アラフォーになった最強の英雄たち、再び戦場で無双する!!

岸馬きらく

一巻

第1話 あの英雄は今

 125年前。


 突如、地獄は襲来した。

 魔王大連合軍VS人類の大戦争、絶滅戦争(ティタノマキア)。

 突如開いたゲートを通って『魔界』から侵略してきた魔人族たちと、その侵略を阻止せんと抗う人類の戦いによって世界は戦乱の地獄の中にあった。

 しかし、25年前。

 長きに渡ったその戦いに終止符を打った、若き7人の英雄が現れた。


 勇者、賢者、聖女、僧侶、悪役令嬢、遊び人、村人。


 魔王軍最高幹部『暗黒七星』を倒し、世界に平和をもたらした彼らのことを人々は『七英雄』と呼んだ。

 戦いを終えた『七英雄』はそれぞれ違う道を歩むことになる。

 『七英雄』の一人、『光の勇者』と呼ばれた男、アラン・グレンジャーは大きな名誉や地位を望まず、名誉貴族の地位を貰い、故郷に帰って王国騎士団ユニランド支部の騎士団長として第二の人生をスタートした。


 そして、それから25年。

 42歳になったアランは今でも、辺境の支部で一介の騎士団長として日々の仕事にあけくれていた。


   □□


 騎士団長などという立派な雰囲気の肩書を持っていても、所詮は中間管理職である。

 アラン・グレンジャーはそんな風に思う。

 王国騎士団の本当のトップは中央本部の「総司令」だ。アランは騎士団長といってもあくまで辺境支部の一つのトップというだけである。

 そんなわけで……。


「コレがこのアテクシの考えた、スマートな新しい新兵育成システムよお!!」


 机に書類を勢いよく叩きつける音が響いた。

 書類を出してきたのは第一王国ユニランド領の領主ジンジャー侯爵である。

 年齢は二十代の前半の細身の男なのだが、しゃべり方や声のトーンがどうにも間違ったイメージの女っぽい。

 場所は騎士団ユニランド支部の団長室。

 一応、騎士団長になってアランに与えられた自分用の仕事部屋である。ただ、片田舎の支部の建物はそれほど大きくなく、その一室ということでそれほどの広さはなかった。

 よって、甲高い声とか机に書類を叩きつける音とかはよく響く。


「ありがたく受け取りなさーい!!」


「はあ……またですか侯爵」


 アランは一つため息をつきつつも、出された書類に目を通す。

 この領主は時々思い付きで騎士団の業務に関する提案を持ってくるのだ。

 「素人は黙っとって下さい」と言えればいいのだが、無下にするわけにもいかなかった。なぜなら、ジンジャーはアランにとって「実質的な上司」にあたる人物だからである。

 王国騎士団は形式上皇族の所有で、それが各地に治安維持や国防のために派遣されるという形式をとっている。

 しかし制度上、領主が承認しなければ行えない業務がほとんどだ。だから立場的には領主が「圧倒的に上」である。

 そのため出されてくる企画書の大半が全く現場を見ていない迷惑千万なものだったとしても、アランは領主の機嫌を損ねないように丁寧に検討したフリをしなくてはならない。


「まあ、拝見させていただきます」


 アランは自分がやっていた途中だった書類を弾き飛ばして机の上にドカン置かれた計画書に目を通す。

 まあ時々はいい提案も混じっていたりするし、毎回完全に無駄というわけでもない……。

 が。


「……いや、これはさすがに現実的に考えてキツイくないですか?」


 今回ジンジャー侯爵が持ってきた提案は、なんというか……なかなかに気合いの入った提案であった。


「一年かけるはずの新入隊員研修を三か月に短縮するって……」


「あーら、何をおっしゃいますかっ!! 実現すれば期間もコストも四分の一になるというのに!!」


 新入隊員の研修というのは、騎士団に新規で入隊したものに行う訓練のことである。

 現在は一年かけて行っており、確かにそれには大きなコストがかかっていた。


「そりゃまあ、単純に考えればそうなんですけどね。じっくり育てて基礎を固めるのも大事だと思うんですよ……んー」


 今はアランたちの時代に比べて新兵訓練のノウハウも確立してきているが……。


「ウィリアムはどう思う?」


 アランは部屋にいるもう一人の人間に声をかけた。


「なーにジジくさいこと言ってんすか。あ、実際にジジイに片足突っ込んでる年齢でしたね、サーセンっした」


 この全く悪いと思っていなさそうな少年の名はウィリアム・レイフィールド。

 見た目は非常に中性的な美形である。現在15歳、今年の入隊試験の首席合格者だった。

 それにしても、アランとは親子ほど年の離れているというのにこの態度である。


(ただのアホと見るか、それとも大物と見るか……)


