第33話 化け物

「い、一斉にかかれぇ!! 敵は一人だ押しつぶしちまえ!!」

 幹部の隊員の号令と共に、一斉にグランドワイバーンで突撃していく『死竜隊』の隊員たち。

 たった一人の人間に次々の襲い掛かる200体の巨大生物

 その一踏みで大砲を蹴散らし、尻尾の一振りで防壁を粉砕し、大きな顎で人間を何十人も一度に噛み砕きミンチにする。

 そんな圧倒的な物量攻撃に対してドーラは。


「はああああああああああああああああああああああああ!!」


 真っ向から斧を振り回す。

 ドーラを中心に竜巻でも発生しているかの如く、一振りごとに何匹ものワイバーンとそれに乗った『死竜隊』の隊員たちが切り飛ばされ、吹っ飛んでいく。

 超えられない。

 誰もドーラが先ほど地面に引いた線を超えることができない。

 『怪力聖女』ドーラ・アレキサンドラ、まさにその名の通りの剛力無双である。

 最初は軽く見ていた『死竜隊』の隊員たちもようやく理解した。

 この女、本気だ。

 本気でたった一人で、国を守ろうとしているのだと。

「ば、化け物だ……」

 隊員の一人が、自分のワイバーンから降りてゲオルギウス元までやってくる。

「お、お頭ぁ!! 俺たちには無理です。あんなバケモンは」

 隊員のその言葉を聞いて。

「ほう……」

 ゲオルギウスはソファーから立ち上がると、その隊員の頭を掴む。

「へ?」

 グシャ、っとその頭を無造作に握りつぶした。

 風船が割れて中の水がはみ出したかのように、脳髄を盛大にまき散らしながら隊員の死骸はその場に倒れる。

「俺の手下に、ヘタレは要らねえ」

 邪悪に笑いながらそう言った自分たちのトップに、息を飲む『死竜隊』の隊員たち。

 ゲオルギウスは言う。

「おい。『死竜隊』の信条を言ってみろ」

「す、全ては俺たちが気持ちよくなるために」

 近くにいた隊員が震える声でそう答える。

「そうだ、その通りだ。今この瞬間、気持ちよくぶっ壊して気持ちよく奪う事が全てだ」

 ゲオルギウスは先ほどの隊員と同じように、その隊員の頭を掴みながら言う。

「相手が強いとかどうとか、そんな脳みそ使うことはどうでもいいんだよ分かるか?」

「へ、へい……」

 隊員たちはその様子に改めて思い知ることになる。

 目の前の女は確かに怪物だ。

 だだ、自分たちの頭はそれ以上に圧倒的に凶暴で凶悪な悪魔であると。

「っても、あの女相手じゃ時間の無駄か……」

 ゲオルギウスはそう言って隊員を離す。

「ひい……ひい……」

 恐怖で足が上手く踏ん張れずに、その場に尻もちをつく隊員。

「おい。今すぐ攻撃をやめさせろ」

 ゲオルギウスはそう命令を出した。

「俺が行く」

 そして、グランドワイバーンから飛び降りる。

 ズンっと、かなりの高さからの落下であるのに全く力を逃がす素振りも見せずに着地したことで、砂埃が舞い上がる。

 しかし、全くどこかを痛めた様子もなく平然と歩き出した。

 その顔は、まさに獲物を見つけた肉食獣。


 最強の魔人『神魔』が、いよいよその力を行使する。

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