第36話 三大欲求・黒幕探し
~語り手・エンベリル~
う~~~ん、ここ最近は暇であったなぁ~。
でも、それも今日までかも?しれぬ。
ルッツ(金魔)がブタ公爵の所にスパイに入って10日。
今日、とりあえずの報告が聞ける事になっておるのじゃよ。
これまでの間に冒険、と思わないでもなかったが自重した。
ただし日課は欠かした事は無い。
4時に起き、5時には鍛錬所に行き、6時には受付で挨拶、そのまま酒場へ。
ただし冒険には出ないので、好きなだけ酒を飲み、眠くなって拠点へ帰る。
もしくはシャービアンと
市街地に出て買い物などをすることもあったが………基本的には暇であった。
今日は途中報告が聞けるとあって、受付に行く足も速くなる。
「テフィーアっ!今日妾達は何時に来いとか言われておるか?」
「ああ、呼ぶから酒場にいろって言っとけって言われたわよ」
「何とも落ち着かん話じゃなあ」
妾は酒場に向かいかけて思い立つ。
………シャービアンも何ぞ情報を持っているのではないか、と。
妾は鍛錬所に引き返した。
~語り手・フィーアフィード~
ベリルはヒマしてるみたいだけど、僕はそうでもない。
小遣い稼ぎに、盗賊ギルドのお使いをこなしてるからね。
もしくは、場所の言えない暗殺者ギルドで訓練だ。
今日、ルッツがいったん帰って来るんだよね。
僕としては、再度の潜入はないんじゃないかと思ってる。
盗賊ギルドの『ウワサ』じゃ、ベルニウ公爵はもうおしまいだそうだし。
とうとう国王陛下の堪忍袋の緒が切れたんだってさ。
国の経済がおかしくなりかけたんだから当然だよね。
悪魔崇拝、召喚の罪で、良くて永世幽閉、悪ければ火あぶりらしい。
ルッツも逃げてくるだろう。
~語り手・クリスロード~
10日………もうそんなに過ぎましたか。
研究と実践の日々を送っていると日が過ぎるのも早いですね。
実践は、城の元練兵場を使っていたので、リリジェンと一緒になる事も多く。
お互いの邪魔にならないように交互に使っていました。
今日ルッツさんが戻って来るのでしたね。
何か有益な情報を持って帰れていればいいのですが。
何もなかった場合、国の公爵取り調べを待たなければいけません。
そんなことをしていては、黒幕に逃げられかねません。
今でもその心配をしているのですからなおさらです。
間に合えばいいのですがね………。
~語り手・リリジェン~
今日はルッツさんが戻って来る日です。
みんなはもう一回スパイしてもらうのは無理だろうから、実質これが最初で最後だろうと言っていますが同意見です。
フィーアによると、今回は王国も見逃すつもりはないようですし。
そんなところにいたら、一緒に捕まってしまいますもんね。
悪魔が召喚されるには色々な理由がありますが、少なくとも今回はルッツさんたちが呼ぶように仕向けたわけではありません。
なので今回は悪魔は見逃してもいいと思うのです。
何より、リアもシャービアンさんも、ルッツさんも「まとも」な悪魔でしたし。
さあ、朝ごはんは食べ終わりました。ギルドに転移拠点!
