第7話 最後の仲間

 ~語り手・リリジェン~


 当然ですが、また朝が来ました。

 私は日課となりつつあるお手伝いを終えて、冒険者ギルドに行く前に寄り道。

 とは言っても自分の部屋です。

 異空間通路を開き帰還して、購買(商店街)で、エアメール便せんをあるだけ。

 A4紙は、買い物かごに入るだけ持って(無料ですが)いきます。


 パラケル星の宿屋に帰還します。

 自分が使うのに困らない量の2種類の紙をどけておきます。

 残りの大量の紙は冒険用のとは違う魔法の革袋に入れます

 

 今日は寄り道をしたので、ギルド受付に行くのが遅くなりましたが、何とか10時には辿り着きました。いつもは9時です。

 会員受付・更新の窓口に行きます。

「メリルさん。紙、あるだけ持ってきましたよ。自分で使う分は別ですけど」


「あらおはよう!持って来てくれたのね!ありがとうね~。それなんだけど、もともと総合受付の娘に頼まれて依頼したのよ。私は会員受付・更新だから、総合受付の方に持って行ってくれる?」

「分かりました」


 総合受付の方に行く。

「あの~受付さん?」

「はい、何かしら?受付さんでもいいけど、私はテフィーアと言います」

 この人も気さくな感じのする人だなあ………と感想を持ちながら


「私は『銅』級のリリジェンと言います。紙を依頼されたと思うのですが………」

「ああ、あの上質紙のこと?引き受けたのはあなただったのね」

「はい、この魔法の革袋の中に入ってます」

 すとん、と革袋を置く

「ありがと。上が精査して金額を出すと思うから、また明日か明後日来てくれる?」


「いいですよ。ところで、フィーアフィードかエンベリル、見ませんでした?」

「見たわよ、酒場の方に行ったわね」

「ありがとうございます」


 酒場に行くと、すでに2人はお酒を飲んでいました。

「おはようございます。朝からお酒ですか?2人共」

「おはようさん。冒険者なら普通だろ」

「おお、遅かったの。普通じゃの。もっとも妾はグラッパ、奴のはエールじゃがの」

「お前がやたらと酒に強いんだろ」

「お主が弱いのじゃ」


「はい、はい2人共、飲むなら喧嘩はしないで下さい。私は早めの昼食をとります」

 わたしは猫獣人の給仕、リンジーさんを呼びます。

「エビフライ定食と………あとまだ飲んだことがないのでリンゴ酒を」

 おいしいわよ、とリンジーさんは肉球のついた手で伝票にペンを走らせます。


 一度でいいから、あの肉球を触ってみたい。

 そう思って見ていると、リンジーさんはニヤリ(キラーン)と笑い、私のほっぺにむにゅっ!と肉球パンチ!ああっ!天国に行けそう!

「初回大サービスなのにゃ!もっと触りたい場合はメニューにないメニュー………リンジーのスペシャルメニューをたのむのにゃあああ」

 そう胸を張ってから「うけたまわりました~」と言って去っていきました。

 ほっぺたに残る感触を楽しむ私………。


「リリジェン、すっげえにやけ顔になってるぞ」

「妾にはそういう趣味はないが、効く者には効くんじゃのう………」

「僕は少しわからなくもないが………」

「放っておいて下さい二人とも………私は天国の余韻を楽しんでいるのです」


 じゃれあっていると、エビフライ定食とリンゴ酒が来た。

 エビフライ定食は普通に美味しかったです。

 食後に手を付けたリンゴ酒………氷がたくさん入っています。

「ああ~ロックできたのな。僕が飲むときは絶対水割りだけど」

「弱い男は黙っとれい」

「ンだとぉ」


「黙っててください2人共!味が分からないじゃないですか!」

 私に怒られて二人は顔を見合わせ、ふんとそっぽを向く。

 なんだかんだいって、リリジェンは2人のやり取りが好きだったが、今は別。

 リンゴ酒の芳醇な味を堪能する。ジュースよりもリンゴの味が濃縮されていて、少しずつ飲むならリンゴ酒。グイっと飲みたいならジュースだなと思った。


 リリジェンが丁度リンゴ酒を飲み終わった時だった。

 ギルドのメッセンジャーボーイが「13番の待合室に入った人がいます」と知らせを持って来たのだ。

 それは13番の戸口の仲間募集が見えてないのでない限り、仲間候補という事だ。

 私たち3人は、揃って立ち上がった。


 ~語り手・フィーアフィード~


 ドアを開けるのは、リリジェンにやってもらった。

 僕はまだ誤解を受けてないとも限らないし、エンベリルは変に有名だからだ。

 

