第19話 ノーサンキューサプライズ 1

 ~語り手・エンベリル~


 いつもの習慣を終わらせて、いつものように6時に受付に顔を出した。

「おはよう、テフィーア。何ぞニュースはないのかえ?」

「あ。エンベリル!大変よ!あなたたち………というかリーダーにって話なんだけど、リーダーってリリジェンちゃんよね!?爵位が授与されるって話よ!」

「………はぁ?」

 思わず素で返したわ!なんじゃ、それは?


 テフィーアは声をひそめて

「お貴族様の恥を、沢山見たんでしょ?もう取り込もうってつもりじゃない?」

「見たというか………妾達は事件にかかわった貴族を出来るだけ知らんようにしてきたのじゃがな。前回も前々回の後始末も騎士団に任せたしの」


「さぁ………それじゃあそれも、聞いちゃうことになるんじゃない?」

 その時妾は心底嫌そうな顔をしておったそうな。後で聞いた。

「しかし爵位と言っても、妾達は宿暮らしじゃぞ………?」

「ああ、城が贈られるって話よ。村一つ付きで」

 心の底から迷惑じゃが、貰わ………押し付けられねばならんのだろうな。


「ああ、朝から憂鬱な気分になってしもうたわい」

「ああ、その件で、正午に呼ばれてるからね。あと協力者への報酬が用意できたともいう話だったわ。私には何のことか分からないけど、知ってるのよね?」

「あいわかった。協力者の件は気にするでない、委細承知じゃ」

 テフィーアの情報はそこまでじゃったため、わらわは酒場へ向かった。


 飲まなければやってられんわ。どうせ6時間もある。酔っても冷めるであろう。

 7時にフィーアの小僧が来た。

「うぃーす………ってもう酔ってんのか!?どうしたんだよ」

「ひっく、実はのぅ………」

「だー!やってられねぇ、俺も飲むぞ!」


 8時。次にクリスが来た。仲間に入るのじゃー!

「わかった、わかりました。いくら飲んでも後で『キュアーポイズン』して差し上げます!ああ、私にも葡萄酒をひとつ」

 そうして(やけ酒の)酔っぱらいが増えてゆく。


 8時20分、ようやくリリジェンが来た。皆で奥の座席に引きずり込む。

 語り終えるとリリジェンは、爵位を押し付けられるのは私なんですかぁと涙目に。

「うむ、リーダーじゃから当然であろう。大丈夫じゃ、女性貴族は意外と多い!」

「私も飲みますっ!火酒下さい!」

 リリジェンは、火酒を大量に開けてもほろ酔いじゃからなぁ、可哀想に。


「酒盛りはしまいじゃ~もうすぐ正午じゃ~うぃっく」

「『治癒魔法:キュアーポイズン』×3」

 リリジェンの呪文で(クリスがダメになっておったので)全員一瞬にして覚醒じゃ。

 フィーアが指輪で自分に消臭をかけておる。ええい、多少酒臭くても構わんわ。


 ~語り手・リリジェン~


 皆酔えていいなぁ………結局ほろ酔いで、それもすぐに冷めてしまいました。

 嫌々、受付に出頭します。どんよりした空気を察したのか、テフィーアさんはさっと張り付いた笑みになって、「いつものとこに行ってね」と言いました。

 しぶしぶ受付の中に入って、3F左の扉へ。


 そこにはギルマスが仏頂面で座っていました。対面の席に座るよう促されます。

「その顔を見ると、大まかな事は把握してるんだな?」

「辞退できませんか?」

 他の面々もうんうんと頷いている。


「無茶言うな。国王陛下はもう認可してしまっている。まず、男爵位を授ける」

 ギルマスは証書をバンっと机に叩きつけた。

「リリジェン、苗字は………貴族ではないからないだろうな」

「はい、ありません」

「今作れ」

「ええ~っ?」


「じゃあ、ルリジオンで。(私の名前を別の国の言葉に変えただけですけど)」

「なら、フルネームを入れて、この証書を読み上げてくれ」

 わたしは嫌々読み上げ始める。要は承認文書だ。嫌だなあ。

「この時をもって、リリジェン=ルリジオンは男爵位を授かる」

 証書が光り輝き、指輪となって、私の右中指に嵌った。


「それは印にもなるから、大事に保管しろよ、代々受け継ぐんだぞ。お前の気質を反映した印になったはずだが………光のモチーフか。綺麗じゃないか」

 引っ張ってみたけど取れない。これは一体?

