第21話 災害VS人間7

「なんだ……なんだそれは……」


 ヘビーリィレイは今度こそ完全にわけが分からなくなった。


「なんだ、その魔法は!! 見たことも聞いたこともないぞ!!」


 天まで昇るような光の柱を作り出した出力を見る限り、属性魔法なのは確かだ。

 しかし、六大属性魔法のどれにも当てはまらない。

 人間の扱う属性魔法は必ず6つの属性のどれか、もしくはそれを組み合わせたものであるはずなのに。


「……それはそうだろう。これは俺のオリジナル、第七属性『光の魔力』だからな」


「オリジナル……『光の魔力』……だと?」


「6大属性魔法のどの属性にも適性は無いと言われた俺は、その日から魔法と魔力の研究を始めた。俺に適合する属性が無いなら作ってしまえばいいと思ったからだ。そしてその知識と知見を戦いと研鑽を通して自らの体で実験することで、俺はとうとう見つけ出した。俺の体に適合する俺だけの属性『光』」


 アランはあまりに常識はずれな発想を、堂々と言ってのける。


「と言っても、無理やり作り出したものだから扱いが厄介でな。そもそも『魔人族との戦闘中にしか発動しない』んだ。魔人族が人界にいなくなってから25年。さすがに完全に回路が鈍りきっていて、発動させるまでにここまで時間がかかってしまった」


 だが。

 と言って、アランは剣を持っていない左手を軽く握った。

 するとそこに、光が集まり輝く光の剣が生成される。


「これでようやく……まともに戦える」


 アランは実体のある直剣と今生み出した光の剣の二本を構えた。

 全身に光を纏いながら二刀流で剣を構えるその姿はまさに……『光の勇者』。

 魔王を打ち倒し、戦争を終わらせた最高の英雄の力が今ここに復活したのである。


「お、おお……」


 ヘビーリィレイの口からは、言葉にならない呻きが漏れるばかりであった。

 ヘビーリィレイは……いや、他の二体も同様にアランの体から溢れ出す魔力に畏怖の感情が止まらない。

 彼らは感じ取っていた。

 美しく眩い金色の光を放っているが、あれは我々にとって恐ろしいものだ……と。


「……行くぞ」


 アランが地面を蹴る。

 同時に先ほどまでとは比べ物にならない速度で加速した。


「速イ!?」


 ボルケーノが驚愕する。

 が、当然である。

 アランは出力や効率で圧倒的に劣る非属性魔法しか使用できないからこそ、これまでの移動速度に甘んじていたのである。

 光の魔力はまれもなく属性魔法。よってアランの全ての魔法の威力や効果は強化されると言っていい。

 それでも元々の魔力量や身体能力が平凡なアランの動きは、特別に早いものではないが、アランはもっと弱い状態で『暗黒七星』三体と渡り合うような戦闘技術を持っている。

 そんな人間が、マシな魔法出力を持ってしまったらどうなるか?

 考えるまでもない。

 アランは先ほどまで四苦八苦していた魔人たちの反撃をいとも容易く掻い潜り、ヘビーリィレイの懐に潜り込む。


「くっ!! 『ウォールレイ』!!」


 当然攻撃を察知して発動する、ヘビーリィレイお得意の水の防壁。

 しかし。

 アランは全く気にせず、右手の実体のある剣を真正面から振り下ろした。

 水の防壁はまるでバターのように容易く切断され、アランの光を纏った剣がヘビーリィレイに襲いかかる。


 ヘビーリィレイの腕が一撃で切り飛ばされ宙を舞った。


「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫するヘビーリィレイ。

 右腕を切り飛ばされただけの痛みではない。

 切り飛ばされた切り口が猛烈に「痛い」。

 切り口から入り込んできた光が、ヘビーリィレイの体を蝕んでいるのである。


「クソがよおおおおおおおおおお!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 サンダーボルトとボルケーノが、電撃と高温の岩石をアランに放ってくる。

 アランは今度は避けようともしなかった。

 左手に持った光の剣を軽く振るうと、電撃も熱された岩石も剣が放つ光に触れた途端に消滅してしまったのだ。


「なっ……!!」

「バカナ!!」


 攻撃を打ち消され隙のできた二体にアランは素早く接近する。

 そして二本の剣でサンダーボルトは左の腕を、ボルケーノは左足を切断した。


「ぐあああああああああああああ!!」

「ヌウウウウウウウウウウウウウ!!」


 ヘビーリィレイと同じく、苦悶の声を上げる二体の魔人。

 アランは言う。


「属性魔法にはそれぞれ特性がある」


 火は『出力』、水は『応用性』、土は『耐久力』、風は『維持力』、雷は『速度』、エーテルは『補助』。


「そして光の特性は……『対魔人族特効』。魔人族に対して数十倍の相性有利を持つ属性魔力だ」


 そう、光の魔力は魔人族の体や魔力に振れた瞬間に、それを消滅させる作用があるのである。

 だからこそ、頑丈なはずのヘビーリィレイたちの体は容易く切り裂かれ、切り裂かれた部分は地獄のような痛みを発する。

 そして、水の壁だろうが熱された岩石だろうが雷だろうが高熱の水蒸気だろうが、それが魔人族から放たれたものなら光の魔力は容赦なく消滅させる。

 対抗するならそれこそ数十倍の相性有利を超える量と密度の攻撃を叩きこむしかない。

 だがさすがの『暗黒七星』たちの魔力量でも、光の魔力を発動したことでまともな出力を手に入れたアランに対してそこまでの力押しは無理である。


「……あ、ああ」


 ヘビーリィレイはただ震える声で喘ぎながら、光り輝くアランの姿を見ることしかできなかった。

 あの光は、まさしくあの男の執念の結晶だ。

 環境にも才にも恵まれなかった男が魔王を倒すと決意し、それさえ叶えばもうどうでもいいと全てを投げ打ち突き進んだ先にたどり着いた……『魔王を倒す勇者の力』だ。


「光の……勇者……」


 思わず、その男の二つ名を口にしてしまう。

 役者が違う。

 自分たちが戦ってもいい相手ではなかった。

 呆然とするヘビーリィレイたちを前に、アランはふわりと空中に浮いた。

 属性魔法による出力強化によって、空中浮遊すら今のアランには可能となっていた。

 そして、左手の光の剣を天に掲げる。

 その瞬間。


 ゴオッ!!


 っと、光の剣がさらに眩い黄金の光を放ち始める。

 放たれるは多くの『魔王軍』の怪物たちを屠ってきた『光の勇者』の必殺技。


「心光一閃(ブレイブライト・エクスカリバー)」


 アランが光の剣を振り下ろした瞬間。

 光の斬撃が地平線の果てまで切り裂き、三体の魔人族を飲み込んだ。


――――

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