第42話 小さいな手

 戦場に響くのは、互いの肉を打つ音と二人を応援する声だけだった。


「「「ぶっ殺せええええええええええええ!! お頭あああああああああ!!」」」


 『死竜隊』の隊員たちの下品だが力強い声が響く。

「おらよお!!」

「ぐっ!!」

 ゲオルギウスの硬い拳は当然生身で受けるドーラに一撃ごとに大ダメージを与える。


「「「負けるなああああああああ、ドーラ様あああああああああああああ!!」」」


 一方、国民たちの温かくも激しい声援がドーラに力を与える。

「はあっ!!」

「ごっ!?」

 ドーラも武器は失ったが素手で殴ることにより、より正確に硬いものを破壊する打撃を実現できていた。

 互いに単純な肉体のパワーとタフネスなら『七英雄』でも『真・暗黒七星』でも最強の二人。

 最強同士の人知を超える殴り合いが今ここに繰り広げられていた。

 ドーラが殴る、ゲオルギウスが殴られる。

 ゲオルギウスが殴る、ドーラがが殴られる。

 何度もそれを繰り返す。

 何度も何度もそれを繰り返す。

 互いに自分の体を破壊されながら、相手の体を目一杯の力ぶっ叩いてで破壊する。

 血しぶきが飛び散り砂漠の砂を濡らす。

 骨が砕ける音が激しく響く。

 両者一歩も譲らない超インファイト。

 ……しかし、ここでも。

「……ぐっ」

 ガクリ、とドーラの態勢が崩れた。

「ははは、やっぱり力が落ちてきたなあ!!」

 ゲオルギウスは口元に血を滴らせながら笑う。

(……くっ、やっぱり体力が)

 ドーラは意思に反して動かない自分の体に歯噛みする。

 そもそも一度体力が尽きて致命傷を受けた体だ。

 声援の力で無理やり引き出していた力が、いよいよ完全に底を尽きたのだ。

「はあ……はあ……」

 虚ろな目でふらつくドーラ。

(それでも……アタシは、守らないと……)

 皆を、自分を信じて、応援してくれる愛しい人たちを。

 そう思って力を振り絞ろうとするが。

 ……ダメだ。

 動かない。

 今度こそ、指一本動かない。

 呼吸すらまともにできない。

「じゃあなあババア!! 年を取る人間だったことを後悔して死ね!! 俺様が気持ちよくなるためになあああああああああああ!!」

 ゲオルギウスの止めの拳がドーラに襲いかかる。

 その時。

 ドーラの「妖精の耳」に。


 おぎゃあ!! おぎゃあ!!

 と赤ん坊の産声が聞こえてきた。


   □□


「よく頑張りましたね!! 元気な男の子ですよ、シーラ様!!」

 医者の声が病室に響く。

 シーラは出産の憔悴しながらも、生まれたての我が子の手に触れて言う。

「ちっちゃな手……かわいい」


   □□


 ドーラの瞳に光りが戻る。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 咆哮と共にドーラは自らの拳を、ゲオルギウスの拳に叩きつけた。

「なっ!?」

 今度こそ限界が来たと思っていたゲオルギウスが驚愕する。

 両者の拳が激突。

 ……そして。

「……バカな」

 ピキリ、とゲオルギウスの腕に亀裂が走った。

 その亀裂は、腕から全身に広がっていき。

「バカなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!

 と、『暴虐龍』の最強の体が砕け散ったのだった。

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