酒場では、珍しくみんながお酒を飲んでいません。どうしたんでしょう。
「おはようございます、どうしたんですかみんな?」
「おお、リリジェンか。まずは座るがよい」
そう言われたので私の指定席―――一番奥に座りました。
「呼ぶから待っておれといわれてのう。それでは酒も飲めんじゃろ?」
「ああ、なるほど。じゃあ私はそろそろ旬のリンゴジュースで!」
「あっそれ僕も!」
「私もお願いします」
「仲間外れは嫌なのじゃ。妾も!」
そのままわいわいと、今年のリンゴジュースの出来について盛り上がります。
それが終わった頃、なんとシャービアンさんが顔を出しました。
「お久しぶりです!今は鍛錬所で指導教官をしてるんですよね?」
「そーゆーこった。今回はベリルに呼ばれてきたぜ。席空いてるかい?」
みんながササっと場所を作ります。幻獣達も動きます。
「なぁ、ベリル。みんなして何飲んでるんだ?」
「パラケル名産、リンゴジュースじゃよ。しばらくするとリンゴ酒も出るの」
「へえ、じゃあ俺もそれひとつ」
「ところで何で、シャービアンさんがここに?」
「情報提供してもらうためじゃよ。ささやかながら見たものもあるとか」
「ああ、ここで話したらダメなやつですか」
「壁にメアリー障子に耳アリじゃ」
「壁に目あり、障子に耳ありですよ、ベリル」
「そうじゃったかの?」
シャービアンさんも加え賑やかにしていると、テフィーアさんがやって来ました。
「(こそっと)呼ばれてるわよー」
みんな急いで立ち上がって、ギルマスの部屋に向かいます。
ノックするが早いか、扉を開いていました。
そこには、にこやかなルッツさんが戻って来ていました。
もちろん、ギルマスもいます。
新しく追加されたのは軍務大臣ダン=フィレンラント侯爵。
これも顔見知りですね。私は軽くお辞儀をします。
「ルッツさん、首尾はどうでした?」
「ああ、あのオヤジから聞けそうなことは全部聞いたと思うで」
「教えて下さい!」
「了解や。ほんまかどうか分からんけど、エスパエル子爵家の一人娘ラーシアがオヤジに接触―――誘惑―――してきて、ねんごろな仲になったとか。
それで悪魔の話を聞いたんやと。
オヤジによると、正体は魔女らしいで?召喚方法もラーシアになろたそうや。
多分、ワイの召喚の時も黒ローブがおったから、それがラーシアちゃうやろか」
それを聞いてシャービアンさんが発言します。
「俺の時も、黒ローブがいた。顔を見たぜ。これだ」
シャービアンさんが空中に映像を映し出します。
ローブに隠れていて全部は見えませんが、整った顔の20代の美女です。
「エスパエル子爵の娘の顔で間違いない………」
重々しくフィレンラント卿が断言する。
エスパエル子爵領は、なんと隣町です。
「親は気付いてないのでしょうか」
「ないだろうな、実際怪しい動きもない」
「どんな魔女なのかとか、調べられればいいのですけど」
~語り手・クリスロード~
「あのう、提案があるのですが」
みんなの目がこっちを向きます。
「先日知り合った魔女の、クラリッサさんに調べてもらうというのは?」
「あ………思いつきませんでした。でもいいと思います」
「どれ、通話をつないでやるから、その女の情報を寄越しな」
私は素直に『記憶球』を作り上げ、シャービアンさんに渡します。
「どれどれ………低級の魔女だな。目立たないから情報収集にはうってつけだな」
「調べて欲しい魔女の顔を、もっと詳細に知りませんかフィレンラント卿」
「知っている『低級無属性魔法:ヴィジョン』」
空中に長い銀髪、金色の瞳の美女が映し出されます。
この情報も加えて、クラリッサさんにお願いしましょう。
画像を『複写』で、紙に写し取ります。
「ちょっと行ってきます」と言って、クラリッサさんの住む町に転移拠点。
クラリッサさんの衣料店はもう開いていました。
「クラリッサさん、いますか?」
中に入って呼んでみると、2階からぱたぱたと足音がします。
「クリスロードさん!いらっしゃい。目的はお買い物ですか?」
「いえ、実はあなたにしか頼めない事がありまして」
「………魔女関連のお話なら、奥の部屋にどうぞ」
私は彼女の仕事場らしい奥の部屋に案内されました。
壁には色んな呪物。中心には紡績機があります。
「実は、かくかくしかじかで。エスパエル子爵家のラーシアを探れませんか?」
「………召喚主を堕落させ、奴隷を生贄にして、魔帝に捧げようとしたんでしょう」
