第17話 災害VS人間3

 いつの間にか戦いの場は、『魔王軍』と『人類防衛連合』の兵たちが戦うところから離れた、廃墟の立ち並ぶ場所になっていた。

 余計な被害が出ないよう、戦いの中でアランがこちらに誘導したのである。

 そしてそのアランVS暗黒七星の第二幕は、ただでさえ魔力や身体能力において大きな差があるアランにとって、二対一というさらに大きなハンデを背負う戦いであった。


「『ハンマーレイ』!!」


 まずは手始めにヘビーリィレイの連続水流攻撃がアランに向けて降り注ぐ。

 地形すら削りとって変形させるほどの高威力と銃弾のような速度で水流がアランに襲いかかるが、アランは先ほどまでと同じように見事にそれをかいくぐる。

 しかし。

 見事に回避しているとはいえ、回避しているからこその隙は生まれる。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 そこに背中から爆炎を噴出しながら襲いかかってくるのはボルケーノである。

 背中で小規模の噴火を起こすことにより生まれる加速力は凄まじく、ボルケーノの岩で覆われた体は射出された砲弾の球のごとき勢いでアランに向けて突進する。

 アランはその一撃を剣で受けるが。


(……これは無理だ)


 一瞬で受けきることを諦めて体を脱力し自ら跳躍。

 剣で受けつつもあえで自分から上方へ吹き飛ばされることで力を逃がした。

 衝撃をもろに浴びなかった分、大きく後方に吹っ飛んでいくアラン。

 その隙をボルケーノは逃さない。


「『ボルカニック・ショット』」


 ボルケーノの手の平にある小型の火口から、熱された岩石がアランに向けて放たれる。


「『スタンダードワープ』!!」


 アランは空中で1m下降することで、なんとかそれを逃れるが。


「隙だらけよ!!」


 そこに尽かさず襲いかかるのは、ヘビーリィレイの水撃だった。

 命中。

 したかに見えたが。


「『空脚』!!」


 魔力で空気を固めて、それを蹴ることで空中での移動を可能にする高等技術をアランは瞬時に使用。

 服を掠めギリギリのところで水撃を躱した。


「これも躱すの!?」


 ヘビーリィレイの驚愕の声が聞こえる。

 次はこちらの番だ。と反撃のために前に踏み出そうとするが。


「『グレートエクスプロージョン』!!」


 すぐさま、ボルケーノが攻撃をしてくる。


「ちっ!!」


 アランは舌打ちをすると、攻撃のための踏み込みを中止して回避のために地面を転がった。

 先ほどまでアランがいたところに、高熱の岩石が降り注ぎ爆炎を上げる。


「……ふう」


 まずは一通り攻防をしたアランは、向かい合って相手の次の出方を伺う。


「……ここまで絶え間なく高威力広範囲の技を繰り出されると、攻めるスキが無いな」


 アランがそう言うと。


「魔力切レハ、期待シナイホウガイイ。今ノ攻撃キヲ、オレモコイツモアト1000回ハ撃テル」


「俺が撃ったら、一発で魔力切れ起こしそうなんだがな」


 アランとしては魔力量に関しては自分とは比較するのもバカバカしいくらいの差があるのだと、改めて実感するばかりだった。


「……しかも、そんな奴が二体同時か」


 そんなことを呟くアランに、プロミネンスが言う。


「ナニ、恥ジルコトハナイ。オ前モ、ソノ、『素質ノ無サ』デヨクヤッテイル」


「素質の無さ……ね」


 アランがそう呟く。


「ソウダ。オマエ、属性魔法ガ、使エ無イノダロウ?」


「……」


 アランはそう言われて沈黙する。


「薄々はそうじゃないかと思っていたわ」


 ヘビーリィレイはそんなアランの様子を見てそう言った。


「アナタが戦いの中で使用していたのは無属性魔法だけだったわ。魔力効率も出力も圧倒的に上の属性魔法をわざわざ使わない理由がないものね」


 そう指摘され、アランは言う。


「……お前らの言うとおりだ。俺は6大属性魔法のどれにも適正が無い。おかげで『100年に一人の無才』なんていう不名誉極まるあだ名までいただいた」


 属性魔法は少なくとも前線に出て戦うのであれば必須だ。

 それを使用できないというのは、一人だけ両手を使わずに戦えと言われているのに等しい。


「特にワタシたちのような高出力の防御魔法や高強度の体を持つ魔人には致命的ね。一撃で大きなダメージを与えるには攻撃の威力がどうしても足りない」


「ああ。ただでさえ反撃のスキが殆どないのにな。これでは何十発と剣撃を叩き込まないと倒せそうにない。困ったもんだ」


