第36話 小細工はやめた

「はははははははははははははははははははははああああああああああああああ!!」

 ゲオルギウスの笑い声が響く。

 繰り出される徒手空拳のラッシュ。

 右ストレートが、左の裏拳が、前蹴りが、回し蹴りが、次々にドーラに襲いかかる。

「ぐっ!!」

 その一つ一つの威力が兵器に匹敵する超破壊力。

 一撃ごとに地面が盛大に抉れ、衝撃波で砂煙が舞い上がる。

 しかも……。

「おらよ!!」

 ドーラが武器の刃の部分で受けようが何をしようが、お構いなしに殴ってくる。

 本来ならそんなことをすれば、自分から拳を切断しに行っているようなものである。

 しかし、ゲオルギウスは知ったことかと真っ向から刃に自分の拳を叩きこむ。

 武器ごと吹っ飛ばされるドーラ。

 当然ゲオルギウスの拳は無事。それどころかドーラは自分の武器を心配しなくてはならない。

(刃は……無事みたいだね。さすがは第二王国最高名物)

 オリハルコン性の武器を使って、そんなことを心配したのは初めてである。

「武器よりも、自分の心配したほうがいいんじゃねえか?」

 あっという間に間合いを詰めてくるゲオルギウス。

(この男タフネスとパワーだけじゃない)

 スピードもかなりのものである。

 ゲオルギウスが左のストレートを放ってくる。

「ふっ」

 ドーラは攻撃を受ける瞬間、絶妙に武器を持つ手に力を入れて受け流した。

「!?」

 意表を突かれ眉を上げるゲオルギウス。

 ドーラは力にモノを言わせるタイプの戦士だが、当然長い戦闘経験で培った戦闘技術は一級品である。

 アランやケビンのような超達人には及ばないが、このくらいの受け流しならできなくはない。

 ドーラは大ぶりのストレートを外した隙だらけのゲオルギウスにハルバードで反撃を叩きこむ。

 しかし。

 ガチィン、と武器を持った手に伝わってきたのは、手ごたえではなく硬すぎるものを叩いた時に跳ね返ってくる痛みだった。

「効かねえ」

 ゲオルギウスはニヤリと笑う。

 しかし、ドーラは攻撃の手を緩めない。

「はあ!!」

 二度、三度と、ゲオルギウスにハルバードを叩きこむ。

 そして、四発目は一回転した勢いも利用し渾身の一撃。

 ドン!! と周囲に轟音が響くほどの威力であったが……。

「……だから効かねえんだわ」

 ゲオルギウスはやはり無傷。

 微塵もダメージを受けた様子が無い。

「ほんと……厄介だねえ」

「雑魚が、塵になれや」

 そうして再び始まるゲオルギウスの一方的なラッシュ。

 拳が飛んでくる、膝が飛んでくる、足が襲い掛かる、肘が襲い掛かる。

 拳が肘が膝が足が足が足が拳が膝が肘が拳が拳が拳が膝が拳が拳が肘が膝が足が足が足が拳が膝が肘が拳が拳が拳が膝が拳が拳が肘が膝が足が足が足が拳が。

 ドーラでなければコンマ一秒で爆散して挽肉と化すであろう、暴力の嵐を繰り出しながらゲオルギウスは笑う。

「奪って、奪って、壊して、壊す!! 他人が大事にしているものほどいい。それを奪いつくして破壊しつくすことで圧倒的な優越感に浸る。それこそが、この世で最高の快感だ」

 それこそが、それだけがこの男の目的。

 ただただ『人界』のモノを略奪し、破壊してみたいから戦争に参加したに過ぎない。

 ただ、己の快楽と愉悦のため。

(面倒なことに、そんな義も正義も道徳も無い存在がたまたま生まれながらに力を持っちまったってことかね)

 それが『暴虐龍』ゲオルギウスという存在なのだろう。

 平和を願う者たちからしたら、なんとも迷惑千万な話である。

「なあ、あの国にはいるんだろう? お前の大切な人たちってのがよお!!」

 ゲオルギウスは防戦一方のドーラにそう言った。

「今から楽しみだぜえ!! そいつらをぶっ壊してやる瞬間がなあ!! 骨を砕いたらどんな顔するだろうなあ、犯してやったらどんな声で泣くだろうなあ!! あー、想像しただけでたまんねえなあ!!」

 その言葉に、ドーラ表情がピクリと動いた。


   □□


 その時、壁の内側。

 病院ではドーラの娘、シーラがちょうど産気づいていた。

 医者は苦々しく呟く。

「まったくこんな時に……」

「大丈夫ですからね。落ち着いて呼吸してください!!」

 看護師がシーラの手を握って声をかける。

「ふーっ、ふーっ!!」

 新たな生命を生み出そうと、必死にいきむシーラ。

 医者も励ましの声をかける。

「頑張ってくださいシーラ様!! ドーラ様も今戦っておられるはずです」


   □□


「そうかい……」

 ドーラはゲオルギウスの暴風雨のようなラッシュを受けながら呟く。

 目の前の怪物は、自分を倒した後は今自分の背後にある大切なモノを破壊しつくすと言った。

 娘を……夫を……祖国を……国民たちを……新たに生まれてくるであろう命を。

「……なら、負けるわけにはいかないねえ」

 ドーラの全身の筋肉が一回り膨れ上がったように見えた。

「はあ!!」

「!?」

 ゲオルギウスの拳を、ドーラはハルバードで真っ向から迎え撃った。

 ガチイイイイイイイイイイイイイイイン!!

 と、重厚な金属同士を高速でぶつけ合った音が響く。

 その激突はあまりの強さに周囲に衝撃波をまき散らす。

「ぐおっ!!」

 離れて観戦している『死竜隊』の隊員たちが吹き飛ばされそうになる。

 ドーラはハルバードを両手でガッチリと握り直して言う。

「小細工はやめたよ。力には力、真っ向からアンタを倒す」

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