 ドアを開けるとそこには、27~8歳ぐらいの青年が、白い狼の上に座っていた。

 薄く開いた目の色は灰色、真っ白な肌、ストレートな漆黒の髪をもうちょっとで引きずりそうになるまで伸ばしたの美男子だ。 

 服装は白いローブの上に、金の太陽神のシンボルの装飾された青い上着。

 どう見ても聖職者だ。募集の前衛ではない。


「初めまして、前衛を募集しているパーティのリリジェンです。こっちはフィーアフィードとエンベリル」

 青年は静かに立ち上がり

「初めまして、私はクリスロードと申します」

 僕は、ギョッとした。『銀』等級の中でも大物じゃないか。

 僕は落ち着いた態度で前に出る。

「”聖”クリスロード。凄腕の神聖魔法と、治癒魔法と、光属性魔法のエキスパート。そして、最高ランクの召喚術師」

 エンベリルも前に出てくる。

「なるほど、前衛職に応募してきたのは、前衛を召喚獣が勤められるからかえ?」


 聖クリスロードは微笑んで

「皆さんの仰る通り、わたしは今挙げられた術の使い手です。前衛職には」

 先ほどまで腰かけてきた「フェンリル」に手を置いて

「この子たちに務めて貰います」

 静かな微笑みを浮かべたまま………ん?


「あんた、目が見えないんじゃないのか?」

 そう言われて、聖クリスロードが答える前に、リリジェン素早く彼の目を開く。

 おいおいいきなりだ。何やってるんだ。

 リリジェンは何やら検査し、小さなライト付ペンを目の前で瞬かせたりしている。

「完全に、見えていらっしゃらないですね。ということは、先ほどから見えている人の反応だったのは「治癒魔法:視覚代行」ですね?」

「ちょっとビックリしましたが、そうです」

「あ………医者なもので、つい」

「いえ、いいのですよ。治癒魔法の視覚代行は目の表面に張り付いて魔力でものを見せているので、私の目自体は反応しませんからね」


「後、言っておくことが。私は歩けますが、走れません」

 全部この子に頼り切りなのですよ、とフェンリルを撫でる。

 フェンリルは気持ちよさそうに目を細めている。


「召喚獣って確か、出してる間中魔力がいるよな。どうしてるんだ?」

「おっしゃる通りなのですが、完全に術に習熟すると、馴染んだ召喚獣は無償で呼べるようになるんです。私はフェンリルのプリシラ、グリフィンのスーザン、ケルピーのリエラは代償なしに呼べます」


「なるほどね………リリジェンどうする?」

 本人に自覚があるかは?だが、うちのパーティのリーダーはリリジェンだ。

「喜んで迎えたいと思います。ただ、私がどうして聖なる花:アンジュを求めるのか、聞いてから入るかどうか決めてください」

 リリジェンは俺達にもした「説明」を行った。


 目の前では、聖クリスロードが涙ぐんでいる。

「呪いは恐ろしいものですね、人をあの様にして平気な輩に怒りを覚えます。彼女を助けるためなら、どんな背景があろうとも、喜んでお手伝いします」

 ただ、と言いにくそうに

「ここの募集に聖なる花求めて冒険する、という趣旨を見たからなのですが。聖なる花を1輪私にも頂きたいのです。聖都の神像にパワーを復活させるためなのですが……構わないでしょうか?」


