第37話 聖なる花を求めて

 ~語り手・エンベリル~


 11月。冷気が心地良いのう、それに紅葉が美しい。

 じゃが、この11月は記念になるじゃろう。

 リリジェンがようやく(と言っても異例のスピードなのじゃが)金等級になった!

 ということは?―――聖なる花のある迷宮への通行許可が下りたのじゃ!


 で、現在手分けして出発の準備をしておる。

 妾とフィーアは情報収集。

 リリジェンとクリスは妾達が集めた情報に基づいて、買い物に出かける予定じゃ。


 妾は受付のテフィーアに資料を見せてくれるよう頼む。

 ふむふむ、100前になるが、踏破した冒険者がいるのじゃな。

 それによると―――


 最奥にドラゴン(地属性)がいる。花はドラゴンの背後の扉の先。


 飛行系魔法・水系魔法が、トラップゾーンでは使えない。


 幻獣は、トラップゾーンでは召喚出来ない。連れても入れない。


 との報告が記載されておった。

 ドラゴンじゃと?血沸き肉躍るのう!


 ~語り手・フィーアフィード~


 俺は盗賊ギルドに来ていた。聖なる花のあるダンジョンについて調べるためだ。

「ギルドで報告されているもの以外の情報ってあるか?」

 目の前の目つきの悪い男―――情報屋―――に聞く。

「金次第だな」金貨を2枚、皿に置く。

 するとこんな話を聞けた。


 植物モンスター、植物系トラップが多い


 最奥までは1本道である。


 宝箱などは一切ない。


 1本道を喜べばいいのか、宝が出ない事に舌打ちすべきか分からない。

「分かった、他に付け加える事は?」

「特にないね」

 肩をすくめた相手に、ひらひらと手を振りながら、僕は盗賊ギルドを出た。


 ギルドに帰って来ると、他のメンバーはもういつもの席にいた。

「情報の共有といこうか」

 3人が頷いたので、俺とベリルは得てきた情報を話し出した。


 困るのは術の制限もだが、幻獣を連れて行けないのが困る。

 クリスは歩く事しかできない。

 だがトラップゾーンで走らずにすむとは考えにくいだろう。どうするか。

 対処策は本人が出した。


「リリジェン『上級地属性魔法クリエイトゴーレム:ウッド』は使えますか?」

「ああ!なるほどです、ちゃんと使えますよ。ゴーレムを足にして下さい」

「ああ、確かに幻獣じゃないから関係なく使えるな」

「うむ、ちゃんと自分で対策を考えるとはな。一安心じゃ」


「ところで、トラップゾーンというのは迷宮のどの辺なんでしょう」

「資料を見た限りでは、序盤から中盤にかけてがそうらしいぞえ?」

 フィーアさん、先頭お願いしますね。

「ああ、任せとけ」

 僕の専門分野だからな。


「特に買い出しに行く必要はないですよね」

「食事の注文が必要じゃの」

「そうだな、片道10日。ダンジョンはそう深くないけど1日が目安かな」

「ではごはん屋さんを呼びますね」

 リリジェンは「呼び出し石」を掲げ―――「ごはん屋さん!カムヒア!」


「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」

 ピンクのフリル付きの傘をさした、黒ローブ姿のリザードマン?が降りてくる。

「ごはん屋さん!今回は私達の節目なんです。気合の入ったお弁当をよろしく!」

「おおっ!それでは張り切って選びましょうぞ!何日分ですかな?」

「11日分お願いします」


 それでは、とごはん屋は大きな食〇マークの袋―――どう考えても魔法の袋―――から弁当を取り出し始める。心なしかいつもより豪華でだな。

 お弁当をこちらが受け取る。

 するとごはん屋は「ご武運を、ですぞぉ!」と言い、尻を振りつつ去っていった。


 ~語り手・クリスロード~


 では、このまま出発しますか?用事が残ったりはしていませんか?

 ないようです。ではこのままダンジョンに向かいましょう。

 いつもと変わらないやり取りをしながら、馬車は走ってゆきます。


 ………迷宮に着きました。名残惜しいですが、一度幻獣達を帰します。

「クリスさん、ゴーレムの種類はどうします?」

「ここは植物のダンジョンのようですから、ウッドでお願いします」

「わかりました。『上級地属性魔法:クリエイトゴーレム:ウッド』」

 リリジェンが作り出したゴーレムの主人設定を変えて、私のいう事を聞くようにしてくれました。ありがとうございます。


 さて、ダンジョンの入口は………何故か通路の左右の壁が紅色ですね。変な突起が生えているように見えます。フィーア、これは罠ですか?

