聖なる花を求めて

フランチェスカ

仲間を求めて~プロローグ~

第1話 異空間病院より回収任務

 ~語り手・リリジェン~ 

 わたしは異空間にある病院で働いている医師(看護もします)です。

 ここに運び込まれてきた患者さんは、全身が呪いで爛れていました。

 このままでは命がないのは明白でした、呪いが解けていないので………。

 いくら治療しても、徒労に終わるのです。

「まずいな………」

 先輩が呟きます。

 私は呪いの逆探知を試みますが、ここと同じく相手は異界にいるようで、逆探知不可です。それは向こうも同じなので、これ以上呪いが強くなることはないのですが。

「確か、この呪いの解呪には、特殊な触媒が要りましたよね」

「そう。向こうも特殊な触媒を使ってるからね。それを無効化しないと。だけどそれ―――「聖なる花」が今ないのさ。リリジェン、採ってきてくれない?どういうものかは知ってるよね?」

「はい、知っています」

「この人は時が止まった部屋に入れて、呪いの進行を完璧に止めておくから、急がなくてもいいから確実に採ってきてもらえるかい」

「はい、行く準備をしますね」

 そう、この呪いを解くための触媒には、特殊な花が必要になります。

 それは、採って来るのがとても手のかかる場所―――巨大なダンジョンの最深部なのです。抜け道はなく、冒険者としてそこに潜るしかありません。

「じゃあ、準備にかかって、出来たら報告してから行きます」


 服装は………馴染んでる修道服三種類(紺、深緑、深紅)で。

 他の装備は購買(という名の商店街)でいただきます。

 修道服の下に着られる細目のチェインメイル。聖魔術も普通の魔術も増幅する杖。

「鑑定」の魔法が常時かかってる(ON・OFF切り替え可)コンタクトレンズ。

 魔法のバックパック(かなりのものが詰め込めます)

 純金のインゴット2つ(向こうでお金に換えます)

 魔法のバックパックには、身繕いに必要なもの一式と、タオル、修道服の着替え。

 ファイアースターター、鉈。

 お金を入れる用のポーチと、吊り下げ用のベルト。

 花を入れて持って帰る用の保存カプセルが5つ。

 出来たら大目に採ってきてほしいそうです。

 大き目だけど軽い鍋、普通の小鍋、両方とも吊り下げられる奴です。

 あとは(テントと毛布とか)は一緒に行く人数が分からないので、向こうで調達。


 ダンジョンはこの「異空間病院」ではなく、他の星にあります。

 レフレント星に行かなければなりません、ので情報が必要です。

 図書室に行って文献を捜します。ありました。

 本から情報球(その本の内容を対象の脳にインプットする)を作り出します。

 それを頭に納めます。私は修行の成果で、ズキッとしたけどそれだけ。

 これでこの星の情報は、すべて頭の中におさまっています。

 主に信仰されてるのが太陽教なので、ほっとしました。私は太陽神信者です。

 出身は………旅芸人同士の間で生まれたので、どこで生まれたのかは不明。

 親も何処にいるのか不明という事にしておきましょう。

 主に隣国で活動していたので、名も知られてないということで。

 今回行く国は、大国ですね。ダンジョンもたくさん。

 移民も多いから、私の肌の色なんかを誤魔化す必要はなさそうです。


「先輩、準備出来ました」

「よしきた、異空間通路の出入り口をどこに調節する?」

「ヤスミン王国へ半日ぐらいの街道で、人気のないあたりをお願いします」

「了解!………よし、設定出来たよ!」

「わかりました、では行ってきます!」


 =====================================

 

 異空間通路を通って行った先は夜の街道でした。

 草原に風が吹き抜けて行きます。すごく風が冷たい。冬なのでしょうか。

 早めに街に着いて、インゴットを換金して防寒具を買おう。

 そう思っていると、後ろからガラゴロガラゴロと馬車の音が聞こえます。

 振り返ってみてビックリ。なんと、大規模な隊商じゃないですか!

