第23話 楽しい?アラクネランド

~語り手・リリジェン~


お城暮らし………といってもほとんど冒険者ギルドにいるのですが、使用人も執事のサンジェントのおかげで、なんとか形になって来ました。

食糧は「食糧屋」が持って来てくれているとのことですが………。

まあ、ごはんは美味しいので気にしません。豪華な朝ごはんを頂きました。

その後、身繕いを済ませ、そろそろ冒険者ギルドに行こうとしていたところでした。


小さく聞き覚えのある歌が聞こえてきます………

「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」

………待ってください、これって異空間病院でも耳にした歌です!ということは!


「「ごはん屋」さん!」

わたしは厨房の扉に、走って行きました。そこには大柄な影が一つ。

真っ赤なローブがトレードマークの大柄なリザードマンだ。

「おおっ、あなたは下働きの………いやドクターになられたんでしたな、とにかくリリジェン殿ではありませんかぁ!」

「今は男爵で、冒険者もやってます!ごはん屋さんが「食糧屋」だったなんて!」


「ごはん屋さんは「食の悪魔」だったように思いますが、人界進出してたんですね」

「ふふふ、この「ごはん屋」世界をまたにかけてお得意様がおりますからなぁ」

「冒険の時の、道中のご飯、ごはん屋さんから買えませんか?」

「必要とあればすぐ参上!というわけで、このごはん屋専用呼び出し石をどうぞ」

「いいんですか!よかったぁ。そろそろ保存食に飽きてきてまして」


「それはいけませんぞぉ!わたしのお弁当を食べれば元気100万倍!」

「はい、皆も喜ぶと思います。会えて良かったです」

応援しておりますからなぁ~との言葉を背に、私はギルドに転移したのだった。


~語り手・エンベリル~


前回のミッションは暗い気分になってしもうた。何か気楽な依頼はないか?

朝食を城でとるようになったので、6時半に受付に行く感じになった。

それは置いといて、気楽なものをテフィーアに聞いてみた。

「これはどう?死人とか一切出てないわよ」


なになに「林業を営んでいる村の森に、アラクネが沢山巣を張ってしまいました。交渉に行っても、捕えられて×××な事をされ、帰されるだけ。最奥のリーダーの所まで進めないなら交渉しないと言われます。誰か交渉に行って下さい」

村人は迷惑じゃろうが、確かにこれは気楽そうじゃの。皆に提示してみるか。


妾は酒場で皆を待つ。すぐにフィーアの小僧が来た。依頼書を見せると

「へぇ~、アラクネの巣を潜り抜けろって事か。面白そうじゃんか」

「うむ、そういうことはお主が本職よな。他の面子は遊戯だとでも思えばよい」

「クリスどうするんだよ×××な事になったらダメだろ」


「アラクネ自体は強い魔物ではないゆえ、プリシラが脅せば大丈夫であろう?」

「それでも嬉しくはないんですけど」

おお、来たかクリス

「お主、女子に興味は無いのかえ?」

「あまり………無いとまでは言いませんが、下半身が蜘蛛のお嬢さんはちょっと」


「みなさん、何の話ですか?え?遊び?」

フィーアがまともな説明をしなおす。

「そういうことですか、確かに村の人は困っているでしょうし………申し訳ないですけど息抜き気分で行きましょうか。そうそう、お弁当のあてができましたよ」


リリジェンのいう事には、食料と名の付くものなら何でも扱う男がいるそうな。

ここの村へは、2日ぐらいじゃの。帰りはギルドまで一瞬じゃ。

お試しで、弁当を買ってもいいじゃろう。

呼び出し石とやらで、ここに呼び出してもらう。


「呼ばれて飛び出て「ごはん屋」参上ですぞ!早速ご用命ですかな?」

「おお、赤いローブとは、お主わかっておるのう」

「へへぇ。商売でございますから」

「三食を二日分じゃ。頼むぞ」


「ごはん屋」は「ふふふ~ん、私のご飯はいいごはん~」

などと歌いながら「食」とでかでかと書かれた袋の中身をかき回す。

出てきたのは、やはり「食」と書かれた、魔法の収納袋じゃ。

「ここに人数分、きちっと用意してございますぞ。あ、袋はレンタルです」

「うむ、期待しておる」

「美味しかったら是非専属に!」


そう言って「ごはん屋」とやらは煙のように姿を消した。

珍妙な奴よのう。

リリジェンによると、悪魔で、おそらく「食魔」と「金魔」のハーフだろうとの事じゃが。何故か全く脅威を感じぬ。


~語り手・フィーアフィード~


珍妙なオッサン(推測)だったな。この袋、開けてみるまでメシは分からないのか。

全員城に戻って旅支度のあと―――大したもんでもないけどな―――ミスリルを強化した馬車と一緒にギルドに転移。行先を強化ミスリルの馬に告げる。

幻獣達も喜んで乗り込んで来る。

僕にとってはグリフォンのスーザンが可愛いヤツだ。ふかふかな胴体もいい。


すぐに夜が来、野営の準備。「ごはん屋」の弁当ははたして………?

「「「「美味い!」」」」全員の声が揃った。

いやマジで、誰が作ったんだこれ?他の奴のも食べてみたが、皆風味が違う。

僕の中で「ごはん屋」の評価はうなぎのぼりだった。

この日の野営は楽しかったな。


2日目もメシは美味く、足りないものもない。

まぁ、着いたら村人が馬車にビックリしていたが、ご愛敬だ。

依頼を受けた冒険者だと説明して、村長の所に案内してもらった。


話はほぼ依頼書の通りだった。

あれ以降も、チャレンジした連中はいたが、みんな「絞られて」帰って来たそうだ。

下心ありありで行こうとする連中もいたので、今は禁止しているとか。

とりあえず、現場に案内してもらう。


糸は伐採所の近くまで到達しており、どこから入ったらいいか迷うな。

そう言ったら村長は

「ここからが入口になっており、真っ直ぐ奥が長のいる所らしいですじゃ」

遊んでないか、アラクネの嬢ちゃんたち………?