「魔女としては普通の事かもしれませんが、ベルニウ公爵はまずかったです」
「ええ、王の血縁を狙うなんて………何を考えているのか」
「わかりました、魔女の友人も増えたので………探ってみます。
3日後のサバトまでお待ちくださいな。4日目の朝にはお話しできます」
クラリッサさんはそう請け負ってくれました。
「それでは4日後にまた来ます」
「あの………もっと頻繁に来てくださってもいいんですよ。
色々な織物を考えていますから………」
「嬉しいですね、お言葉に甘える事にします。今日はこれで」
「はい。あなたの頼みだから引き受けたという事を、覚えておいてください」
「それは………ありがとうございます」
私は深々とお辞儀してその場を去った。
帰って来て、引き受けてもらったことを報告します。
4日後になる事を報告したら、皆嫌そうでしたが、了承するしかありません。
4日後の朝。私達はギルマスの部屋に再集合していました。
私は、今から情報を聞きに行ってきます。
転移拠点。町はずれに出ます。
プリシラに運んでもらって、町の入口付近にある衣料店に到着します。
まだ開店前でしたが、ノックすると扉が開き、入れて貰えました。
この前と同じように仕事場へ。
違うのはコーヒーを入れて下さっているところでしょうか
「できるだけ、調べてきました。彼女は魔界の威を世界に広めるために
召喚陣をバラまいて回っている、タカ派の一派でした。
ここ最近の失敗で、お尻に火がついているようです。
身分を捨てて逃げる算段をしていますね。
能力なんですが、特異な魔法は召喚魔法と雷撃魔法です。
かなりの腕だそうですよ。それと、アイアンゴーレムが護衛に1体」
「わかりました、急がなくてはいけませんね。逃げる日にち等は分かりましたか?」
「ええ、明日の夜です。ご武運を」
「あと、魔女は対価を要求するのでしょう?これではいけませんか?」
差し出したのは、真珠の髪飾り。上品なものです。
「これを、わたしに………?」
「気に入りませんか?」
「いいえっ。対価以上のものを頂きました」
「良かった。そのうち、つけているところを見せて下さいね」
「はい………」
転移拠点でギルドに入り、ギルマスの部屋に戻ります。
「………と、こういう事です」
「明日の夜か。リリジェンに全員に『暗視』をかけて貰って潜むかの」
「予定を変更されちゃたまらないから、今から近所で張り込みをしよう」
「そういえば、魔女は生死問わないのですか?」
リリジェンの発言にフィレンラント卿は渋い顔で
「いや、出来る限り生きたまま捕えてくれ」
「善処します」
「最悪、私が『リザレクション(死からの復活)』します。手加減は要りませんよ」
全員それでホッとしたようです。
「では、今から張り込みに丁度いい場所を探しに行くかの」
「俺もついて行くぜ、ベリル」
シャービアンさんが申し出てくれます。ベリルが心配なのでしょう。
「おう?分かった」
「では出発しましょう」
馬車は目立つので、幻獣に各々乗り込みます。
全速前進!
その日のうちに、隣町に辿り着きました。
チーム内通話ができるマジックアイテムで連絡を取りつつ、逃げる事の出来る道を幾つか見つけました。3つです。
一番可能性の高い、人気のない廃街道に私とリリジェン。
森の中は、シャービアンさんにお願いしました。
表街道はベリルとフィーアです。
標的が見えたらリリジェンとシャービアンさんが『テレポート』で全員を集めます。
張り込んで次の日の夜。
人気のない廃街道に馬車が来ます。紋章などは見えません。
「『中級無属性魔法:シースルー』………馬車の中を見ました、アタリです!」
リリジェンは通信機にそう言うと、シャービアンさんにベリルとフィーアを連れて来てもらうように頼みました。「おうよ」快諾してくれましたね。
~語り手・リリジェン~
みんなで、馬車の進路を塞ぎますが止まりません。強行突破を試みているようです。
「させませんよ、『中級火属性魔法:ファイヤーボール』」
私は音と光を強めに設定したファイアボールで、馬ではなく馬車を攻撃。
狙い通り、馬はパニックを起こして使い物にならなくなりました。
フィーアが、馬を馬車から外してやると、街道の先へ走って行きました。
「エスパエル子爵家の娘ラーシア!御用である!大人しく出てくるがよいぞ!」
ゆっくりと、馬車の扉が開いて、魔女ラーシアが出てきます。
何故かうつ向いていますが………?