「多分、何かの条件を満たすと、左右の壁に挟まれると思う」

 解除方法は分からないのですね、分かりました。


 何が起こるかはすぐ分かりました。リリジェンが何気なく突起を触った瞬間、私達は通路の壁に張り付いていた植物に挟まれたのです。

 リリジェンが武器をつっかえ棒にしていなければ、捕食されていたでしょう。

 ベリルがあわてて植物を切り裂いて無力化していきます。

「ハエトリソウか何かかよ………」

 フィーアがぼやいています。全くですね。


 次のフロアでは、湖のほとりに出ました。

 飛行系魔法・水系魔法が使えないので泳ぐしかありませんかね。

 ゴーレムを木にしておいて正解でした。浮くからです。

 おそるおそる泳ぎ始めた瞬間。

 水からザバンと何かが飛び出してきたと思ったら、ホヤの様な形の頭でフィーアを包み込み、また水中に戻りました。フィーア!?


 リリジェンとベリルが潜って救出に向かいます。私には何もできませんね。

 そのうち、茎?を切り離され無力化されたホヤモドキが、次々水面に浮かびます。

 3人全員が、空気を求めて水面に上がって来ました。助かったようですね。

 また襲ってこられたらたまらないから、と3人は攻撃の為に潜っていきました

 大量のホヤモドキの残骸。全部片付いたようですね。


 ~~語り手・リリジェン~


 水のフロアを何とか抜けて、服に『ドライ』をかけた後入った部屋は、モウセンゴケを巨大化したようなのが、獲物を探して触手(と粘液で光る葉)がウロウロしている空間でした。ダッシュで通り抜けましょう!


 走り出して最初は振り切れていたのですが、クリスさんに粘液まみれの葉がぺたり

 とくっつき、その株のある位置まで吊り上げられてしまいます!

『低級風属性魔法、ウィンドカッター!』

 茎をスパンと切ると、落ちてくるクリス。慌てて受け止めます。

 

 粘液というよりトリモチにとらえられているような感じ。

 ここを安全にしないとはがしている暇はありません。


 それぞれの方法で、葉をかわしながら、茎を切断していきます。

 みんなどこかに葉がくっつく惨状になりましたが、何とか掃討完了。

 その後は助け合って葉を体から引きはがしました。

 残ったトリモチ?は『ドライ』で乾燥してボロボロと取れることが判明。

 後に引かなくて良かったです。


 次の部屋は通路になっています。何かあるようには思えないのですが―――?

 フィーアが魔法の袋から1m程の棒を取り出して、あちこち叩いています。

 床の一画を叩いた時でした。かぱっ、という音と共に落とし穴の蓋が外れました。

 覗き込んで見ると、それほど深くはないのですが、そこに液体が溜まっています。

 適当にさっきの葉のかけらを投げ込んでみると、じゅう、という音が。

 みるみるうちに溶けてしまいます、殺意が高いですね。


 フィーアは落とし穴を飛び越えて、もう一度床をコンコンと。

 かぱっと次の落とし穴が開きます。ええええ!?

「あーこれは飛び越えて行けって事だな。落とし穴が見えるように、先行して落とし穴を開けていくから、頑張ってジャンプして来い」

 そんなにこやかに言われても。こういうプレッシャーには弱いんですよ私。


 ほら最後の穴に落ちた。

 何て言ってる場合じゃありません!激痛とジュウジュウという音がします!

 ベリルに引き上げて貰うと、足が酷い事に。

 クリスの『治癒魔法:回復×2』で、なんとか見れるようにはなりました。

 それ以上はここでは望めないので、先に進みます


 次の部屋は………ええと、ゴーレムの芋掘り?

 ゴーレムたちが地中に埋まっている何かを引き抜こうとしていますが?

 1体が引き抜きました。

「ぎゃあああああ!!」

 凄い衝撃が精神の方に来ます、これはマンドレイク!

 他のゴーレムたちも続こうとしています!

