第31話 落ちこぼれの魔女
~語り手・エンベリル~
時間は6時。だが朝の気配は降り続く雨でかき消されておる。
要は梅雨入りしたという事じゃ。暑いわ蒸れるわでうっとおしい事この上なし。
妾は受付の前に来ておった。勿論依頼を探す為じゃ。
「テフィーアよ、何か丁度いい依頼はないかえ?」
「そうねえ………実は急ぎの依頼があるんだけど、敵の正体がまるで分っていなくてね。下手に貼り出せないでしょう?困ってるの」
「なるほどの。1人を除いて金級の妾達なら不足はないだろうという事かえ?」
「そういうこと。依頼の内容は依頼書に書いてあるから、引き受ける引き受けないは後で教えてちょうだいね。急ぎだから、引き受けない場合早く教えてね」
「他のチームに依頼するためじゃな、分かった。取り合えず皆が来るまで待とう」
酒場の、いつもの席に座って葡萄酒を注文すると、妾は依頼書を読み始めた。
………なんじゃと?現地の官憲は何をしておるのじゃ!
そこそこ大きな町で、毎日必ず一人ずつ子供が消える。
その犯人は魔女で、両親などに迷いの森の魔女だと公言している。
その他手掛かりはまるでなしじゃと!?本当に官憲は動いておるのか?
テフィーアが急ぎという訳じゃ。
受付に言ってテフィーアに聞いてみた。情報ぐらいないのかの?
「それがね、そこら辺の土地を持ってる領主どうしの折り合いが悪くてね」
「………それが何か関係あるのかの?」
「その街って、領地の境目。境界線上にあるのよね。それでどっちの物かっていう話でまた大ゲンカして………喧嘩になるんでどっちからも騎士団が派遣されてないの」
「はあ?何じゃその情けない体たらくは………住民が可愛そうじゃな」
「そうなのよね………」
「まあここで言っていても仕方がない、仲間にもそう伝えておく」
最初に来たのは、フィーアの小僧じゃ。
「よう、ベリル、いい依頼あったか?」
「いい、というより、引き受けなければ良心が痛む類のものじゃな」
「ふむふむ………何じゃこりゃ?官憲は何してる?これじゃ自警団以下だ」
フィーアに、妾はさっきの情報を伝える。
「マジかよ………さすがに引き受けないと寝覚めが悪りぃな。ところでその領主どもには町から陳情ぐらいしたんだろうな?」
「それはテフィーアに聞いておくれ」
「テフィーアー?」
「今度はどうしたの?」
「いや………ってことで疑問に思ってな」
「確かに両方が陳情を受けたでしょうね。でも、先に片づけた方が本物の領主じゃーって言って、足の引っ張り合いしてるはずよ」
「………無能ってレベルじゃないなそれ。事が終わったら王国にチクろう」
「いいんじゃない。あなた達なら、軍務大臣に直接陳情できるでしょ?」
「そりゃ、前に依頼をこなしたからな」
「………ってことだったぞ、ベリル」
「妾も、国に訴えるのが正解じゃと思う」
「どうしたんですか?深刻そうな顔をしていますが………?」
おお、クリスか。
「実はこの依頼なんじゃがどう思う?」
クリスは眉をひそめた。
「受けるのは当然ですが………何故、冒険者に依頼が?普通官憲の仕事でしょう?」
それに関しては、妾達が皮肉を交えつつ現状を教える。
「そうですか………それに対しては後で軍務卿、ダン=フィレンラント卿に陳情するとして。………原因の魔女を捕まえないといけませんね。これを出した依頼人は誰なんですか?」
「そう言えば聞いておらんかったの。テフィーアに聞いてみてくおくれ」
「テフィーアさん。この依頼書なんですけど、依頼したのは誰なんですか?」
「ああ、それね。依頼を出したのは自警団のトップよ。自分たちでは止められないと、凄く落ち込んでいたわよ」
「そうですか………」
クリスは帰ってきた時、強い焦燥感を感じておるようじゃった。
~語り手・フィーアフィード~
クリスまで難しい顔になったな。あ、リリジェンが来た。
「どうしたんですか皆さん?空気が重いんですけど………」
「まあ、これを読んでみい」
「………受けるのには異論ありませんけど、これって官憲の仕事じゃないです!?」
「それがな………というわけでな」
「な、情けない………終わったら絶対通報ですね」
「受けるなら言ってくれとテフィーアが言っておったぞ」
「みなさん、受けるでいいんですよね?(全員の無言の頷き)」
「テフィーアさん!これ、受けます!」
「問題は行くのに時間がかかる事だな」
僕が言うとみんなが頷いて、難しい顔で考え始める。
「4日はかかる場所だからのう………」
「今は梅雨ですから、幻獣に乗って駆け抜けるには難がありますね………」
「夏なら即OKっていうんだが 」
「ここでうなっていても、何も結論が出そうにありませんし、馬車で行きましょう。全速前進させれば縮むかもしれませんよ」
「乗り心地は悪そうだが、折角の魔法の馬だ。それでいこう」
「なら、お弁当は3日分にします?」
「いや、3日で行けると決まったわけじゃないから。4日分必要だろ」
「わかりました。お弁当屋さん、カムヒア!」
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」
歌いながら空中からゆっくり降りてくる「ごはん屋」これ、魔法なのか?
