第29話 キューピッド・パニック 前

 ~語り手・エンベリル~


 誰よりも早く起きて、身繕いを済ます。4時じゃな。

 最近では、妾の部屋で寝るようになった(睡眠は不要らしいが、人間に合わせていると言っておった)リエラが、一緒に目を覚ます。

 ≪まだ外は暗いのに、ベリルは目を覚ますのね?氷精の血が濃いせいね。もしかしたらベリルは、寿命が尽きた時、氷精になるのかもしれないわ≫


 ≪ほう?好都合じゃな。シャービアンの寿命は長い。一緒に居られるように氷精になるのも悪くないの。そして魔界について行くのじゃ≫

 そう言いながら、ちゃちゃっとリエラの毛づくろいをする。

 本来不要じゃが、気持ちはいいらしく、他の者もやっているとかで習慣化した。


 そんな会話をして、転移拠点で冒険者ギルドにやって来た。5時じゃ。

「シャービアン!朝の訓練じゃ!」

 う~ん、鍛錬場でのシャービアンとの訓練は、楽しいのう。

 この短期間で、2人共お互いの戦法を吸収して強くなっておる。


 もちろん、朝の習慣以外にも、うちの元練兵場でデートはしておるぞ?

 ん?殺伐としてないデートは無いのかじゃと?

 あるぞ。酒と料理が上手い店をはしごして回るのじゃ。

 色気もあるぞ?夜に妾の部屋で………な?


 まあ、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 6時になったのでシャービアンと別れて(以前妾に勝負を挑んできておった男は、シャービアンの弟子となっておる)受付へ行く。

「テフィーア、今日は何か面白い依頼はないか?」

「面白いかどうか分からないけど、ギルドマスターが急ぎで呼んでるわよ?」


「急ぎ?珍しいの。メンバーが集まったらすぐに行けばいいのかの?」

「そうだと思うわ。朝から落ち着きがないのよね………」

「ギルマスがかえ?珍しいの、渋い顔をしていることはあっても、あまり慌てるところは見た事がないのう。明日は嵐じゃな」

「言われてみればそうね、いやだ、私まで不安になって来ちゃった」

「そういうのを防ぐために、普段はどっしり構えておるのかもしれんな」


 受付から離れ、酒場のいつもの席に座る。今日は酒は控えた方がいいかの?

 ≪ベリル、わたくしは海藻サラダが食べたいの≫

 ≪たまにはそれも良さそうじゃな≫

 妾は給仕の猫娘に、海藻サラダのオーダーを出した。


 ~語り手・フィーアフィード~


 朝6時に起きて、自分の身づくろいと、武器や道具を確認する。

 メンテ自体は休みの日にやるから、朝は確認だけでいいのだ。

 そして、俺の部屋に寝るようになったスーザンのブラッシングをする。

 これは、最近できた習慣だが、心が落ち着くのを感じる。


 ≪フィーアはワタシを特別扱いしてくれるから、好きよ≫

 ≪相棒だろ?当たり前じゃないか。クリスは違うのか?≫

 ≪クリスは赤ん坊の時から知っているから特別だけど、みんなに優しいの≫

 ≪ああ………クリスの性格考えたらそうなるわな≫

 ≪だから私はフィーアの側にいることにしたの≫

 ≪なら、俺はクリスに召喚術を習って、スーザンを召喚できる様にならないとな≫

 ≪期待してるわよ≫


 その後、朝食を食べる。俺は山盛りの野草サラダだ。

 あの「ごはん屋」がうちに食料を供給するようになってからだな。

 何故か深い森にあるはずの野草まで供給されている。どうやってるんだ?