「みんな耳を塞いで―――!」

 

 結果。MPポーションを使って回復する羽目になりました。

 精神力が0になると気絶しますので、誰も空にならなくて良かった―――。


 いつまでトラップのエリアは続くのでしょう?

 次の部屋の床は、植物が繁茂していました。

 つついてみても、何も起こらなかったので、フィーアがまず入ります。

 続いてベリル。足を入れて―――「痛いッ!!」

 ベリルは足を引き抜きました。フィーアが慌てて引き返してきます。


 ベリルは激痛を感じると訴えます。

 クリスの見立てでは、毒でも病気でもない。

 唯一『回復』が多少の効果が得られるそうです。

 ルーペを取り出して繁茂する葉を見ていたフィーアが答えを出しました。

 葉に極細の針がついており、触ると刺さるようになっていると。

「多分、ある程度の厚さのある服を着てりゃ平気だと思う」

 私はスカートですから、微妙なセンでしたね。


 クリスは、これを何とかするには、足を切り落とし再生するしかないと言います。

 肉に潜り込んだ針は、もう見えなくなっているそうです。

「構わん、やっておくれ」

「ベリル………分かりました「治癒魔法:局所麻酔」痛くありませんからね」

 クリスはバックパックからノコギリを取り出してきます。

 私もやり方は知っています。非力なクリスより私の方が向いているからと、クリスからノコギリを受け取って―――。


 ベリルは回復しました。新しい足には『局所麻酔』もかかってないので、元気に動いています。良かった。

「でも、ここ渡るのどうするんだ?」

 フィーアの問いに私は

「クリスと同じく、ゴーレムに運んでもらいましょう」

 と答えました。

「なるほど」


 私たちは、トラップのエリアを抜けたようです。

 制限されていた属性の魔法が、復活する感覚があるからです。

 そして、目の前にモンスターが現れたからです。

 それはドライアドとグリーン・マンに見えます。

 見えますというのは、彼らが明らかに理性がなく、暴走しているので。

 目が赤く光っています―――戦闘です!


 地属性の弱点は水属性!

 よって選択は―――『上級水属性魔法:コキュートス(全体):ダメージ増5倍』!

 これだけで、グリーン・マンは潰れました。お仕事終了?

 ベリルがドライアドに切りつけます(ベリルは水属性)

 最後に、よろめいたドライアドの背後から短剣が煌めいて―――フィーアが決着をつけました。あっけなかったですね………トラップよりこっちの方がマシです。


 戦闘中に、クリスが幻獣達を呼び戻していました。

 ホワイティちゃんに駆け寄り、抱きしめて頬ずりしてしまいます。寂しかった!

 召喚魔法を覚えて、自分で召喚できるようにしようかな………。

 みんなそれぞれのパートナーとスキンシップをはかっています。


 さて、最後の扉です。何故わかるのかって?

 両開きの鉄の大扉に、精緻な細工が施されている所の前だからです。

 その上、何者かの唸り声と、ずしんずしんという音。多分ドラゴンです。

「みんな、一筋縄ではいきませんよ!最後の決戦です!付いて来てくれますか!?」

「当たり前だろ、僕はあんたの目的に惹かれたんだからさ」

「さよう、さよう。聖なる花で患者が助かるまで離れぬぞ」

「共感もおおいにしていますが、私も聖なる花を持ち帰る役目がありますからね」

「みんな、ありがとう。ではいきます!」

 私は重い扉を開いた………!


 カッ―――!

 いきなりドラゴンがエネルギーブレスを吐きかけてきました。

 話ができないとか言う以前に、こちらを視認した途端に攻撃してきましたね。

 クリスがとっさに張った『上級光属性魔法:ルーンシールド(全体)』があったので難を逃れましたが、これは一所に集まってないと使えません。

 次から警戒が必要です。

 せめてもの支援に『下級無属性魔法:カウンターマジック×幻獣を含めて全員』をかけます。これで多少はブレスに抵抗しやすくなるはず。


 右腕にベリルが、牙にクリスを乗せたまま巨大化したプリシラちゃんが。

 左腕を探すのはフィーアです。え?私ですか?ちゃんと役目がありますよ。

「『中級無属性魔法:ウィークポイント(弱点発見)』」です。

 弱点は………目と口の中。そして逆鱗の位置も捕捉しました。

「みんな、目か口の中が弱点です!私は逆鱗を狙います!」

「「「了解!」」」

 リエラちゃんに乗ったベリルが、目をフラムベルジュで突き刺します。

 フィーアは投げナイフで、ブレスの兆候が出た瞬間に喉を貫きました。さすが!

