第3話 フィーアフィードの呪い

 ~語り手・リリジェン~


 ダンジョンに行くので、お買い物です。

 フィーアに「そのダンジョンはどんなところですか」と聞いたら、洞窟というより遺跡だそうで、不気味な感じで、強敵というより、罠と宝箱が多いそうです。

 あまり私の出番はなさそうですね。


 この世界のダンジョンは、太陽神ではなくの管理ではありません。

 その下の位置にいる「ダンジョンの神」が創造したものです。

 一度攻略されたダンジョンは、リセットもしくは消滅して別の場所に出現します。

 ダンジョンは、最奥に「核」があり、それを砕いたらクリアとなります。

 長い事放っておくと、ダンジョンはモンスターを溢れさせ、近隣を呑み込みます。

 それで「冒険者ギルド」などというものが、各国協力の基造り出されました。

 それはダンジョンへの抑止力になっています。雇用の確保という側面もあります。

 なにより、各国はダンジョン攻略に力を割くので、戦争が勃発しにくい。

 おそらくそれが「ダンジョンの神」の目的なのでしょう。


 さて、買い物でしたね。

 フィーアも、投げナイフと、古びてきたピッキングツールを買い直すそうです。

 私の買い物は………今回は前衛も務めるので武器が要ります。

 ………杖の代わりになって、私が使えるものとなると、長物になります。

 うん、ハルベルトとか、いいかもしれませんね。

 でも、狭い所で使えるように、ショートソードも持ってた方が良いので購入。

 ギルド内のお店を回ります。必要なものは全部ここで揃うはず。

 ショートソードは、丁度鋼鉄の業物があります。これにしましょう。

「お嬢ちゃん、扱えるのかい?」と言われましたが、大丈夫だと押し切りました。


 フィーアは問題なくスローイングダガーを10本買いました。

 その後(私は留守番)盗賊シーフギルドで、ピッキングツールも新調します。

 あと、野営の道具。

 フィーアは職業的に一人では潜らないので、そういうものは持ってないそうです。

 道具屋さんで、今後の事も視野に入れて、4人用の野営道具一式を買います。

 それから、保存食。一番いい奴を買います。

 市場に出て、屋台のごはんも買ったりします。


 私の「収納のバックパック」は、当然のごとく魔法の品ですが、中に入れたものは時間が止まるという特性があります。

 ダンジョンの中でも、おいしいものが食べたいですからね。

 え、材料を買ってって料理したら?ですか?

 私、料理は苦手なのですよ。


 ~語り手・フィーアフィード~


 今までにも冒険の経験があるんだろうか?彼女は、迷わず買い物を済ませていく。

 いや、ハルベルトを買ったのにはビックリしたけどさ。

 もう一つは無難にショートソードだったけど。

「ほんとうにそれ、扱えるの?」

「杖の代わりにも使うので長物にしましたが、私は何でも扱えますよ」

 と、返ってきた。ホントかよ。

 出来ないのは俺の職業―――アサシン、シーフ―――だけだって。


「できたら後衛に専念したいので、前衛が来てくれたらいいのですが」

「すぐには無理だろうね」

「ええ、ですからそのダンジョンには2人で行きましょう」

「もうそれはわかったよ………明日行くんでしょ?」

「ええ、今日は買い物だけで」


「わかった、でもその防寒具は動きにくいよね。薄手の買えば?」

 何かお勧めはありますか?と言われたので、前衛職の連中がいつも使っている、薄手だけど風を通さず熱を逃がさない、動きやすい伸縮性のあるコートを推薦。

 彼女は紺をチョイスして買っていた。


 次の日、彼女―――リリジェンは俺の宿(冒険者ギルドの宿)まで迎えに現れた。

「一緒に私の泊まっている宿屋の朝食を食べましょう」

 と言われたが、時間は7時。遅寝の冒険者には厳しい時間だ………。

「6時に起きて、お手伝いをしてから、こっちに来ました!」

 眩い笑顔である。反則だろう。

「冒険に出かける準備が、後でいいなら行く………」

「はいっ、もちろん私もまだですから!朝食後で!」

 彼女に付き合おうと思ったら、健康的な生活になるんだろうか?