まあ、全員で向かう。

「細ーく垂れてる糸にも注意しろよ、それがトリガーになってたりするから」

そう言いながら、大分白く染まった森を行く。

リリジェンが、ハルベルトで巣をつついてしまい、ハルベルトがとられてしまった。

「うう………後で帰って来ますよね………」


「さぁなぁ………長次第じゃないか?」

皆かなり気を付けていたので、中盤までは大丈夫だったのだが。

一番こういう事に向かないクリスが、引っかかった。プリシラが慌てて後を追う。

「引っかかったもんは仕方ない、このまま進むぞ」


そこからしばらく進んだところで、突破不可能地帯を見つけた。

誰か生贄にならないと、ここの蜘蛛糸は開かないな、うん。

「ベリル、頼むわ」

「しょうがないのう。まぁ妾は女故、危険はなさそうじゃが」

指定した場所にベリルがわざと引っ掛かり、前方に穴を開く。


アラクネの糸はマジで敏感だ、ちょっと触っただけでもアウト。

結局、終盤近くでリリジェンも引っ掛かり………。

だが、僕は長の所までたどり着いた。

しかし油断してはいけない。地面に糸が張ってある。それをクリアして初めて。

そう、長の前に到着である。


「やあ、クリアしてきたよ」

長は長い黒髪に、赤い瞳の美女だった。もちろん下半身は蜘蛛だ。

「これでここに糸を張るのを止めてくれる?それとも何か事情がある?」

「じじょうは、ある。我はここまで来れる強者を待っておった。頼む、我らの故郷から脅威を取り払っておくれ。そうしたら大人しく帰る」


「脅威って何さ?ドラゴンとか言わないでよね?」

「ドラゴンではない………オーガが3体、どこかから流れて来たのだ」

「げっ、オーガ?!」

上位の魔物だ、魔法とかは使わないのが救いだが、やたらと戦闘に強い。

それしか能がないともいう。


「………何か報酬はないの?」

「我らの糸を編んだ反物を3つ、というのはどうだ?丈夫で魔法耐性もある。優れた防具になると自負しておるのだが?」

「………悪くない。代表して引き受けよう。俺らに倒せない敵じゃあないからな」


「………という訳だ」

す巻きにされた皆を見下ろしながら長との話を伝える。

「オーガは構わんが、早く糸を解いておくれ」

「同感です、何だメスか、ってす巻きにされました」

「散々セクハラに会いましたよ………(遠い目)」


俺はプリシラに≪クリスの貞操はプリシラちゃんが守ったの?≫と聞く。

無言で頷かれた。何があったのやら。

とりあえず、全員のぐるぐる巻きを、ナイフで切断する。

何て強度だ、ナイフが刃こぼれしやがった。


~語り手・クリスロード~


まったく、えらい目に会いました。プリシラがいて良かったですよ。

まあ、それはさておき、オーガ討伐が決まったようですね。

場所はここから半日程度の所にある、海の上の小島だそうです。

大勢が逃げ出してきたので、大した距離は進めなかったのだとか。


村人にリリジェンが事情を話し、オーガ討伐に行くことを了解してもらいます。

オーガが出たのが比較的近い場所なので、危機感を感じたようです。

わたしたちは馬車に揺られて、目的の島へ。

ベリルにアラクネのことでからかわれましたが、やめてくださいよもう………。

海を渡る必要があったため、みな幻獣達に騎乗します。


ついた島は、まだアラクネの住処という感じでしたが、所々破壊されています。

オーガを探して奥に進みましたが、探すまでもありませんでした。

「エサが来た!人間!動物!」

知性が低いというのは本当のようです。3体同時に襲い掛かって来ました。


フィーアが警鐘を鳴らしていたので、陣形は問題なく取れました。

相手が多いので、今回はベリルが1体、リリジェンが1体、スーザンに乗ったフィーアが1体を前衛に立てる事になりました。私は回復薬です。


ベリルが苦戦しているのを、初めて見た気がします。

リリジェンの方は相性が良かったらしく、オーガ相手に力で負けません。凄いです。

フィーアはスーザンに盾になって貰いつつ(スーザンも攻撃はしていますが)急所へのダメージを積み重ねていっています。


私は手助けをするべく皆に声をかけます。

「「フラッシュ」いきますよ、目をつぶって!「光属性魔法:フラッシュ!」」

目つぶしです、相手に大きな隙ができ、みんな一斉に動きます。

ベリルはオーガの目を切り裂きました。それでも暴れるオーガ。ですがもはや相手にはなりません。最終的には(一撃とはいかなかったものの)首級をあげて見せました。


リリジェンは、なんとその膂力でオーガの頭をかち割り、止めを刺す事に成功。

フィーアは「特殊能力:一撃死」を発動。

首に深々と刃を埋めます。即死攻撃は成功でした。

これで、アラクネからの依頼達成ですね。伝えに行くのはフィーアに任せますが。


アラクネに報告を行い、元居た場所に帰ってもらいました。

「なぜか」しょんぼりしていた人もいましたが、大半の村人に喜んで貰えました。

後はギルドへ転移で移動し、報告するだけ。

結果的に、人間もアラクネも助ける事が出来て、大変満足です。


いつも腐敗と無縁な、こんな事件だといいのですけどね。

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