「構いませんよ。1輪しかなかったら話し合いですけど………多分大丈夫です」

「おお、何か妙案が?」

「聖なる花は、儀式の触媒に使われて灰にはなるんですけど、灰からは聖性が失われていないんです。なので『再生』の呪文一つで元通りになるんですよ。一度触媒に使った花は2度と使えませんから、こちらとしては問題なくお譲りできるんです」

「なるほど、何も問題はありませんな」

「本当ですか!じゃあ、何も問題はありませんね」


「正式に、私をパーティに入れて頂きたい」

 僕はリリジェンの脇腹をつついた。

「え、私?」という視線が帰ってきたので、頷いてやる。後で話が必要だな。

「ではクリスロードさん、正式なメンバーとしてよろしくお願いします」

「こちらこそ、光栄です。パーティ………失礼パーティ名は?」


 あ、すっかり忘れてた。エンベリルがフォロー?する。

「ごたごたしておって、後回しにしたまま忘れておったわ。今ここで考えようぞ」

 やっぱりフォローじゃねえ。

「どうしましょう………」

 リリジェンは考え込んでいる、当てになりそうもないな。

 エンベリルには考える気がないようだし、僕はこういうのは苦手だ


「あの、決まらないようでしたら、チーム13というのはどうでしょう?13番の部屋で出会ったということで」

 お、当てにしてなかったところから案が出たぞ。

「エンベリルもここでパーティ入りしたし、僕はいいと思う」

 他から何も出そうにないしな

「そうじゃな!この部屋に愛着が出そうじゃ」

「フィーア以外はここで出会ったものね、いいと思うわ」

「では改めて。パーティ:チーム13に参加させていただきます、クリスロードです。クリス、とお呼びください」

「よろしく、クリス!」


 俺達は早速受付に向かった。パーティ名登録は会員受付・更新だ。

 ついでだ、メンバー登録もしてもらおう。

 到着して、要件を告げるなりメリルは

「ええー!うそぉ!”聖”クリスロードがあんたたちのパーティにぃ⁉」

 驚きすぎだろ、お前。リリジェンの人徳だよ。

 これは選抜の決め手になるかも………

 さらに、こっちを見ずに、ぶつぶつ言っている


「メリル!待ってるんだけど⁉」

「あっ、ああーゴメン、パーティ名ね。良いんじゃない?変わってるけど」

 そう言って、全員の冒険者証に書きこむメリル。

「ついでにクリスの登録もしてくれないか?」

「エンベリルの時にそれやったら、めっちゃ怒られたからダメ。総合受付に行って」

 さいですか。大人しく総合受付の方に行くか。


 総合受付のテフィーアの所まで来た。メンバー登録を頼んだら

「噓でしょっ!”聖”クリスロード⁉何手いうか………リリジェンちゃんて凄いのね」

 そう、全部リリジェンの人徳だ。

 ほう、とため息をつきながらテフィーアは書類をこっちに寄越す。

 読んでから、ほいよ、とペンと書類をクリスに回す。

 書けるのか心配だったが、クリスはスラスラと用紙を埋めていく。

 受付で提出して、確認されて受理されて終わり。


「よーし!事務手続き終わり!加入祝いとしてパーっと行くぞ!

「程々にしてくださいよ、パーティ資金はまだ金貨27枚ありますけど………」

「それだけあれば、宴会なんて微々たるものだろ」


 それいくぞと、ギルドの酒場に場所を移して、昼食と称したツマミと、酒を頼む。

 あ、と言ってリリジェンが最後に残った、薄茶色のイヌの腕時計をクリスに渡している。クリスは嬉しそうに身につけ、リリジェンに言われて俺たち全員の手に同じシリーズが装着されているのを見て、とても嬉しそうにしていた。


 ちなみにその後行われたエンベリルとクリスの酒盛り対決は、結構盛り上がった。

 クリスが意外と強かったからだ。さすがにエンベリルが勝ったけど。

 クリスは愛狼にゆられて、町はずれの宿に帰っていった。

 リリジェンが心配してついていったので、特に何もないだろう。

 僕はエンベリルに肩を貸して(同じギルドの宿だったので、仕方なく)帰った。


 明日は受付に来いと言われてる日だ。厄介ごとの匂いがする。

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