「………それは代替わりの儀式をしないと取れないぞ?諦めろ」


「あーそれから、城を与える。メンテナンスは支度金を金貨1000枚やるから自分たちで何とかしてくれ。ここにある城だ」

 ギルマスは地図を取り出し×をつける。パラケルから北東へ2日程のところ。

「………毎日ここに来ようと思ったら、魔法陣でも設置するしかないのう」


「小さな村が城下にある。今は税を国に納めているが、今後お前たちにいくからな。もうおふれは出てるはずだ。新しい領主が来るってな。ジルの村という所だ。使用人が欲しければここから雇え。兵士などが要るなら、儂に言ってくれれば何とかする」


「お前たちへの国の「報酬」は以上だ。………で、悪魔の報酬だが、宝物庫によく似たのがあった。要求と違うのは、日記帳とセットになっていて、日記帳が無限のページを持つ事だけだな。どうだ、いけそうか?」

「ちょっと待ってくださいね」


 私は「異空間通路」を開いた状態で、キントリヒさんに念話を送ります。

《………というわけです。どうですか?構いませんか?》

《日記帳付きでもまあ、元から日記に使うものだし構わないかな。いいよ!》

「構わないそうです」

「助かった。なら、今取り寄せるから待っててくれ」


 ギルマスは慌ただしく出てゆき、5分程で戻ってきました。

 手には、丁寧にラッピングされた品物。可愛いラッピングが似合っていません。

「悪魔が女の子だと聞いた王が、王女にラッピングさせたらしい」

 納得です。受け取って、キントリヒさんの手元にテレポートで送ります。


 キントリヒさんの爆笑が聞こえました。

《何だいこのラッピングは?!》

《それが………ということらしくて》

《へえ、こんなの貰ったのは人生初だね!丁寧にはがそう………よっと》

《どうですか?》

《なかなか古式ゆかしい品だね。私は好きだよ、こういうの》

《良かったです》

《ラッピングの礼を言っといておくれ》

《分かりました、それじゃあ、また》


「品物も気にいって下さったようですが、ラッピングを気に入ったとかで礼を言っといてくれって言われました。こんなの貰うのは人生で初、だそうです」

「………王女殿下に伝えておこう」

「これで用事は終わりですか、ギルマス」


「一つだけ。その指輪に浮かんだ文様は、お前の家の紋となる。空中に向けて身分を示せ、と唱えてみろ」

 言われた通りにやってみます「身分を示せ」

 空中に黄金の、光の紋章が描き出されます。綺麗ですね。

「村に着いたらそれをやって証明しろよ。貴族の証だからな」

「………はぁい」

「それとむこうに着いて、ひと段落したら戻って来いよ。話があるからな」


 ~語り手・フィーアフィード~


 とりあえず皆で13番ボックスに入り、今後の会議だ。

「で、どうするよ。とりあえず向かうにしても、メンテナンスを自力でやれっつーことは、城にはなんもないぞ」

「想ったんですけど、ゴルド商会の副会長、エイルさんに相談したらどうでしょう。値がはるのは承知の上ですが、実は私、この星ではメジャーじゃないですが、錬金魔法が使えるので、大気中の「素材」を集めて金にすることができるんです」


「何だそれ?!金に興味ないのは分かってたけど、そりゃそうだよ!反則だろ!」

「え………と、黙っててすみません」

「まあまあ、それならゴルド商会に頼んでも大丈夫そうじゃろ?今作れるかえ?」

「はい、金貨1000のインゴットを10個作ろうかと………」

「うへぇ、そんな事できるのかよ………」


「普通はもっと難しいんですが、キントリヒさんに教わって、願望を現実にする悪魔の使う方法を織り交ぜてるので可能なんですよ。はっきりした使い道がある時だけ使えます。お金持ちになりたい、では術は発動しません」