「みんな、いけません、馬車から離れて!」
クリスさんの叫びに応じて私たちは後ろに下がります。
バリバリバリ!!虚空に召喚陣が出現し、そこから雷撃を身に纏ったサンダーバードが出てきました。それに、ラーシアが地面に放った鉄の人形が巨大化します。
苦しい戦闘になりそうですね………!
私はアイアンゴーレムの担当ですが、先にラーシアの魔法を封じましょう。
魔力石を1個空にするだけの強度で『初級無属性魔法:ミュート:10倍がけ!』
ラーシアが忌々し気な様子を見せて、走って逃げようとします。甘いです。
私は『中級無属性魔法:フィジカルエンチャント:スピード』をフィーアに。
驚異的な速さで、フィーアは魔女の前に立ちふさがりました。臨戦態勢です。
さて、アイアンゴーレムには物理はまず通じません。
一番有効なのは、雷系統の呪文です。
私は、攻撃を避けながら呪文を唱えます。また魔力石を1個空にしました。
多少怪我を負いましたが、クリスの回復で前回です。
「『上位風属性魔法:サンダーキャノン:4倍がけ!』」
かなり動きが鈍くなりました。これならいけそうです。
さて、サンダーバードの方ですが。
「地の精霊よ、我の願いに答えたまえ『召喚:精霊騎士(地属性)』!」
サンダーバードの弱点は、相克からいくと土。セオリー通りと言えるでしょう。
精霊騎士が加わって、ベリルとシャービアンさんとで、3トップとなりました。
精霊騎士は翼の担当、シャービアンさんが蹴爪の担当。ベリルは本体と相対。
こちらが攻撃するごとに、雷ダメージを受けますが、全部クリスが治します。
シャービアンさんが蹴爪を切り落としました。さすが上級悪魔です。
サンダーバードの悲鳴が聞こえます。ごめんね。
体勢を崩したサンダーバードは、精霊騎士に翼を片方潰されました。
もっともその時のダメージで、精霊騎士も霧散したのですが。
ここまでくると、ベリルが止めを刺す隙が出てきました。
最終的にサンダーバードは、心臓を抉られて霧散しました。
私のゴーレム戦ですが、結構怪我をしましたが動きが鈍っていたおかげで対処出来ました。クリスの治癒魔法の支援が大きいですね。
着実に雷魔法を打ち込んでいき、停止させることに成功しました!
さて、フィーアの方ですが………ミュート(沈黙)のかかった魔女なんて敵ではなかったようです。ですが無傷でとらえられるほど甘くはなかったようです。
ギャロップ(首絞めの紐)で気絶させてから、縛り上げたようです。さるぐつわも。
「これで、フィレンラント卿に引き渡せば、因縁にカタがつきますね」
私達はラーシアを引き渡し、解放されました。
後日談になりますが、ベルニウ公爵は温情で、生涯幽閉。
ラーシアは断頭台に消えました。見物には行っていませんよ?
エスパエル子爵家はお取り潰しだそうです。
能力はないとはいえ、色々悪魔関連で美味しい思いをしてたらしいので。
私は感慨を込めて、手にした「金の冒険者証」を見つめます。
さあ、行きましょう聖なる花を求めて―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます