第30話 死神

 くちゅちゅぱ……ちゅっちゅっ……

 決して如何わしいことをしているわけではない。

 キスよ! 霊力補給用のキスをしているだけ。


「……ねぇ、タナトス……。やっぱりキス上手すぎない?」

「だんだん、お前との相性が良くなってきているからな。美琴も上手くなっているぞ」

「そ、そんなこと言わないでよ……」

「どうして恥ずかしがるんだ?」

「……だ、だって……。どうして、最近はキスをするなのに、服脱いでるのかなって……」


 そう。私とタナトスは何故かベッドに横になりながら、キスをしている。

 それだけならまだしも良いのだが、なぜか素っ裸だったりする。


「いや、このまま密な関係にだな……」

「えぇ……それは……ちょっ!? いやっ! あんっ♡」


 真昼間から、サカリの猫ならぬ死神が私の身体を攻め立ててきた。

 このエロ死神、サキュバスと何戦も交えているだけあって、エッチは上手すぎる。

 私は速攻で最高潮に達してしまったのであった。

 私が瞳から涙を流しながら、身体を小さく痙攣させていると、タナトスは真面目な表情で私の方を見る。

 てか、男性の賢者タイムってどうしたこういつも淡白なのかしら……。


「美琴……」

「え、な、何……? ど、どうしたの?」

「不穏な波動を感じたんだが……」


 ほう。コイツは私とのエッチの時に、そういうものを感じつつ、自分はそれほど気持ちよくなってなかったというのか……。

 なんだか、乙女としては、すっごくショックなんですけど!?

 私は面倒くさそうにタナトスの方を見ると、


「また、翔和が守護霊でも備えたのかしら……」

「いや、さすがにそれはありえないと思う。この短期間にそういくつも守護霊を取り換えるようなことは、使役者の身にも負担が大きいはずだ」

「じゃあ、何だって言うのかしら……。もしかしたら、友理奈も感じ取ってるのかな?」

「ああ、その可能性はあるかもしれないな。この際だから、一度確認しておくのもありかもしれないな」

「そうね。では、行動は夜にしましょう。今は彼女は学校に行ってるはずだから」

「そうだな。じゃあ、続きをするか」

「……へぇっ!? 続き!?」


 一体、何の続きだというのだろうか?

 私は目の前に迫る美青年の顔に蕩けつつ、再び唇を奪われる。

 やっぱりの続きかよー! あれで終わりじゃなかったの!?

 そう思った瞬間に、私の身体にズンッと衝撃が走り、私は貫かれた下腹部に走る快感に一気に酔いしれてしまったのであった。




 その日の夜、友理奈の家に集まり、話をすることになった。

 とはいうものの、夕方までずっと快楽を味わい続けた結果、私の身体は何だかふわふわしたままだった。

 少しよろけつつ、友理奈の前に姿を現す。

 私の依り代がサキュバスの美夢の身体になって以来、何度かこそこそと実験をしてみたのだが、やはり霊力は若干使用するものの、新月の日でなくても姿を見せれることが出来るようになった。

 それに、依り代そのものがサキュバスということもあってか、別に姿を現したところで、天界から文句の一つも飛んでくることはない。

 もしかしたら、天界の監視人であるプロミスが何だか上手くやっているという考えも少しあるが、そこまで私のことを気にかけているようには思えない。

 ま、別に私をサキュバスと認識してくれているのなら、それはそれでいいんですけどねぇ……。


「……ね、ねえ、美琴ちゃん……?」

「……な、何かしら? 友理奈」

「あの、私の思い過ごしならいいんだけど……」

「何でしょう?」

「その……言いにくいんだけど、腰大丈夫?」

「――――――――!?」

「あ、別に大丈夫ならばいいんだけど。その……最近、会うごとに霊力が強くなってきているように感じるんだけど、これって何かでもしてるのかなぁ……って」

「……まあ、特殊な訓練というほどではありませんが、私も翔和が仕掛けてくることに対して、きちんと跳ね返せる力を得ておかなくてはならないと思っていてね……」

「ふーん。でも、あんまりやりすぎわ、ダメだよ」

「ひっ!? ど、どうしてそれを?」

「え? 何のこと? とにかく、やりすぎわ、身体にもよくないと思うから」

「やっぱりそうなのかしら……。ヤりすぎると、……その精神的にもいけない子になったりするのかしら……」

「え? 心にダメージ受けるの? それはないと思うけどなぁ……。とはいえ、タナトスくんとやるのは程々にしないとダメだよ。身体、壊れちゃうから……」

「ふぇっ!? そ、そうね。確かにあんなので何度もヤってしまうと、壊れてしまうわよね……」

「どんなのしてるのか知りませんが、まあ、無理は禁物だよ。筋トレとかそういうことするならば」

「……え?……」


 私はその時気づいた。

 友理奈と私の会話が微妙にズレていることに……。

 何だ……。友理奈は私がタナトスとエッチをヤっているとは気づいていなかったのか……。

 少しほっと落ち着く……。


「では、早速本題に入るわね。実は友理奈に聞いておきたいことがあって、今日は会いに来たの」

「そうなんだ。でも、こうやって新月でもなくても会えるようになったのは、良きことだねぇ~。どうやったら、そんなことできるようになったの?」

「もう、そうやってまた話を逸らそうとする……」


 私はこうなってしまった顛末を掻い摘んで簡単に説明した。

 物分かりのいい友理奈は、ほうほうと理解を深めてくれる。


「じゃあ、これからは夜であればいつでも会えるんだね」

「そうね。まあ一応、霊力が消費するので、常にってわけではないけれど……」

「まあ、それでもいいよ。私は親友に会えることが分かっただけでも、嬉しいから!」


 ああ、何て素直な子なんだろう。

 翔和も最初はこんな感じで私と会ってくれていたのに……。

 どうして―――。


「で、実は翔和の周辺から最近変な波動を感じたって、タナトスが言うのよ」

「あ~、そういえば、最近、別の守護霊みたいなのがふらついていたわね」

「え、そうなの?」

「うん。何度か目が合うこともあったんだけど、夜蜘蛛に比べると敵意がまるで感じられなかったから、気にも留めなかったの」

「で、それの姿がどんな感じか分かるか?」


 タナトスも友理奈に質問をする。

 うーんと瞬間考える素振りをして、友理奈はにこやかに、


「そういえば、翼が生えた青年って感じだったかな。見た目は温厚そうだったから、危険なのかどうか判断しにくかったのよね……」

「翼が生えた青年ねぇ……。タナトスは心当たりがあったりする?」

「多分、それは死神だと思う」

「え!? 翔和って死神を使役できるようになったの?」

「分からない。普通、死神を使役するには、それなりの代償を必要とするからな……」

「代償って?」

「人間の血だな」

「えっ!? 私は吸われてないわよ!」

「俺はお前の守護霊になった記憶はない。単に関係を持っただけだ。俺とお前の間にはきちんと主従関係が成り立っている」

「あ、そうなんだ。じゃあ、翔和は死神と契約を結んだってこと?」

「ああ、きっとな。それに神林が生きているということは、別の者の血肉を与えたということだろう」

「そういえば、最近、ニュースでやってたけど、有名な退魔師が自宅で亡くなっていたそうよ。首筋に鋭利な歯で噛んだ跡があったらしいから、吸血鬼事件とか言われたりしているけれど、それが代償かもね……」


 冷静に友理奈はニュースのことを話してくれた。

 そうなれば、話は分かりやすい。

翔和は間違いなく、死神と契約したことになる。


「それにしても、厄介だな……」

「え? どうして? 死神同士なんだから、何とかなりそうじゃないの?」

「いや、それがそうもいかない相手だ……。きっと、話から推察するに、死神の名前はヒュノプス。俺の弟だ……」

「ええ!? 弟いたの!?」

「ああ、面倒な弟がな……。ヒュノプスは温厚な性格をしているが、近づいてきて相手を眠らせたまま成仏させることを得意とする死神だ。たとえ、サキュバスの身体を持っている美琴であっても、眠らされた場合は厄介だな……」

「でも、私が眠ったら、美夢が出て来るんじゃないの?」

「ああ、本来の眠りであればそうなるのだが、あくまでも推測なんだが、ヒュノプスに眠らされると、美夢が表に出てこれないかもしれない。身体的に眠らせるのではなく、精神的に眠らせるという特性から言うとな……」


 うーん。それは厄介だな。

 まあ、兎に角危ない橋を渡るのは止めた方が良さそうということか。


「まあ、無理をしない程度に頑張るしかないわね」

「そうね。相手がそこそこ面倒なヤツなんだったら、それこそ相手の手の内を理解したうえで臨むべきね」


 友理奈も冷静に事を分析しているようだ。

 とはいえ、一番この中で危険なのは私かな……。

 敵陣に勝手に飛び込んじゃうかもしれないから……。


「じゃあ、私がもう少し神林さんを監視しておくことにするわ。まあ、ヒュノプスにバレないように気を付けながらってことになるけれど」

「それで充分よ。本当にありがとう! 友理奈」


 私は友理奈の手を取り、優しく握りしめ感謝の意を伝える。

 友理奈は爽やかな笑顔で、「大丈夫、大丈夫」と言ってくれた。


「では、そろそろ帰るとするか」


 タナトスにそう言われ、私は友理奈の部屋を後にしようとする。

 タナトスは一足先に部屋から出ていた。

 私は友理奈に引き留められる。


「美琴ちゃん、エッチなことは程々にしといた方が良いよ」

「ふえっ!? そ、そんな―――!?」

「いや、バレてるよ……。タナトスくんとセックスして成長してるんでしょ? セックスは気持ちいい?」

「ちょ、ちょっと!? 何を言ってるの!?」

「もう、顔を真っ赤にしちゃって、本当にバレやすいんだから~。で、気持ちいいんでしょ?」


 も、もう、誤魔化せない……。

 私は観念して、小さくコクリと頷いた。

 ああ、何て恥ずかしいんだろう!!!

 やっぱり、友だちにバレるのは嫌だな……。


「美琴ちゃんって死んでから、『女』に磨き掛かっちゃったね」


 友理奈はニヤニヤと私に意地悪な視線を送り続けたのであった。




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作品をお読みいただきありがとうございます!

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