第21話 友好のために

~語り手・クリスロード~


「皆さん、食べながらでいいのでちょっと聞いてもらえますか?」

私がそう言うと、皆は顔を上げて頷いてくれました。

まず、ワーウルフとこの村の関係を語ります。

その上で、狼のゾンビが出現したことを話します。

そして、身内であるワーウルフと連絡が取れなくなっていることも。


「それは、森を探索するべきですね。ゾンビを作っている元凶が必ずいるはずです」

リリジェンの意見に私も賛成です。

「私もそう思います。おじいさんたち、今までこういう事は無かったんですよね?」

一切ないとふたりはかぶりを振ります。

「自然発生でないのならば、邪悪な侵入者が出たという以外に、説明がつかんなぁ」

「そうですね。多分ワーウルフの方でも何かしら動いてはいるでしょうが………」


「エイルさんよ、あんたはいつまでいてくれるんだ?先にこっちを片付けないといけないっぽいんだが。待っていてくれるのか?」

「さすがに待てませんので、「転移拠点」というアイテムのご購入をお勧めします」

「それはどういうものですか?聞いたことがありません」


私の問いにエイルさんは

「はい、親機の宝玉を持っていれば、子機にあたる宝石を設置した所にテレポートできるのです。子機から親機へ飛ぶこともできますから、ゴルド商会本店の前の地面に子機を設置しておけば、親機のあるこちらに出向くことが可能になります。もちろん、子機からの利用は親機の承認が要りますのでセキュリティは大丈夫です。この城にも子機を置いておけば、親機を持ち歩くだけで、ここに帰ってこれますよ」


「便利そうですねぇ、皆さんどうですか?」

「わたしはいいと思います」

「それ、親機を人数分に増やせんか?全員集めんと移動できんのは不便じゃ」

「そうだな、生活リズムもあるし」


「はい、少々値は張りますが、複数にすることもできますよ。お預かりの金貨で十分賄えますので………子機は青いこぶし大の宝石で、魔法言語でそこの場所の名前を言って設置するとその場から動かなくなります。親機は手のひらサイズの涙型の平たい宝石のようなもので………こちらも透き通った青になります。4つの親機が全ての子機を共有という事でよろしいですか?」


「いいと思います。他人と一緒にとぶ事はできますか?私は幻獣がいるので」

「体が触れ合っていればOKですよ」

万能で何よりですね、私の注文はそれだけです。周りを見渡すと。

「うむ、ならいいじゃろう。親機4つと………子機は5個あればよくないかのう」

「あぁ、そんなもんだな」

「私も異存ありません」


では、とエイルさんがカタログからテレポートの宝珠を取り出します。

「子機のひとつはお預かりして、本店前に設置しておきますね。代わりの職員もすぐに寄越します。1時間以内に来させますので」

そう言ってエイルさんは退出していきました。

それぞれに親機が行きわたります。子機はリリジェンにお願いしました。


「ところで森の探索ですが、一応ワーウルフの里に行こうとしてみましょう。それには案内が必要ですが………」

「村の狩人について行かせますじゃ」

「………ありがとうございます。皆さん日時は?」

「8時にこの城の裏門前でよかろ?」

「お願いできますでしょうか?」

「伝えておきます。引き受けて下さってありがとうございます」


「お困りの方を放っておくなんてできませんよ」


~語り手・エンベリル~


クリスは聖人君主じゃのう。リリジェンより領主に見えるわ。

じゃがここに住む者としては、気になる………というか気にせざるをえんの。

近場にアンデッドなんぞ作る輩におられたんでは、おちおち寝ておれん。

ま、エイルの代わりに来てもらわんと、まだ部屋にベッドがないんじゃが。


ほぼ1時間でエイルの代わりが来た。

「ワタクシ、エイル様の第2秘書、フィリスと申します。よろしくお願いします」

「とりあえず急ぎの物を先に片づけよう。ゾンビの件が終わったら本格的にな」


まずリリジェン。

「この「柔らか仕立て」のベッドがいいです。大きさはダブル。天蓋は憧れてましたので、天蓋付き。それとドレッサー。あとはこの大き目のクローゼット、窓の下に丁度光がてっぺんにあたるような箪笥………うん、これ出してください」

「かしこまりました。召喚!」

出てきたものを『念動』で丁度良さそうな場所に置いていく。


次は妾じゃな。

「ベッドはこの真鍮の猫足に紅いレザーのこれが良い。妾もドレッサーがいるな。金色のシンプルな奴にしよう。これまたクローゼットは要るのう金の金具に赤い布張りのこれがよいぞ。あとは箪笥じゃ。紅いレザー張りの奴がいい」

「かしこまりました。召喚!」

またリリジェンの念動じゃ。フィーアが「赤と金で目が痛い」と言う。軟弱な。


次はフィーアじゃ。

「えーと、ベッドは固めで木造のこれ。セミダブルな。クローゼットは要るんだよなぁ………この木の奴にしてくれ。あと箪笥が欲しい、この木の奴で」

「お主こそエルフ丸出しではないか」

「ハンモックって言わないだけ普通だろ」

「召喚!」

「念動!フィーア、どこに置くんです?」


最後にクリスじゃ。

「足が痛くなるので、このやわらかベッドを。天蓋は要りません、セミダブルで。歩きやすくするためにこのベージュの絨毯を。あと等身大の鏡。クローゼットはひかえめなこれで」