 アランはため息をつく。

 かつての英雄アラン・グレンジャー、今ではすっかり上司にも部下にも舐められる世知辛い中間管理職としての日々であった。

 そんなことを思っていると。

 バン!!

 と、騎士団長室の扉が勢いよく開け放たれた。


「ちょっと!! 二人ともアラン様に失礼でしょう!!」


 そういって部屋に入ってきたのは、メイドを服を着た17歳の少女ロゼッタ。

 魔王を倒したことで貴族の地位を得たアランが雇っているメイドである。赤毛にツインテールの気の強そうな少女だ。

 気が強そうというか実際に気が強い。

 容姿もスタイルもかなりいいのでよく色々な男からアプローチをされるのだが、前に何度断ってもしつこく誘ってきた貴族相手にピンタをお見舞いしていたのを見たことがある。

 そんなわけで。


「アラン様はかつてこの国を救った英雄なんですから。もう少し敬意をもってアラン様の話に耳を傾けたらどうなんですか!?」


 ロゼッタは相手が領主だろうが、首席合格の貴族のお坊ちゃんだろうが言いたいことはハッキリと言う。

 しかし。


「えー、そうは言っても……ねえ? 昔の話でしょう?」


 ジンジャー侯爵はそう言った。


「そうっすね。25年前とかボク生まれてないし」


 ウィリアムも同意するように言う。

 ジンジャー侯爵はさらに若干小ばかにしたように続ける。


「昔は凄かったのかもしれないけどねえ。今はすっかり現場を退いてデスクワークですしぃ。逆に、昔の価値観に縛られて頭が硬いってゆーかー」


「そーそー。ぶっちゃけ、今は時代が違うんすよ」


 ウィリアムは凄まじいどや顔をしながら言う。


「じっくり基礎固めて、なんて古い古い。俺らみたいな新しい風は、さっさと実戦に出てサクッとスマートに結果出して来るのがデフォっすよ!!」


 まだ本格的な訓練すら始まっていないというのに大した自信である。

 ……大物と思うことにしよう、そのほうが精神的に楽であるとアランは思った。


「あ、あなた達ねえ……」


 ロゼッタは怒りのあまりプルプルと震えている。

 アランは顎に手を当てて少し考えていたが……。


「……分かりました。ジンジャー侯爵の案、採用しましょう」


「ええ!?」


 ロゼッタが驚いてこちらの方を見る。

 かなり驚いて表情が崩れているのだが、それでも綺麗さの中に可愛らしさを同居させているのだから、ロゼッタはやはり美人だなあと思う。

 一方、ジンジャー侯爵とウィリアムの二人はアランの言葉に。


「ふふ、当然ね。どう考えてもアテクシの考えのほうが効率的だもの」


「はっはー、これですぐに活躍できるってもんです。若い力に嫉妬させてしまったらスイマセンね!! 先に謝っときまーす!!」


 ジンジャーとウィリアムは非常に満足そうにそう言って、団長室を出て行ったのだった。


   □□□


 ジンジャーとウィリアムがが出ていった後。


「ムッキー!! 何なんですか、何なんですか!! あの人たちは!! 伝説の英雄であるアラン様に向かって」


 ロゼッタは眉を吊り上げてゲシゲシと地団太を踏んでいた。

 アランはそんなお付きのメイドを「まあまあ」となだめる。

 これだけ見ると勝気なお嬢様とそれをなだめる執事のようにも見えて、どっちが従者なのか分からなくなってくる光景である。


「アラン様もアラン様です!! なんで何も言い返さないんですか!!」


 ロゼッタの怒りは、どうやらアランの態度にも向いているらしい。

 気の強そうな整った顔で凄まれると、なかなかの迫力である。

 昔、メスのレッドフェンリルと戦ったことがあるが、その時のことを思い出した。毛並みの赤さとか、目つきの鋭さとか、グルグル唸ってる感じが似ている。


「んー、ジンジャー侯爵の提案も理にかなってはいるからなあ。新入隊員の代表であるウィリアムも賛成してるし」


 それに……と前置きしてアランは言う。


「とっくに現場を退いたジジイってのもホントだしな」


 アランは魔王を倒した英雄ということもあり、いきなり騎士団長に昇進したため戦争の後25年の間は現場に出たことがない。

 25年という年月は一人の子供が立派な大人になってしまう期間だ。現在アランがまともに戦っているのを見たものはほとんど騎士団にいないのである。


「ジジイって程の年齢じゃないと思いますけど」


 ロゼッタは不満そうにそう言った。


「俺たちの感覚だとジジイだよ。昔はこの年まで生き残る人いなんてほとんどいなかったからな」


 25年前までは魔族との百年以上にも渡る戦争で、平均寿命は凄まじく低かった。アランたちの時代にもなると戦争はもっとも激化していた期間であり、若い人間はすぐに戦争に送られた。

 特に騎士のような戦闘を職業とする人間は、二十歳まで生きれる人間が稀なくらいだったのだ。

 そんな時代を生きていたのに、アランは気づけば42歳。

 若くして先に行った仲間たちを思うと、古いとかジジイとか老いぼれとか言われても「そうだよなあ」という感じである。

 しかし、そんなアランとは逆に、ロゼッタは悔しそうにメイド服のスカートを握りしめて言う。


「でも、私は知ってるんです。アナタは本当は……」


   ■■


 ロゼッタ・レイネルはありふれた行商人夫婦の一人娘として生まれた。

 両親は各地を旅して品物を売る仕事をしており、ロゼッタは物心つく頃から各地を移動して回る生活をしていた。

 両親はよく言っていた。


 ――こうして安全に国を行き来できるようになったのは、英雄たちが戦争を終わらせてくれたからなんだよ。


 と。

 昔は一歩国の外を出ればいつ魔族軍に襲撃されるか分からなかった。魔王軍だけならまだいいが、飢えた人間の軍が商人を襲うなどということも日常茶飯事であった。

 なんだったら物流の盛んな国そのものが略奪者たちから見ればターゲットであり、国の中にいても商人が行くような場所はいつ襲われるか分からない。

 まさに、全てが命がけだったという。

 それが今では魔王軍が完全にいなくなり各国の治世も安定し、子供を連れて行商の仕事ができるまでになった。

 「ホントに英雄様ありがとうございますだよ」とよく話していた両親の言葉を、当時小さかったロゼッタはイマイチ意味は分からないまでも「そういうものなんだ」となんとなく聞いていた。


