第39話 守るために
突然の声援にドーラは振り向く。
声が聞こえたのは上から。
なんと、いつの間にか防壁の上を埋めつくすほどに兵士や国民たちが集まっていた。
予想外の出来事にドーラは焦る。
「ば、馬鹿。アンタたち。アタシがやるから壁の中にいなさいって言ったじゃないのさ!!」
なにより、自分とゲオルギウスの戦いは、近づくだけでも衝撃波で危険である。
しかし。
「ドーラさんの頼みでもそれは聞けないかな」
国民たちの中から前に出てきたのはドーラの夫。第二王国国王モーリスだった。
「……アンタ」
「ははは、シーラに『こんなところにいないで、ママの応援にいきなさい』って病院追い出されちゃってね」
モーリスは恥ずかしそうに頭を掻きながら言う。
「ドーラさんが国民を一人も死なせないため一人で戦うと決めたことは尊重します。だから僕らが『君を応援したい』という気持ちも尊重して欲しい……というわけで」
モーリスは大きく息を吸い込んで叫ぶ。
「がんばれー!! ドーラさーん!!」
国王の声に続くように、国民たちも一斉に声援を送る。
「アナタが勝つと信じてます!! ドーラ様!!」
女たちが祈りを込めた声援を送る。
「我らが『第二王国の母』の力、見せてやってください!!」
男たちが信頼を込めた言葉を贈る。
「魔人なんかに負けるなー!!」
小さな子供たちが精一杯の声で叫ぶ。
「……ああ」
全身に響くような声援がドーラの体に皆の思いを染みわたらせていく。
「全く……馬鹿な子たちだよ」
ドーラは小さく笑いながらそんなことを呟いた。
そして、決意を込めた目で再び正面のゲオルギウスに向き直ると。
「ふー!!」
叫びと共に。今度こそ二本の足でしっかりと立ち上がる。
それだけで全身の破壊された部分が悲鳴を上げるが、知ったことではない。
今心に溢れているのは皆からの声援への感謝である。痛みなど割って入る余地はない。
「ほう? 立ったか」
意外そうな顔をするゲオルギウス。
「だがまあ、無駄だな」
ゲオルギウスの言う通り。
あの状態で立ち上がったのは凄いことだが、体力が尽きていることと致命的なダメージを受けていることには変わりない。
ほとんど万全に近い状態のゲオルギウスとまともな勝負になる道理が無いのだ。
しかし。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ドーラは雄たけびと共に、ゲオルギウスに向かってハルバードを叩きつける。
ゲオルギウスは容易く反応し、『龍尾』でその一撃を打ち払おうとするが。
なんと弾かれたのは『龍尾』の方だった。
「なっ!?」
困惑するゲオルギウス。
それはそうだろう。なにせ、ドーラの一撃の重みが明きらかに大ダメージを受ける前を上回っていたのだから。
「どうなってやがる……」
ドーラは血の滴る口元で笑いながら言う。
「……そりゃ、火事場の馬鹿力くらい捻り出して見せるさね」
ドーラは背後に声援を受けながら、威風堂々とゲオルギウスの前に立ちふさがる。
「アンタが奪うために生まれ持った力を振るってきたのなら、アタシは守るために力を使ってきたんだからねえ!!」
ーー
アラフォー英雄最終4巻 9/19に発売!!
壮絶なる戦いの結末がここに!!
↓
表紙がカッコよすぎる
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