第20話 ノーサンキューサプライズ 2
~語り手・エンベリル~
馬車は、魔法語で馬に場所を伝えると、勝手に進む仕様じゃ。
なんでも地図を内部に埋め込んでいるのだそうな。
服装じゃが、考えるとやはり体裁を整えた方がよかろう。
でないと領民に舐められて、税収その他もろもろで、無理難題を言ってきかねん。
皆、渋ったが(特にフィーアの小僧)、最終的には承認された。
「エイルとやら、服のカタログも持っているのか?実体化させられるのかの?」
「お任せくださいゴルド商会の全てのカタログを持っておりますし、すべて―――売り切れでなければ、実体化させられます。服装は、今回はカタログの物でいいでしょうが、後の事を考えると、オーダーメイドのものも持っているべきかと。今回は初顔合わせの時に着る服と、貴族の普段着をご注文されればいいと思います」
エイルは男女別になっているカタログを出してくる。
ただ、クリスはローブと装飾上着がすでに正装なので、素材を良い物に変えるだけでいいという事じゃった。フィーアがうらやましそうにしておる。
フィーアの選択は早かった。とにかくシンプルなものを選んだようじゃ。
白いブラウスにクラバットがついており、深緑のジャケットは燕尾服のようじゃ。
それに、上質なズボンとブーツがついておる。
普段着の服装は、それとよく似ているが違いがあるものを選んでおった。
やる気がないのう。
リリジェンは、髪の色と喧嘩しない深い緑のドレスを選んだ。前は開くようになっており、淡いイエローで文様が細かく入っておる。袖も途中で緑から、淡いイエローに切り替わるようになっており、それに茶色のショール(腕にかける)がついておる。
リリジェンも修道服は普段着として使えるので、あまり服は必要ない。
じゃがフィーアと違って面倒くさがらずに普段着も、ちゃんと選んでおった。
彩度の低い水色、ボルドー、迷ったようだが赤も選んでおったな。
さて、妾じゃな。もちろん妾は赤以外のドレスを着る気はないぞ?
真紅に深紅の薔薇をあしらい、胸元と背中が大きく開くフレアドレスを選んだ。
その他も動きやすさ重視で、赤いドレスをえらんでゆく。
リリジェンもじゃが、妾もコルセット着用が必要なのが、窮屈で嫌じゃの。
エイルに出して貰った服を魔法のバックパックに詰め込む。
着替えるのは村の手前辺りでいいじゃろうと言うと、全員の賛同が得られた。
フィーアだけ魔法の収納を持っておらんかった故、この機に買う事にした様じゃ。
~語り手・リリジェン~
ジル村の手前まで来たので、私達は着替えを開始。男女とも後ろを向いて、です。
馬車内が空間拡張されてて良かったです。
ベリルと一緒に、コルセットの締めあいです………苦しいよう。
ベリルと愚痴をこぼしあいながら、完成。
エイルさんが大きな鏡を出してくれていたので、変な所はないはずです。
ここに来るまでに、村人をどうするか、皆で相談しました。
何故かエイルさんがお城の見取り図をくれたのと、情報もくれました。
元は国から派遣された執事がおり、私が男爵になったのと同時に、私達の部下になっているそうです。人柄さえよければ、そのまま雇用ということになりました。
「この広さだと、メイドがいないと掃除もおぼつかないだろ」
「お風呂の支度や料理、洗濯なんかもありますね」
「お客様が来た時には世話係もいりますねぇ………」
フィーア、私、クリスの発言です。
「村娘を5人も雇えばいいのではないか?それとは別に料理人がいるが、これも村で雇ったらいいじゃろう。教育は執事に一任じゃな」
「後は税ですが、今は収穫の半分を国に納めているのですね」
「そんなに貰っても使い道がないだろ」
「かといって税無しでは、村人との関係が希薄になる。作物だけをおさめているのではなかろうが、全て3割ぐらいにしてやって、優しい城主様でいいのではないか?」
皆異論はなさそうです、村への対応はこんなものですかね。
さて、ジル村が見えてきましたよ。エイルさんに貰った村の地図を見ながら村の広場まで馬を進めます。ここから先は、私がやらなきゃいけないんですよね………。
私達は馬から下りて、姿を村人たちに見せる。変ではないと思うのですが。
私が「身分を示せ」というと、空中に光の紋章が浮かびます。
「私は国王陛下にこの地を任された、リリジェン=ルリジオン男爵です!村の者を全てこの広場に集めなさい!」
新しい城主が来る事は、皆聞いていたらしく、すぐにぞろぞろと人が集まって来た。
私は彼らの前で、税収を3割にすると伝える。好意的な拍手が巻き起こった。
「ついては、村の女性にメイドとして城に来てもらいたいのです。希望者を募っておいてください。5名を予定しています。それと、料理が得意な者を雇うのでこれも希望を募っておいてください。給料は金貨8枚です」
どよめきが起こる。エイルさんから聞いた相場より高めに設定してあるからだ。