 そして、その事件は今より10年前。

 ロゼッタが7歳の時に起きる。

 それは不幸な事故だった。

 確かに昔よりは安全になった国家間の移動だが、それでも当然危険はある。

 野生のモンスターたちによる襲撃である。

 だが、その時両親とロゼッタが通っていた道は、それほど危険なモンスターが発生しないはずのエリアだったのだ。

 せいぜい現れても、小動物レベルのモンスター。ロゼッタの父親でも武器を使えば撃退できるレベルだ。

 のはずなのに、現れたのは体長5メートルのワイバーンだった。

 なんの抵抗もできず両親はあっという間に殺された。

 幼いロゼッタは目の前に迫る圧倒的な恐怖に指一本動かすことができなかった。

 思うことは、両親が言っていた昔の話だった。


『昔は全て命がけだった』


 つまりこういうことが日常茶飯事だったのだろう。

 その恐怖を今まさに肌で感じている。

 あとはただ、幼い少女がその巨大な牙に貫かれ丸呑みにされるのみ。

 しかし、次の瞬間。

 大きな背中がワイバーンとロゼッタの前に立ちふさがった。


 ――もう大丈夫だよ。辛かったねお嬢ちゃん。


 そして、腰から剣を引き抜くと。

 一閃。

 先ほどまで自分を絶望の縁に追いやっていた凶暴なモンスターは一刀の元にその場に崩れ落ちた。

 それが当時33歳のアラングレンジャー。

 自分の父親よりも少し年を取っているその男は、先ほど見せたばかりの圧倒的な強さとは対照的な優しい笑みで震えるロゼッタの体を抱きしめたのだった。


   ■■


 ロゼッタはメイド服のスカートの裾を掴んだまま、口を結んで黙ってしまった。

 アランは思う。

 この少女はアランのことをものすごく信頼してくれている。

 そのことが、アランにとっては重荷かと言われれば決してそんなことはなく。


「ありがとうなロゼッタ。俺のために怒ってくれて」


「別にアラン様のためじゃ……」


 そんな風に口を尖らせるところも、なかなか可愛らしかった。


(ちょっと、アイツに似てるんだよな)


 アランは昔共に戦った女剣士を思い出しながら、そんなことを思う。

 ロゼッタはまだ不満なようで。


「ただ、アラン様に無礼なのは別にしても、あの二人は平和ボケし過ぎですよ」


 そう言った。


「平和ボケか……」


 アランは椅子から立ち上がって背後にある窓の方を見る。


「俺が若い頃は、最終戦争とその後の混乱でとにかく命がけの仕事ばっかりだった……」


 窓から見えるのは平和な街並みだった。

 人々が笑顔で過ごし、子供は笑い、大人は安心して仕事に汗を流し、吟遊詩人が歌うのは猛々しい英雄譚ではなく平和と恋の物語。


「ようやくこうして平和になったんだ。いいじゃないか平和ボケ。俺たちが頑張ってきたおかげで、皆が安心して暮らせてる証拠だよ」


 アランはそう言って誇らしげに笑う。


「これからの時代は、これからの時代を生きる人たちのものだ。年寄りがでしゃばるものじゃないさ」


 そう。これからの平和な時代のことは、これからを生きる若い人たちが決めればいい。

 新しいことに挑戦して手痛い失敗をすることもあるだろう。

 それでも、そういうものを少しづつ乗り越えて人は成長していくのだ。

 老兵はそれを見守ってサポートしてやるのが仕事だ。

 アランは心からそう思っている。


   □□


 ――ジンジャー侯爵の提案した「新規育成プログラム」が採用されて一年半が経過した。


 その日、アランは騎士団訓練学校に視察に来ていた。

 お付きのメイドであるロゼッタも一緒である。

 騎士団訓練学校というのは、騎士団に入隊した新人が研修を行う訓練校である。


「今期の新入隊員の調子はどうですか?」


 アランは案内役をしてくれているジンジャー侯爵に尋ねた。


「おほほほ、当然順調よお」


 ジンジャーは口に手の甲を当てて、相変わらずオカマっぽい声でそう言った。

 騎士団訓練学校のグランドでは、一か月前に入った隊員たちが魔法の訓練をしてた。


「水属性第三魔法!!」


 新入隊員の一人がそう言って的に向けて手をかざすと、その手から勢いよく水流が流れ出し的をその水圧で吹き飛ばした。

 他の場所を見れば今度は別の新人隊員が。


「火属性第十魔法!!」


 と唱えると、指の先から火の玉が飛び出して爆円と共に、藁を巻いた軍連用の人形を丸焼きにする。


「魔法の訓練を早い段階から積ませることで、入学して一か月でほとんどの子がこのレベルまで使いこなせるようになったわあ。アナタの時代では考えられない効率でしょう?」


 ジンジャーは誇らしげにそう言ってきた。


「そうですね。俺たちの時代では、このレベルの魔法を使えるようになるまでに10か月はかかってましたから。それにしても『テンプレート魔法』か……便利な時代になったなあ」


