第23話 原作第二巻 プロローグ
『魔界』。
それは死と破壊が支配する世界。
凶悪なモンスターと、モンスターをベースにした人型の種族『魔人族』が住む、人間たちの住む世界『人界』とは違う次元にある世界である。
人間と同じく知性のある『魔人族』の住む『魔界』だが、『人界』と大きく違うところがある。
法と秩序。
そういったものが『人界』に比べて発達していないのである。
代わりに激しい生存競争を勝ち残った者たちが、その力とカリスマ性で一帯を治める。
当然、力で治めているのだからより強い力が生まれた場合は、容赦なく支配者の座を奪いに来るしそのことに誰も文句は言わない。
まさに弱肉強食の世界。
それゆえに『魔人族』の個体の魔力・生命力は人間を遥かに上回る。
そして。
そんな『魔界』にあって頂点に君臨する力を持つ者たちが、今、一か所に集っていた。
――場所は魔王城。大広間。
無機質な白い石によって建築されたその薄暗い空間は、どこまでも人間性の無さと根源的な暗闇への恐怖を見るものに感じさせる。
しかし、ここに集ったのはそんな恐怖とは無縁の怪物たち。
新たなる魔王軍最高戦力、『真・暗黒七星』である。
七体の『神魔』は長方形のテーブルに付き、『魔王』ベルゼビュートの話を聞いていた。
「さて、敵は七人。我々も七人」
ベルゼビュートの厳かな声が響く。
「ただこちらには『キャラクターゲート』がある。全員で一か所を強襲するという手もあるが……」
「はっ!! 下らねえ」
そう言ったのは、ドラゴンがベースの『神魔』だった。
190cmを超える長身。整っているが凶暴そうな相貌。『魔王』を前にテーブルの上に足を置いてふんぞり返るという傲岸不遜な態度。
『暴虐龍』ゲオルギウス。
つい先ほど暇つぶし感覚で、元『暗黒七星』四体を虐殺してきた暴力の怪物である。
「いらねえよ、そんな小細工」
魔王に対して中々に傲岸不遜な口ぶりだが、ベルゼビュートは特に咎めるようなことはしなかった。
『真・暗黒七星』のリーダーはベルゼビュートであるが、あくまで彼らは同じ『神魔』として対等な存在である。それはつまり魔王と対等な存在が六体も存在するという人類にとって絶望的な状況を意味していた。
「七英雄だか何だか知らねえが……どうせ俺以外は全員雑魚だ」
一切の躊躇いなくそう断言するゲオルギウス。
「おいおい『暴虐龍』。その雑魚ってのは、ボクも入ってるのかい?」
声の主は幼い少年の見た目をしていた。
青い髪に無邪気そうな丸い目。しかし、大広間に充満する強烈な魔力と邪気に一切怯えた様子はない。
この少年も紛れもなく『魔人族』最高ランクの『神魔』であり、『真・暗黒七星』の一人である。
「……この場で証明してやろうか? アトランティス?」
「面白そうだね……実は前から欲しかったんだよ、君のそれ」
両者の魔力が莫大に膨れ上がる。
それだけで、大広間がギシギシと軋む音がする。
「まあ落ち着け、二人とも」
ベルゼビュートがそんな二人を制した。
「……ふん」
「はいはい」
『魔王』の言葉にひとまずは魔力を収めるゲオルギウスとアトランティス。
「だがまあ『小細工は不必要』という部分には余も賛成だ」
その言葉に、異を唱えるものは誰もいなかった。
そもそも先ほどのゲオルギウスの発言の時点で、その部分に異を唱えたものはいない。
彼らには絶対の自信があるのだ。
『魔界』という地獄の中で勝ち抜いてきた、自らの圧倒的な戦闘能力に対する自信が。
王者に小細工はいらない。
ただ堂々と自らの力を示すのみ。
「よかろう……それでこそワタシの集めた精鋭たちだ。我々七人は人類七大国の各国をそれぞれ攻撃することとする」
ベルゼビュートの決定に。
「異議はありません」
執事服を着た若い男がニヤリと小さく笑いながらそう言った。
「僕もそれでいいよー」
アトランティスがそう言った。
「……」
全身を白い衣装で身を包んだ少女が黙って頷いた。
「愉快なことになりそうであるな……」
頭部が動物の骨になっているローブを来た骸骨の男が、声と言うより空間に響く音のようなものでそう言った。
「俺もそれでいいぜ。むしろ望むところだ」
白いスーツを身にまとった金髪の、体の至る所が機械になっている男は楽し気な声でそう言った。
そして、最後の一人ゲオルギウスは。
「はっ、むしろ、アイツらが俺一人に七人でかかってきて欲しいくらいだぜ」
やはり、傲岸不遜にそんなこと言った。
口にしたのはゲオルギウスだけだったが、他の『真・暗黒七星』たちも似たような考えである。
彼らのうちの誰一人として、自分たちが敗北するなどと考えていない。
「では、最後に一つ。前回人間と戦った俺からお前らに忠告しよう」
ベルゼビュートは言う。
「確かに単純な力では我々の方が遥かに人類を上回るだろう……」
それは驕りでもなんでもない。
客観的に見ても、自分たちの力は人類を圧倒的に凌駕しているのである。
「だが、やつらの底力を舐めるな。戦うなら徹底的に容赦なく潰せ」
「はっ……それは前にヘマこいて人間に倒された『魔王』様の反省か?」
ゲオルギウスは鼻で笑いながらそう言った。
挑発のような言葉だったが、ベルゼビュートは変わらず落ち着いた声で言う。
「そう思ってくれていい」
「はっ、気の小せえことで」
ゲオルギウスは椅子から立ち上がる。
「底力だかなんだか知らねえが、関係ねえよ……俺が最強で、俺が以外は雑魚だ」
そう言って大広間を去って行った。
その後ろ姿を見送りながらベルゼビュートは。
「ふっ……まったく新しい『暗黒七星』は各段に強くなったのはいいが、我の強さも各段に跳ね上がったな。アランのやつの気苦労が知れる」
宿敵の名を上げてそんなことを言ったのだった。
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