第35話『反則能力(ブラックスキル)』

「ヒャッハー!! さすがゲオルギウス様だぜぇ!!」

 『死竜隊』の幹部がそんなことを叫ぶ。

 ドーラはハルバードを振り下ろした態勢のまま呟く。

「……『反則能力(ブラックスキル)』か」

 『反則能力』。それは『神魔』の領域にある魔人族のみが持っている能力。

 基本的にはデレクの『洗脳』やアランの『光の魔力』そしてドーラの『妖精の耳』といった人間の持つ『固有能力』と変わらない。

 が、大きな特徴が一つある。

 それは「例外なく反則レベルに強力」だということである。

 ゆえに『反則能力』。

 そしてゲオルギウスのそれは……。

「『超竜靭(ドラゴンスケール)』」

 ゲオルギウスは攻撃を受けて、首筋にハルバードの刃を突きつけられている状態でもポケットに手を突っ込んだまま言う。

「俺の体は、全身余すところなくこの世で最強硬度の物質であるオリハルコン以上の強度を持っている」

「……!?」

 驚愕に目を見開くドーラ。

 ゲオルギウスが自分で言った通りだとすれば、それはつまり……。

「そう。俺は壊せねえのさ。首筋だろうが喉だろうが眼球だろうが、この世で一番硬いんだからな」

 つまり無敵。

 『反則能力』の名に恥じない、人知を超えた能力である。

 ゲオルギウスはゆっくりとポケットから右手を出すと、腕を振り上げる。

「ついでに腕力も『真・暗黒七星』で最強だぜ?」

「!?」

 とっさに、ドーラはハルバードを頭上に構えた。

 ゲオルギウスの腕がドーラに振り下ろされる。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 と、轟音と共に先ほどドーラが起こした以上の巨大な砂煙が上がる。

「はははは、一発で死ななかったのは褒めてやるよババア」

 砂煙が晴れるとそこには……。

「はあ……はあ……」

 肩で息をするドーラがいた。

 なんとかハルバードで攻撃は防いだが、ゲオルギウスの攻撃を受け止めた腕や足から出血していた。

 たった一撃。

 たった一撃片腕を振り下ろしただけで、『絶滅戦争』で怪力無双を誇ったドーラがこのダメージである。

 圧倒的にレベルが違う。

 考えを改めなくてはならない。

 目の前の男はドーラが旧『暗黒七星』含めたこれまで戦った敵を全員合わせても、足元にも及ばないくらい桁違いに強い。

 これが『神魔』、これが『真・暗黒七星』。

 あの『魔王』ベルゼビュートが自ら集めた、魔界最強の生物たち。

(……今回はこんな奴らが、後6体もいるってのかい)

 そんなことを思っていると。

「おらよ」

 ゲオルギウスが無造作に前蹴りを放ってくる。

 ドーラは見事な反応で武器で防御した。

 しかし、体ごと凄まじい勢いで吹っ飛ばされる。

「ぐっ……!!」

 両足で踏ん張って持ちこたえるが、いつまでたっても吹っ飛ばされた体は止まってくれない。

 結局、勢いを殺しきるまでに100m近く元居た場所から離れていた。

「ははは、しかし、なかなかいい武器持ってるじゃねえか。オリハルコン製だな?」

 ゲオルギウスがこちらに向けて歩きながらそんなことを言ってくる。

 この男の言う通りである。

 ドーラの持つハルバードは、オリハルコン85%の特別仕様。

 世界に一振りしかない第七王国『鉄と製造の国(シルバーファクトリー)』最高傑作と言われる武器の一つである。

 そうでもなければ、あんなパワーを受け止めれば一発で折れていたことだろう。

「まあ、と言っても俺の体のほうが頑丈だから意味ねえけどなぁ!!」

 ゲオルギウスは地面を蹴って接近すると、徒手空拳でドーラに猛攻を開始した。


   □□


「……ふん、『暴虐龍』め。相変わらず好き放題やっている」

 ドーラとゲオルギウスが戦っている頃。

 魔王城の広間では、ベルゼビュートがそんなことを呟いた。

 『個別転移(キャラクターゲート)』を使用するために異空間安定術式は、ベルゼビュートの魔力を触媒にしている。

 そのため、向こうに転送した『真・暗黒七星』の様子をベルゼビュートはどこにいても見ることができるのである。

「いやはや、せっかちな方ですね」

 背後から聞こえてきたのは『真・暗黒七星』の一人。執事服を着た男『遊戯神』の声である。

 ベルゼビュートはその言葉に振り返ると、広間には残る五人の『神魔』たちが集まっていた。

「……では、我々も行くとしよう」

 ベルゼビュートがそう言うと、目の前に巨大な黒い空間のひずみが現れる。

 いよいよ、新たに六つの絶望の星が『人界』に舞い降りる。

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