 わたしはその馬車がわたしに追いつくまで待ちました。

 良い服を着た御者が、私に会釈します。


「あの………お願いがあるのですけど」

 暫くを値踏みしていた様ですが、身なりが良いので答える気になったのでしょう。

「何でしょう」

「防寒服を売ってませんか?それと、前の町でお金を全部インゴットにしてしまったので、できたら換金を。この規模の隊商なら可能かなって思いまして」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 金のインゴットを取り出してみせたら慌て始めました。

 結構大きなインゴットだったので、上客だと思ったのでしょう。


「エイル様、すみません!出てきて貰えますか?」

 馬を操りながら後ろの幌馬車に声をかけます。


 すぐに幌馬車が開いて、エイルさんという人だと思われる人物が出てきました。

 ちなみに私は今、馬車と同じ速度で飛んでいます。足では追いつけなかったので。

 それを見て


「冒険者の人かな?何の御用でしょう」

「冒険者になりに行くところです。そのお金は他の町で、医者をやってた時に貯めました。それで、換金してくださいますか?」

「旅の途中とはいえ、換金ぐらいできますとも。換金の手間賃は頂きますけどね。そのインゴットをこちらに。ちょっと待っていて下さいね」


 ばさ。幌馬車の中に入るエイルさん。寒いので早くしてほしいです。

 本当は堅実に冒険者ギルドで換金したかったのですが、仕方ありません。寒いし。


「お待たせしました」

 革袋―――結構大きい―――を私に渡すエイルさん。金貨800になったそうです。

 ちなみに1金貨は切り詰めて1週間暮らせるぐらいの価値です。

 腰の金銭入れポーチに流し込みました。


「じゃあ、防寒のコートとブーツ、手袋を売ってください」

「後方にあるので、取ってこさせます。失礼ですがサイズなどは………」

 

 私はこの星の数値に換算したサイズを答えます。

 人様に申し上げて、恥ずかしいサイズではありません。


「分かりました。取ってきて差し上げなさい。ところでお嬢さん。申し遅れました、私はゴルド商会の副会長エイルと申します」


 下働きらしい少年に指示を飛ばすと、いきなり自己紹介を始める。

 こちらも返すべきかな?

「冒険者になるために旅をしています。リリジェンと申します」

「よろしければ、私の馬車でご一緒しませんか?徒歩だと半日ははかかりますよ。我々と一緒なら夜明けには着きます」


 夜明けかあ。ま、冒険者ギルドは24時間営業なのでいいか。暖も取れるし。

「じゃあ、お言葉に甘えまして、お願いします」

 わたしはふわりとエイルさんのいるところまで行くと、招き入れられたので幌馬車の中にお邪魔した。マジックアイテムか何かの効果だろうか、とても暖かかった。

 その頃、私が頼んだ物が到着………あれ、商品は?


「カラーバリエーションとタイプ別のもの全部魔法の袋に入れて持ってきましたぁ」


 と小間使いの少年が走ってきました。 

 それはマジックアイテムでなければ、さぞかしかさばるでしょうね。

 有難く、わたしは持ってきている修道服の色と喧嘩をしないように淡いベージュのものを選びます。ムートンっぽいです。モコモコ。


 その都度値段を聞きましたが、上質なので高いとは思いませんでした。

 その後は、なごやかに談笑しました。商品を勧められましたが。

 出して貰った紅茶はショウガ風味で、温かくて美味しかったです。

 

 つつがなく、冒険者の都市:パラケルに到着しました。

 通行費は5銀貨だったので、昨日の服のおつりで支払います。


「エイルさん、ありがとうございました。おかげで早く着きました」

「いえいえ、お客様は上客なので当然ですよ」

「それで、冒険者ギルドってどこに行ったらいいんでしょう」

「街の地図をどうぞ、差し上げます」

 精密で、高そう………まあ、くれるのならいいか。

「そのかわり、必要なものがありましたら、ゴルド商会をご贔屓に!」

 そういうことね(苦笑)