 アランは感慨深くそう呟く。

 ジンジャーが取り入れたカリキュラムは、それまでのカリキュラムの無駄を省き、戦闘における効果が分かりやすく現れる魔法の習得を優先している。

 だが、それだけでは魔法の習得期間が九か月も短くなったりなどしない。

 その習得期間の短縮を実現しているのが「テンプレート魔法」である。

 『テンプレート魔法』は、最終戦争の時代に活躍した勇者たちの魔法を元に作られた「誰でも使いやすく強力な魔法」である。

 六つの属性に分けられていて、固有の名前は無く属性と番号で呼ばれる。

 これによって、最終戦争の頃は一人一人が長い時間をかけて自分で開発していた魔法が短い期間の訓練で使えるようになったのである。


(いい時代になったな)


 アランはそんなことを思う。

 まだ入って一ヶ月だが、これならそのへんの魔物となら戦っても楽々勝利できるだろう。


「初めは不安でしたが、改めてジンジャーさんの提案を採用させてもらって良かったなと思いますよ」


 アランは素直にそう言った。

 確かにそれまでのカリキュラムは『テンプレート魔法』が開発される前のものを元にしているため無駄が多かったのだ(と言っても、それはそれで大事なものも多かったが)。

 効率の面から考えて新しい取り組みとして価値は十分にあると思った。


(まあ、安全で平和になったからこそ試せるってのはあるけど……)


 ジンジャーは自分の考えたプランを褒められて、素直に鼻を高くして笑う。


「おほほほほ、そうでしょう。そうでしょう。去年卒業したウィリアムちゃんなんて、もう最前線でバリバリに活躍してるしねえ。もっと私の慧眼を褒め讃えてもいいのよお!!」


 アランはその言葉に、あの金髪の少年の顔を思い出した。


「ウィリアムかあ」


   □□□


 ちょうどその頃。

 王国ユニランド領、モンスター出現区域。

 ウィリアム・レイフィールドは大型のモンスター、ベオウルフに向かって剣を振り上げていた。


「炎属性第十二魔法!!」


 ボウ!!

