第24話 魔女と豚
~語り手・エンベリル~
うーん、爽やかな朝じゃの!
時刻もぴったり4時、体内時計も絶好調じゃ。
桶の中の水で顔を洗い、衣装と武装を装着する。
これで斬殺女王エンベリルの出来上がりじゃ!
5時になったので、妾は食堂に行く。
すでに、妾に合わせて朝食が作られておる。手早く済ませられるものじゃな。
元奴隷の宮廷料理人じゃが、こういう物も作れるから重宝するのじゃ。
本人曰く、奴隷に身を落とす前にいろいろ経験を積んだおかげとか。
ちなみに、奴隷登録はリリジェンが抹消した。
ので、うちの料理人はれっきとした男爵家の料理人じゃ。
他の元奴隷の女性たち(4人いた)も同様に、もう奴隷ではない。
人一倍よく働く、うちの自慢の使用人なのじゃ。
さて、食事は済ませた。今は5時半、鍛錬場に行く時間じゃ。転移拠点!
うむ、冒険者ギルド・実技試験場の近くに出たの。
さあ、我に挑むものはおらぬかぁ!
いつもの奴か、諦めないのは良い事じゃぞ!
ふう、いい汗をかいたわ。
いつもならここで武器の手入れじゃが、剣がオリハルコンでは研ぐのは無理じゃ。
型の練習をして時間を潰す。エルフの剣術―――ではない。我流じゃ。
普通エルフは両手剣など振り回さんからのう。
6時半にギルドの受付に行く。
「テフィーアよ、何か面白そうな依頼はあるか」
テフィーアはう~ん、と考え込んだ後
「これなんかどう?森に住む魔女に豚にされた人々を助けてってやつ」
「それはちょっと間違うと食人じゃぞ?今はいい気分の話ではないな」
「大丈夫よ、ここに住むのを許可するなら食べないって言ってて、村人はその条件をすでに飲んでるの。あとは元に戻してって言ってるんだけど、裏切り防止になかなか戻してくれないっていうんで、依頼が来たの」
「話し合いに行ってくれということかの?それならまぁ………」
「そういうこと。一応持って行く?」
「そうじゃな、うちのパーティから豚になる奴が出ない様に、祈っておいておくれ」
「あはは、笑えない冗談やめてちょうだいよ!」
その依頼書を持って、酒場の席に座る。話し合いか。
クリスがおるから、あながち頼む所を間違えた依頼ではないんじゃよなぁ。
~語り手・フィーアフィード~
僕は6時ジャストに目を覚ますと、手早く身支度を整えた。
女と違って、着替えて顔を洗うだけだからな。
昨日書いたメモが机の上にある。
「ヤモリの服と、魔法で切れ味が強化されてるナイフ」
両方とも魔法の品だな。今日ゴルド商会の本店で買うつもりのものだ。
本店へ行くのは初めてだが、転移拠点でつながっているのでお手軽に行けるのだ。
朝食は帰ってから食べよう………
ついてすぐ、さっさと店員をつかまえて目的物があるか聞く。
問題なくあった。問題は値段だ………両方で金貨20枚?問題ないな。
服の色は当然黒だ。もうここで着替えて行くか。
ああ、あと魔法のバックパックが要るな、それもくれ。黒いヤツ。金貨10枚な。
買い物を終わらせて、転移拠点で城に戻る。真っ直ぐ食堂へ。
長いテーブルの端に、山盛りのサラダが置いてある。これが僕の朝食だ。
ウサギ?ヤギ?好きなように言ってくれ。ベリルに言われたらヤだけど。
うん、いい野菜だ。ドレッシングもうまいのを作るな。
食べ終わったら、冒険者ギルドに転移拠点!
着いたら真っ直ぐ酒場へ。ベリルが見てうなっている依頼書を覗き込む。
「豚って。食われそうな依頼だな」
「なんじゃ、驚かすでないわ!」
僕は拳をかわして反対側の席に座る。
「油断してるからビックリするんだよ」
「貴様の性格が悪いからじゃろう、ガキめ」
「それはこっちのセリフだよ、バアさん」
~語り手・クリスロード~
6時になりました。私は目覚め、目は見えないので『視覚代行』をすぐかけます。
ぱっと視界が開けます。大丈夫、6時で合っていました。
不自由な足ながら服を着こみ、プリシラの上に座って髪を梳かします。
うん?ひどくもつれたところがありますね………切ってしまうしかないでしょう。
7時になりました。朝食の時間です。プリシラに頼んで食堂へ行きます。
皆の気遣いで、プリシラとスーザン用に特上の肉が。
リエラ用には新鮮なサラダがあります。
最近は魔法陣なしでもリエラとスーザンは出て来るようになりましたね。
私には、小さめのサンドイッチが用意されています。
私はあまり食べる方とは言えませんからね。これで十分です。
すぐに食べ終わりました。
そろそろ冒険者ギルドに行かなくては………転移拠点!
実技試験場の傍に出ます。いつも通りの場所ですね。
ベリルはもう依頼を持っているでしょうか?
酒場に(プリシラが)小走りに向かいます。
おや?何やら言い争う声が聞こえますが………?
