第35話 三大欲求・金 後
~語り手・フィーアフィード~
昨日の夜は酒宴だった。
拠点の城に帰ったのは夜中の2時を過ぎてからだ。
あ~いてっ!起きた瞬間頭痛がして体がだるい。飲み過ぎである。
「水、水………」
水を飲んで、少し落ち着く。
昨日を思い返すが、ろくでもない1日だった。
キントリヒとかいう悪魔が、目的の悪魔の行動を把握できたかどうか、正午になれば聞きに行かねばなるまい。
今回忍び込むのは?前回同様僕の可能性が高い………いや、確定だろう。
ベリルは交渉上手だとは言い難い。
聖職者2人は問題外だ。
………さっさと朝飯食って、ギルドで迎え酒するか。
ごそごそと起き上がって―――頭痛い―――着替えする。
顔を洗ってみるが、頭が痛いのは変わらない………
ろうかにでて、食堂に行く。習慣は怖い、ぴったり6時だ。
用意してあるサラダをもそもそと―――ああ、頭痛い―――たいらげる。
7時にはギルドに着いた。ああ、やっぱりベリルがいる。
パラケル名物、ヨイサメールジュースを飲んでるな、あの毒々しい青い色は。
「おまえも2日酔いかよ、ベリル」
「フィーアの小僧か。ふん、2日酔いで話を聞きに行く訳にもいかんからな」
「俺もヨイサメールジュースくれ」
給仕に注文する。
「はいはい。にゃふふっ、やっぱり昨日のはきいたにゃ?」
リンジーはにゃふふと笑いながら厨房へ引っ込む。ほっといてくれ。
しばらくしてヨイサメールジュースがきた。苦いんだよなこれ………。
仕方ないから一気飲みだ。
普段だったら、冒険を休むところなんだが。今は渦中だからな。
~語り手・クリスロード~
しくじりました、私としたことが2日酔いとは………。
実に久々です。
痛む頭で起き出して、日課をこなしますが………頭痛と吐き気がしますね。
みんなにつられて飲んだ自業自得です。
身繕いを放り出したいところですが、それをやると、髪が切らなければいけないレベルでもつれるので、そうはいきません。
青息吐息で身繕いを終えます。朝食は残して(料理人さんすみません)ギルドへ。
早くヨイサメールジュースを飲まなければいけません。
「ぐえー、まずい」
フィーアの声がしますね。多分あれでしょう。
「おはようございます………」
我ながら覇気のない声が出てしまいました。
「おお、お主も2日酔いかえ?ヨイサメールジュースは注文するかの」
私が頷く(頭痛い)と、ベリルがリンジーさんに注文を出してくれました。
プリシラに乗ったまま、席の一画に陣取る私。昨日と同じ場所です。
「2人は、もう飲んだのですか?」
「まあの、効き目はバッチリじゃ!」
私にもヨイサメールジュースが来ました。
毒々しい青色です、一体何が入っているのやら………一気飲みしました。
からだを包む清涼感。頭痛が消え去っていきます。
ここまでくると、ほとんど魔法の飲み物ですね。
おや、リリジェンが来ました。
「この匂いと、ジョッキの底の青い色。みんなは、ヨイサメールジュースですか?」
「リリジェン、あなたが異常なだけで、これが普通です」
「私も人並みに酔ってみたいんですけど………」
そこからは談笑と、食事を注文する声が乱れ飛び………気付けば正午です。
では、ギルマスの部屋に行きましょうか。
3Fの左の扉をノック「どうぞ」と悪魔女性―――キントリヒさんの声がします。
そっと入ると、エイルさんとギルマスはもう来ていました。
「おはよう、早速だがね、ターゲットの行動パターンが分かったよ」
「教えて下さい!」
「うん、商談の時は必ず公爵の横にいて、日中は公爵の側か、邸内をうろついているね!一人になるのは夕食後から。リアのいた部屋に引っ込んで金勘定をしているよ!今回も盗賊君が一人で行くのかな?」
「それしかないだろう?」
「なら、今回は首尾を見届けられるように、見物用の水鏡を作ってあげよう」
「いや、僕は要らないけど………」
「私たちが心配なのでお受けしましょう」
「………まぁいいけど」
キントリヒさんは、空中に水の薄い膜を作ります。
そうすると、フィーアの視点で見たここの映像が映し出されます。
普通とは違う水鏡の作り方。特殊能力なのでしょうか。
「まあいいけどよ………リリジェン、場所は分かるだろ『テレポート』させてくれ」
リリジェンが、フィーアの袖を掴んで『テレポート』します。
5分ほどでリリジェンが先に帰って来ました。
水鏡には、フィーアが見ている光景が映し出されています………。
金魔に接触するのは思いのほか簡単でした。
夜を待って、リアの時に使ったルートでしょう。忍び込みます。
ガラス戸は施錠されていましたが、開けるのは造作もないようですね。
闇に向かって、言います。
「居るんだろう、出て来てくれ。王家からの使いのものだ」
ちょっとはったりが効いていますが、確かに似たようなものです。
「ちょ、待ってや。オレは大したことはしとらんでぇ」
出てきたのは、商人の服装をした20代の(外見のみ)青年です。
「生贄を貰って、ベルニウ公爵の財力を無尽蔵にしてるだろ?あれ、もう奴隷は買えなくしておいた。ベルニウ公爵は前にも悪魔を呼び出したことがあるから警戒されてるんだ。知ってたか?」
「嫌やなぁ………旨みがなくなるやないか」
「そこでだ、穏便に「ブレイク」させて貰えないか?」
「へえ、確かに追い払われるのは嫌やから、乗ってあげてもいいんやけど」
「けど?」
「乗ったってもええから、ワイにもなんか旨みをくれや」
「ちょっと待て相談する。何かあるか?あったら声かリリジェンを飛ばしてくれ」
「えーっと、キントリヒさん何か心当たりあります?」
「そういえば院長先生が発見されてない古代の遺跡なんかを、大量に知ってるって噂だね!聞いてくれば?遺跡の遺物で十分美味しい思いができるはずだよ!魔界でオークションにかけたりしてね。所有権も売れる!」
「なるほど!聞いてきますのでフィーアに伝えておいてください」
「よかろう!届けておこう!」
リリジェンは異空間通路に入っていってしまいました。
待つこと30分―――フィーアは悪魔と雑談して時間を過ごしています。
古代の遺跡などの情報が貰えるとあって、悪魔が上機嫌になったからです。
ああ、リリジェンが戻って来ました。
テレポートで地図を向こうに運んでいくそうです。
でもリリジェン、あそこに入った事がありましたか?
