第2話 仲間募集中

 ~語り手・リリジェン~

 ここレフレント星での金の価格が非常に高かったので、お金が余りました。

 現在780金貨ほどが手元にあります。

 そのため私リリジェンは、宿自体は温かみのある家庭的なところで、中堅クラスですが、食事のおいしさ(別料金)に定評のある所に落ち着きました。

 

 私も料理の勉強はしましたが、異空間病院のご飯(お弁当)はとてもおいしいので、旅先でも美味しいご飯が食べれるのなら、そこがいいと思った次第です。

 上流の宿?落ち着かないので嫌です。


 いつもの癖で、6時に目を覚ましました。

 一応、くまの形の目覚ましを持って来てるのですが、鳴る前に置きました。

 あ、今鳴り出した。

「いやっほぅ、エサが丸太のごとく転がってやがるぜぃ」だそうです。

 だから起きろ、ということなのでしょうがえらく物騒です。

 貰った時音を確認するべきでしたね。

 目覚ましに構うのはこれぐらいにして、身ぎれいにして階下に下りましょう。


「あらーすごく早いのねえ。まだごはん出来てないわよ」

 おかみさんにそう呆れられた私は、手伝いを申し出た。

 下働きは修道病院で慣れているので、なんでも言って下さい、と。

 

 そうすると、お掃除を頼まれた。雑巾と箒とバケツ。

 快く引き受け、食事処部分と、頼まれてないけど上の廊下を手際よく終わらせる。

 終わったと申請すると、玄関の掃除を頼まれた。

 食堂部分が、やっと開店準備に入ったらしい。

 そこへ、果物を山盛りにした人が向かってきた。


 その人が、「何か」につまづいて転ぶ。

 派手に飛び散る、果物たち。その中で「何か」―――少年が素早く動く。

 果物を5つぐらい手にして、少年は素早く走り出す。

 普通に走ったのでは私には追いつけない。

 だが「無属性魔法:加速ヘイストを使ったら?」

 

 わたしはあっさり少年に追いついた「盗みはいけない事ですよ!」

「氷属性魔法:氷のフリーズアロー」少年の服部分だけを狙って発射。

 少年は何かしようとしたが、諦めたのか、そのまま立ち尽くした。

「盗みはいませんよ。汚い身なりでもないし悪戯でしょう?」

 