 と、ウィリアムの持つ剣が燃え上がる。


「はあ!!」


 燃え上がる剣を振り下ろすと、ベオウルフの分厚い毛皮をなんなく切り裂いて致命傷を与えた。


「ふう、今日も自分が完璧すぎて嫌になるね」


 そう言ってご自慢の無駄にサラサラした金髪を掻き上げるウィリアム。

 16歳になったウィリアムレイフィールドは、なんと対モンスター部隊14番隊の隊長に就任していた。

 14番隊は40名の若い隊員たちで構成されている部隊である。彼らにとっては若き出世頭のウィリアムは憧れの的であり。


「さすが、隊長っす!!」

「最年少隊長、マジパねえっす!!」


 とウィリアムの一挙手一投足に、称賛の言葉が送られる。


「はっはっはっ、あんまり本当のことを言われると照れるじゃないか」


 ウィリアムはそんな称賛の言葉たちにまったく恐縮せず堂々としていた。むしろ、もっと言ってくれと言わんばかりである。


「ふっ、まあ、年齢なんて関係ないさ。むしろ僕らみたいな若くてスマートな世代が、騎士団長みたいな衰えた年寄りたちの代わりに活躍してあげないとね!!」


「隊長。すでに本日巡回する予定だった箇所は周りました」


 副隊長の他の隊員よりは少し大人しそうな男がウィリアムにそう言った。


「おや、そうなのかい? 大分時間が余ってしまったな」


「そりゃ、隊長が効率良すぎるからっすよー」

「マジでスマートっす」


「はははは!! それほどでもあるさ!!」


 やはりウィリアムは褒められてもまったく恐縮しない。ある意味大物である。


「でも、このまま上がると、お固い年寄りたちがうるさそうだ。せっかくだから時間まで明日探索する分も何箇所か回っておこうかな。皆やっちゃっていいかい?」


 ウィリアムの言葉に。


「さんせーい!!」

「やっちゃいましょう、やっちゃいましょう」


 と隊員たちも同意する。


「ふっ、元気のいい連中だ!! じゃあ、行っちゃおうか!!」」


 そう言って馬に飛び乗るウィリアム。

 そして移動を開始しようとするが……。

 副隊長が声を上げた。


「お待ち下さい隊長!! 丘の方から誰かこちらに向かってきています」


「ん? アレは他の隊の騎士か?」


 ウィリアムの隊ではない騎士が、ふらつきながらこちらの方に歩いてきたのだ。

 防具などが傷ついており、何かしら戦闘があったのが分かる。

 ウィリアムの隊員の一人が駆けよる。


「おい、何があった?」


「モ……モンス……タ―が……」


 他の隊の隊員は、消えかかりそうな声でそう呟いた。


「モンスターがどうしたんだ?」


「……違う、アレは、ま……ぞ……」


 バタリとその場に倒れる騎士。

 背中には深々と矢が刺さっていた。


「なっ!? おい、大丈夫かい」


 ウィリアムが訪ねるが。


「……ダメです。死んでます」


 駆け寄った隊員が調べると、すでに息を引き取っていた。


「そんな、一体何が……?」


 この辺りにそれほど危険なモンスターなどいなはずである。

 そもそも、刺さっているのが矢なのだ。知性の低いモンスターたちこういう道具を使うことなどありえない。

