第5話 新たな仲間

 ~語り手・リリジェン~

 大いに騒がしかった一夜が明けて。


 私は宿で朝食を済ませ、フィーアと待ち合わせをしているギルドの待合所に行きました。個室になっていて、外からは見えません。

 私は約束の13番の部屋に入りました。

 すると、誰かが先にフィーアと話していました。


 その人物の姿を見て、私はフリーズします。

 とても整った容姿のエルフの美少女。

 金髪が眩しいです。瞳は夢のようなピンクの薔薇色。が。姿が。


 真紅のハイレグのバニースーツですが耳と尻尾はなく、代わりに頭には両サイドに真紅の薔薇が大中小と飾られており、それは宝石で彩られています。首にはチョーカーをつけ、そのチョーカーから金の鎖が胸元へつながり、危うい胸元を支えています。本来尻尾があるところは何もなく、かわりにその辺りから、膝まである真紅のレースと光沢のある深紅のサテンの布がふわっと出ていて、ドレスの後ろ側みたいになってます。そして、深紅のガーターベルトと深紅のガーターストッキング。厚底の真紅の靴。背中には真紅の大型剣の鞘と柄、腰には深紅のショート・ソードらしき鞘と柄、短剣らしき深紅の鞘と柄がのぞいています。


 そこまで観察した時点で、フィーアがこっちに気付きました。

「リリジェン!前衛候補が来てるよ!」

 

 あ………。

 私が反応するより早く美少女が私に気付きました。


「おお。お主がフィーアの救い主か!こいつが盛んに褒めるものだから、一体どんな女かと思えば、なかなかの美少女ではないか!」

「………あ、えと。ありがとうございます!」

「フィーアの呪いとやらが解けたのならば、同道するにやぶさかではないぞ。パーティに入れてはくれぬか?あ、妾の階級は『銀』じゃ。職業は、剣士じゃの」

「あ、ありがとうございます。その………個性的なお姿ですね」

「美しくあろう?存分に愛でるがよいぞ」

「ありがとうございます」

 確かに彼女に似合って美しくはある。ぶっ飛んでるけど………。

「で、パーティに入れてくれるのか、どうか?」

「は、はい、でしたら、フィーアにもした、私が聖なる花を求める理由についてお話させてもらって、それでも来て下さるというのなら、お受けします」

「ほう、理由とな。勿論聞こうぞ。妾は寛容故、大丈夫だとは思うがな!」


 彼女は泣き出してしまった。

「そうか、そうか………。無償の愛、美しいではないか。この際お主の出身はどうでもよい。その姫を無償で助けるというのが重要じゃ」


 涙を拭き終わって

「この斬殺女王・エンベリル、手助けしようではないか!」

 凄いあだ名が聞こえた。けど彼女の気持ちも伝わった。

 私は彼女の両手をしっかりと握りしめ、言った。

「ありがとうございます、嬉しいです。改めまして、わたしはリリジェン。職業は賢者です。よろしくお願いします」


「うむ!………ところで今賢者と言うたか?」

 彼女は興味津々で

「使える魔法は何じゃ?」

「属性魔法全部と、神聖魔法、治癒魔法です」


「フィーア、お主運が良かったの」

「うん、そう思う。魔法陣に明るかったのも運が良かったよね」

「魔法に関することは、みっちり勉強してますから」


「さて、迷宮を攻略するのに、前衛が欲しいとさっきフィーアの奴が言うとったが」

「はい、そうです。こういう迷宮で………」

 わたしは迷宮の説明をした。

「ふむん、なるほどの。当然最強のを叩くのであろう?その方が迷宮のコアの価値は上がるからのぅ」

「え?迷宮の核って砕くものなんじゃないんですか?」

 私は教えてくれたフィーアを見る。

「あー、言ってなかった?砕くのは核の外側だけ。内核は残る。内核が美しいほど、色にもよるけど、宝石と同等以上の価値になるし、ギルドの査定も高くなるんだ。で、当然、強敵の方がいい核を残す」

