第25話 三大欲求・力 1

 ~語り手・エンベリル~


 妾はまた、6時半に受付に来ておった。

 テフィーアが言う。

「またギルマスに呼ばれてますよ?今度は王宮の騒ぎだとか?」

「おおきゅう~?!厄介ごとの匂いしかせんぞ!」


「まぁそう言わずに。もうやんごとなき方々の騒動はチーム13に決まってますから」

「お断りじゃ」

「でも、金等級への近道ですよ?」

「むう、それはそうなのじゃが」

「というか、今回のでおそらく、リリジェンさん以外は金等級になりますね」

「同時ではないのか………あんまり嬉しく無いのう………」

「無理ですよ、リリジェンさん、これでもスピード出世ですよ?」


「そうなのじゃがな………また正午に集合かの?」

「そうです」

「分かった、分かった、伝えておくわえ………全く」


 ~語り手・フィーアフィード~


 ん、なんかベリルがカパカパ葡萄酒を空けてるな。

 こういうときは碌な事が無いんだよなぁ。

「おーい、なにやさぐれオーラ出してるんだっ」

「フィーアの小僧か、仲間になれっ」


 そして僕は聞いてしまった「依頼人は王族」の一言を。

 ろ、ろくでもないに決まっている。

 僕はべリルと同じく、ヤケのみをすることに決定した。


 ~語り手・クリスロード~


 ふ、ふたりとも?

 もう出来上がっていますが、一体どうしたというのです?

 え?王族の依頼?

 ………わたしも混ぜて貰っていいですか?


 ~語り手・リリジェン~


「み、みんなできあがってますけど、まさか………」

「くくく………聞いて驚け!今回は王室からの依頼じゃぞ!」

「そんなぁ、また悪魔絡みですかぁ?」

「そうなる可能性が高いと妾は見ておる!」


「ああっ………もう、私もやけ酒です!火酒持って来て下さい!」


 正午になりました。

 結局ほとんど酔えなかった………。


 いつものように、三階の左の部屋へ。

 そこにはギルマスが、苦虫をかみつぶしたような顔で座っていました。

 私達も仏頂面で対面のソファに座ります。


「………で、どんな依頼かの?」

 しぶしぶ、という感じでベリルが口火を切りました。

「実はな、王の第一息女が急に武闘派に………いや以前から武闘派ではあったのじゃが、他国への侵攻を口にするようになってな。宮廷魔術師曰く瘴気がする、と」


「そこまで分かっておるんなら、なぜ行動を起こさん?」

「起こした行動が、これだ」

「前回実績のある私たちに、お祓いを頼みたいと?」

「お祓いってクリスさん………」


「ありていにいって、そういうことになる。こちらの軍事行動が相手に知られる前に、事を収めて欲しいと、王はおおせだ」

「王様権限で、止めさせるとかできんのか?」

「………それでは娘に嫌われてしまうと王は仰せでな」

 全員が思いっきり天を仰ぎました。


「………まぁ、そういうことだ。今回も「ブレイク」はするのかね?」

「しますけど………というか今回武闘派なら、悪魔と直接ぶつかるのは自殺行為に等しいと思いますので、今から聞きに行きますけど………」

「報酬は望みの物を、と王が言っておられた」

「それ一番悪魔に言っちゃいけないセリフです」

「だろうな………」

 私はギルマスの哀愁を感じたので、大人しく異空間病院への扉を開く。


 悪魔棟の受付まで行くと、気楽な感じで受付から

「あら~リリジェンちゃんじゃない。またキントリヒなの?」

 と聞かれました。

「それが………今回はアッシュ看護師長で」

「あらら~。たいへん。今つなぐわね」


 インカムなのだろう、機嫌が悪そうな声で

「誰だ?何の用だ。今取り込み中だぞ」

「どれぐらいでお体空きます?」

「ん?何だ、リリジェンか、キントリヒが指導したとかいう。それなら、すぐにでも空けてやる」

 インカムの向こうで押し付け合いの声が聞こえてしばし


「来たぞ」

 膝まである波打つアッシュブロンドの髪。

 出る所は出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいる、わがままボディ。

 真紅の瞳に、うっとりするほど美しい顔立ち。

 それが、アッシュ看護師長だった。


「実は………という事で、アッシュさんの力をお借りしたいのですが」

「まあ、ブレイク自体は構わん。私がブレイクできない相手はほぼいないからな、任せておくと良い………それではそちら………レフレント星に顕現するとするか」

「気を付けて下さいね(皆をふっ飛ばさないように)」


 アッシュさんが顕現した瞬間、物凄い烈風が巻き起こった。

 部屋の物も、部屋の隅にふっ飛ばされてしまった。

「ん?力の押さえ方が足りなかったかな?そこ(部屋の隅)にいるのが仲間か?」

「そうです………中年男性はギルドマスターです。」


 アッシュさんは

「それはそれは、申し訳なかったな。『上級無属性魔法:復元!』」

 あっという間に、部屋が元の形に戻り、人も配置についた。

 アッシュさんの魔力は凄い、上級魔法が便利魔法みたい。


「なんぞ、おかしな夢でも見ておる気分じゃのう」

「頭がクルクルします………」

「同じく」

「………」


 ギルマスだけは何も言わずに腕組みをしています。やせ我慢はいけませんよ?

「我は、異空間病院・悪魔科の看護師長にしてドクター、アッシュである!この度は、我が病院の、科が違うとはいえ看護師兼ドクター、リリジェンを受け入れてもらい、大変ありがたい!我で力になれる事があるなら何でも言うがよいぞ!」


 あれ、アッシュさんって、意外と礼儀正しい?