「そうか、そりゃ良かった。マジで普通じゃ用立てられない目的のある時だけにしてくれよ。盗賊の存在価値が無くなっちまう」


「はい。でも今回は不必要な苦労をしなくてもいい様に、金を生成しますね」

 言っている間にもリリジェンの手にはインゴットが生成され始めている。

 程なくして、金貨10000分のインゴットが生成された。

「俺が盗賊ギルドで換金してくる。手数料引いても1個金貨950にはなるはずだ」

「お任せします」


 リリジェンが、魔法の巾着を渡してきたのでそれに入れて持って行く。

 盗賊ギルドでは出所をしつこく聞かれたが、仲間が貴族になる話でごまかした。

 これで、支度金と合わせて金貨10500になったな。

 これをゴルド商会副会長に渡して、後はゴルド商会に注文し放題だ。


 ~語り手・リリジェン~


「ただいまー。合計で10500だぜ。ソワソワするよ」

「そうそう手にできる金額でもないが、持っていたくもないの。落ち着かんわ」

「そうですね、ゴルド商会さんにお任せするのがいいでしょう」

 フィーア、ベリル、クリスが次々に言います。

 ………私はいい仲間に恵まれました。


 ではゴルド商会に行きましょう。


 到着しました。

 サービスセンター、馴染みの店員さんに、エイルさんを呼んで欲しいと頼みます。

 理由を問われたのでこっそり『念話』で伝えます。

 慌てて奥の部屋へ走って行きました。


 エイルさんはすぐ来てくれた様で、店員さんに店長室に行くように言われました。

 店長室をノックし、静かに開けます。

「こんにちは、皆さん。リリジェンさん、爵位の獲得おめでとうございます。ついては下賜された城の内装をお任せいただけるとか?」


「はい………ありがとうございます。これ………資金ですが大丈夫でしょうか?」

 フィーアはホッとした表情でエイルさんに金貨10000の入った袋を渡す。

 エイルさんは魔道具らしいルーペ?で袋を覗き込んで、驚いた顔になる。

「これは………随分と。王からこんなに支度金が出るはずがありませんが?」

「すみませんが、出所に関しては伏せさせて下さい」


「こちらは、先払いでこんなに頂けるなら、何も文句はありませんとも。同行いたしまして、その場でなんでも揃えてご覧に入れますよ」

 エイルさんは出所を聞かないでくれるようだ、有難い。


「ついでにこれを換金してくださいませんか?」

 私は、こっちに来た時持って来ていた、インゴットをエイルさんに渡す。

 エイルさんはかなり高位の魔法の財布を取り出し、あっさり換金してくれました。

 900ゴルドになります。私は自分の魔法の財布ではなく、パーティ財産の袋にそれを収めました。まあ、どっちみち私が持つのですが………。

 みんなには向こうで何かあって必要になったら、遠慮なく言ってと言います。


「こちらで馬車を借りますので………」

 と言いかけたらエイルさんに止められた。

「頻繁に使う事になるでしょうから、もう買われた方がいいかと。カタログをお見せしますので、気に入ったものを仰って下さい。貴族が使える物をお勧めします」


 エイルさんが、自分の(多分魔法の)ショルダーバッグから、カラフルなカタログを取り出した。様々な馬車が、イラストと解説付きで載っている。

「どうします?みんな?」

「上品でも、頑丈じゃないとダメだろ」

「黒塗りの馬車は、汚れが目立つ。メンテナンスが大変そうじゃの」

「金属の馬車で………上品なのはこれですか?」

 色々言い合い、最終的に全員が合意した。


 ミスリルを強化した馬車。耐寒耐熱で。中は空間が拡張されていて広い。

 綺麗な艶がある、繊細な感じながら丈夫な馬車。装飾も上品だ。

 精巧で頑丈な魔法で動く金属(強化ミスリル)馬の2頭立てが引く。

 プリシラちゃんでも牽けるだろう。

 

 形は普通の馬車に丸みを持たせている感じ。御者席も快適そうだ。

 左右に扉があり、素早く出る事ができそうだ。

 空間拡張で、広さは10人が楽に乗れる。幻獣達も乗って大丈夫だ。

 今回は一緒に行くエイルさんに、席を譲らないといけないだろうけど。


 エイルさんは店の表で、カタログの馬車を魔法陣から呼び出してくれた。

 服装とかには特にこだわる気はない、というか貴族らしくする気があまりない。

 荷物を各自まとめ終わったら出発できる。荷物をまとめて、再集合した。

 どうなるか分からないけど、とにかく出発するしかないだろう。


 全員(エイルさん含む)馬車に乗り込み、出発!

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