 そんなことを思っていると、再び副隊長が声を上げた。


「ウィリアム隊長、アレを!!」


 副隊長が指差した丘の方を見ると、そこに70体を超えるモンスターの集団がいた。

 そしてあろうことは、そのモンスターたちは武装をして馬に乗っているのである。


「前方に人間発見。突撃部隊前進!! 皆殺しだあ!!」

「「「ひゃはああああああああああああああああああああああああああ!!」」」


 しかも、明らかに言語によるコミュニケーションを取っていた。

 副隊長が呟く。


「魔物が、武装をして馬に乗って喋ってる……まさか……」


   □□


 アランは騎士団の教練上を一通り見て、そろそろ帰ろうかと思っていた。

 その時。

 一人の騎士がボロボロになって騎士団訓練学校の敷地に駆け込んできた。

 アランは慌ててボロボロの騎士に駆け寄る。


「どうしたんだその傷」


「アラン騎士団長!! 自分は14番隊の副隊長ジョージと言います」


(14番隊……ってことは、ウィリアムの隊か)


 そして、ジョージは衝撃の情報を口にする。


「ほ、報告します。魔物出現区域23番に『魔人族』が出現しましたあ!!」


「なん……だと……!?」


 アランは驚愕して、一瞬その場に固まってしまう。

 アランだけでなくその場にいたロゼッタとジンジャーも。


「嘘、『魔族』は25年前にいなくなったはずじゃ……」


「な、何かの間違いじゃ無いのかしら!?」


 と衝撃を隠せないようだった。

 無理もない。

 『魔人族』……それは、25年前にこの世界から完全にいなくなったはずの、魔王軍の兵士たちの事なのだから。


「いえ、間違いなく『言語を話して馬を操って』いました。現在、十四番隊と交戦中ですが敵のほうが数が多く厳しい状況です、すぐに援軍を」


「俺が行く!!」


 アランは近くにいた馬に飛び乗った。

 しかし、ジンジャー侯爵が言う。


「ま、待ちなさいよ!! いくら緊急事態とはいえ騎士団長が直接出向くのは規律に反してるわ!! こういう時は、待機中の中規模部隊に出動命令をだすのが決まりで……」


「出撃準備を待っていたら十四部隊はやられてしまう!! いつものイノベーター気取りはどうしたんですか侯爵!!」


 普段のどちらかと言えば穏やかで言い争いを好まないアランの剣幕に、ジンジャーは少々動揺する。


「うっ……そうはいっても……規則は規則で。少なくとも医療係を一人は連れて行かなければ交戦区域への出動は」


 するとロゼッタが別の馬に飛び乗った。


「なら、私も一緒に行きます。医療技術と医療魔法は心得てますから」


「ありがとうロゼッタ。着いたら怪我人の治療を頼む」


「いや、アナタは騎士団所属じゃなくて、アランの付き人だから」


「よし、行くぞ!!」


 まだごちゃごちゃと言っているジンジャー、アランとロゼッタは手綱を握ると馬を走らせる。


「ちょっとお!! 待ちなさいよ!! 第一、今の衰えたアナタが行っても……」


 ジンジャーの言葉を背に、アランとロゼッタは14部隊のところに駆けていった。

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