第32話 クラーケンは求めてない!
~語り手・エンベリル~
妾は自らの豊満な胸を、受付のカウンターに乗せておった。
別にセクハラとかではない。置いてそこに顎を乗せると気持ちいいからじゃ。
リエルが「くつろぐ鳥みたいなの」と言っておる。
確かに気分はそんなものかもしれんな。
「テフィーア、妾は昇級ポイントの高い依頼を希望するー」
「そういわれましても、ぽんころぽんころ転がっているわけでは………ん?」
「何かあったのかえ?」
「宝探しに海に出る、貴族の三男坊なんですけどー。その護衛が」
「………どこにポイントがつく要素がある?」
「敵がクラーケンなんですよ。彼は今までにもクラーケンの妨害にあっていましてね、そういう体質なんじゃないかと言われてます。良い人なんですけどね………」
「それでも宝は諦めきれんか」
「宝探しは男のロマンだ!と言ってて。幸い今までにも犠牲者は出てないので、みんな生温かく見守ってるんですけどねー」
「なるほど。しかしクラーケンか………このくそ暑い時期には合っておる………ではなく、強敵ゆえ、ポイントは確かに多く溜まるの」
「大丈夫な?あなたこの時期(8月)にはいっつも脳みそとろけてるから心配だわ」
「暑いのは苦手じゃー溶けるー」
「はあ、どうでもいいけど乳の上に頭乗せるのはやめなさい。一部の冒険者が凄い形相で睨んでるわよ。あー暑い」
「全ては暑さが悪い」
妾は受付から追い出されてしもうた。
もちろん、しっかりクラーケンの依頼書は持ったままじゃ。
酒場に場所を移し―――酒場は氷精の助力で少し涼しい―――依頼書を読む。
なるほど貴族の3男坊じゃが家に寄生しているわけではないのじゃな。
立派な考古学者じゃが、掘り出しに行くものに色物が多いだけか。
今回は―――尽きぬ金貨の財布。
古代の金貨ではあるが、尽きずに湧いて出てくるのか。
それは、研究の為にも欲しいじゃろうのう。
だが言いふらされても困る。
テフィーアが妾達に投げて来たのはその辺が理由かの。
しかし、探索に行こうにも、何故かクラーケンが出る。
過去にもそういう事があったそうじゃ。
彼がそういう巡り合わせなのだろうという事になっておる。
何かほかに理由がありそうじゃが………妾達にはまぁわからんな。
~語り手・フィーアフィード~
いつもの通り、先に来ているベリルに声をかける。
「ようベリル、そんなに顔しかめてるとシワができるぞ」
「エルフにそんなものできる訳なかろう2000歳が近づいてから言えい」
「リリジェンはそんな年ぶっ飛ばしてるはずなんだけどな」
「で、何なんだそれ」
ベリルから説明を受ける、なるほど。
しかしそいつ、考古学者として立派にやっていけそうだが色物に手を出すんだな。
男として分からん事も無いが。
「クラーケンか、お初の相手だな。船に取りつく触手はスーザンたちがいるから大丈夫だとは思うが、油断できる相手でもない」
≪運ぶのはワタシ達に任せてちょうだい!リエルは能力全開なんじゃないかしら?≫
≪もちろんですわ!海なのでしょう?エンベリルの意のままに動けますわよ!≫
「いや、油断はするなよ?災害指定のモンスターなんだからな!」
「そういうお主は結構乗り気のようじゃな?」
「そうだな………やっぱりロマンかな」
「男というのはこれじゃから(呆)」
~語り手・クリスロード~
「ロマンがどうかしましたか、ベリル」
「うおっ、プリシラ、足音もなく近寄ってくるでないわ!ビックリした!」
≪狼の手足だから、これが通常使用だぞエンベリル?で、ロマンとは?≫
「この依頼書を見よ」
私は依頼書を眺めます。なるほど、宝探し。ワクワクするものもありますね。
「良いんじゃありませんか?男のロマンに付き合うのも」
目標物は金目のものですが、出てくるものは古代の金貨。
その辺りがいいな、と思うあたりですね。
「それにクラーケンなら、丁度いいポイント稼ぎになるでしょう?」
「まあ、それはそうなんじゃがな」
私たちは特に白金等級を目指していませんが、リリジェンは金等級にならないとですからね。こういうのを受けるのもアリでしょう。
「それと、リリジェンが言いそうな事を先に言ってしまいますが」
「なんじゃ?」
「クラーケンは美味しいのでしょうか?」
ベリルとフィーアは悩みこんでしまいました。
個人的に考えていることを言いますと、タコやイカはタレを塗って焼くと美味しいのですし、クラーケンも美味しそうだと思うのですがね?
