第6話 冒険者の日常
~語り手・リリジェン~
「エンベリルさんまで仲間になったんですか………」
昨日の夕方、ダンジョンから帰りつきました。
「内核」を提出し、そのまま2人と明日の約束をし、宿屋へ。
朝起きて、朝方の日課になりつつある手伝いをして、朝食を食べ、お昼までまた手伝いをして―――宿のおばちゃんであるバーサさんが、ちょっと宿代をマケてくれました―――ベリルとフィーアが待つ冒険者ギルドに行きます。
そして、そういえばパーティ申請してなかったねって事で、登録に行った先での、受付、メリルさんの台詞です。
「なんじゃ?妾に文句でもあるのかえ?」
笑顔でベリルが受付さんに詰め寄るベリル。
わたしはそう言われても仕方ないような気がするが………と思いつつ見守る。
「いえね、フィーアフィードの後ですからつい………」
「僕が何だよ?誤解は解けたろ………ってか張り紙してくれたのはそっちだろ」
「はい、はい。悪うございましたお2人共。立派なパーティメンバーですよ。前衛がもう一人ぐらいいてもいいかと思いますけど………」
「そんなことは妾達もわかっておるわ。だから張り紙したままなのじゃし」
「まあ、そうですね。………ところでGETしてきた「内核」ですけど………かなりの値打ち物です!パーティに対して金貨30枚!それとリリジェンさんは『銅』級に昇格です!推薦状も出してさしあげたんですよ♪えっへん」
「それはありがとうございます!『銅』級ですよ、やったあ!」
わたしがはしゃいでいるのを見て、2人も矛を収めました。
「つきましては、身分証を『銅』クラスに!」
「わ~いv」
「あとすみませんが「強」ボスに至るまでの経路をご報告ください」
「はい!」
透ける紙―――エアメール便せん―――に積層魔法陣を描いていく私。
「わざわざ透ける紙に書いてくれたのね!これであの遺跡は、『銀』級に再登録されます!お疲れさまでした」
「昇級の祝いに、ギルドの酒場に飲みにいこうぜ」
「うむ!どうせ張り紙をして間もない。すぐに人が来るとは思えんからのぅ」
「じゃあ、さっきの金貨30枚はパーティ財産にして、こういう時に使うという事でどうでしょうか?」
「「いいんじゃないかな(かの)」」
盛り上がる私たちに受付メリルさんの声がかかる
「あ、リリジェン!」
「はい!何でしょう?」
「この透ける紙と、魔法陣提出の時の上質な紙。もっとあるなら買い取るとお偉いさんが言ってるんだけど」
「出所を不問にするなら、明日にでも多めに持ってきますけど?」
「おーけー、聞いてみとくわね」
今度こそ私たちは酒場に移動しました。
ザル(お酒に酔わない)体質であることが発覚した私は、気兼ねなく葡萄酒を頼みます。フルーツジュースは、このあたりで果物が取れにくい事もあって高価な割に味がいまいちだったからです。
給仕のネコ獣人のお姉さん(リンジーでいいわよ)に聞かれたので、そう答えたら
「実はリンゴなら名産だから、ジュースもリンゴ酒も美味しいのよ。今11月だから旬ね!リンゴジュースにしてみない?今ならお酒にしてなくても美味しいわ」
「へぇ………わかりました、リンゴジュースを試します。おふたりは?」
「僕も久しぶりに飲むかな………リンジー、リンゴジュース追加」
「2人が飲むのなら、妾も欲しくなってしまうではないかぁ。追加で1つ!」
「昼食も頼みませんか?」
「そうだな、丁度昼時だし」
「妾はコカトリスのからあげ定食じゃ!」
「僕、バイコーンのステーキ」
「わたしは、魔物の内臓ごった煮ですかね?モツシチューにします」
「結構冒険するのな、リリジェンって」
そんな感じでワイワイやっていると、
「お、チャンピオンだ、何やってるの?」
と、他のパーティから声をかけられました。
丁度リンゴジュースが届いたところです。
「チャンピオンなら、リンゴ酒もジュースみたいなもんだろうに」
「アルコールの味で、また違ってくるではないですか。今が旬だというので逃さないように飲んでるのですよ」
そんなもんかと納得して、去りかかった男性が不意にこっちを向き直り
「今の時期、体を温めるなら、やっぱ火酒だぜ。元チャンピオンのゴロスが安く売ってるから買っとけばどうだい?」
そう言ってから、改めて仲間を追いかけて行きました
「確かにあのお酒は、体が暖かくなりましたね」
「俺は少し飲むだけで十分だけど、確かにこれからの季節、要るわな。俺は街で買ったけど、高かったぞ。ゴロスのオッサンが持ってるなら売ってもらおう」
「確か、アヤツはここの宿に泊まっていたはず。受付で部屋を教えて貰って来よう」
ベリルがフットワーク軽く受付へ向かいます。
「3Fの5号室じゃ」
「私、買ってきます」
「共用財布から出すんじゃぞ」
「はい、ありがとうございます」
コンコン
「ゴロスさーん。この前のリリジェンです。火酒を取引させてもらいたいんですが」
反応がない。