「ベリル、フィーアおやめなさい、朝から。皆さんに迷惑ですよ」
「よう、クリス。この依頼どう思う?」
差し出された依頼書を見て
「まあ、解放しないという事は何か条件でもあるのでしょう。話し合ってみるしかないと思いますが………それが何か」
「う~む、豚にされる危険性を問うていたのじゃが、クリスにそう言われると普通に話し合えるように思えてくるから不思議じゃな」
「同感」
「相手も無闇に豚を増やしはしないと思うのですが………そんな事を言われると怖いですね。どういう理屈で発動する術なんでしょうか?」
~語り手・リリジェン~
朝6時に起きると、顔を洗って着替え、軽くお化粧します。
最初は廊下や玄関の掃除とかをしていたのですが、サンジェントに頼むから止めるように言われてしまいました。まあ、貴族は掃除しませんよね。
それで、お化粧する習慣がついてしまいました。厚化粧には気を付けないと。
7時半は私の朝食の時間です。
皆それぞれに合わせて貰って、料理人さんには感謝です。
本人は奴隷でなくしてくれた恩義ですというけれど、やはり感謝です。
私の朝食はサンドイッチとサラダ。それなりのボリュームのあるやつです。
モリモリと早食い(よくないですよね)して、冒険者ギルドに。転移拠点!
実技試験場の傍に出ます。ここっていつも人けがありませんね。
そのまま皆が居るであろう酒場の方に行きます。
何やら依頼書を囲んで、皆で話している様子。どうしたのでしょう。
「どうしたんですか?豚がどうこう聞こえましたけど………」
事情を聞いて笑ってしまいました。
「交渉が上手く行ってないからって、いきなり豚にはしないんじゃないでしょうか?万が一そんな術をかけられたら、解き方を探すのに必死になるでしょうけど」
「まあ、そうだよな、考えすぎか」
「悪ノリじゃったのう」
「私は本気で心配していたのですが?」
「まあまあ、クリス。まずはその村に行って話を聞いてみましょう」
今回の行先は、1日で行ける距離ですが………
「お弁当は頼みますか?」
「「「頼みます」」」
ということなので、ごはん屋さん呼び出し機を起動!
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」
どこからともなく歌が聞こえてきたと思ったら、上空でホバリングしていました。
場所を空けると、すちゃっと開いた場所に着地するごはん屋さん。
「今回のご依頼は何ですかな?」
「行き帰りですから2日分の食事を、全員分お願いします」
「了解ですぞぉ、ほいっとな」
専用魔法の袋を頂きました。勿論代金はお支払いします。
ごはん屋さんはお尻を振り振り、喜びのダンスを踊ると、消えてゆきました。
「あのオッサンは本当謎だな………」
頷く皆なのでした。
ではさっさと出発です。
たった1日の距離なのですぐ着きましたね。
村の人をつかまえて、事情を知っている人の所に連れて行ってもらいました。
村長さんでしたが、依頼書以上の情報はないそうです。
とにかく、豚を人間に戻してくれと交渉してくれという話ですが。
さて、どうしたら説得できるでしょうか
森に入りしばらく行くと、一軒の小屋と、豚の放されている柵があります。
私達は、実に無警戒に近づいたと思います―――。
「中位火属性魔法:
これで全員が大やけどを負ってしまいました。
見ると、小屋の戸口に、一人の老婆が杖を持って立っています。
私はとっさに『無属性魔法:サイレント(静寂の場)』を返します。
次の瞬間にはクリスの『治癒魔法:閃光の癒し(全体魔法)』が発動していました。
そして、最速で動いたフィーアとスーザンちゃん。
『サイレント』から逃れようとしていたお婆さんはあっさり捕まりました。
何か言っているようですが、サイレントのせいで聞き取れません。
取り合えずフィーアに、印を結ばれると厄介なので、指も縛るようサイレントの圏外から言います。お婆さんの手はぐるぐる巻きになりましたね。サイレント解除!
だんまりのお婆さんに、ここに来た理由を丁寧に話します。
そうすると
「ごめんよう、村人が実力行使に出たと思ったんだよう」
と、泣き出してしまいました。
なんでも、村人が話に来てくれなくなるのが嫌で、ごねていたと分かりました。
「村人に、必ず一日に一度は、あなたと世間話に来るよう言いますから」
というクリスの説得に、泣き止むお婆さん。
「本当かい?」
「その代わりあなたも、村人が困っていたら助けてあげて下さいね?」
「分かったよ、じゃあ村人を元に戻してやろうかね」
そう言うと、よく見ると塚が豚の形をしている杖で、豚を順番に叩いていきます。
村人たちは、衣服もそのままに、元に戻りました。
「あなた方、話は聞いていましたね?村人に伝えて下さい」
勿論こちらからも話しますけど―――。
夢を見ていたような表情で、豚になっていた村人たちは帰路につきました。
私達は、しばらくお婆さんの話を聞いてあげる事にしました。
魔女となって一人で生きるのは寂しかった事、村人を食べる気はなかった事など。
色々聞いてあげて、肩もみなどをサービスすると
「あんたたちは優しいね、もうこれは必要ないし、あんたたちにあげるよ」
と、豚の杖を頂きました。
人を叩くと豚にし、変身した豚を叩くと元に戻るそうです。
試しにフィーアがベリルを叩こうとしたので、大騒ぎになりました。
村人たちには、必ず1日に1回、彼女と世間話をするように言い含めます。
守らないと次に豚になったら助けられませんよ、と脅しも入れておきます。
それが習慣になったら、きっと受け継いで行かれることでしょう。
今回はほとんど働いていないのですが、いいんでしょうか?
まあこういう日もあるでしょう―――
追記:豚の杖の所持者は、使いそうのないクリスになりましたv
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