「初めて聞きました」

「まあ、この男は面倒見の良い方ではない故、勘弁してやれ」

「今聞けたから良いですけど………」


「あ、そうだ。パーティメンバーになってくださった記念に、腕時計をしませんか?これなんですけど」

 残りはイヌとテントウムシだ。

「腕時計?まぁ、構わんが………テントウムシ一択じゃの、赤いし」

「じゃあ、最後に入る人はイヌ決定ですね」

「もう一人、入る奴がいるかどうかは疑問だけどな」


「いつ出かけます?」

「昼飯持って、今のうちに迷宮まで行っとこうぜ」

「では弁当を買いに行くとするか」

「あ、うちの宿屋さんに作ってもらいましょう」

「それいいな、リリジェンの所の宿はメシがうまいんだ」


 うちの宿屋に三人で行って、お弁当をお願いします。

 ちなみに、エンベリルさんはその道行きで、「妾のことはベリルと呼ぶがいい」と言ってくれています。見た目に反して気さくな人です。


 お弁当を持って―――ちなみに中身はカツサンドです―――迷宮に行く私たち。

 迷宮の入口を見下ろす高台で、お弁当を食べます。

「ボスは何が出てくるかな」

「このくらいの迷宮なら、強くても牛頭鬼ごずきあたりであろうよ」

「定番だよな」

「いえ、この迷宮は受付さんによると、『銀』に格上げされるかもと言ってましたし、もう少し強いものが出てくる可能性もないですか?」

「ふむ?確かに。しかし、迷宮内のモンスターは弱いのであろう?」

「でも、もうちょっと格上が出てくることも想定しておくべきか」

 ちなみにこの迷宮は、モンスターの発生率は低く、せいぜいゴブリンやグールぐらいです。ちなみに会話は不能『無属性魔法・翻訳』で会話を試みましたが、翻訳不能でした。言語がないようです。身振り、手ぶりも不能。