「それでは、3日後また来ます。それまでに雇われたい者を集めておいてください。また、相談事がある場合、相談に乗るので、気軽に城へ来るように」
そう言い終えて、私達は馬車の中に入ります。ほーっと気が抜けました。
「執事さんに会うまで、着替えない方がいいでしょうか?」
「そう思います、舐められてはいけません」
エイルさんの発言で、皆着替えない事になりました。クリスはいいですね。
~語り手・フィーアフィード~
城は高台にあった。湖があって、その上に張り出している部分だ。
白の裏手は広い森だった。モンスターとかがいそうだと、冒険者根性で考える。
すぐに城は近づいてきた。俺達の到着に合わせて馬車用の大門が開いた。
俺達が馬車から下りると初老の執事服の男性が、完璧なお辞儀をして待っていた。
「皆さま到着をお待ちしていました。私国から派遣されていた執事のサンジェントと申します。できれば今後も末永くお付き合いいただけたらと思います」
「やってくる召使の教育なども任せられるかの?」
「使用人の指揮などはお任せください。男爵家に相応しく教育いたしましょう」
リリジェンが見てくる。僕はOKサインを出す。他の連中もうなずく。
「わかりました、これからも働いてください。お給金はいくらでしたか?」
「おお、ありがとうございますお嬢様。今までは金貨15枚頂いておりました」
「では、金貨18まいを給金にします。良いですか?」
「おお、文句などあろうはずはありません、ありがとうございます!」
「城の内部ですが、週に一度、村の者に掃除させておりますのですぐに使えます。作り付けの家具などは、お好みに合わせて変えられた方が良いでしょうな」
城主とその家人が住むエリアを案内しつつサンジェントが言う。
しっかしこの城………小さめなのはいいとして、城というより砦だろう。
黒い石を積み上げて作ってあり、全体的に圧迫感がある。
案内される部屋は、窓も小さい。一番端の部屋は大きな窓があったけど、多分ベリルがそこに入るだろうな。そして城主の部屋は反対側の端にある。ここにも窓があるが、どう考えてもリリジェン用の部屋だ。
本人は中央にでんと置かれたベッドが大きすぎるし柔らかくない、と嫌そうだが。
ここからはエイルさんの持って来たカタログ―――分厚い―――を見ながら、自分の部屋を作っていく流れだ。カタログはなんと人数分ある。高級家具ばっかだな。
仕方ないので、自分の部屋―――クリスがどこでもいいと言ったので、リリジェンの隣の部屋にした。ないと思うが何かあった時にすぐ行けるようにとの選択だ。
執事が「村の男衆を家具の移動に呼びましょうか?」と聞いてきたので、相談して来てもらう事にする。リリジェンの『念動』だけでは限界があるのだ。
~語り手・クリスロード~
はあ、随分圧迫感のある城ですね。住めば都になる事を祈りましょう。
大して欲しい物もないので、女性陣に先を譲っています。
村の男衆も入ってバタバタしています。
………ん?何ですかリリジェン。部屋が余っているから幻獣達にも要るか?
いいえ、大抵気に入った人の部屋に居つくでしょうから、要りませんよ。
リリジェンと二人で会話していると、話かけられました。
村の老人と男衆の一人ですね。どうしましたか?
相談事と言うか、困り事がある?リリジェンも居るし丁度いいから話してみては?
大丈夫ですよ、私達は冒険者でもあるのですから。
実は………と語り始めた老人と若者の話は、何とも不安なものでした。
この村は、城の背後の森に住むワーウルフの一族と親しく付き合ってきたという。
村には人間と変わらないが混血という者も多くいそうで。
ワーウルフ化した者は、単に森に行って暮らすしきたりになっているそうです。
リリジェンは、ワーウルフと仲良くするのはいい事だと聞いたと言っています。
それが先日突然、狼のゾンビが村に現れたというのです。
動きはあまり早くなく、狩人たちの活躍もあって大事にはならなかったそうです。
が、追跡したところ、ゾンビ達は森に引き上げて行ったそうで。
これではワーウルフの里とも連絡がとれません。
困り果てていた時、私達の就任がりました。
元冒険者と聞き何とかして欲しいと願い出てきた………というわけですか。
リリジェン、夕食時にでも皆と相談しましょうか?
大丈夫です、悪いようにはしませんから。
おじいさんは村に帰って、夕食が作れる人を呼んできてくれませんか?
夕食を一緒すればいいでしょう。
夕飯の時間。
長テーブルで食事する事になりかけましたが、すぐに家具の変更が行われました。
いくつか置いてある、大きな丸テーブルとソファーに、思い思いに腰かけます。
その一角に、おじいさんと若者が座っています。
どうぞあなたたちも夕食を食べて下さい、皆には私が説明しますから。
「フィーア、ベリル、話があるのですが………」
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