「あのー、あれは一番お酒って感じで美味しかったので、ぜひ欲しいんですけどー」
「………入れ」
失礼しますと言いながら、わたしはゴロスさんの部屋に入る。
ドワーフ戦士のイメージ通り、武器防具が磨き抜かれて、整然と並んでいた。
それと、強い酒精が漂う3つの樽。火酒だろう。
ゴロスさんは私に問う。
「………火酒は美味かったか?」
「はい、これぞお酒って感じで」
「そうじゃろうそうじゃろう。うむ、ワシが負けた女じゃ、火酒1樽くれてやる!」
「えっ、金額は………?」
凄い金額になるんじゃ、と思った私に
「今後のお得意様サービスじゃと思って、特別に1樽タダでやるわい。本来なら金貨100枚じゃが、特別じゃ!」
「あっ、ありがとうございます!美味しく飲ませていただきます!」
ゴロスさんは、それが何よりよ、ガッハッハと笑って、私に樽を渡した。
私は樽を抱えて宿舎を出るのだった。
帰ってきた私を見て、フィーアとベリルがギョッとする。
「おま、そんなに買わなくても!」
「限度というものがあろう!」
「ちーがーいーまーすーぅ。貰ったのー」
「はあっ?ゴロスのおっさんが寄越したのか⁉」
「そう、貰ったの、無料で」
「それはまた………お主の宿で保管できるか?」
「それは大丈夫だと思います。今から置きに行って、水筒に詰め替えて持ってきますから。ごはんは冷めないうちにわたしのも食べといてください」
そして私は一時宿屋に帰った。
宿のリガールおじさんに、中身は何か?と聞かれたので、経緯を素直に話す。
「置くのは構わないけど、中身をひっくり返さないでね、匂いが取れないから」
というのがリガールおじさんとバーサおばさんの反応だった。
そして私は水筒を探しに行く。
やっぱりゴルド商会がいいだろう。時計もいまのところ品質のよさを保っている。
キョロキョロしていたら、店員さんに声をかけられたので、
「火酒を入れても匂い漏れのしない、頑丈で小型の水筒を探してます」
と説明。店員さんは、担当の人に引き継いでくれた。
様々な水筒があるが、店員さんのお勧めを出してきてくれた。
それは立体的な鱗が彫り込んである、錫のスキットル。
何と言っても錫の特徴は、お酒の味が柔らかくまろやかになる事だそうです。
頑丈さはいまいちだそうですが、皮や革を使うより、よほどいいそうで。
何より、火酒となると、皮や革だと、匂いがもれるそうです。
うん、これでいいでしょう。
一応、もっと持ち歩きたいときを聞いてみました。
すると、特製の割れ難く肉厚のガラス瓶に、質のいいコルク栓が一番だそうです。
今から本格的な冬も来るんだし、これももらおうかな。
二つで金貨10枚でした。
帰る途中で、樽からお酒をくみ出す用の柄杓をGET。
買い物を済ませて宿に戻り、火酒を汲み上げてスキットルに移します。
ゴルド商会は、漏斗までつけてくれました。これなら、手に匂い移りしません。
やっと、冒険者ギルドの酒場に帰って来ました。
お腹が空いているので、もう1度定食を頼み直しましょうか。
「おかえりー、唐揚げは食べちゃったけど、良かったんだろ?」
「それはいいんですけど。これ誰が持ちます?」
スキットルと瓶です。
「俺は万が一にも匂ったらまずいからパスで」
「スキットルは妾が持っておこう。妾のバックパックも魔法の品じゃしな………」
赤い、真紅の翼の生えたバックパックだ。特注品だろう。
「なら、瓶は私の魔法のバックパックに入れておきますね」
「俺も魔法のバックパックにしようかなぁ」
定食の時間が終わってしまったので、わたしはドードー鳥の唐揚げと、マンドラゴラのサラダを注文します。それを食べていると、あがりの時間になったらしい受付嬢のメリルさんが混ざってきました。
「ねえ、あなたたち。明後日、朝早く顔を出せるかしら?」
「顔を出すだけならば構わんがのぅ、何事じゃ?」
「詳しくは言えないけど、信用できる冒険者を選出してるのよね。あなたたちは私が候補にあげてるのよ」
「へぇ、またなんで」
「フィーアフィードは、憎まれ口叩くしあんな出来事もあったけど、呪いは解けたし、そうなると素行のいい義理堅い盗賊なのよね。エンベリルは斬殺女王なんて言われてるけど、仕事はきちんとやる。リリジェンちゃんも素行は良好だし、なによりあのダンジョンの成果もあるしね」
メリルさんはぐいーっと葡萄酒を飲み干して
「今選考中だから、結果が出るのが明後日ってこと」
「何だか知らないけど、また悠長な事やってんな」
「今回は仕方ないのよねぇ~」
「ふむ………まあ、今妾達が考えてもどうしようもないじゃろう。明後日の朝、顔を出せばよいのじゃな」
「そういうこと。悪いけどよろしくね~」
「明日のうちに仲間が見つかれば良いのじゃがな」
「すぐには来ないと思うけどなぁ~」
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