 野にいるものは多分違うのでしょう。

 ということは、モンスターは迷宮に作り出されたものということになります。

 さすがは「ダンジョンの神」というところでしょうか。


 さて、全員がご飯を食べ終わり、食後休憩(いきなり動くともどしかねません)もすみました。私は、「強」のボスに続く魔法陣を取り出します。

「こういう順番で部屋を巡り、最後に未発見の隠し扉に入ってから、まっすぐボスの部屋に行けば「強ボス」が出てくるはずです」

「よっし、じゃあ行こうぜ。隊列は俺、リリジェン、ベリルな。ああ、ベリル、リリジェンは前衛・中衛・後衛どれでもいけるから」

「ほんにフィーア、お主は運が良かったの」

「全くだ。それでベリル、お前はボスの部屋の前で俺と配置交換な」

「当然じゃの、お前は正面切っての戦闘では役立たずよ」

「その通りだよ、バカヤロウ」

「誰が馬鹿じゃと?切り刻んでくれようか」

「さあー誰だろうなあ?切り刻むならモンスターにしろよ」

「ここのは、本気を出す価値がないの」


 そんな軽口を叩きながら、順調に踏破していきます。

 2人共、口だけでじゃれあっていて、顔には油断がありません。

 エンベリルさんの武器(ショートソード大)はフラムベルジュの小型版でした。

 室内では背中の大剣を出せないのでしょう。

 ショートソードやクリス(短剣)を駆使して、敵を「切り刻んで」行きます。

 敏捷力がずば抜けているのでしょう、一撃ではなく、何度か急所を切り裂いて仕留めるスタイルのようでした。「斬殺女王」とはよく言ったものです。


 そして、隠し扉があるはずの壁の前まで来ました。フィーアが丹念に探っています。

「これは、ここにあるってわかってないと、見落とすな」

 フィーアは壁の一部を、文様でも描くようになぞった。


 がこん。目の前にあった壁が割れ、隠し扉がゆっくりと開いていきます。

 中は、人が入れるほど広くありません。ただ、宝箱が置いてありました。

 フィーアは早速「罠の探知・解除」「鍵開け」を試みています。

「あっぶねぇ、罠を作動させると大爆発だ。鍵も凝ってるな」


 それでも、カギは開けられたようで、がばっ、と宝箱の蓋が開きます。

 中に入っていたのは柄が黒い金属に、紫の宝石がちりばめられており、刃は”S”字状に湾曲しており、薄紫の光沢を放っています。


「お、これはクファンジャルって短剣だよ。業物だな………貰っていいか?使うのは鑑定してからだけど」

「鑑定魔法かけましょうか?」

「マジかよ、そんな事も出来るの?」

「はい。鑑定しますね『無属性魔法:解析』」

 空中に青いプレートが浮かびます。そこに記されていたものは―――。

『名称:氷精霊のクファンジャル 材質:氷精霊石 効果:勢い良く振ると、アイスボールの魔法が飛んでいく(日に3回)』


 2人共鑑定結果を覗き込んでいます。

「ぜひフィーアに持たせるべきであるな。役に立つようになる」

「引っかかる言い方だなおい、でも貰っとくわ」

「じゃあ、フィーアの装備にするということで」


 その後はサクサクと進み、ボス部屋までたどり着きます。

 ボス部屋は青い石で造られた聖堂のような場所で、十分な広さがあります。

 フィーアとベリルが入れ替わります。

 ベリルが背中の大剣を抜きます。やはり真紅のフラムベルジュでした。

 ばんっ、と彼女は乱暴に木の大扉を蹴り開けます。

 部屋の中央、案山子の代わりに居たのは、オーガの上位種とおぼしき魔物と、オーガ2体でした。私たちは迅速に距離を詰めます。

 鑑定のかかったコンタクトレンズを起動して見てみれば、オーガ上位種は「オーガロード」で、炎を吐くそうです。2人にそれを伝えます。


 距離を詰めた私たちに、向こうも問答無用と襲い掛かってきます。

 それを剣―――フラムベルジュ―――一本ではじき、反撃まで加えるベリル。

 私は、ベリルを巻き込まないように、『風属性魔法・雷砲』を手数を減らす目的でロードの右隣りのオーガにかけます。『雷砲』は狙い過たずオーガに着弾。

 後一発で倒せるでしょう………と思ったところで。「アイスボール」がいつのまにかオーガロードの後ろを取っていたフィーアから発射され、3体を巻き込みます。

 私の魔法を受けていた1体があっさりと沈みました。

 ベリルが華麗に動きます。腰の飾り布が揺れて、まるでダンスをしているよう。ベリルはそのまま、左隣のオーガも倒してしまいました。


 そこで、オーガロードが火炎放射器のごとく炎を吐きました。

 ベリルが下がります。軽く火傷を負ったようです。

 でもそれは私の「治癒魔法:回復」でキレイに回復。ベリルは再度オーガロードに向かっていきました。一対一の相手の邪魔をしないようにするには………「ストーンブラスト」相手の足元から、石弾が飛びます。

 フィーアは、あちこちから攻撃を仕掛けて、相手の気を逸らせます。


 そして、気の逸れた相手を見逃すほど、ベリルは優しくも弱くもありませんでした。

 オーガロードも地に伏し、オーガたちの遺体は迷宮に溶け、消えていきました。


 そして、目の前に一抱えほどもある、「迷宮の核」が現れました。

「あら、なかなか大きいじゃない。火傷したかいがあった………わっ」

 ベリルの一撃で「迷宮の核」は砕け散ります。そしてからん、と床に落ちたのは、こぶし大のサファイアに似た「内核」でした。


「あの程度の敵にしては大きいじゃない、ここまで来る手間の分も入ってるようね」

「よかったな、リリジェン。『錫』クラスでそれなら、確実に『銅』に上がれるよ」

「良かった………2人共、ありがとうございます」

「ま、俺はけじめの為でもあるしね」

「妾はそなたの目的に協力すると言うたからの」


 わたしは二人に、飛び切りの笑顔を送りました。

 まずは、一歩。

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