第37話 黙れカス

 先ほどまではゲオルギウスのパワーを目の当たりにして、攻撃を上手く防御しようとしていたドーラだったが、作戦を180度切り替えた。

「はあああああああああ!!」

 力には力。

 ドーラは繰り出されるゲオルギウスの猛攻に対して、真っ向からこちらも武器による攻撃を叩きこむ。

 すると先ほどまで押されるばかりだったのが、徐々に対等な打ち合いになっていく。

 この差は要は思い切りの差である。

 防御や回避に回す分の意識や力を攻撃に全て回す。そうすれば『怪力聖女』の無双の腕力が一番生きる。

 認めるしかない。敵は強い、単純なスペックなら恐らく自分よりも。

 だからこそ自分の最大の長所を活かさないで何とする。

 その捨て身であり合理的な戦いに、ドーラの腕力は見事に答える。

「は、半端ねえぞあの人間……お頭と打ち合ってやがる」

 『死竜隊』の面々も驚愕してその場で見ていることしかできなかった。

 最初のうちはリーダーへの加勢も考えていたのだが、これはさすがに無理だ。

 あんなものに近づいたらあっという間に挽肉になる。

「はあっ!!」

 打ち合いの中で繰り出されたドーラの渾身の一撃。

 ゲオルギウスは素手でその一撃を受け止める。

 しかし。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ドーラが雄たけびと共に力を込めると、その太い腕にビキビキと血管が浮かび上がる。

「!?」

 ゲオルギウスは凄まじい腕力に押し込まれ、後ろに弾かれた。

「……ちっ、ババアが」

 ゲオルギウスは目の前の人間への評価を改めた。

(このババア……腕力だけなら俺様に匹敵しやがる)

 もちろん自分の方が上ではあるが、それでも勝負になるレベルだ。

 『魔界』でも自分以外でこれほどの怪力には会ったことがない。

 ドーラはゲオルギウスがのけぞったところに追撃をかける。

「だが無駄だ」

 そう。何をやってもいくら強かろうが無駄なのだ。

 なぜならゲオルギウスの体は無敵だから。この世で最も頑丈な物質だから。

「俺の体にダメージを与えることは……」


「いいや、もう聞き分けたさね」


 ドーラのハルバードによる一撃がゲオルギウスに炸裂。

 すると。

「……なん、だと!?」

 ゲオルギウスは初めて驚愕の表情を浮かべた。

 なんとドーラのハルバードが、ゲオルギウスの皮膚を切り裂いたのである。

 ドーラはふう、と一息つきながら言う。

「どんな強靭なモノでも、叩き方や角度によって脆い場所はあるさね」

 ドーラは自分の耳を指さして言う。

「聞き分けさせてもらったよ」

 そう、ドーラの固有能力『妖精の耳』。

 それによって自分の武器とゲオルギウスの体がぶつかる音を聞き取り、壊しやすい叩き方やポイントを導き出したのである。

「どう叩けばアンタが壊れるか、コツは掴んだよ。アンタはもう無敵じゃなくなった。自分以外は雑魚だなんて思い上がりも少しは覚めたかい?」

「……」

 恐らくだがこの怪物にとっては初めて受けた傷だろう。

 ゲオルギウスは黙って傷口を見つめた。

「……おい!! お前ら。あれを持って来い!!」

 ゲオルギウスは背後にいる部下たちにそう命令した。

 『死竜隊』の隊員たちは急いで数人がかりでゲオルギウスの元にあるものを持ってくる。

 それは2m近くある黒い棍棒であった。

 『龍尾(りゅうび)』。

 オリハルコンをゲオルギウスの鱗で補強して作ったゲオルギウス専用の武器である。

 オリハルコンは頑丈ではあるが凄まじく重い。ドーラのハルバードですらまともに扱える人間は他にいないのだが、ゲオルギウスはもっと重くなる棍棒である。

 しかし、ゲオルギウスは『龍尾』を軽々と片手で持ち上げる。

「ババア……本気でぶっ潰してやるから感謝しろ」

 ゲオルギウスは『龍尾』を思いっきり振りかぶった。

 そして、フルスイングでドーラに叩きつける。

 先ほどまでと同じようにこちらも迎撃で受けて立つが。

「!?」

 あまりの衝撃に迎撃で放ったハルバードごと吹っ飛ぶドーラ。

(……打撃の威力がさっきまでと全然違う!?)

 ドーラは長年の戦闘経験からすぐに理解した。

 目の前の魔人は本来素手ではなく武器を使う戦闘スタイルなのだと。

「……くくくっ」

 ゲオルギウスは『龍尾』をまるで小ぶりの槍か何かのように、軽々と振り回しながら言う。

「思い上がりは覚めたか……だと? 黙れカス、奪うのは俺だ、壊すのは俺だ、俺は無敵だ!!」

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