第4話 ややこしい迷宮

 ~語り手・フィーアフィード~

 気を取り直して、ボスの間まで行くことになった。

 部屋は全部調べ済みだ。

 曲がり角が多いが、それでも1本道の迷宮をトコトコ歩いていく。

 隊列は僕、リリジェン。


 僕はやや先行しつつ、曲がり角の向こうに罠がなければ―――罠はさっき潜った時に解除してるけど―――リリジェンに合図して来てもらう。


 モンスターがいた場合は―――これは復活してる可能性がある―――やはり合図して、即座に隊列交代。


 とは言ってもここのモンスターは雑魚だ、リリジェンの「無属性魔法:エネルギーボルト:10本」の前にあっさり沈む。ちなみにエネルギーボルト10本で全力かと聞いたら、50本ぐらいだ、と返されて俺はギョッとする。師匠は100本出してたと聞いて、僕は師匠が彼女の理不尽の元凶か?と思った。


 そして、最深部。最深部のボスの間には―――。

 1体の案山子。

「ハズレ・もう一度トライ!」

 と書いた看板を下げている。

「なにこれ………?」

 と僕が呟くと、リリジェンが、もしかして、とマップを引っ張り出してきた。


 ~語り手・リリジェン~

 マップを引っ張り出してきたけれど、羊皮紙に書いたから、B1Fと1Fの重なった図がわかりません。

 フィーアの時は何とかなったけど、今回のは重なって見えるようにしたいのです。

 私はバックパックから、本来マッピング用にしようと思ってた紙を出してきた。

 薄手の、エアメールに使われている紙です。


 折りたたみ机も取り出してきました。食事の時に使おうと思って買った奴です。

 羊皮紙の図を、エアメール紙に書き込んでいきます。

 フィーアの時の魔法陣が出てきました。

 けど、これ他の魔法陣も作れそうなのです。

 ノートを取り出してきて、出来る魔法陣を全部書き込んでいきます。


 5つの魔法陣と、1つの隠し扉らしきものが浮き上がってきました。

 そのうち2つの魔法陣は、また別の呪いがかかる魔法陣でした。

 3つの魔法陣は、ボスの間に対する召喚陣。ボスが出るようになるのです。

 ただ、3つでも、強中弱とあって、強にするには隠し扉に入るのが必須です。


「フィーア、迷宮ってボスが強いほどいい核が取れるの?」

「そうだよ?それがどうしたの?」

「フィーアの時と同じやり方で、ボスを出すことが可能になりそうなの」


 私はフィーアにも魔法陣を見せます。

「へえ………ここ、こんな風になってるんだ?どうりでクリアする奴が少ないと思った。大半がカカシを見てるんだな。この通路(弱・中)は………典型的な中堅どころが通りそうな順序だね。この辺のドアは半端な盗賊シーフじゃ開かないから」


