者の皆さんの報酬の使いどころとしてはいいメニューになるかと」
「まあ、そんな珍しいもんがあるなら、食ってみたくはあるな」
「はい、魔物食専門のシェフを確保しており………ここパラケルほか、冒険者ギルドがある街で開店予定です。開店の際はご贔屓に」
「で、報酬は?」
「今回は歩合制で………牛頭鬼1体金貨20枚、馬頭鬼1体金貨30枚となります」
「ボスを倒した場合は?」
「あそこにも、ボスがいるのですか?初耳ですが………」
「かなりデカいミノタウロスだって話だが」
「では、ボスを持って来て下さったら、金貨50枚ということで………」
「あ、あとそのバッグ、何体入るんだ?」
「50体ずつ。計100体です」
~語り手・リリジェン~
商談はフィーアがまとめてくれましたね、じゃあ後はお買い物です!
「エイルさん。商談はここまでにして、買いたいもののご相談があるのですが」
「勿論、承りますよ」
「まず、全員と離れていても話せる、小型の通信機が欲しいです。前回の仕事で不便でしたから。でしょう、みんな」
「確かに通信出来たら、もちっと違ったかな」
フィーアは首肯しました。他の皆も異論はないようです」
「小型という事でしたら、その時計に組み込むのはいかがですか?」
「え、そんなに小さくできるんですか?」
「簡単ではありませんが、できます。1つ金貨30枚になります」
「パーティ資金から出しますね」
「では、時計の方は秘書にお預けください、今、臨時の時計を持ってこさせます」
皆が時計を(名残惜しそうに)外す。代わりの時計はすぐやって来た。
「それから、防寒具を着なくても、暖かく過ごせるアイテムはありませんか?」
「ございますよ、陽光の護り、というアイテムで、使用者の半径1メートルを春の陽気に変え、コマンドワードを言うと、回復もしてくれるアイテムです」
タイガーアイさんがおそるおそるといった感じで
「この支部には3つしかありませんが」
「あ、大丈夫です。ベリルはいらないので」
「うむ。妾は氷精の血が入っておるゆえ。むしろ夏に世話になるかもしれんのぅ」
「というわけで、3つ下さい。フィーア、クリス、いいですか?」
「ああ、防寒着は動きを阻害するからな」
「構いません。防寒具は苦しくて苦手なので………」
「では1つ金貨50枚です」
「私のワガママなので、代金は私が持ちますね」
「オゴリは断らない主義だ」
「いいんでしょうか………」
「また酒場ででも奢ってください」
そして最後に、財布の受け取りです。
タイガーアイさんが、秘書さんに持ってこさせます。
注文通りの、見事な品ですね。大事にします。
~語り手・エンベリル~
買い物を片付けて、ひと段落ついた。
後は各自、旅支度をして集合、かの?
まあ道具類はほとんどリリジェンが管理しておるのじゃが。
ミノタウロスの迷宮は、南に10日ほど行ったところじゃ。
食料と馬車は、エイルとやらが用立ててくれた。
馬は要らん、プリシラが引くと言ってくれておる。
皆がゴルド商会前に集まった、むろん防寒着は着ておらん。
馬車はクッションの効きまくった、豪勢な代物じゃった。
妾は御者席に乗り込む。中に入るよりこの凍りついた風を楽しんで居たい。
プリシラが遠吠えをし、出発の合図となった。
和やかな道中であった。
いや、豪勢な馬車につられて、盗賊は出たのじゃが、描写するほどもなかった。
妾1人で軽く捻ってやったわ。
手加減を間違えて何人か殺したが………どうせ官憲に捕まれば縛り首じゃからの。
ミノタウロスの迷宮は海に突き出した大きな岬にある、白亜の迷宮じゃ。
妾達ほどの実力者ぞろいとなると、牛頭鬼と馬頭鬼など、ほとんど狩りじゃな。
難しいのはむしろ迷わぬようにすること。
だがフィーアの小僧とリリジェンがマメにマッピングしておるので、妾としてははっきり言って、狩り以外にやる事がない。
フィーアの小僧は宝箱を開けるのに腐心しておった。大抵罠があるのじゃと。
だが中身は、妾達にすると有用ではなく、換金アイテムがほとんどじゃ。
唯一、頻繁に出るのじゃが「脱出の赤い糸玉」は有用なアイテムじゃ。
使うとその迷宮の出口に戻ることができる。一人2つで山分けじゃ。
狩りはサクサク進み、牛頭鬼40体、馬頭鬼25体を獲得しておる。
さぁ、後はボスじゃろう!
妾はその筋肉の塊に、フラムベルジュを打ち込む。オリハルコンの刀身じゃ。
深く切れたが明らかに致命傷ではない。『無属性魔法:エンチャントウェポン(切れ味強化)』がリリジェンから飛ぶ。
スーザンもボス牛頭鬼にくちばしを叩き込み、蹴りを放っておった。
心臓を傷つけては食材としての価値も落ちようというもの。
何カ所かに深手を負わせたが、流石ボス、倒れる様子がない。
出は仕方ないその首、はねるとしようか。
リエラに頼んで、気を引いてもらう。彼女は『アイスボルト』を放った。
そちらに気を惹かれた瞬間―――妾は剣を振りかぶる。
首はぽおんと、宙を舞った。
~語り手・リリジェン~
気持ちよく首が飛びましたね。
これぐらいで、狩りは終了でいいでしょう。
牛頭鬼と馬頭鬼は定点配置で徘徊していない為、狩らないならこれで終わりです。
報酬は一人400の計算になります。
それとは別に、フィーアが宝箱を開けて得た宝物があります。
「脱出の赤い糸玉」以外は換金ですね。
フィーアによると、300ぐらいにはなるだろうという事です。。
パーティ資金に回しました。
マップを書いておいたおかげで、帰りも順調。
フィーア曰く、この地図も盗賊ギルドに売れるから、私のも寄越せとの事。
帰りの馬車も順調でした………あ、また盗賊が出た………。
問題なく追い散らし、ゴルド商会に帰って来ました。
遠くからでも目立ったらしく、タイガーアイさんが出迎えてくれました。
首尾を報告すると、支配人室で、紅茶でもてなされ―――幻獣達も飲むと主張しましたので彼らの分も―――、待つ事しばし。
金貨の袋と、出来上がったらしい腕時計がワゴンに乗ってやって来ました。
金貨を山分けし、時計の使用法を聞きます。
コマンドワード「チーム13」を腕時計に向けて唱え、話したい人の名前(自分以外)を呼ぶと、向こうに通じるので、そのまま話せばいいそうです。
受信側の時計を光らせる、ベル音がする等の案も出たそうですが、冒険者の使用ということで、素直にいきなり通じる仕様にしたそうです。
「いきなり声かけられてビックリする羽目になるのは、主に僕だろうね」
「まぁ、何かある場合に備えて、呼びかけは小声にしようではないか」
今回は、簡単なお仕事でしたね。
ロクでもないお仕事が来ないように祈りましょう。
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