少年は妙に熱っぽい目でこちらを見ている。

 あれ?少年はエルフのようです。

 15~16歳の少年に見えますが、実はそれなりの歳なのでしょうか。

「全然本気じゃなかったけど、ここまで鮮やかに捕まえられたのは初めてだよ………。ねえ、君。ちゃんと謝って果物を返したら、僕の話聞いてくれる?」

「もちろんです。神は寛容ですよ」


 果物を返して、果物屋さんに謝った。

 よく見れば、果物屋さんは2メートルを軽く超す超巨漢である。

「おうっ、謝ってくれる上に、商品も返してくれるんなら、いいってコトよ」

 そう言って少年の頭をなで、果物を宿屋に納入する。


「君、奢ってあげるので一緒に食べませんか?」

「え、いいの?でも………僕お金あるよ?」

「ちゃんと謝ったご褒美ですよ」

「そ、そういう事なら………奢ってもらう」


 ~語り手・フィーアフィード~

 食事が来た。なんか気恥ずかしいな。

 今日の朝ごはんは、シチューと、フルーツ山盛りサラダ。要はさっきの果物だな。

「名乗っていませんでしたね、私、リリジェンと申します。旅の賢者です。昨日この街に着いて、冒険者登録を終えたばかりです」

「賢者⁉」

 ギョッとした。

「属性魔法、神聖魔法、治癒魔法を修めています。属性魔法の種類は「全部」です」


「すごい………」

 世界中探してもそうそういない使い手だ。

 そりゃ悪戯とはいえ、俺を捕まえられるはずだよ


「必死で修業しましたからね。(患者さんのために)」

「そっか………ねえ、俺の名前は知らないんだよね?」

「昨日来たばかりですからね」

「仲間の募集はしてるの?」

「ねえキミ、ホントは年齢いくつ?」

「108歳だよ」

「なるほど。募集はするつもりです。最果てのダンジョン目指して、一緒に修行と冒険をできる方を」


 僕はハイっと手をあげる。こんな好機滅多に無い。

「僕はフィーアフィード。「仲間殺しの」フィーアフィード。等級は銀。街で噂を聞いてからでもいいからさ、仲間にしてくれない?」

 街の噂を聞いても、彼女リリジェンなら仲間にしてくれる気がするんだ。

「街で噂を聞くより、今ここにいる本人に聞きます。何故そんな不名誉な称号を?」


「え、そうくる………?まいったなぁ。………まあいいか………ぶっちゃけて言うとさぁ、わざとではないんだ。僕の職業は暗殺者アサシン盗賊シーフで、前衛向きではないんだよ。もちろんできるだけ援護するし、一撃必殺系の能力が通用することもある。けど、大量に高レベルモンスターが現れて、とてもじゃないけど攻撃通らない、ってなったらあとはダブル職業で強化された『隠れ潜み《ハイディング》』を使ってなりゆきを見守るしかなくなるんだよね。そしたらパーティーが全滅しちゃって。そんなところから僕ができるのは隙をついて仲間の遺品を回収して帰ることだけになっちゃう。これが僕の「仲間殺しの」フィーアフィードの名前の元凶。何故か僕が居るところに強敵が沸くってね」


「フィーアフィードさん」

 彼女―――リリジェンに静かに見つめられて、僕は緊張する

「あなたは偉いです」

 ―――へ?


「攻撃も自分への引きつけもできなかったんでしょう?」

「まぁね、引き付け、即、死って状況ばっかりだったから」

「ならあなたのしたことは間違ってませんよ、パーティメンバーだって、一人でも生き残って欲しかったはずです。それが、遺品まで持って帰ってくれるなんて」

「そ、んな、こと………」

「いう人がいませんでしたか?なら私だけでも讃えます。―――祝福あれ」

 胸元からペンダント―――翡翠の聖印―――を取り出して彼女は祈った。


 主よ、みもとに召された人々に永遠の安らぎを与え

 あなたの光の中で憩わせてください。


 彼女は太陽の光に包まれる。暖かくて、清廉な祈り。

 気が付いたら俺は彼女の祈りを繰り返していた。

 罪悪感が解けて消えていく。


 うん、俺はどうやってでも、彼女の仲間になる。

「祈ってくれてありがとう、綺麗だったよ、リリジェン」

 聖印をしまいながら、彼女は照れ笑いした。神様のおかげですよ。と。


「それで、私のパーティメンバーになってくれるのですか、フィーアフィードさん」

「俺の方から頼みたいぐらい。リリジェンなら死にそうにないし」

「うふふ、そうですね、そう滅多な事では死にません。非常口もある事ですし」

「非常口?」

「あなたには私がどこから来て何を成したいのか、お話しておきましょう―――」


 そう言ってリリジェンが部屋に誘ってくれたので、お邪魔することにした。

「私は異空間から来ました」

 ………はい?

 指で扉ぐらいのの長方形を描く。

 そこに現れたのは一枚の扉。

 開くと、そこには楽園があった。

 暖かくて、色とりどりの花が咲いていて、かぐわしい香り。

 どこからともなく優しい歌が聞こえてくる。


 通りかかる人は様々だが、機能的な白い服の人が多い………?

「私はここから来ました」

 ここは病院で、この場所は関係者の出入りのスペースです、という。

 こういう病院です、と説明もしてくれた。 

「患者さんは「だれも見ていない場所で死にかけている」事を条件としてこの病院に  収容されてきた人々です。ここで見かける患者さんは皆、そういう境遇にあります。

 また、看護婦や雑用の者も元はそういう環境だったひとがほとんどです。もちろん私もそうです」


 ここの性質上難病の人が多く、今回自分が「聖なる花」を採りに行くきっかけとなったのも、特殊な「呪い」にかかった人が回収されてきたから、だとか。

「呪いにかかった人は今こんな状況です」

『無属性魔法:映像ヴィジョン』によって映し出されたその光景

 グロテスクにあちこち歪められた人体、赤黒く、皮膚は全部解け落ちている。片目はつぶれ、もう片方の瞼のない目がぎょろりと宙をにらんでいる。

 鼓動はしているのか怪しい。辛うじて元は女だったことが分かる。

 内臓が透けて見える。自分の意志で四肢は動かせるのだろうか?