え?フィーアを目印に飛ぶと。そういう使い方もあるのですね。
私も今後、無属性魔法を学んだ方がいいでしょうか?
向こうに飛んだリリジェンは、悪魔に報酬を提示しています。
「まだ、発見されてない○○星の古代遺跡、××の遺跡までの地図です。これでブレイクを受け入れて貰えませんか?」
「ええで、ええで。どうせ、もう奴隷が貰われへんのやったら、ここに居る旨みはないからね。ブレイクを受け入れたるわ!」
「何かベルニウ公爵にパワーを授けました?」
「「異常な金回り」ていう能力やね。これも消すんかいな?」
「はい、すみませんが」
「ええよ。あの男、別に悪魔好きのする性格でもないさかい」
「ついでに、あなたのお名前を聞いても?」
「俺はルッツや!商談やったら、供物が動物でも召喚されたるから、ご贔屓に!」
「ありがとう、ルッツ。ではキントリヒさん、ブレイクとベルニウ公爵の能力の取りあげをよろしくお願いします!」
「了解だ!………完了したよ。これで後は自滅していくことだろうさ」
緊張して成り行きを見守っていたエイルさんがホッと一息ついて
「良かった………潰された支店も復活できそうですね」
~語り手・リリジェン~
私とフィーアは、ルッツと一緒に帰って来た。考えがあったので。
しかし、それは後で。とりあえずは………
「キントリヒさん、料金は何をお望みでしょう?」
ギルマスとエイルさんが緊張する。
「この星………この国の中に研究所が欲しいね。休みの日に研究にこもれるように」
黙っていたギルマスが発言する
「考えうる限りの施設と材料を用意すればよろしいのですかな?」
「そう!ここのレベルじゃ物足りないだろうけど、それは自分で追加するから、合法的なものにしてよ。知恵を借りに来るなら対価は素材か何かかな」
「へえ、是非利用させてもらいたいものです」
エイルさん、強心臓。
「じゃあ、そういう事で頼むよ。3カ月以内にね」
青くなったギルマスをエイルさんが宥めている
「うちのネットワークをつかえば、3カ月で可能ですよ、お任せあれ」
「………さすがゴルド商会じゃな」
「どこに作るのか、私達にも教えて下さいね!遊びに行きますから」
「む!弟子が来るというのなら止めはしないよ。色んな研究を見せてあげよう!」
アッシュ看護師長には劣るがね、とキントリヒさん。
「しかし、ワイを「ブレイク」したのが賢魔やなんて………珍しい話ですなあ」
「本当にね!異空間病院にいると、不自由しないから買い物とかにも行かないしね」
「この機会にご贔屓に!各種素材、若輩といえども取り揃えてますよって」
「ほう?自信があるならオーダーさせてもらおう。○○と××と△△と□□を200gほど揃えてもらおうかな。期日は研究所ができる3カ月後だ!」
「お任せあれ―!」
なんだか盛り上がっていますね。
キントリヒさんはああ見えて常識があって人好きしますからね。
無茶なことは言うけど、それは相手ならできると思っているから。
できない相手には初めから期待しない、という感じです。
ちなみにルッツを連れてきたのはある事をお願いするためです。
「ギルマス、それとエイルさん。そろそろ黒幕を退治したいと思いませんか?」
「それは勿論だが、足取りがつかめんのだ」
「王宮の方でも、今回は公爵を拘束する予定なので、取り調べるかと思います」
と、ギルマスとエイルさんが言います。
「いえ、短期間にはなりますが、ルッツにまだブレイクされてない風を装って貰って、黒幕の事を聞いてもらおうかと思うんですけど」
「へえ、報酬はあるんやろうな?」
「はい、これどうぞ」
わたしは腰につるした黒い袋から、ずっしりした大き目の金貨を差し出します。
「こ、これは―――初代魔帝期に少量作られたという幻の金貨!」
「やってくれます?」
「も、もちろんや!返さへんでえ!」
「大丈夫です、やってくれるならルッツさんのものです」
「任しとき!」
ルッツさんの威勢のいい言葉と共に、次は黒幕探しと決まりました。
そして私は金等級になりました!
黒幕探しが終わったら、聖なる花を求めて―――
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