「どうしましたか皆さん、顔が暗いですぞぉ。そんな時はご飯を食べるのです」
自分で「さささっ」という擬音を入れつつ、全員におにぎりを配る「ごはん屋」
「いやあんまり食欲がな………ってうまい!」
おにぎりをかじってみると、塩むすびなのになんといううまさ。
他の連中もびっくりしている。にわかに和んだ空気になる僕たち。
「もぐもぐ………お弁当屋さん、今回は4日分でお願いします!幻獣達も入れて!」
「おお、改めて見てみれば、白虎のお嬢さんもおいでですな!任せて下さいませ!」
キュピーンとメガネを輝かせて、「弁当」を取り出す「ごはん屋」
幻獣達のごはん(主に肉)も1個ごとに肉が違うようだ。
そうしてごはん………弁当を置いて、「ごはん屋」は帰って行った。
「今後もご贔屓に!喜びの舞!」
尻尾をフリフリ踊りながらだが。
そして、弁当を魔法の袋に押し込み、あわただしく僕達は馬車に乗る。
今回は、夜昼で担当を交代しながら、寝るのも馬車の中だ!
~語り手・クリスロード~
びりっ。「あっ」
朝の着替えの時に、やってしまいました。長年愛用してきた肌着だったのですが。
「どうした、クリス」
「肌着を破いてしまいまして。私は敏感肌なので、質のいい肌着がないと上の服にかぶれるんですよ。予備を持ってきたら良かったのですが」
「取り合えず、町まで我慢するしかねえなあ」
「そうですね………仕方がないので上着を着ます」
なんと2日後には街へ到着出来ました。
一応の依頼人である自警団に向かおうという事になりました。
ところが、ちらほら店のある所を歩いていたら―――「男性の服も女性の服もオーダーメイドできます。着心地の最高な肌着、取り扱っています」と紙の貼られている福屋さんを発見。
すでにだいぶかぶれているので、だめで元々。そこに寄りたいとお願いしました。
かぶれている所を見せたら、みんな「うわぁ」と言って誰も反対しませんでした。
お店に入ると、この店の女主人らしき人が姿を現します。
とても綺麗な人でした。気品というか、とても上品なのです。
容姿は、膝までのホワイトプラチナのロングヘア、優しい緑の瞳に和まされます。
ビスクドールの様な、柔らかさのある肌の人でした。
「オーダーメイドの御用ですか?」
「いえ、肌着が欲しいのです。普通の服を直接着るとこうなってしまうので」
上半身を少しはだけさせてみせると、まあ大変、と店の2Fへ上がる様言われます。
仲間たちも珍しいのかぞろぞろついてきました。
2Fは手作りの服を置いているのだそうです。
季節外れのものはカバーがかけられていますが、氷虎の毛で出来たタンクトップやアクセサリーなどが置いてあります。さぞ涼しいでしょう。
目的の物は、中央に置いてありました。
「長袖でないとダメですよね?はい、男性物の長袖です。下履きはいいですか?」
わたしはフィッティングルームに入りました。着込んでみます。
おお、これは………なめらかで柔らか。夏用だからか通気性もいいですね。
「下履きも試着させてください」
予想通り、そちらもすばらしいものでした。
「このまま着ていきます。上下3枚ずつ下さい」
「はい、わかりました」
「う~ん、急ぎの件が終わったら私も試着してみたいです。今度来ましょう」
さて、自警団に話を聞きに行きますか。実りのある話になればいいんですけど。
自警団から聞けた話。
子供たちは居なくなる前に、影法師の様な姿の女と話している事。
夜2時に消えてしまう事。それを親が見た事もあるそうです。
魔女の話は、魔女に聞けないかとクラリッサさん(さっきの店の女性の事のようです)を説得しているが、何も知らないと言われ続けている事。
影法師と話した子供を保護しているが、必ず2時には消えてしまう事。
それだけでした。
「………クラリッサさんに知っていることがないか、あったら話してくれないか聞くべきでしょう。彼女が魔女かどうかは、シースルーで監視してみないと何とも」
「分かりました、全員に『シースルー』をかけますので、今夜様子を見ましょう」
「手分けしよう、妾は消えてしまう子供をなんとかならんか模索する」
「僕は盗賊ギルドで話を聞いてくるよ」
「分かりました。明日の朝に、自警団の詰所で集合という事で」
私たちは三方に分かれる事になりました―――。