「強の順路はどうなの?」

「アクの強い扉ばっかり経由してる。あれ………ここ、隠し扉?」

「そうなの。無いと構造的におかしくなるから」

「これは俺も見つけられなかった。強ボスと戦闘しようと思ったら必須なの?」

「うん、そうなの。」

「ボスの強さと、呪いの悪辣さから考えたら、今回の報告後、ここは「銀」の迷宮になるかもね。あと二つも呪いあったんだろ?」


「そうなんだ………で、強ボスに挑む?無理そうなら前衛が入ってからにしよう」

「そうね、慎重を期すことにしましょう」

「よし、じゃあ一旦ギルドに報告しに帰ろう!」


「………という事なんです」

「あら、まぁ………初めてよ、そんな報告………後日確認の冒険者を出すから、その魔法陣、譲ってもらえます?」

「コピーなら譲ります」

「コピーって何?」

「ええと『無属性魔法:複写』」

 私は呪文を唱え、全部まとめてコピーした。それをお姉さんに渡す。


「なにその便利な呪文!教えて欲しいわ」

「教えますよ?お仕事は何時までですか?」

「6時よ、今4時半」

「じゃあ、ここの酒場で待ってます。唱えるだけの呪文ですし、お姉さん魔法が使えるようなので、一気にコピーするやり方もマスターできると思いますよ」

「ホント?あ、何かお礼を………」

「あ、酒場奢ってくれたらそれで良いです。フィーアの分も」

「わかったわ!じゃあ後で!」

 私とフィーアは受付を離れました。


「フィーア、私は6時までに腕時計を買いに行きます。さっき受付で、便利そうだったから。プレゼントするので、フィーアも腕時計を着けてください」

「まあおごりならいいけど、便利そうだし」

「じゃあ、ゴルド商会にしましょう。近いですから。受付さんとの待ち合わせもあるので、近い方がいいですもんね」

「ゴルド商会⁉あそこ、高いよ」

「でも、防寒具の質は良かったので。腕時計は質がいい方がいいですよ」

「………まー買う本人がそう言うなら」


 ゴルド商会は、デパートみたいな感じで営業をしている。

 腕時計はすぐに見つかった。

 選んでいると、店員さんがすすすっと近寄ってきて、「お望みの物を仰っていただければご案内します」と言ってきた。

「ベルトはシンプルで、冒険の邪魔にならないやつ。けど文字盤は、ちょっと凝っていたら嬉しいです」

 そう告げると、店員さんは少し考えて、それでしたら、と奥のカウンターに私たちを誘導した。


「販売は1週間後からだったのですが、丁度いいかと」

 腕の形のマネキンが5体出てきた。

 ベルトはシックな茶だが、文字盤が、丸っこくデフォルメされた動物の形になっている。金属部分は艶消しの銀。

 種類はテントウムシ、タヌキ、犬、ネコ、ニワトリである。

「丁度いいじゃない。フィーアはどれがいい?」

 