 素直にそう答えるアラン。


「絶対絶命ってとこかしらねえ?」


 べビーリィレイの言葉に。


「そうだな……」


 アランは同意しつつ、しかし。



「だが絶体絶命は前の戦争で慣れてるんでな……まあ、何とかしてみせるさ」



 変わらず堂々とそう宣言した。


「下等生物が……どこまで我らを舐めている」


 不快さに歯ぎしりをするヘビーリィレイ。


「行くぞ!!」


 アランは再び地面を蹴って二体に向けて飛びこんでいく。

 その動きは、先ほどのリプレイである。


「ふん、芸のない。『ハンマーレイ』!!」


 ならばと先ほどと同じく、ヘビーリィレイは水撃を繰り出した。

 しかし、アランは今度は躱さない。


 姿勢を低くして水撃のハンマーに向かって逆に加速して突っ込んでいく。


「血迷ったか?」


 ヘビーリィレイはそう言うが、もちろんアランは冷静だった。


「いいや。お前たちの倒し方は、さっき編み出したさ」


 アラン右手をかざす。


「『スタンダードバリア』」


 アランが唱えたのは、基礎的な防御魔法。


(まともに基礎防御魔法で受けたら一瞬で破られる……なら)


 アランはバリアを下から上に向けて緩やかなカーブを描く形で形成した。

 要するに水流を誘導する滑り台をバリアで作ったのだ。

 ヘビーリィレイの水撃は、その曲面に誘導されるようにアランの上に逸れていった。


「!?」


 思わぬ防御方法に驚愕するヘビーリィレイ。

 今までは完璧に躱さなければならなかったため接近には苦労したが、攻撃を弾けるなら話は別である。

 アランはあっという間に、ヘビーリィレイに接近する。


「くっ、だが」


 ヘビーリィレイの足元から水の壁が噴き出す。


「その壁にはもう慣れたぞ」


 アランは壁の薄い部分に剣を滑り込ませ、ヘビーリィレイを切り上げる。


「ぐっあ!!」


 見事に壁をすり抜け、ヘビーリィレイの体を切りつけた。

 しかし、やはり身体能力と魔力の出力が低い分、一撃ではどうしても深手を負わせられない。

 そのため、二撃三撃と続けて叩きこまねばならないのだが。

 当然そんなことを簡単にさせてくれるほど、相手はのろまではない。

 ボルケーノが背中を噴火させ、超加速で突っ込んでくる。


「悪いがそれも、対策は練ったぞ」


 アランはその突撃を躱すのでもなく迎え撃つのでもなく、剣を柔らかく動かしボルケーノ体を横合いからすくうようにして力を加えた。

 それにより、凄まじい破壊力を持ったボルケーノのぶちかましが、嘘のように軌道を上に逸らされてしまう。


「……ナニ!?」


「受けられないし、全部避けるのは効率が悪い。なら力を逸らすのが一番効率がいい。当たり前のことだ」


「クッ……『ボルカニック・ショット』」


 ボルケーノは空中に浮ながらも、アランのほうに自らの掌を向ける。

 しかし。


「『スタンダードワープ』」


 アランは回避に使っていた『スタンダードワープ』を今度は前方方向へ使用した。

 さらに縮地という、重力を上手く利用した高速移動術を駆使して一瞬にして、ボルケーノとの距離を詰める。


「そして、これも同じだ。硬い岩盤にも継ぎ目はある」


 アランの剣がボルケーノの頑強な鉱物の体の継ぎ目を正確に切り裂く。


「ヌウ!!」


 血液の代わりに切り裂いた部分からマグマが吹き出るボルケーノ。

 ともかくダメージは入ったようだ。


「……よし、これで戦える」


 アランは一人そう呟く。

 一連の攻防はアランが一方的にダメージを与える結果になった。

 しかし、ボルケーノは自らにつけられた傷を見ながら言う。


「フン、大シタモノダナ」


「ずいぶんと余裕だな。お前たち二人の連携をかいくぐって攻撃されたってのに」


「ナニ、一撃ノ威力ハ、低イ」


「なら、何度でも叩きこんでやるさ」


「デキルノカ? 『受ケ流シ』トヤラハ、体力ヲ大キク消耗スルヨウダガ?」


 ボルケーノの言う通り、アランはすでに肩で息をしていた。


「はあ、まったく、歳は取りたくないな」


 アランはため息をつく。

 全盛期を過ぎて身体能力は一通り落ちたが、スタミナが特に衰えを感じる。

 そんなことをアランが思っていると。


「おのれ下等生物があああああああああああああああああああああああ!!」


 ヘビーリィレイの怒りの咆哮が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る