 吐き気がこみあげてくる、呪いっていったって、ここまでする必要あるのかよ!


「この方は、この病院にこの状態で運び込まれてきました」

 リリジェンは、そう言って映像を消した。

「それで、ドクターの判断で在庫のない解呪の触媒―――「聖なる花」を採りにここに来たのが私です。患者さんには時止めの空間に入ってもらっていますし、帰すときは時を遡って帰しますから、急ぐわけではありません」


 ―――ただ、パーティメンバーにはこれを見ておいてもらいたかったのです。

 そう言われて僕は呆然とした。

 今まで、冒険に目的はあっても、俗っぽい奴ばかりだったから。

 大金持ちになる。お姫様と結婚したい。貴族になりたい。国落としだ。


「これは………無償なのか?」

 そんなわけないと思って聞く

「患者さんがそう望めば。もとからほぼ無償ですけどね」

 驚く自分がいる。当たり前だよね。

「患者さんの素性は………?」

「大国のお姫様ですが、病院は関わり合いになりたくないので、治ったらひっそりお返しするつもりです」


「………馬鹿なの?すごい有名になるチャンスじゃん?」

 でも、返ってくる答えは何となく予想してた。

「俗世の名声はいらない、と院長先生は仰せだそうです」

「………あのさ」

「はい。………嫌になったりしました?」


「ううん、すっごくぞくぞくする。聖なる花、採りに行こうよ!野心なんてくそくらえだ!今回は絶対仲間殺しなんて呼ばれてやらないんだから!」

「フィーアフィードさん………!!ありがとうございます!」

「今からでも、パーティ申請書書きに行こうよ」

「はい!」


 ~語り手・リリジェン~

 フィーアフィードさんは、理解不能の映像や事象を説明されたでしょうに、快く仲間になってくださいました。

 なんでも、「聖なる花」を採りに行くのに、無償って逆に凄い、とか。

 名声なんてその途中でGET出来ちゃうよね。とか言っておられましたが。

 私は名声なんて正直いりません。

 患者さんの治療ができれば十分です。

 

そんなことを想いながら、フィーアフィードさん―――本人曰く長いのでフィーアで十分だとの事―――。

 フィーアと一緒に冒険者ギルドの総合受付に行き、パーティ登録申請書を下さい、と言ったら自殺志願者を見る目で見られました。放っておいてください。

 でも、フィーアの強敵遭遇率は、もしかしたら何か理由があるのかもしれません。

 取り合えず書類を書き終わり、提出。


「フィーアさん」

「さんはいらない」

「えぅ………フィーア」

「何さ?」

「あなたが、強敵にパーティを遭遇させてしまうようになったのはいつからです?」

「んん………そうだね、真面目に思い出すと2年前の『銅』級のダンジョンにもぐって、有り得ない強モンスターが出たんだよ。そこで全滅(僕以外)したのが始まり」


「2人で、そこ潜ってみませんか?募集はかけましたが、まだ来ないでしょうし」

「でっ、でも前衛が居ないだろ」

「大丈夫、私、前衛もできますから!」

「うっそぅ」

「呪文なら、無詠唱発動してしまえば済みますし………というか私いつもそうですよ?気づいていませんでしたか」


「小声でしてると思ってたよ!なんだよその無駄………でもないけど高等技術!」

「だから、ヒントを求めて、その『銅』級のダンジョンに潜りましょう」

「そんなに言ってくれるのは嬉しいけど、そこで強敵が出たらどうするんだよ」

「それこそヒントじゃないですか!倒して原因を探りましょう」

 彼はガクッと肩を落として

「もういいよ………それで」

 と言いました。


『銅』級のダンジョンには、『銀』のフィーアさんがパーティにいれば入れるので、今からでも行けます、が。

 忘れてならないお買い物。

 野営道具その他を買いに行かないといけません。

 これで今日はつぶれそうですね

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