 私は地図を見ながら、冒険者ギルドに辿り着きました。

「会員受付・更新」と書かれた所にいる、お姉さんに話しかけます。

 まだ20代に見えるお姉さんです。


「すみません、冒険者登録したいのですが」


 目指しているところは、最果てのダンジョンです。一人では無理なので。

 高位の冒険者の仲間が欲しい。それには私も冒険者になるしかありません。

 もちろん、冒険者証という身分証明書も欲しいです。


「最初は「錫」ランクからになります。よろしいですか?」


 そう、新人は実力に関わらず、皆「錫」ランクから。

 ランクは白金・金・銀・銅・錫とあり、「白金」は片手で数えられる人数のみ。

 私が目指すのは「金」です。

 目的のダンジョンに行く認可が「金」でないと下りないのです。


「はい、構いません」

「では申し込み書にご記入を」

 名前と性別、出身だけ書けばいいみたいです。あ、でも出身は………。

「あのー」

「はい?」

「親が旅芸人で出身地がないんですが」

「ああ、なら空欄で構いませんよ」

「よかった。なら書き終わりました」

「字、お綺麗ですね。冒険者の方って書けない人や、読めない人が多くて」

「ああ………」

 院長先生は、字が汚いと怒りましたからね。


「では次は実技です。申込書を持って、町はずれの闘技場あとまで行って下さい」

 ぺらりと一枚の羊皮紙を差し出されます。

 この星の製紙はまだまだなのです、知識を提供する気はありませんけど。


 闘技場あとに着きました。

 闘技場の重厚さに比べるとアンバランスな感じで、レンガでできた小さな小屋があり、『実技試験受付』と看板があります。

 私はそこに設置されている受付の窓をガンガンと叩きます。


「いらっしゃいますかー」

「はーい!ちょっと待ってねー」

 給湯室にでも居たのでしょう、湯気を上げる飲み物を持っている30代ぐらいのお姉さんが出てきます。

 ガラガラと窓が鳴って、受付が開き、受付席に座る女性。

「あの、これをお願いしたいんですけど」

「はいはい、実技試験ね。物理じゃないのね。魔法の系統は何かな?」

「属性魔法(一般に魔法といえばこれだ)、神聖魔法(奇跡ではない)、治癒魔法の三種類です。あ、属性魔法の種類は「全部」です」

 ………

 ……

 …

「………は?」

「もう一回言いましょうか?」

「いやいやいや、それはいい。ちゃんと聞こえてた」

 お姉さんはキリっとした表情で

「聞こえたうえで脳が理解を放棄しかけただけ」

 ダメじゃないですか。

「ええっと………ふつうここで実技なんだけど。いや、今回もするけど、ホントにそれだけの呪文が使えるの?」

「証明しましょうか?」

「まあ、それしかないよね。闘技場についてきてくれる?」


 闘技場には二階建ての家ぐらいありそうな大きな水晶(?)が置いてあった

「ええと、あの水晶に手をついて、それぞれの魔法―――属性魔法は属性ごとにね―――の扱える最高難度のものをを唱えて。その際、魔法は全部水晶に向けて放つこと。どんな魔法も吸収されるから」


 結果。

 最高難度の術を受けた水晶は―――多分私の魔力が高すぎたせいで―――動作不良を起こしたようです。

 受付のお姉さんが絶句している。

「あ、あのぉ。これで良いんでしょうか」

「あ、ああ。貴女は言われた通りにやっただけだもんね」

 修理業者呼ばなきゃ………と言っている。

「罰金とか、払わなくていいんでしょうか」

「持ってるならね………ギルドの経費として、お上にあげたくないから」

「いくらぐらいですか?」

「3000金貨ぐらい」

「うわぁ。それは確かにお上に上げたくないかも」

 そう言って私は、バックパックの中に手を入れます。


 私は、1つ申告に漏れがあったことを思い出していました。

 でも、この魔法はここでは一般的でないようなので、申告しないままにしよう。

 鞄の中の手の中で、魔力が質を変え量を変え、結晶化していく。

 やがて、私は鞄から、金貨1000枚分のインゴット3つを取り出しました。

 そう、錬金魔法です。


「これ………修理代としてどうぞ。あ、やましくはないですけど、出所は聞かないで下さい。迷惑のかかる人がいるので」

「………うっそぉ………」


 しばらくお姉さんが落ち着くのを待って、切り出します。

「冒険者登録の方なんですけど………どうなりますか?」

「水晶のお金まで貰ったことだし、確認できなかった最後の方は、確認したことにしてあげる。申告通りの認定カードを申請するわね」

(内緒よ)と囁かれました。

 さっきの羊皮紙に何やら付け足して

「街のギルドで提出しなさいな」

 と、言われた。素直に向かう事にする。


「会員受付・更新」と書かれた窓口へ羊皮紙を提出すると

「ええー。うそでしょ?すごーい」

 目を丸くしながら、錫の名刺サイズのカードを取り出して、尖筆で何やら細かい魔法文字を書きつけていきます。そして、板のくぼみにサファイア色の石を取り付け。

「かんせーい。おめでとうー」

「ありがとうございました」


 これでやっと、冒険者になることができました

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