私とリリジェンは、クラリッサさんの店の前で潜み、『シースルー』です。
彼女は………確かに魔女ではありました。
ですが、勝手に箒がお掃除したり、食器が勝手に食事を作ったり………。
あとは、あの肌着はアラクネの糸で編まれた物だったようで、アラクネを召喚して糸を糸巻きにセットして、熱心に肌着をつくったり、です。
もう素直に話を聞いてしまいましょう、とリリジェンに言ったら。
朝にふたりがかえってきてからにしましょうと言われました。それはそうですね。
朝、店が開く前にその場を離れ、自警団の詰所に行きます。
フィーアとベリルが難しい顔をして、先に座っていました。
「妾の方は、ほとんど無駄じゃった。ただ、魔法は影法師にあった時点でもうかけられていたと思う。子供がここにやってきた時、既に魔力反応があったのじゃ」
「俺の方は、得体のしれない奇妙な家が森にできてるっていう話だけだ」
こちらの話をしたら、全員で話を聞きに行こうという事になりました。
全員で行き、私が先頭に立って昨日の話をして、のぞいたことを謝ります。
その上で子供達をどうしても助けたいので、何か知っていたら話して下さいと。
どうも自警団は高圧的に出たらしく、彼女は反感を持っていました。
やわらかく、子供達を助けたいだけだと話してみます。
彼女は何かに怯えているようで、泣き出してしまいました。
「もう、子供たちはサバトに献上品として連れて行かれてると思います」
「サバトは夜でしょう?間に合いませんか?」
「無理です。サバトに乗り込むのもやめて下さい。大変な高能力者もいますから」
「なら、この先の被害を無くしたい、その魔女の正体、明かしてくれんかのう?」
「………今夜、私も―――普段いかないんですが―――サバトに行って、確認してみようと思います………せめてもの罪滅ぼしに」
「罪滅ぼしではありませんよ。自警団に話をしても理解は得られなかったでしょう」
「クリスロードさん………ありがとうございます。必ず正体を見てきます」
そう言って彼女は、用意があるからと店を閉めて引っ込んでしまいました。
~語り手・リリジェン~
夜になりました。
今日は事件は起きないでしょう。自警団で待機です。
クラリッサさんも朝方まで帰ってこないそうです。
私は早朝まで、眠る事にしました。
6時に起きました。皆も起き出して来ています。
はやく、クラリッサさんの店に行きましょう。
店の前に行くと、クラリッサさんが裏口から入れてくれました。
台所に行きお茶を入れてくれると、真剣な顔で話し始めました。
子供達をさらった魔女は「影の魔女」と呼ばれている中堅魔女だそうです。
戦いになったら、ライトやホーリーライトで、まず影を消す事をお勧めされました。
「影の魔女の居所は、もしかして森の中の一軒家か?」
「えっ、なぜそれを?」
「盗賊ギルドで目ぇつけられてたぜ」
「フィーア、それなら早く行きましょう。相手が少しでも油断するように」
「はいはい、わかったよ」
私たちは森の一軒家に移動しました。
「シーンとしてますね。『シースルー』」
中を見て後悔しました。子供たちの死体を利用したと思しきものが、散乱していたからです。頭蓋骨のマグカップに、食べられたと思しき手足。
当の本人は2Fで高いびきです。
それを他の皆に伝えたら、みんなが殺気立つのが分かります。
「寝室に直接攻め込むぞ!狭い所で『ライト』で影を消しちまえ!」
戦いはフィーアの言ったようになりました。
なすすべもなく捕まった魔女は、自白させるために生かしてあります。
手足を縛り、特に目をおおった布は絶対取るなと念を押します。
勿論自警団なんかに任せません。冒険者ギルドに連れて行きます。
転移拠点………する前にクリスが何か言いたそうです。
「どうしましたか?」
「転移拠点の位置なんですが、この街にもひとつ設置してもらえたらと」
「クラリッサさんですか?」
「服の関係ですよ?服の」
「はいはい、わかりました。まだ3つもありますので、埋めていきましょう」
ではギルドに転移拠点!
今回は事後処理も大変そうですね。軍務卿には強く言っておかないと。
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