 プリシラちゃんはもう一つの目を狙っているようです。

 

 そして私は、ドラゴンの真下に来ました。逆鱗はお腹だったからです!

 まず、『中級無属性魔法:フライト(飛行)』で、逆鱗がある位置まで飛行。

 その後、逆鱗をハルベルトで突き刺します。

 ドラゴンが凄い咆哮をあげますが、私は逆鱗をさらに深くえぐります。

 あまりの暴れように、みんなが一旦後退します。

 私ももちろんそれに合流、そして―――

 

 クリスが『召喚術:氷の女王』を召喚しました。クリスが召喚した精霊が、吹雪でドラゴンを凍りつかせて動きを鈍らせます。私も乗りましょう。

 「『上級氷属性魔法:ブリザード×4倍ダメージ』!」

 さっきから魔力石使いまくりですが………気にしなくていいでしょう!


「さっさと往生せい!」

 ベリルが口から喉を刺し貫いた。ドラゴンはゆらりと揺れ、倒れそうになりながらも、こちらへ向かってくる。

 私はホワイティちゃんに頼んで、ドラゴンの頭の上まで行ってもらった。

 『中級無属性魔法:フィジカルエンチャント(パワー)×10倍』

 竜の脳天をハルベルトが叩き割る。


 そしてそれが―――ドラゴンの最期だった。


 全員が集まり、私とクリスさんから治癒魔法を受ける。

 それが終わると、いよいよ花の咲く空間へつながるであろう扉を開くとき。

 慎ましい白い扉を、促されて私が開けた―――。


 美しい花だった。純白の百合。ただ茎と額だけがプラチナシルバーで………。

 これが聖なる花・アンジュ。

 私はずっと持っていた保管ケースに全ての花をしまう。

 もちろん、ケースの一つはクリスさんのものだ。


 私はみんなに、すぐに治療して戻って来るので、城に帰っていてくださいと頼む。

「どうなったかちゃんと映像を見せに来い」との声を背に私は帰還する。


 ♦♦♦


 治療が終わり、私は決意を胸に、みんなの集まる応接室にテレポートした。

「みんな、治療は成功です!」と言って空中に映像を出す。

 無残だった姫君は、おとぎ話のお姫様の様に美しい少女になった。

 碧眼をひらき、ありがとう、と囁くところまでで、映像は終わる。

「しばらく療養してから、身の振り方を考えるそうです。呪いをかけた輩もいるはずですから、祖国は危険でしょうし」


「リリジェンが護衛について行けばどうじゃ?」

「無理ですよ、私、みんなが死ぬまではこの星に留まりますし」

「えっ?帰るんじゃあないのか?」

「私はいらない子ですか?」

 茶目っ気たっぷりに微笑んで見せる。

「いや、そんなことないよ、ビックリしただけで」

「先輩に言われたんです。エルフの寿命なんかリリジェンには大した事は無いのだから、最後まで付き合ってあげたらって」

 全員の顔を見回して

「私はここに居てもいいですよね?」

「「「当然っ!」」」

 私は―――ああ、私は今、経験したことがないぐらい幸せです―――。


 ♦♦♦その後♦♦♦


 クリスは中年になる前に冒険者を引退、クラリッサさんと結婚。

 幸せな家庭を築いた。


 フィーアは生涯現役で、女性には興味を示さなかった。

 4000歳の大往生だった。


 ベリルは、最も数奇な運命を辿ったかもしれない。

 彼女は夫となったシャービアンと添い遂げるために氷の精霊となったのだ。

 今は魔界にいるはずだ。いつか再会できるだろうか?


 そして私は異空間病院に帰った―――。

 またいつか、こんな時間を過ごせるだろうか?

 それは、今はけして答えの得られない事だ―――。


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 ここまで読んで下さってありがとうございます。

 その後のリリジェンについては「白と黒が聖女の周りで踊る旅」をご覧ください。

 もう完結したお話ですが、リリジェンは重要人物です。

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聖なる花を求めて フランチェスカ @francesca

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