第11話 緊急事態発生
『魔王軍』の襲撃。
その報告が入ったことで、当然模擬戦は中止になり七英雄やマーガレットたち、それから大臣たちといった先ほど会議を行っていた面子は再び会議室に集まった。
(馬鹿な……早すぎる)
アランが『魔王軍』襲来の報告を聞いたときに最初に思ったのはそれだった。
『魔王軍』が次元移動に使用する魔法「魔王門(イビルゲート)」は使用頻度に制限があることが分かっている。
少なくとも一度使えば30日は期間を開けなければ使用できないのである。
前回の襲撃から、まだ半月も経っていないのだ。
どうやら今回の『魔王軍』が使う移動手段は、従来のものとは全く別物と考えたほうがよさそうだった。
とはいえ、今はまず状況の確認だ。
「報告を頼む。エイリアス二等騎士」
「は、はい」
先ほど闘技場に駆け込んできた騎士は、会議場中に聞こえるよう声を張り上げて報告を始める。
「15時15分頃、『ミルドレット地区』南部国境線付近に騎馬に乗ったモンスターの一段を、巡回警備中の第12分隊が発見。規模は約5000、隊列を維持したままこちらに向かっています。あと2時間以内に国境警備の騎士たちと交戦するかと思われます」
「5000か……」
第一王国防衛大臣が渋い顔をする。
一般的な人間よりも強靭な肉体を持つ魔人族である。その数字は人間に換算した場合倍以上には見積もらなくてはならない。
『ミルドレット地区』は魔石の採掘場という重要施設があるため、通常よりも戦力を充実させて警備にあたっているのだが、なにせほとんどの騎士たちにとっては『魔王軍』との実戦である。
正直なところ厳しいと言わざるを得ないだろう。
大臣たちの間で焦りの空気が充満する。
……しかし、アランをはじめ七英雄たちは全く別の感想だった。
「そうかい。その程度ならアタシ一人行けばなんとかなるさね」
そう言ったのは『剛力聖女』ドーラだった。
その言葉に大臣たちはざわつく。
「第一王国領土内だし、後処理のことを考えるとアランが行ったほうがいいんじゃないかしら?」
今度はイザベラがそう言った。その意見はドーラの先ほどのセリフを全く否定していなかった。つまり、この規模なら『村人』以外は七英雄の誰か一人でも行けば対処できるということである。
「イザベラの言う通り第二王国の王妃に戦闘させるよりも、第一王国騎士団所属の俺が行ったほうが妙な角が立たないな」
アランはそう前置きしたうえで。
「だが……対応には万全を期したいし、無駄な犠牲はなるべくだが出したくない。対処には二名で向かおう。俺と……『賢者』、援護を頼めるか?」
「おや? ワタシをご指名ですかアランさん」
アランが指名したのは眼鏡をかけた神父の恰好をした男だった。
七英雄の一人、『歴代最強賢者』ノーマン・ロックウッドである。
年齢は44歳。体はやや細身だが背は高く、皺の入ったその表情は他の英雄たちの強者感とはかけ離れた穏やかそうなものである。しかし、その穏やかな立ち振る舞いの一つ一つがどこか他の英雄たちと同じ強者感や凄みを感じさせる。
ノーマンは丸眼鏡の位置を右手の指で直しながら言う。
「まあ、ワタシは他の方々と違って、王族に名を連ねてるわけではないですからね。ご協力させてもらいますよ」
「感謝するぞノーマン……ちょっとその話し方は慣れないけどな。昔みたいにしてくれもいいんだぞ?」
「ははは、勘弁してくださいよ『勇者』殿。今思い出しても昔の自分は赤面ものなんですから」
アランとノーマンがそんなやり取りをしていると。
「……勝手に決めないでいただきたいですな」
横やりを入れてくる者がいた。
言うまでもなく……サイモン長官である。
「『魔王軍』の進行が確認された以上、連合規定にのっとれば今は特例有事状態。つまり、指揮の全権は我々『人類防衛連合』に移っている」
サイモン長官は言う。
「その指揮権をもって、七英雄を含む第一王国にいる全ての戦力には待機を命じる!!」
「待ってくださいよサイモン長官。模擬戦で勝てなければ、その作戦は取り下げるんじゃなかったんですか?」
アランの言葉にサイモン長官は知ったことではないという風に。
「まだ我々は3敗しただけだ。負けたわけではない」
などとぬかしてきた。
「あの戦いを見れば、残りの試合なんでワザワザやらなくても分かるでしょう。なんだったら今すぐにでも四試合目をしてもいい」
「それは無理な相談だなアラン殿。すでに先ほど戦わなかった三名の『グレートシックス』は『人類防衛連合』の対魔人族精鋭部隊を引き連れて現場に向かっている」
「……この」
こんな時だけ無駄に手回しの早い男である。
アランがサイモン長官に詰め寄りかけたその時。
「まあまあ、落ち着きましょうアランさん」
『賢者』ノーマンがアランの肩を掴んだ。
「連合規定に逆らっても後で厄介なことになるだけです。ここはひとまず『人類防衛連合』に任せてみようじゃないですか」
「……しかしなノーマン」
「確かに我々が出たほうがベストなのは間違いありません。ですが模擬戦を見る限り『人類防衛連合』の戦力も思ったほど酷いわけでもないようだ。彼らには今のうちに『魔王軍』との交戦を経験しておいてもらうのは大事では?」
ノーマンは穏やかにそう言ってきた。
「……まあ、お前の言うことも一理あるか」
アランはサイモン長官に言う。
「分かりました。待機命令、大人しく従いましょう指令官殿」
「ははは、まあ、任されよ。人間相手の模擬戦では少々不覚を取ったが、我々の専門は対魔人族ですからな」
「ただ、約束してください。もし、部隊がピンチになった時は俺たちの待機を解除して貰うと」
「分かっておる。もしそうなればだがな」
そんなやり取りをしている間に。
「アラン様。準備整いました」
「ありがとうロゼッタ。やってくれ」
ロゼッタは頷くと、会議の時と同じように会議場の白い壁に魔力を込めた。
映し出されたのは先ほどの静止画とは違い、実際にリアルタイムで『ミルドレット地区』を映したものだった。
これも『賢者』ノーマンが開発した『キャンバスファンタズマ』を応用した技術である。
遠く離れた場所の映像を白い魔法石の壁に映し出すという、まさに夢のような魔法だが、どこでも映し出すというわけにはいかず、映し出せるのは地中を流れる魔力の流れ『龍脈』的な繋がりのある場所だけである。
『ミルドレット地区』の採掘場はたまたま龍脈的な繋がりが王宮とあるところであったため、映像を撮るための魔法装置を設置してあった。
ちなみに、この映像を取るための魔放装置は物凄くコストがかかるため、そうそう滅多なことがない限りは利用しないのだが、今は問題なく滅多な時である。
マーガレットも財政大臣も、一切躊躇なく使用を許可した。
アランは映された映像を見て言う。
「……『人類防衛連合』の兵士は、6000ってところか」
こちらが1000ほど数では上回っているが、魔人族と初交戦となると少々心もとないアドバンテージである。
そんなアランの心配を他所に『ミルドレット地区』の魔石採掘場に、『魔王軍』が姿を現した。
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