「まあ、ブレイクするなら報酬はもらうがな!相手は上級悪魔だ。お主らの手には余ると思うが、一応ブレイクする事は伝えておく方がいいと言っておく」

 ああ、報酬はやっぱり要るんだ。


「じゃあ、その上級悪魔の居場所を………今回の悪魔は戦魔でいいのか?」

「そうだぞ、少年。ここに召喚されているのは戦魔だ」

「その悪魔が上級で………どこにいるか分かりますか?」

「うむ、上級戦魔はここに居る」


 こっちが広げるより早く、虚空から取り出した王女殿下の離宮の見取り図を広げるアッシュさん。自然な動きで、そのまま離宮の最上階の広間にマークをつける。

「でだな………戦魔は弱いものは相手にせん。だから盗賊少年よ、そなたが行くより、リリジェンとそこの女性をタッグで行かせるといいだろう。幻獣に乗った青年は、強いというのよりは、何か別もののようだしな」


「え………?私とエンベリルさんですか?!どうやって?」

「ん?インビジビリティをかけた上に浮遊をかけて、シースルーで場所をさだめ、物体透過で入り込むではダメなのかね?」

「いえ………全然だめじゃありません。私の想像力不足です」


「ははは、天使棟看護師長ルカが聞いたら笑ってしまうぞ、きっと」

「うぅ………否定できません」

「多分そこの女性………ん?何だいリリジェン、おおエンベリルさんというのだな、ならそうお呼びしよう。改めてエンベリルさんの方が戦魔より強いよ、今回は」

「今回は、というのは?」

「相手の剣が直線的すぎて、エンベリルさんのスタイルとの相性がいいのだよ」


「成る程、突っ込んで来るの脳筋のあしらいは得意じゃの。朝の鍛錬で慣れておる」

「そういうことだよ。君の筋肉の付き方で、変則的な戦いをするとわかる」

「さすが、医者じゃのう」

「ふふふ、それほどではあるがね」


 ギルドマスターが口を挟む。

「しかし、離宮でドンパチやったら、衛兵がこんか?」

「うん?『広域エリアサイレンス』でも教えてあげようか、リリジェン」

「教えて下さい、アッシュさん!」

 わたしは1時間ほどかけて、広域エリアサイレンスを習得した!


「これでバッチリですエンベリルさん!」

「アッシュさん、行くのはいつがいいでしょう?聞いてばかりですみません!」

「構わんよ、魔界の昼―――夜がいいだろう」

「ああ、その方は健康的なんですね………」


「ギルマス、王女の拠点………離宮までどれだけかかります?」

「2日もあれば」

「手前までは全員で行きますよね?」

「「「そうだな(ですね)(じゃの)」」」

 では………ごはん屋さん、カムヒア!


「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」

 歌いながら空中からゆっくり降りてくる「ごはん屋さん」

「ふんふふ~ん………とおや?変わった面子でいらっしゃいますなぁ」

「私が思うに、君が一番変わっていると思うがね」


 アッシュさんの冷静なツッコミに「なんと!」とおどろくごはんやさん。

「ワタクシなどはただの、恥ずかしがり屋のリザードマンでございます、はい」

 フードを目深に被っているのは、恥ずかしいからなのですか?初めて聞きました。

「いやいや、金魔と蟲魔とのハーフなのは見ればわかるし、鱗が黄金色なのも私には分かるよ?もしかしてバラされたくなかったかな?だとしたら謝るよ?」


「ううっ、丸裸にしておいて謝るも何も………」

「それは悪かったね、わたしはこれでも淫魔。口の回る方でね」

「ううっ………しくしく。今回のご用件は何でございましょう?」

「私じゃなくて彼女が呼んだんだよ」


「おお、これはリリジェン様、奇妙な場に呼ばれましたぞぃ」

「あはは、すいませんごはん屋さん、勢いでつい呼んでしまいました」

 今回はかくかくしかじかで、ここまで行きますと説明します。

「では、このごはん屋、今回は特別サービスをいたしましょう」

「さぁびす、ですか?」


「はい、この特製弁当をその悪魔に食べさせておやりなさい!」

 赤字に黒で〇に得が書いてあるお弁当箱を差し出してきました。どうしましょう。

「持って行きますか?みなさん」

「そいつは怪しいけど、メシは美味いよな」

「「(うむ)(そうですね)」」

「「「持って行くということで」」」


「最悪でも相手の気は害さんだろうよ」

 ベリルの一言で、持って行くことが決定。

 私たちの分のお弁当も、もちろんお願いします。


 当のごはん屋さんは、ギルドマスターに名刺を渡して愛想を振りまいています。

 文字通り尻尾を振って。物が壊れますよ?


 わたしたちは、部屋を退出し、『上級無属性魔法:アポート(取り寄せ)』で、私達の馬車を呼びます。それで定番になっている馬車移動に切り替えました。

 アッシュさんは

「何かあったら困るだろうから、異空間に帰らずにいてあげようか?緊急呼び出しが無ければ、その場所に居てあげよう」

 と言ってくれたので、ギルド内の上客用の部屋にいてくれるよう頼みました。

 帰って来る時は、馬車ごと冒険者ギルドに『テレポート』ですねこれは。


 目指すは、王女様の離宮です。

 果たしてエンベリルさんは、上級悪魔に勝てるのか―――?!

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