第34話 三大欲求・金 前
~語り手・エンベリル~
10月、少し風や日差しが涼しくなってくる時期じゃ。
朝6時、妾はいつものように受付のテフィーアに話しかけておった。
「おはよう、毎度のことだがそなたは早いの」
「冒険者の皆さんに依頼の張り出しをしないといけないですからね」
「邪魔かの?」
「いつもの事でしょう、何をいまさら」
「まあそうじゃな………では聞くが、ポイントの高い依頼はないかえ?」
テフィーアはチェシャ猫のように笑った
「何じゃその顔は」
「正午に招集がかかってますよ、チーム13」
その時の妾の顔はさぞしょっぱいものであったろう。
「またかえ………」
「でもおそらくそれで、リリジェンさんは金等級ですよ」
「ううむ………近道であろうことは否定しないがの」
「頑張ってくださいね」
妾はすごすごと酒場に行った。
やけ酒じゃー!葡萄酒を所望する!
~語り手・フィーアフィード~
僕はいつも通り、6:30にギルドを訪れた。
何だかベリルが「やけ酒じゃー」と叫ぶ声が聞こえた。
嫌な予感がするんだけど、一応近づいていく。
「よ~う、ベリル。ご陽気じゃん」
「また正午に呼ばれておるからのっ!あははははは」
「えぇー。また貴族か悪魔絡みだろう、それ………」
「たぶんのっ!だからこっちに来て、お前も飲めっ!」
「飲むか………」
~語り手・クリスロード~
私はいつも通り8時前にギルドに到着しました。
野外試験場の外れからでも、ベリルとフィーアの声が聞こえてきます。
「クソ依頼に乾杯―――!」
という声も聞こえてきました。嫌な予感がします。
「おはようございます、お二人とも、なぜ今出来上がっているのですか?」
「大丈夫じゃっ!正午までにはさめるわ!」
「そうそう!嫌でも鎮火するって!」
「その正午というセリフが気になるのですが、まさか、また………?」
「お主の案じている通りよ!依頼だそうじゃっ!」
「はぁ………私にも、葡萄酒を………」
~語り手・リリジェン~
ああ、何だかいつかの様に、皆が酔っ払っている声が聞こえます。
嫌な記憶がよぎりますね。
ああ、いえ、シャービアンさんは悪くないんですが。
「「「クソ依頼に乾杯―――!!」」
ああ、確定しましたね。
「皆さん!正午に呼び出しですか!?」
「おお、リリジェン、その通りよ。だから仲間に入るがよい」
「………そうですね、そうします」
火酒を飲むぞー!がおー!
結局ほとんど酔えなかった―――(くすん)
そして時間は無常に過ぎて―――
私達は受付に入って、後ろの階段を上り3Fの扉を左に。
中に入るとギルマスと―――意外な人が待っていました。
「エイルさん!」
「おや………あなたたちのパーティが引き受けて下さるのですか?」
「ええ………厄介なことがあると呼ばれるんですけど、まさか………?」
それでエイルさんは察した様でした。
「悪魔絡みの依頼です。私からの説明でいいのですか?ギルドマスター?」
「知り合いどうしだったのなら話が早いですな。儂は口を挟みませんので、どうぞ」
「そうですか、それなら私から………」
「この度、ゴルド商会の支店が一つ潰されました」
「ええ!大変じゃないですか!」
「はい、原因はうちに隣接する土地に店を構えた新興店なのですが………何故客が入るのか分からないんです。確かに安いのですが、元々ゴルド商会は高級志向ですから、競争になりえないはずなのです。でも、うちの顧客も向こうに入るようになりました。調べた結果、良いものをひどく安く提供していることが分かりました。激安の仕入れルートがあるのかと追跡してみたんですが、相手は普通の商人。むしろ高いぐらいで。とても採算がとれるとは思えません。そこで調べたら―――」
「悪魔の気配………ですか?」
「ええ、元締めがベルニウ公爵だったことも、疑惑に火をつけました」
「「「「ベルニウ公爵!?」」」」
「あいつ………懲りてなかったのか」
「その上ベルニウ公爵が、最近頻繁に奴隷を買っていると裏ルートで耳にしました」
「その奴隷は………」
「屋敷に入った後、すぐに居どころが分からなくなるのです」
「いけにえ………ですか」
「おそらくですが」
「それと、損を出しているだけの商売なのに、何故かベルニウ公爵の金回りは極めていいのですよ。金の風呂に浸かっているという噂もあります。最後に決め手となったのは、うちの工作員が瘴気を感じ取ったという事実です。あの邸内には悪魔がいるようです………詳しい事は分かりませんが」
「あーまあ、その辺はこっちで調べるから大丈夫、だろ?リリジェン」
「それなんですけど、悪魔のランクが分からなければ誰を呼んだらいいか」
「誰かに来てもらって調べられないか?」
「分かりました、最初に呼んだキントリヒさんに来てもらいましょう」
わたしは異空間病院への通路を開きます。
1人で中に入り、悪魔棟へ。
受付のナースにキントリヒさんが今空いているか聞きます。
「食事をしに中庭に行ったみたいだけど?」
「ありがとう、行ってみます」
私もおなかが空いていたので、久しぶりに購買(という名の商店街)でお弁当を貰います。呑気なことするなって?