まあ、クラーケンはタコ(もしくはイカ)の超巨大化したモンスターですから食べられないという事は無いでしょう。大味かもしれませんがね。
獲る足は一本で十分な気がします。
~語り手・リリジェン~
冒険者ギルドの酒場に到着しました。
なんだか、みんなわいわいと楽しそうですね?
「おはようございます!何かありましたか、皆さん?」
「おお、リリジェンよ、この依頼書を見よ」
「海では初めての冒険になりますが………くらーけん、ですか?」
何だったっけ、そのモンスター?
「中ぐらいの船ぐらいはあるタコ………もしくはイカだな。初めてか?」
「はい、どうやって倒すんですか?」
「そうだな、俺の場合は、足を全部切って無力化する以外に無いんだが」
「そうじゃな、妾でもそうなるが………クリスはどうじゃ?」
「火属性の精霊か幻獣を出して対処します。私は水属性なのであまり使いませんが」
「私なら、どうなるんでしょう?」
「リリジェンなら、火属性魔法か、風属性の中の電撃攻撃にカテゴリーされるものを使えば倒せますよ」
「それだと、単体魔法では火は吞み込む火柱、雷は轟雷ですね」
「そうですね。多分前衛にベリルとフィーア、呼び出した火の精霊をつけて、リリジェンが魔法攻撃、私は補助というところでしょうか」
「せ、責任重大ですね………」
「多分、そうなると思うので覚悟はしておいてください」
「わかりました」
「さて………では皆、受けるという事で良いな?」
「はい、テフィーアさんに言ってきますね」
と、ベリルから依頼書を受け取って受付に走る私。
「テフィーアさん。これ、やりますので受理してください」
「了解!はい、コピーした物よ。原本は預かります」
「はい!ありがとうございました!」
「正式に受けてきましたよ」
「では港町ベリニューに出発じゃ!」
「大体3日、往復6日だな」
「わかりました。では、お弁当屋さん、カムヒア!」
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」
フリルの付いたピンクの傘をさし、食〇マークのついた大袋をかついだ、顔の見えないリザードマンが空中に出現し、ゆっくりと鼻歌と共に降りてきます。
私はごはん屋さんに軽く現状説明しました。
「むうっ!承りましたぞ!しかしそれなら、保存食の準備もご入用では!?」
「そうかもしれません、みなさんどうですか?」
「あー。何日かかるか分からんな、確かに」
「遭難する可能性もあるぞえ」
「帆がクラーケンにやられてしまったら事ですね」
「保存食をお求め?現地にて「ごはん屋呼び出し」して下さってもいいですぞぉー」
「あ、そうだな。なら保存食は10日分ぐらいでいいだろ」
「しかと承りましたぞ!」
ごはん屋さんはいつものように、袋の中からお弁当と保存食を取り出します。
それを収納して代金を支払い、食料調達終わりです!
「それでは!またご贔屓にぃ~」
ご飯屋さんはクルクルと舞いながら、ギルドから出て行きました。
相変わらず謎の人(リザードマン)です。
期限ぎりぎりの受領だったので、気持ち急いで向かいます。
その結果、3日目の早朝には到着しました。
えーと、依頼書によると止まっている宿は………あれですね!