 スーザンは分厚い肉。今日はニワトリの丸焼きである。

 2人共満足のいく朝食だった。


 ブラッシングの分遅くなって、最近俺が冒険者ギルドに転移拠点するのは8時だ。

 さっさと酒場を目指す。ベリルがリエラと一緒に待っているだろう。


 ~語り手・クリス~


 プリシラにつつかれて、6時に目を覚まします。

 すぐに『治癒魔法:視覚代行』を目にかけ、目が見えるようになりました。

 ああ、もう6時には外が明るい季節―――5月―――ですねぇ。


 パジャマを脱いで身づくろいをします。

 服は立ったまま着ますが、髪のブラッシングはプリシラに座ってやります。

 その後、ベッドに乗り移ってプリシラのブラッシングをします。

 フィーアの勧めで習慣になりました。

 フィーアがスーザンを可愛がってくれていて、私としても嬉しいです。


 ブラシは、全員でゴルド商会さんに買いに行ったんですよ。

 幻獣達は全員がブラッシングを気に入ったようです。


 それが終わると朝食です。

 私はいつも軽食です。朝は重いものは入りません。

 今日はフレンチトーストでした。甘いものは嫌いではないですし、美味しいです。

 プリシラは、いつも肉です。

 今日のお肉は、ニワトリの丸焼きでした。気に入ったようです。


 8時前には転移拠点で、冒険者ギルドに行きました。

 酒場には、いつもの顔―――フィーアとベリル―――が待っています。


~語り手・リリジェン~


 朝6時です。「いやっほぅ、エサが丸太のごとく転がってやがるぜぃ」

 いつもの目覚ましです。そのうち買い換えようと思っていたのですが。

 結局何だか愛着が出てしまい、捨てられません。


 ≪おはよう、ホワイティちゃん≫

 ≪ふにゃあああ、もう朝なの?≫

 ホワイティちゃんは、最近私のベッドで一緒に寝ています。

 ベッドをダブルサイズにしていて正解でした。

 ホワイティちゃんは、布団の中に潜り込むので、ほぼくっついて寝ています。

 ふかふか、もふもふ。ネコ科だからかとても柔らかいです。


 自分の身づくろいをします。

 極細のチェインメイルの上に、修道服。軽くお化粧もします。

 それから、朝の掃除の代わりに身についた習慣。

 ホワイティちゃんのブラッシングをします。う~ん、つやつやフカフカ(はぁと)


 その後は、朝ごはんです。今日はフレンチトーストとサラダでした。

 ん~甘くておいしいです。ごはん屋さんは極上のシロップを届けてくれてますね。

 ホワイティちゃんは、ニワトリの丸焼きです。ぺろりと食べてしまいました。


 では、ご馳走様でした。と席を立ち、ホワイティちゃんと一緒に転移拠点!

 ギルドに転移しました。もうみんな集まっているはずです。

 酒場に行くと、みんないます。あれ?今日はみんな、お酒を持っていないような? 「みなさん、おはようございます。葡萄酒は飲まないのですか?」


「いや、実はの、ギルドマスターが集合し次第来いと言っておるらしくての」

「………変な依頼じゃないですよね?」

「わからぬ。行ってみるしかなかろうよ」

 全員が立ち上がります。さっさと終わらせたいと、みんな顔に書いてありますよ?


 受付の奥の階段を3Fまで上がり、左のドアへ。ギルマスの部屋です。

 ノックします。誰何の声がしました。 

「ギルドマスター。チーム13、お呼びにより集合しました!」


入るよう言われたので、部屋に入ります。

今回はギルマス1人で、者も人もありません。

「よく来てくれた………急ぎの依頼だ」

「なんじゃ、ギルマス?焦りが顔に出ておるぞ?」


「それがな、お前ら、ゲンコーを知っているか?」

「あ?あのナンパ野郎か?最近見かけないが、誰かれ構わず女と見れば口説く奴!」

「妾にもしつこかったのう。強い男が好きだからと振ったがの」

「確かシーフでしたよね。パーティなしでフリーランスの。腕は良かったのでは?」

「腕だけはいいんだよな。あくまでシーフだけどな。ベリルに勝てるわけないぞ」


「私は知りませんけど………」

「とにかくたくさんの女にモテたい奴なんだ。見境はない」

「フィーアは同じシーフだから特に知っているようだが………まあその通りの奴だ。 そのゲンコーが、ちょっと持っていてほしくないアイテムを手に入れたようでな」

「どんなアイテムなんですか?」


「それがな、キューピッドの矢なんだそうだ。効果は矢が刺さってから初めて目にした異性に激しい恋心を抱くとか。話によるとギルドで使うつもりらしい」

「おいおい、色んな意味で危険じゃないか!」

「フィーア、色んな意味って何です?」

「あいつは弓が×技能なんだよ!」


×技能とは、下手を通り越して、周囲に害を与える技能の事をいいます。

例えば料理なら、食べた人にダメージが入る様な料理が出来上がる、とかです。

弓が×技能なら恐らく狙った人には決して当たらず、関係ない人に当たるでしょう。


「大変じゃないですかギルマス!変なカップルが大量発生するかもですよ!?」

「そうなんだ………それでお前らに頼みがある。キューピッドの矢の効果を消すマジックアイテムを取りに行って、事態を収拾して欲しい」

「どこに行けばいいんです?それとその変態はいつギルドに………?」


「ゲンコーがここに着くのは近いとしか言えん。あと、あいつは「透明化のマント」を買って行ったそうだから、捕捉は無理だ。警戒するしかないな。行って欲しい所は、ゲンコーがキューピッドの矢を盗んだ店だ」


「その店はちょっと特殊でな、森からならどこからでも行ける。ギルド裏手の森から入って「オルタンシア」という魔道具屋に行きたいと念じながら歩くと、1時間もあれば辿り着く。そこで「縁壊しの矢」を買って来てくれ」

「おいくらほど持って行けばいいんです?」

「代金は金じゃない、ヴァンパイアが飲むための血をコップ1杯分ぐらい供給するだけでいい。安心しろ、ワシも昔行った事があるが変な事は無かった」


「ちなみに縁壊しの矢3本につき1回献血だそうだ。ちなみにキューピッドの矢は全部で10本持ち出されたそうだ」

「それは………キューピッドの矢のうち漏らしがない場合を考えると、1人三本は欲しいですね。1人1回献血ですかね………」

「奴の腕で当たるかどうか………いや、多分当たって欲しくない所に当たるな。さっさと出発しようぜ。裏手の森だろ?」


「早いに越した事は無いのう、向かうか………」


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