食べてるキントリヒさんをジーっと見る訳にもいかないじゃないですか。
キントリヒさんはすぐに見つかりました。
「キントリヒさん!ご一緒してもいいですか?」
「おや、我が弟子じゃないか。構わないとも」
お弁当を広げながら話しかけます。ちなみに唐揚げ弁当です。
「また例の星で悪魔が出たんですけど―――これこれしかじか―――でして」
「ああ、どう考えても金魔だろうね」
「やっぱりそう思われますか?それで、
「で、私が判定をすればいいのかな?」
「お願いできませんか?そこが分からないと動きようがないんですよね」
「いいだろう………対価は頂くがね」
「良かった!お願いします!」
そのあとは2人で黙々とお弁当を食べ、食べ終わるとキントリヒさんは外出許可を取りに行きました。ああ、そうでしたっけ。
異空間通路を通ってレフレント星に戻ります。
「戻りましたー。先日のキントリヒさんに来てもらいましたよ」
「えらく遅かったの?」
「キントリヒさんがお昼ご飯だったもので。ついでに私も食べてきました」
「それだけ聞くと牧歌的じゃのう」
「ではですね、キントリヒさん。前回のリルと同じ人、同じ屋敷なんですけど」
「あのブタ親父、懲りていないのだな。どれどれ………」
みんなが息を飲みます。
「うん、発見した。あの金魔、中級だな」
「それなら………」
「私がブレイク可能だね。今回は本人の了承は?」
「取らないと厄介な事になりますよね?」
「まあ~私なら裏で動いて嵌めようとするだろうね」
「それは、嫌です!了承を取りに行きましょう!」
「1日かけて奴の行動パターンを探ってみるから、しばらく待ってておくれ」
「その間でも会話は可能ですか?」
「大丈夫だ、見てるだけだからね。ただ視線に敏感そうだから注意しないと」
「あ、はい控えますがこれだけ」
「何だい?」
「今回の対価は?」
「………考えておくよ」
私は、ベリルたちがいる方へ戻ります。
状況を話すと、フィーアが
「俺、リリジェンにテレポート要員として付いて来てもらって、先に奴隷の供給ルートを潰しにかかろうと思うんだけど、どう思う」
「いいのではないか?説得要因にもなるであろうよ」
「後ギルマス、これはお上の方は………?」
「もう知っておる。エイル殿は代理でもあるんだ」
「よし、説得要因は増えるな」
私はテレポートの準備をします。まずは盗賊ギルドですね。
~語り手・フィーアフィード~
リリジェンに『テレポート』してもらって、盗賊ギルドの入口に立つ。
リリジェンには外で待っていてもらう。少し離れてもらっておいた。
盗賊ギルドの内部に入る。狭い通路と狭いカウンター。カウンターの向こうにそれぞれ役割の違うギルド要員が立っている。
役割の表示はない、みんな間違えては覚えていくのである。
俺は奴隷絡みの案件を扱う奴の前に着いた。
「ベルニウ公爵の奴隷購入について、話を流してほしい」
「どんな話だ?」
ちらりと金銭受け渡し皿に視線。金貨で1枚放りこむ。
「話しな」
「ベルニウ公爵の買う奴隷は悪魔に捧げられる。奴はもう国の上層部に目をつけられているから、潰されるときに一蓮托生になりたくなければもう売るな」
「ふむ」
視線。もう1枚金貨、変化なし。もう1枚放りこむと。
「任せときな、兄弟」
「頼んだぜ、兄弟」
そうして俺は、盗賊ギルドを後にした。
「リリジェン、待たせたな。次は奴隷市場グレイプニルだ」
「分かりました、飛びますよ!」
今度はリリジェンも一緒にグレイプニルに入る。
店主を探して奥に入る。
いた。相変わらずの目つきの悪い男だ。
「ベルニウ公爵の事について話したい」
「………あんたらか、奥に来な」
奥の応接室に案内された。席に着く。
「で?何の話だ?」
「気付いてるかもしれないが、奴の背後には悪魔がいる」
う~~~と唸る店主
「やっぱりか、規則性のない安い奴隷ばっか買いやがって」
「んでもって、お上はもう、そのことに気付いてる」
「んだとう?あの野郎………もう売らねえぞ」
「売らないって約束してくれるかい?」
「売らねえよ、お上には逆らわない主義なんだ」
「その言葉が聞きたかった。じゃあ、おいとまするよ」
外に出たら、リリジェンがはーっと息を吐いた。
やっぱり、ここの空気は合わないらしい。悪いことしたかな。
ギルドに戻ると、酒場にベリルとクリスの姿がある。
「おーい、どうした?」
「おお、キントリヒ殿がな、全員ここに居ても気詰まりだから明日の昼まで解散でいいと言われたのでな、こうして夕食を取りに来ておる」
「マジか?ギルマスの部屋だろ?」
「ギルマスも退出しておったぞえ」
「笑えるな」
「リリジェン、顔色が悪いぞえ?どうしたのじゃ?」
「あー、奴隷市場をまた見せちゃって。思い出させたかな」
そう言っていると、リリジェンは給仕に火酒をオーダー。
運ばれてきた火酒を、一息に飲み干した。
酒宴の始まりだった。
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