 いや、まあ、彼女の宿のメシはおいしいからいいんだけどさ。


「「ごちそうさまでした」」

 ごちそうさまと言い、皿の片づけまでしてからリリジェンは冒険の準備を始めた。

 修道服・赤―――下には鎖帷子を装備しているらしい―――に防寒装備。

 修道服って多色あるんだな―――で、バックパックとハルベルト

 やっぱり、彼女の細腕でハルベルトを扱うのは違和感が………と言ったら、店の前に埋まってた巨岩を片腕で掘りあげ持ち上げてみせた。………もういいよ。


 冒険者ギルドまで戻り、俺の装備を整えて出発だ。

 東洋の忍者に似た黒装束に、ソフトレザー・アーマー。暗器は大めに持っている。


 ~語り手・リリジェン~


 さて、準備もすんだことですし、目的のダンジョンまで案内してもらいます。

 そこは、霊廟めいた、暗いダンジョンでした。

 周囲は野原で、ウサギなんかがいたりして、花が咲き乱れて。

 周囲と凄いギャップがあります。

 入ったところは広いホールで、その先に大きな入り組んだ道があります。

 道に沿って部屋があり、そこに罠や宝があるのだとか。

 取り合えずフィーアには、前回の行動をなぞるように言います。

 部屋から部屋へ、罠を解除し、宝箱を開けて行きます。


 フィーアは本当に腕のいいシーフですね。

 出てきた宝は私も欲しいと思うもの以外、全部フィーアに渡します。

 錬金魔法(この星では広まってない)があれば、お金には不自由しませんから。

 フィーアはそれでも、残しておくもの以外売り払って、お金は山分け。

「これが一番お金に禍根を残さないんだから、そうするべき」

 と言って聞かないので、私もしぶしぶ同意しました。残すアイテムは、その時々で相談して決めればいい、そうです。


 さて、目的のフィーアが強敵を呼び寄せる原因、ですが。

 遺跡は地下2Fに潜りさらに進んでいきます。

 私はフィーアが最後の小部屋に入る直前、確信してフィーアを止めます。

「どうしたのさ、ここが最後の部屋だよ?」

「いえ………以前来た時も、この順番で部屋に入ったんですか?」

「そうだけど」


「ここまでマッピングしてきましたが、上の部屋をなぞった線と、舌をなぞった線、積層型の魔法陣になってます。平たく言うと、上階と下階の線を重ね合わせると、魔法陣になってます。この最後の部屋に入ると、呪いが完結します」

「はあっ?何それ………もしかして」

「あなたの「強敵寄せ」は、れっきとした呪いです!」

「マジか⁉どうしたらいい?解き方ってあるのか?」


 ~語り手・フィーアフィード~


 俺の仲間殺しは呪いだって?

 すでに神殿で見てもらったけど、なんともなかったよ?

「それは、この呪い、いえ、呪いと言うと語弊があるでしょうか。呪いじみてはいますが、これは「永続する」もしくは「一定期間かかったままになる」「魔法」です。呪いで探しても、かかってない事になってしまいます」


「それで見つけられないようになってるって事か!あれ、でも、今までのパーティの魔法使いは何も言わなかったよ?」

「「無属性魔法:状態異常感知」をピンピンしている人にかけませんよ。普通」

「あ………そうか、俺、状態異常には耐性あるから、かかったことないや………」

 俺はしばし絶句した。ここまでいやらしい作りになってダンジョンは滅多に無い」


「治療できる?」

「取り合えず「無属性魔法:解析」をかけさせてもらっていいですか?」

「もちろん、構わないよ」

 しばらく動かないように言われて、立ち尽くす。


 リリジェンはえらく複雑な、光るパネルを手元に浮かべ、ぶつぶつ言っている。

「確かに魔法はかかってます。私の知識だと、このタイプの魔法は逆回しに魔法陣を辿ればいいはずです。ダメなら魔法解呪をいくつか試してみましょう」

「分かった」


 とりあえず、最後の部屋にも入り―――お宝はちゃんと回収した―――ボスの間には行かず、逆さまに通路を部屋を回っていく。

 入口まで来らなんか体がだるく、熱くなり、何かが体から失われたのが分かった。


「上手くいったみたいですね「無属性魔法・解析」でもパラメータから消えました」

 なんだか信じられない。

 はあああっと、そのまま木の根元に座り込んだ。

 そっか、こんなことのためにあいつらは………。


「フィーア。これ以上誰も巻き添えにしなくて済みますよ。過去は過去と割り切れないのは当たり前ですけど、これからの事を考えて、元気を出してください」

「割り切らないでいいって、なんで?」

「私自身が、過去と折り合いがついてないからです。毎日寝る前には懺悔です」

「懺悔かあ………柄じゃないから、自分ではやらないけど、リリジェン死んだ奴らのために祈ってやってよ。」

「私も祈りましょう、でもフィーアも祈ってあげて。簡単なのを教えるわ」


 主よ、みもとに召された人々に永遠の安らぎを与え

 あなたの光の中で憩わせてください。


 取り出した太陽神のシンボルが輝き、場に清浄な空気が満ちた。

「ねっ、簡単でしょう?だから夜寝る前にでも唱えてあげてください」

「ここまで簡単なら………まあ、いい、かな」

 リリジェンの顔が笑顔で輝いた。

 美少女の笑顔は凶器だな、全く。


 ~語り手・リリジェン~

 フィーアは脱力しています。

 わたしでも、手助けになって本当に良かった。

 お祈りも、受け入れてもらえたことですし、嬉しいです。


 そういう喜び気分にひたっていたら

「で、ダンジョンのボス、攻略するでしょ?最初からそれが目的だったんだし」

 忘れるところでした。

「そ、そうですね。でも、倒さなくても………」

 わざわざ戻るのも、と言ったら


「何言ってるのさ、ランクを上げないと聖なる花は取りに行けないんだよ。ボス戦の後に出現する「核」がないと、クリアした事にならない。「金」級になるなら、とにかくポイントを稼がなきゃ。今回のこれで、リリジェンは多分、「銅」まではいけるから、頑張るんだよ!」


「あっ………今回は目的が別にあったので忘れていました」

 おいおい………という目で見られて、小さくなる。

 こほん………

「では、ボスを倒しに行きましょう!」

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