 フィーアは結構真面目に考えて

「ネコかな。文字盤の色も黒いから、シーフには丁度いいよ」

 なるほど


「私は、ニワトリがいいな………文字盤の白色は、服をあまり選ばないし。でも、全部下さい。新しく入る人にもあげたいし。贈答用に便利そう」

 店員さんはニッコニコになった。


「初回10%オフで、全部で金貨9枚になります!」

「高!」

 とフィーアは叫ぶ。


「時計はもっと高いのもいっぱいあるわよ、フィーア?それでいいです店員さん。あ、エイルさんによろしく。これからも来ますからって!」

「エイル………?はっ!副会長⁉」

「街道で同乗させてもらいまして。お世話になりました」

「はっはい。申し上げておきます………あっ、お名前は?」

「リリジェンです、こちらはフィーアフィード」

「ありがとうございます!覚えておきます!」

 店員さんにペコペコされながら、私たちは冒険者ギルドの方に戻った。


 ~語り手・フィーアフィード~

 6時の酒場は、やや混み始めたところだった。

 まだ空いていたので、奥のテーブル席を占拠する。

「フィーア、はいネコの時計」

「あーありがと。僕の手首細いけど、大丈夫かな………う~ん穴の位置がちょっと」

 そう言って、僕は自前の工具でベルトに穴をあける。

「これで完璧」


「私もつけてみましょう………フィーア、微調整お願いできます?」

「いいよ………ここだね?はい」

「ありがとう。ぴったりです。袖口が白いので、ニワトリも目立たないし。………これって冒険者ならではの発想ですよね」

「まあ自己満足でいいんじゃない?」


 そんなことを話していたら、受付のメリルが来た。

「こんばんは、受付さん」

「いやーね、勤務時間外よ。メリルって呼んで」

「じゃあ、改めてメリルさん」

「よろしくね、リリジェン。一応フィーアフィードも」

「一応かよ」


「そういえば、あんたの呪い、解けたのよね。告知したら?」

 答えようとしたら、先にリリジェンが話し出した

「あ、それなんですけど………ギルドの掲示板に貼ってもらえないでしょうか?その方が皆読むでしょうし………」

 おいおい、気持ちは嬉しいけど無茶だろそれは。


「う~ん………それは」

「お願いします」

「………仕方ないわね。周知されないと前衛も来ないでしょうし」

「ありがとうございます!」

 いいのか⁉

「………ありがと、助かる」

 僕はちょっと視線をさまよわせる。どんな顔していいか分からない。


「よかったらこれ、どれか選んでください」

 リリジェンは時計を見せる

「やだ、可愛いじゃない!………そうねぇ、タヌキが可愛いわ。これ頂戴!」

「はい、どうぞ」

「明日には張り出しといてあげるからね!」

 メリルはご機嫌だ。


「呪文は食べながらでいいですか?」

「いいわよ!仕事終わったし飲むぞ~!付き合いなさい2人共!」

「僕、あんまり強くないんだけど?」

「私は………そういえば、私お酒って飲んだことがありません」

「「え⁉」」


「最初なら軽くにしといたら?」

メリルのいう事ももっともだけど、それじゃ面白くない

「えー?でも冒険者は基本、酒好きだから飲めた方がいいよ、今後の付き合いでも飲むだろうし。葡萄酒ぐらいならいけるでしょ」

「う~ん、じゃあお試しで葡萄酒を」

「僕はエールでいいや、メリルは?」

「取り合えずエール!呪文覚えるまでは軽いのでいいわ」

「じゃあそれで、店員さん~!」


「………というのが呪文です。一応書いておきますね」

 リリジェンは羊皮紙に、呪文とおぼしきものを書きつけている。

 僕は、魔法はマジ無理。

「で、複数枚一気にコピーするときは、魔力を写す方だけでなく、写される方にも通して、後は呪文を唱えるだけでかまいません。写す方と写される方、枚数だけはきっちりそろえてくださいね」

「結構、簡単なのね」

「故郷では、「生活便利魔法」の一種っていう扱いでしたから」

「へぇ~他にこっちにはない奴ってあった?」

「さあ………私あんまり使わなかったんで、今のところ意識してないですね」

「何かあったら、教えてね」

「はい………」

何か隠してそうだな、リリジェン。


 リリジェンは葡萄酒を飲み始めた。もちろん教え終わったからだ。

 「味は、ぶどうジュースに似てるけど、独特の風味がある。これがお酒?」

 「多分そうじゃないかな」

 そう言って、次々杯を重ねていくが、何も変わったことは起きない。


「全然平気だね、もうちょっと強いの行っとく?ウィスキー」

「うん、注文するわ」


「変わった味ね………刺激的」

 飲んでも、飲んでも、酔ってる様子はない。

 鏡で自分を見てみたりしているが、赤くもなってないから無駄だと思う。


 周りで見てたドワーフ―――この酒場の酒飲みチャンピオンのゴロス―――が

「奢るから、もっと強いのを飲め。ワシと勝負じゃ!ウォッカを頼む!」

 と言ってきた。リリジェンに異存はなさそうだ。

 僕は、だんだん周りに集まってきた人たちを整理している。

 でないと、もっと挑戦者が出る。


「酔わないなぁ。喉元をカっと灼く感じはあるけど、それだけ」

「むむぅ、ワシの方もこれではさほど酔わん!ドワーフ特製火酒で勝負じゃ!」

 僕は、掛けの胴元を始めた。ボウルを持って、掛け金を集めて回る。

 リリジェンは困り顔だけど、もう後には引けない所だ。

「いいですけど………」


 結果、ゴロスの方が酔いつぶれてしまった。

 リリジェンは、真のザルだ。

「全然酔えなかった。火酒は美味しかったけど………」

 みんな賭けで一喜一憂している。

 リリジェンがどれだけ酔ってるか確認に行くやつもいる。酔ってないと思うよ。

 彼女が全然酔ってない事を悟ると歓声が上がり、拍手を送られた。

「今日からあの子がチャンピオンだ!酒場の掲示板を書き換えろ!」

 とかいう騒ぎになった。

「リリジェン!嘘だろ、あのフィーアフィードとパーティを組んだ奴だ!」

 と、そっちでも騒ぎになっている。うるさいな!


 そのままお祭り騒ぎになった酒場を、胴元を終えた僕は、やってられないという顔の彼女(酔ってないんじゃそうだろう)を抱え、隠密スキルを駆使して脱出したのだった。

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