「全部クリーム系の色で癒されますね、これ」

「召喚!」

「念動!クリスさん、絨毯ひくのでどいて下さい!」


などなど。

まだまだじゃが、とりあえずこれだけあれば何日かは何とかなる。

今日はこれで寝よう。

フィリスはどうするのか聞いたら、用事が無くなるまで泊まり込みじゃという。

あわてて客室を最低限整えたわ、恐縮しておったが当たり前であろう。


~語り手・フィーアフィード~


朝起きて、顔が洗えない事に気付く。洗面器と、水を入れた壺が要るな、これは。

仕方ないから台所に行ったら、すでに万全の状態のベリルとすれ違った。

朝早すぎるんだよ………ほら、リリジェンとクリスもまだ眠そうだろ。

全員顔を洗って、着替えてしゃきっとする頃には7時になっていた。


召喚獣たちも起き出してきた。プリシラはクリスと一緒だったが、スーザンは夜俺のベッドに来た。リエラもベリルの所にいたっぽい。

まだ食事を作る人を正式に雇っていないので、朝飯は保存食だ。

食事をすませると、丁度良く爺さん(村長らしい)と狩人の恰好したやつが来た。


早速案内して貰う事にする。

森の奥へ奥へ入り込んでいくと、5体の狼―――ただしゾンビ―――と出くわす。

クリスの『神聖魔法:ホーリーフィールド』で一蹴されたが。


さらに進んでいくと、うなじがチリチリしてきた。何かがいる。

ライオンの様な体、頭部は老人、巨大なサソリの尻尾、ワイバーンの翼。それが2体

「マンティコアです!呪文が得意ですが、接近戦も得意です!」

リリジェンの警告が響く

「狼たちを殺したのはあなたたちですか?」


「その通り。理由は言えんがな」

しゃがれ声で答えが帰って来た。どうも知能の高いモンスターらしい。

片方にベリルが向かって行こうとしたとき

「中位風属性魔法:ライトニングバインド」


全員の体に―――離れてた村長と狩人は無事だ―――雷が巻き付く。

動いたり、呪文を唱えたりしたら少なからずダメージが入る。

リリジェンがダメージ覚悟で「無属性魔法:ディスペルマジック×8」と言った。

呪文の確実化と拡大を両方やったらしい。魔力石から魔力を使ったんだろうな。


今度こそベリルが駆けだす。僕は後ろに下がって「隠れ身」を使った。

リリジェンはベリルと自分に『無属性魔法:エンチャントウェポン』だ。

どうやら魔法は聞きにくいらしくハルベルトを両手で持って前衛に出た。

クリスは、『神聖魔法:ホーリーライト』目つぶしの為に撃ったんだろう。

ホーリーライトはアンデッドにしか効果はないけど目つぶしには使えるんだ。


そして目つぶしの瞬間、マンティコアの1体のサソリの尻尾がちぎれ飛んだ。

僕が後ろから忍び寄ってたのさ。リリジェンが受け持つ方のマンティコアだ。

怯んで目もくらんでるマンティコアに、リリジェンの怪力でハルベルトが迫る。

頭をかち割られてそいつは死んだ。


ベリルも目潰しを上手く使ってダメージを与えてるが、サソリの尻尾が邪魔だ。

そこへクリスの魔法で回復したリリジェンが中衛に入った。決まったな。

ベリルの剣がマンティコアの首をはねた。


「助かったぞリリジェン、お主本当に前衛中衛が務まるのじゃな!」

「僕も初めて見たけど、パワーファイターなのな」

「私も驚きましたよ」

「もう!皆大袈裟ですよ。照れるじゃないですか」


「さあ!ワーウルフの里に向かいましょう!」

ああそうだった

「村長たち、もう大丈夫だぞ。リリジェン、確認してくれ」

「『センスエネミー』に反応はありませんよ」


「ならもう敵はいない、狩人さん、先導してくれるか」

「はい!皆さん本当にお強いのですね。住民としては心強いです」


ワーウルフの里はさほど遠くもなかった。普通の村だが、中央部がツタで出来たドームみたいになってる。それはワーウルフ以外入れない聖域らしい。

村長が俺達の事を紹介している。

なんでもこっちにもマンティコアが出現して、ワーウルフが潰したそうな。

それでこっちの実力も知れて―――実力社会らしい―――好意的になっている。


なにかあれば相談しますと言って貰えて、ファーストコンタクトは上手く行った。

村長も、村人に今回の顛末を話してくれるそうだ。

人集めもよろしくと言っておいた。


~語り手・リリジェン~


城に帰って来ました。また部屋に置く物を注文しなければなりません。

まず私から。

「色合いと浮き彫りがキレイだったので、真鍮の洗面器。水を入れておく綺麗な壺。聖草その他に水をやるのでじょうろ。書き物机。4人用ソファとテーブルセット。ソファは、ゴルド商会で座った事のある、沈み込む柔らかソファです。ああ、あとカーテンです。白にします。それと、壁紙をクリーム色に張り替えて欲しいです天井にも張ってください。床はブラウンのカーペットで覆ってしまいます」


次にベリル。

「部屋はリリジェンほど大きくない故、小テーブルに細工の細かいスツールが2脚

洗面器はいるのう。この金色のやつをもらおう。つぼも真鍮製のものを。カーテンは赤、壁紙は白を天井まで頼む。」


次はフィーア

「洗面器はこのシンプルな木製のやつ、つぼは割れると面倒だから、鉄のやつを。後窓が見える位置に、沈み込むソファ2つとローテーブル。壁と床と天井を薄くていいから木材で覆ってくれたら嬉しいね」


最後にクリス

「洗面器はこのほうろうの白いのを。壺も同じでお願いします。ローテーブルとクッションを4人分。部屋全体をクリーム色の壁紙で覆って下さい」


うん、これだけ注文したら十分でしょう。

客室は、フィリスさんにお任せで。

応接室は、ゴルド商会の応接室を真似て注文しました。


これでやっと、落ち着けるでしょうか。

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