仕方がないので、宿の扉が開くまで、馬車の中でゴロゴロして過ごします。
すると、宿の扉を開けると同時に、車椅子の男性が出てきます。
あれ?依頼書の人物の特徴と、車椅子以外は合致するんですけど………。
一応声をかけてみましょう「すみません、クローブさんではないですか?」
「うん?そうだよ?君は―――?」
ええっ車椅子の人だなんて聞いてませんよ!
「私たちは、クローブさんの出した依頼を受領してここまで来ました」
頷くチーム13の面々。
「おお!やっと来たか!いやぁ、待ってたよー!よろしくな!」
ぐっ、と親指を立てるクローブさん。
「じゃあ、早速出発するか!大丈夫だ、メンテナンスは毎日やってるから」
「話が早いのは、妾達にとっても良い事じゃの」
「じゃあ早く乗ろうぜ」
フィーアが指さすのは中ぐらいの帆船。車いすでも大丈夫な様に工夫してあります。
「そうですね」
全員で手伝って、出港準備完了!
「おーし、行くぞー!目指すのはクリマラ島だ!」
「「「「おー!」」」」
出港して2日。クローブさんがこちらの食事を絶賛したりしつつ、進みました。
「クラーケンが出たぞー!!」
見張りを担当していたフィーアが警鐘を鳴らします。
「本体が水の中だから、俺とベリルが足切って回る!クリス!精霊を援護にくれ!リリジェンはいつでも本体に術を食らわせられるようにしててくれ!」
「分かりました。『召喚魔法・火・サラマンダー!』」
「了解です………!」
しばらくして。「ぎぃいいい!!!」という声?と共にクラーケン(どっちかと言うと私にはイカに見えました)が浮上してきます。
「『上級風属性魔法:轟雷!!』精神力10倍がけ!!」
クラーケンは徐々に動かなくなって………退治完了です。
「す、すごいな、何だいあんたら、めっちゃ強いじゃないか!」
「そりゃーこれでも金等級だからな」
「金等級!?自分で出しててなんだが、こんな依頼に何で………」
「唯一の銀等級に、クラーケン退治でポイントを稼がせる為じゃの。妾達にも事情というものがあるんじゃよ。そなたの宝探しと同じでの」
「そう言われると何も言えないが………この後もよろしく頼む」
「任せておくがよい」
その後は、ちゃっかり確保してあったクラーケンの足を肴に飲み会が。
大味でしたが、イカゲソ焼きとほとんど変わらないな、と思いました。
自分で獲った獲物に近いので、美味しかったですけど。
その後、2回のクラーケンの襲撃の後に目的の島を発見!
ちなみに何でこんなにクラーケンの襲撃が多いかですけど、船乗りだったおじいさんが子供のクラーケンを殺して以後だそうです。
呪いなら解きましょうか?と言ったらビックリされました。解けるものだと思ってなかったみたいです。解いたら、急に航海がスムーズになりました。
目的の島に上陸します!目標は島の中央の忘れられた神殿跡!
ほとんど、マングローブの迷宮でした。大きな川だとワニがいます。
無益な殺生をする気にはなれなかったので、ひたすらマングローブ林を進みます。
目的地に着くとフィーアの出番。
さくさくと仕掛けの類を無力化していき―――目的物とおぼしきものを発見!
「これじゃないか?軽く振ると際限なく金貨が出て来るぞ」
「え、マジで!?」
「あんたがここにあるって予想したんだろうが」
「そうだったな………ありがとう、これで娘の病気が治せるよ」
「………そういう事情があるなら先に言えよ」
「湿っぽいのは嫌だろうと思ってな」
「まあ、よいではないか。これからはクラーケンに悩まされなくなるのじゃし、研究に精を出すがよい。楽しみにしておるぞ」
「「良かったですね。船長さん」」
帰りの航海はスムーズに進み―――多い場所なのは変わらないので―――1回クラーケンに絡まれたりしつつ、港に帰りつきました。
後日、クローブさんが元気になった娘と手料理を振る舞うから遊びに来いと言ってくれたことが、一番嬉しかったです!
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